通勤中の交通事故で、第三者(加害者)がいるケースでは、労災保険と自賠責保険のどちらの保険も使用できます。
交通事故の被害者の立場では、これらの保険をどう使い分ければよいのでしょうか。本記事は、労災保険が分かるヒントとなるように作成しています。
最終更新日: 2024/5/13
Table of Contents
労災保険と自賠責保険の違い
労災保険
労災保険とは、業務中もしくは通勤途中に労働者が負った傷病に対して、労働者もしくは遺族のために必要な保険給付を行う制度です。
労働者は、正社員だけではなくアルバイトやパートの人も対象になります。労災保険は幅広い範囲の人がカバーされています。一方、労災保険では、慰謝料の請求をできません
自賠責保険
自賠責保険は、交通事故による被害者を救済するために必要な保険給付を行う制度です。原動機付自転車(原付)を含むすべての自動車に、加入が義務化されています。
労災保険と自賠責保険で被る補償項目
両保険の補償内容では、以下の項目が被ります。
- 傷害補償
- 休業補償
- 後遺障害補償
- 遺族補償
- 葬祭費
労災保険と自賠責保険は併用できない
労災保険と自賠責保険は、基本的に併用できません。しかし、補償項目が被らない部分については、両方の保険に請求できます。
労災保険だけの補償
労災保険だけの補償には以下があります。
- 休業特別支給金:給付基礎日額×20%×休業日数
- 傷害(補償)給付金または年金:等級により異なります
- 傷病特別支給金:等級により100万円~114万円の一時金
- 傷病特別年金:等級により算定基礎日額×245日~313日分
- 遺族特別支給金:遺族の人数に関わらず一律300万円
- 遺族特別年金:遺族の人数等に応じ、算定基礎日額×153日~245日分
- 遺族特別一時金:算定基礎日額×1,000日分
- 介護(補償)給付:被害者が常時または随時要介護状態に該当する場合
- 特別支給金:二次健康診断等給付
自賠責保険だけの補償
自賠責保険だけの補償には以下があります。
- 入通院慰謝料:日額4,300円×日数
- 後遺障害逸失利益:基礎収入×労働能力喪失率×労働可能年数に対するライプニッツ係数
- 死亡慰謝料:400万円
- 死亡逸失利益:(年収または年相当額―生活費)×死亡時年齢の就労可能年数に対するライプニッツ係数
労災保険を使用できるケース
労災保険は、業務中もしくは通勤途中に労働者が負った傷病に対する補償制度です。このため、労災保険を使用できるのは、以下のケースに限られます。
- 自宅~職場間の通勤中の事故
- 就業中の事故
- 単身赴任先から帰省する際の事故
一方、帰宅途中に飲食店に立ち寄ったケースでは、通勤とはみなされないため労災保険を使用できません。
労災申請の流れ
労災保険で後遺障害が認定されるためには、労働者が労働基準監督署に申請する必要があります。後遺障害が認定されるまでの流れは以下のごとくです。
- 労働者が、労働基準監督署に申請する
- 労働基準監督署が調査を開始する
- 必要に応じて、労災医員が本人に聴き取りを行う
- 後遺障害等級が決定
労災保険のメリットとデメリット
自賠責保険と比較した労災保険のメリット
労災保険は治療費の限度額が無い
労災保険には、治療費の限度額がありません。一方、自賠責保険では120万円が限度額です。労災では自由診療も賄えることは、大きなメリットと言えます。
労災保険は過失相殺されない
自賠責保険では、被害者の過失割合が7割以上の場合、過失相殺によって損害賠償金が減額されます。一方、労災保険は過失相殺されません。
労災保険は後遺障害に認定されやすい
自賠責保険と比べて、労災保険は後遺障害に認定されやすいです。自賠責保険の後遺障害は書類審査のみであることに対して、労災保険では労災医員による面談があることも要因のひとつでしょう。
後遺症が残った場合は、先行して労災保険の等級認定を受け、その結果を自賠責保険での申請時に添付するという方法が理想的でしょう。
自賠責保険と比較した労災保険のデメリット
慰謝料と逸失利益は労災保険から補償されない
傷害慰謝料、後遺傷害慰謝料、逸失利益に関しては、労災保険から補償されません。
これらの慰謝料は、会社などの使用者に対して請求を行う必要があります。請求を行う際には、会社に対して使用者としての責任を立証する必要があります。
自賠責保険よりも休業補償が低い
自賠責保険よりも休業補償が低いのは、労災保険のデメリットです。
労災は使わない方がいいのか?
