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【医師が解説】後十字靭帯損傷(PCL損傷)の後遺症|交通事故

膝関節後十字靱帯損傷(PCL損傷)は、膝関節の痛みや不安定性(動揺関節)の原因となり得る大きな外傷であり、交通事故外傷としては稀なものではありません。

 

後十字靱帯損傷は診察所見や画像検査で病変がわかりにくく事故直後に診断されないケースがあります。日常生活での痛みや違和感によって精密検査を受けた結果、時間が経過してから損傷が判明することも多いです。

 

この記事では、交通事故に伴う後十字靱帯損傷の病態や診断、治療方法を紹介するとともに、後十字靱帯損傷が後遺障害に認定されるために必要なポイントを解説します。

 

 

最終更新日:2024/4/19

 

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後十字靭帯損傷とは

後十字靭帯とは

後十字靱帯(Posterior Cruciate Ligament;PCL)は膝関節が後方に外れないように大腿骨と脛骨を繋いでおり、膝関節では最大の強度を有する靭帯です。

 

 

posterior cruciate ligament

 

 

この靱帯損傷により膝関節後方の安定性が失われてしまい、日常生活動作における疼痛の原因となるほか、将来的な半月板損傷や変形性膝関節症に発展することがあります。

 

 

交通事故での後十字靭帯損傷の受傷機序

「膝関節の前方を強く打ち付ける」ことにより脛骨(すねの骨)が後方に押されるために、後十字靭帯が引き伸ばされて損傷が起きます。

 

交通事故の場合には衝突事故においてダッシュボードに膝がぶつかるというケガや、バイク・自転車乗車中の転倒により膝前方を地面に打ち付けるなどのケガが、典型的な受傷メカニズムとされています。

 

 

cause of posterior cruciate ligament injury

 

 

後十字靭帯損傷の症状

受傷直後の自覚症状は膝関節後方の痛みや関節の腫れ、膝の動かしづらさですが、靱帯損傷が軽度にとどまる場合は2〜3ヶ月でこれらの症状が軽減していきます。

 

中等度以上の損傷の場合は、自覚症状として日常生活(階段昇降や立ちしゃがみ動作)における膝関節のぐらつきや痛みが残存することが多いです。

 

また、靱帯損傷による不安定性が長く続いた際には半月板や軟骨が損傷をきたし、変形性関節症の病態に至ることにより、膝関節の慢性的な痛みや可動域制限を生じる場合があります。

 

後十字靱帯損傷の症状は医師/患者ともに気づきにくいことから、受傷から数ヶ月経って損傷が判明するというケースが少なくありません。

 

交通事故後の膝関節の違和感を自覚する場合は早めに医師へ相談することを推奨いたします。

 

 

後十字靭帯損傷の診断

理学所見では膝関節後面の疼痛やSagging(脛骨の後方落ち込み)が、徒手検査では後方引き出しテストがそれぞれ陽性となります。

 

画像検査ではレントゲン検査が関節不安定性の評価に最も有用であり、後方ストレス撮影またはGravity (Posterior) Sag View撮影が用いられます。尚、これらの撮影では両膝の比較画像が必須です。

 

 

Gravity Sag View

 

 

MRI検査は後十字靱帯損傷の有無や損傷の程度を評価することができますが、関節不安定性の評価基準にはなり得ません。

 

 

mri

 

 

後十字靭帯損傷に対する治療

後十字靱帯は血流が豊富なため多少は自然修復が期待できることや、膝関節の後方へのゆるみは日常生活に大きな支障となりにくいことが知られています。

 

症状が軽い場合には保存療法、日常生活や就労に支障がある場合には手術療法がそれぞれ選択されます。

 

 

後十字靭帯損傷の保存療法

 

軽〜中等度の後十字靱帯損傷が保存療法の適応となります。

 

リハビリテーションではまず大腿四頭筋の筋力訓練を行うことで膝関節の安定化を図り、靭帯の修復が進んだのちに大腿四頭筋に加えて関節周囲筋全般の強化を行います。

 

また、靭帯が修復されるまでの期間は靭帯の保護を目的として装具を着用します。従来では硬性装具が用いられていましたが、近年では膝関節支柱つきサポーターと呼ばれる軟性装具による治療が主流となっています。

