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【医師が解説】後十字靭帯損傷(PCL損傷)の後遺症―交通事故―

膝関節後十字靱帯損傷(PCL損傷)は、膝関節の痛みや不安定性(動揺関節)の原因となり得る大きな外傷であり、交通事故外傷としては稀なものではありません。

 

後十字靱帯損傷は診察所見や画像検査で病変がわかりにくく事故直後に診断されないケースがあります。日常生活での痛みや違和感によって精密検査を受けた結果、時間が経過してから損傷が判明することも多いです。

 

この記事では、交通事故に伴う後十字靱帯損傷の病態や診断、治療方法を紹介するとともに、後十字靱帯損傷が後遺障害に認定されるために必要なポイントを解説します。

 

後十字靭帯損傷とは

後十字靱帯(Posterior Cruciate Ligament;PCL)は膝関節が後方に外れないように大腿骨と脛骨を繋いでおり、膝関節では最大の強度を有する靭帯です。
 
posterior cruciate ligament

 

この靱帯損傷により膝関節後方の安定性が失われてしまい、日常生活動作における疼痛の原因となるほか、将来的な半月板損傷や変形性膝関節症に発展することがあります。

 

 

交通事故での後十字靭帯損傷の受傷機序

「膝関節の前方を強く打ち付ける」ことにより脛骨(すねの骨)が後方に押されるために、後十字靭帯が引き伸ばされて損傷が起きます。

 

交通事故の場合には衝突事故においてダッシュボードに膝がぶつかるというケガや、バイク・自転車乗車中の転倒により膝前方を地面に打ち付けるなどのケガが、典型的な受傷メカニズムとされています。
 
cause of posterior cruciate ligament injury
 

 

後十字靭帯損傷の症状

受傷直後の自覚症状は膝関節後方の痛みや関節の腫れ、膝の動かしづらさですが、靱帯損傷が軽度にとどまる場合は2〜3ヶ月でこれらの症状が軽減していきます。

 

中等度以上の損傷の場合は、自覚症状として日常生活(階段昇降や立ちしゃがみ動作)における膝関節のぐらつきや痛みが残存することが多いです。

 

また、靱帯損傷による不安定性が長く続いた際には半月板や軟骨が損傷をきたし、変形性関節症の病態に至ることにより、膝関節の慢性的な痛みや可動域制限を生じる場合があります。

 

後十字靱帯損傷の症状は医師/患者ともに気づきにくいことから、受傷から数ヶ月経って損傷が判明するというケースが少なくありません。

 

交通事故後の膝関節の違和感を自覚する場合は早めに医師へ相談することを推奨いたします。

 

 

後十字靭帯損傷の診断

理学所見では膝関節後面の疼痛やSagging(脛骨の後方落ち込み)が、徒手検査では後方引き出しテストがそれぞれ陽性となります。

 

画像検査ではレントゲン検査が関節不安定性の評価に最も有用であり、後方ストレス撮影またはGravity (Posterior) Sag View撮影が用いられます。
 
Gravity Sag View

 

MRI検査は後十字靱帯損傷の有無や損傷の程度を評価することができますが、関節不安定性の評価基準にはなり得ません。

 
mri
 

 

後十字靭帯損傷に対する治療

後十字靱帯は血流が豊富なため多少は自然修復が期待できることや、膝関節の後方へのゆるみは日常生活に大きな支障となりにくいことが知られています。

 

症状が軽い場合には保存療法、日常生活や就労に支障がある場合には手術療法がそれぞれ選択されます。

 

 

後十字靭帯損傷の保存療法

軽〜中等度の後十字靱帯損傷が保存療法の適応となります。

 

リハビリテーションではまず大腿四頭筋の筋力訓練を行うことで膝関節の安定化を図り、靭帯の修復が進んだのちに大腿四頭筋に加えて関節周囲筋全般の強化を行います。

 

また、靭帯が修復されるまでの期間は靭帯の保護を目的として装具を着用します。従来では硬性装具が用いられていましたが、近年では膝関節支柱つきサポーターと呼ばれる軟性装具による治療が主流となっています。
 
knee joint hard brace

knee joint soft brace

 

 

後十字靭帯損傷の手術療法

膝関節の動揺性が5mm以上(中等度以上)の後十字靱帯損傷において、日常生活動作や就労における痛みや不安定感が残る場合には、手術療法の適応となります。

 

手術はハムストリング筋腱や大腿四頭筋腱、膝蓋腱を移植靭帯に用いる靭帯再建術であり、術後6ヶ月以上のリハビリテーション期間を要します。また、術後3〜4ヶ月までは各種装具を着用しますが、永続的に装具を必要とすることはありません。
 
posterior cruciate ligament reconstruction surgery

 

後十字靭帯損傷で考えられる後遺症には何があるの?