結論から申し上げると、労災保険は使う方がいい制度です。労災保険を使うメリットはたくさんありますが、デメリットは無いと言えます。
【頻出傷病リスト】弊社コラムへのリンク集
労災事故では、さまざまな部位の外傷を受傷する可能性があります。そして、後遺障害の認定基準は、労災保険と自賠責保険はほぼ一致しています。
後遺障害認定の対象となる代表的な傷病を抽出して、弊社の各傷病コラム記事へのリンクを張りました。実務で登場する傷病のほぼ全てを網羅しているので、参考にしていただければ幸いです。
傷病の総論
開放骨折
関節内骨折
偽関節、遷延癒合
骨挫傷
打撲
CRPS
部位別の頻出傷病
頭部外傷
高次脳機能障害
遷延性意識障害
脳挫傷
脳出血
外傷性くも膜下出血
びまん性軸索損傷
急性硬膜下血腫
慢性硬膜下血腫
外傷性てんかん
MTBI
顔面、眼、鼻、口の外傷
眼窩底骨折(眼窩吹き抜け骨折)
頬骨骨折
複視
耳鳴り・難聴
めまい
歯牙欠損
外貌醜状
頚椎の外傷
むちうち(頚椎捻挫)
むちうち(必要な検査)
むちうち(12級、14級)
むちうち(MRI)
むちうちのめまい
脊髄損傷
中心性脊髄損傷
後縦靭帯骨化症
頚椎骨折
頚椎椎間板ヘルニア
脳脊髄液減少症(低髄液圧症候群)
腰椎の外傷
肩関節の外傷
腱板断裂
SLAP損傷(関節唇損傷)
鎖骨骨折
肩鎖関節脱臼
上腕骨近位端骨折
肩甲骨骨折
上腕の外傷
肘関節の外傷
手の外傷
腕神経叢損傷
橈骨神経麻痺
尺骨神経麻痺
胸郭出口症候群
手根管症候群
橈骨遠位端骨折
尺骨骨折
TFCC損傷
手や指の骨折(指節骨骨折、中手骨骨折、手根骨骨折)
舟状骨骨折
伸筋腱断裂
体幹の外傷
骨盤・股関節の外傷
骨盤骨折
股関節脱臼骨折
大腿骨骨頭骨折、大腿骨頚部骨折、大腿骨転子部骨折、大腿骨転子下骨折
大腿部の外傷
膝関節の外傷
大腿骨顆上骨折、大腿骨顆部骨折
脛骨高原骨折
膝蓋骨骨折
半月板損傷
前十字靭帯損傷(ACL損傷)
後十字靭帯損傷(PCL損傷)
膝内側側副靭帯損傷(MCL損傷)
下腿の外傷
足の外傷
脛骨遠位端骨折
足関節脱臼骨折
足関節靱帯損傷
距骨骨折
踵骨骨折
中足骨骨折
リスフラン関節脱臼骨折
足趾骨折(足指骨折)
足指の伸筋腱断裂
内臓の外傷
精神疾患
まとめ
労災保険と自賠責保険は、基本的に併用できません。しかし、補償項目が被らない部分については、両方の保険に請求できます。労災保険のメリットとして以下の3点が挙げられます。
- 治療費の限度額が無い
- 過失相殺されない
- 後遺障害に認定されやすい
労災は使わない方がいいと思われがちですが、労災保険は使うべきでしょう。労災保険を使うメリットはたくさんありますが、デメリットは無いと言えます。労災保険でお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
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