 

 

knee joint hard brace

knee joint soft brace

 

 

後十字靭帯損傷の手術療法

 

膝関節の動揺性が5mm以上(中等度以上)の後十字靱帯損傷において、日常生活動作や就労における痛みや不安定感が残る場合には、手術療法の適応となります。

 

手術はハムストリング筋腱や大腿四頭筋腱、膝蓋腱を移植靭帯に用いる靭帯再建術であり、術後6ヶ月以上のリハビリテーション期間を要します。また、術後3〜4ヶ月までは各種装具を着用しますが、永続的に装具を必要とすることはありません。
 

 

posterior cruciate ligament reconstruction surgery

 

 

後十字靭帯損傷で後遺障害に認定されると損害賠償金を請求できる

 

後十字靭帯損傷で後遺障害に認定されると、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益を請求できます。

 

 

後遺障害慰謝料とは

交通事故で後遺障害が残ってしまった精神的苦痛に対する補償金です。後遺障害慰謝料は、下の表のように後遺障害等級によって異なります。

 

 

後遺障害等級

後遺障害慰謝料

1級

2800万円

2級

2370万円

3級

1990万円

4級

1670万円

5級

1400万円

6級

1180万円

7級

1000万円

8級

830万円

9級

690万円

10級

550万円

11級

420万円

12級

290万円

13級

180万円

14級

110万円

 

 

後遺障害逸失利益とは

後遺障害が残ると、労働能力が低下してしまいます。労働能力が低下したために失うであろう収入の不足分に対する補償金です。

 

後遺障害逸失利益は、交通事故被害者の年収、年齢をベースにして、後遺障害等級に応じた労働能力喪失率と労働能力喪失期間で決まります。

 

 

後遺障害逸失利益の計算式

後遺障害逸失利益は、以下の計算式で算出されます。

 

基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数

 

 

inquiry

 

Traffic accident patient

 

 

後十字靭帯損傷で考えられる後遺障害

下肢機能障害(動揺関節)

治療の結果、関節不安定性が残存した場合には「動揺関節」としての評価を受けます。

 

自賠責保険による等級認定では、画像所見(MRI検査+ストレス単純X線撮影)および「膝関節靭帯損傷による動揺性に関する所見についてのご質問」の記載内容で判断されます。

 

重労働や就労・運動に際して硬性補装具または軟性補装具を必要とする場合には、機能障害である12級7号に該当します。

 

複合靱帯損傷や膝関節骨折を合併する特殊な事例では、日常生活において硬性補装具を必要とする状況に至ることもあります。

 

その場合は硬性補装具の着用状況に応じ、関節の用を廃したもの(8級7号)や著しい機能障害(10級11号)に該当します。

 

 

下肢機能障害(可動域制限)

後十字靱帯損傷自体がその自然経過において関節可動域制限の原因となり得ることはありませんが、靭帯再建手術に伴い軽度の可動域制限をきたす事例が稀に存在します。

 

患側他動可動域が健側他動可動域の3/4以下に制限された場合には、関節機能障害として12級7号に該当します。

 

 

神経症状

後十字靱帯付着部骨折を合併している事例や、高度の不安定性により膝関節構成体の変性が起きた場合には、「神経症状(疼痛)」による12級13号に該当する可能性があります。

 

 

 

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【弁護士必見】後十字靭帯損傷の後遺障害認定ポイント

動揺関節の証明には2つの要点がある

posterior cruciate ligament injury point

 

後十字靱帯損傷では動揺関節による後遺障害等級認定の可能性が最も高いです。等級認定のためには、画像所見と「膝関節靭帯損傷による動揺性に関する所見についてのご質問」の記載内容という2点を押さえることが重要です。

 

まず画像所見ですが、MRI検査の有意所見に加えて、後方ストレス単純X線撮影またはGravity (Posterior) Sag View撮像によって後方不安定性の残存を示す必要があります。

 

また、自賠責等級審査においては装具着用状況が重要視されるため、

  • 8級7号 :日常生活において常に硬性補装具の装着を要する
  • 10級11号:日常生活の一部において硬性補装具の装着を要する
  • 12級7号 :労働や就労時に硬性補装具の装着を要する