下肢機能障害(動揺関節)

治療の結果、関節不安定性が残存した場合には「動揺関節」としての評価を受けます。

 

重労働や就労・運動に際して硬性補装具または軟性補装具を必要とする場合には、機能障害である12級7号に該当します。

 

複合靱帯損傷や膝関節骨折を合併する特殊な事例では、日常生活において硬性補装具を必要とする状況に至ることもあります。

 

その場合は硬性補装具の着用状況に応じ、関節の用を廃したもの(8級7号)や著しい機能障害(10級11号)に該当します。

 

 

下肢機能障害(可動域制限)

後十字靱帯損傷自体がその自然経過において関節可動域制限の原因となり得ることはありませんが、靭帯再建手術に伴い軽度の可動域制限をきたす事例が稀に存在します。

 

患側他動可動域が健側他動可動域の3/4以下に制限された場合には、関節機能障害として12級7号に該当します。

 

 

神経症状

後十字靱帯付着部骨折を合併している事例や、高度の不安定性により膝関節構成体の変性が起きた場合には、「神経症状(疼痛)」による12級13号に該当する可能性があります。

 

 

後十字靱帯損傷における等級認定のポイント

 
posterior cruciate ligament injury point
 
後十字靱帯損傷では動揺関節による後遺障害等級認定の可能性が最も高く、そのためには上記の点を押さえる必要があります。

 

動揺関節の証明には後方ストレスレントゲン撮影またはGravity (Posterior) Sag View撮像により、患健差の存在をもって後方不安定性の残存を示す必要があります。

 

また、自賠責等級審査においては装具着用状況が重要視されるため、

  • 8級7号 :日常生活において常に硬性補装具の装着を要する
  • 10級11号:日常生活の一部において硬性補装具の装着を要する
  • 12級7号 :労働や就労時に硬性補装具の装着を要する

ことが後遺障害診断書や主治医診断書、診療録などに記載されている必要があります。

 

なお12級7号に関しては、軟性補装具を使用した場合にも各種レントゲン撮影において明らかな後方不安定性が示されている場合に限り、等級認定の可能性があります.

 

ただし、各種レントゲン撮影によって後十字靱帯損傷の後方不安定性を客観的に証明することは必ずしも容易ではありません。ストレス撮影の方法は一般的ではなく、また解釈も難しいからです。

 

解釈が難しい事案では、医学意見書もしくは画像鑑定の添付が望ましいケースも散見します。不明点があれば気軽にお問いいただければ幸いです。

 

 

<参考>
日経メディカル|意見書で交通事故の後遺症が決まるってホント?

 

 

 

nikkei medical

 

 

認定事例

後十字靭帯損傷で12級7号が認定されました

初回審査が非該当という結果であったところ、画像鑑定報告書を付した異議申し立てにより動揺関節による12級7号が認定された後十字靱帯損傷の事例を紹介します。

  • 30代女性
  • 受傷機序:バイク走行中の転倒により膝関節を強打した
  • 自覚症状:膝関節の動作時痛および、立ちしゃがみ動作時の違和感
  • 治療経過:受傷2週後のMRI検査にて靱帯損傷を指摘され、軟性装具着用およびリハビリテーションによる約1年の保存加療を施行

 

画像所見

  • 受傷後1週のMRI所見において後十字靱帯損傷の所見を認める(赤矢印)
  • 症状固定直前の両膝Gravity Sag Viewレントゲン写真にて、患側膝は約5mmの後方落ち込みを認める(黄線)

image findings

 

 

画像鑑定報告書の効果

上記の事案において、自賠責審査機構の見解は「提出の画像上、本件事故に起因する骨折、脱臼等の明らかな外傷性の器質的損傷は認め難く、明らかな後十字靱帯損傷は判然としない事に加え、他覚的に膝関節の動揺性が証明されるものとは捉えられない」というものでした。

 

これに対し、異議申し立てでは、

  • 受傷直後の膝関節MRI画像において後十字靱帯損傷の所見が存在すること
  • 症状固定の時点におけるレントゲン撮像にて膝関節の動揺性が残存すること

を画像鑑定報告書において主張するとともに、各種書面において「治療経過における膝関節軟性装具の着用記録」「重労働やスポーツ時には膝関節軟性装具を着用している事実」を主張することで、12級7号の後遺障害が認定されました。

 

 

まとめ

膝関節後十字靱帯損傷の後遺障害について解説するとともに、等級獲得におけるポイントを提示しました。

 

後十字靱帯損傷の後遺障害等級認定には画像所見や装具着用状況が重視されるという特徴があります。

 

各種画像の評価をはじめ、等級獲得可能性や後遺障害の蓋然性に関する調査をご希望の際には、お気軽に弊社までご連絡をいただければ幸いです。

 

 

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