 
ことが後遺障害診断書や「膝関節靭帯損傷による動揺性に関する所見についてのご質問」に記載されている必要があります。

 

なお12級7号に関しては、軟性補装具を使用した場合にも各種レントゲン撮影において明らかな後方不安定性が示されている場合に限り、等級認定の可能性があります。

 

ただし、各種レントゲン撮影によって後十字靱帯損傷の後方不安定性を客観的に証明することは必ずしも容易ではありません。ストレス撮影の方法は一般的ではなく、また解釈も難しいからです。

 

解釈が難しい事案では、医学意見書もしくは画像鑑定の添付が望ましいケースも散見します。不明点があれば、こちらからお問い合わせください。

 

 

後十字靭帯損傷(PCL損傷)と事故との因果関係

後十字靭帯損傷では無症候性の陳旧例を散見するため、交通事故との因果関係が問題なる事案が多いです。実際、弊社に相談のあった事案の多くは、自賠責保険から交通事故との因果関係を否定されています。

 

特に受傷して1ヵ月以内にMRI検査を施行されていない事案や、MRI検査を施行されたとしても膝関節血種を認めない事案では、高率に後十字靭帯損傷と交通事故との因果関係が否定されます。

 

このような事案では、診療録を精査して後十字靭帯損傷が今回の交通事故で受傷したことを証明しなければいけません。

 

しかし精査した結果、交通事故とは無関係である陳旧性の後十字靭帯損傷だった事案も少なくありません。

 

一方、診療録で受傷当初から膝関節痛が記載されているものの、MRI検査で関節内血種が無いために交通事故との因果関係を否定された事案では、膝関節外科医による医師意見書が有効なケースがあります。

 

 

<参考>
【医師が解説】膝前十字靭帯損傷(ACL損傷)の後遺症|交通事故

 

 

 

nikkei medical

 

 

認定事例

後十字靭帯損傷で12級7号が認定されました

初回審査が非該当という結果であったところ、画像鑑定報告書を付した異議申し立てにより動揺関節による12級7号が認定された後十字靱帯損傷の事例を紹介します。
 

  • 30代女性
  • 受傷機序:バイク走行中の転倒により膝関節を強打した
  • 自覚症状:膝関節の動作時痛および、立ちしゃがみ動作時の違和感
  • 治療経過:受傷2週後のMRI検査にて靱帯損傷を指摘され、軟性装具着用およびリハビリテーションによる約1年の保存加療を施行

 

 

画像所見

  • 受傷後1週のMRI所見において後十字靱帯損傷の所見を認める(赤矢印)
  • 症状固定直前の両膝Gravity Sag Viewレントゲン写真にて、患側膝は約5mmの後方落ち込みを認める(黄線)

 

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画像鑑定報告書の効果

上記の事案において、自賠責審査機構の見解は「提出の画像上、本件事故に起因する骨折、脱臼等の明らかな外傷性の器質的損傷は認め難く、明らかな後十字靱帯損傷は判然としない事に加え、他覚的に膝関節の動揺性が証明されるものとは捉えられない」というものでした。

 

これに対し、異議申し立てでは、

  • 受傷直後の膝関節MRI画像において後十字靱帯損傷の所見が存在すること
  • 症状固定の時点におけるレントゲン撮像にて膝関節の動揺性が残存すること

 

を画像鑑定報告書において主張するとともに、各種書面において「治療経過における膝関節軟性装具の着用記録」「重労働やスポーツ時には膝関節軟性装具を着用している事実」を主張することで、12級7号の後遺障害が認定されました。

 

 

まとめ

 

膝関節後十字靱帯損傷の後遺障害について解説するとともに、等級獲得におけるポイントを提示しました。

 

後十字靱帯損傷の後遺障害等級認定には画像所見や装具着用状況が重視されるという特徴があります。

 

各種画像の評価をはじめ、等級獲得可能性や後遺障害の蓋然性に関する調査をご希望の際には、こちらからお問い合わせください。

 

 

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Traffic accident patient

 

 

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