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【医師が解説】膝前十字靭帯損傷(ACL損傷)の後遺症|交通事故

交通事故で発生する膝関節周囲の外傷のひとつに前十字靭帯損傷があります。前十字靭帯損傷は後遺症を残しやすい外傷です。

 

本記事は、前十字靭帯損傷の後遺症が等級認定されるヒントとなるように作成しています。

 

 

最終更新日: 2024/5/12

 

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膝前十字靭帯損傷とは

 

前十字靭帯は、膝関節内で十字に交差した大腿骨と脛骨をつなぐ二本の靱帯のうちの前方に位置しているものの一つです。

 

大腿骨の外側後方から脛骨の内側前方につながっており、脛骨が大腿骨に対して前に大きくずれることや過剰な回旋が生じることを防ぎます。関節の異常な動きを阻止することによって、結果的に関節を保護する役割を持ちます。

 

前十字靭帯は過剰な物理的負荷がかかることによって、全部もしくは部分的に切れることがあり、これを前十字靭帯損傷といいます。

 

 

ACL injury MRI

 

 

交通事故での膝前十字靭帯損傷の受傷機序

 

歩行や自転車に乗っている場合に自動車等と衝突して膝関節に大きな外力が加わり、前十字靭帯が損傷することがあります。また自動車乗車中に衝突により座席やドア等に膝をぶつけて前十字靭帯損傷が生じることもあります。

 

通常は脛骨が大腿骨に対して過剰に前方へ出るような負荷や、膝が外反する(内に入ってX脚になる方向)ことにより前十字靭帯損傷が生じやすいとされます。

 

バイク乗車中の事故では、膝を伸ばしているときには前十字靭帯は張っている状態であり、膝を伸ばして踏ん張っているときに膝を捻ると前十字靭帯損傷が起きます。

 

 

膝前十字靭帯損傷の症状

 

前十字靱帯の受傷時にはブチっという異音・断裂音を感じたり、膝が不安定になり外れた感じがしたり、激しい痛みが発生したり、徐々に膝が関節内の出血のために腫れて曲りが悪くなったりします。特に膝の関節内に出血が見られることは、大きな特徴の一つと言えます。

 

関節の腫れや痛みは徐々に軽減し、日常生活で支障が出ることが少なくなってきますが、慢性期には前十字靭帯の正常な緊張がなくなるために関節の安定性が損なわれ、膝が容易にガクッと外れるような膝崩れ現象が生じます。

 

スポーツ活動や日常生活動作で膝崩れを頻繁に起こす状況になった場合、そのまま放置すると関節内の半月板や軟骨を損傷して中長期的に変形性膝関節症(関節軟骨がすり減って痛む疾患)を引き起こすリスクが高くなります。

 

前十字靭帯損傷による膝関節機能不全によって、若年での変形性膝関節症発症が危惧されます。

 

 

膝前十字靭帯損傷の診断

 

前十字靭帯損傷の診断は、主に医師の診察とMRI検査により行われます。診察では、怪我をした原因、自覚症状としての膝不安定感、膝崩れの有無を確認し、その後、徒手による不安定性テストを行います。

 

怪我をして間もない急性期には、痛みや腫れにより十分な身体所見がとれず、診察を受けても明らかに診断されない場合が多くあります。通常レントゲンを最初にとりますが、レントゲンには骨しか写りませんので前十字靭帯損傷の診断にはあまり役立ちません。

 

MRI検査は前十字靭帯損傷の診断に極めて有用で、前十字靭帯だけでなく、半月板、骨、軟骨などの組織も同時に評価することができます。

 

 

ACL injury

 

 

膝前十字靭帯損傷に対する治療

 

前十字靭帯は関節内にある靭帯のため血流に乏しく、損傷した前十字靱帯が自然経過で100%の状態にまで修復することは極めて稀であると考えられています。

 

治療には大きく分けて保存療法と手術療法がありますが、特に活動性の比較的高い方には手術療法が選択されることがほとんどです。

 

 

膝前十字靭帯損傷の保存療法

保存療法は不確実な治療法であり、一般的には薦められません。ただし、スポーツを行わない方や高齢の方、仕事の都合で長期休暇が得られない方等、社会的背景から保存療法を選択せざるを得ないこともあります。

 

受傷直後には、アイシングとともに薬物療法として非ステロイド性消炎鎮痛剤や湿布を貼付することで炎症を抑え症状の改善を目指します。また膝関節内に水・血液が溜まっている場合は、膝の曲げ伸ばしに影響を及ぼすこともあるため、関節の水を注射器にて抜くことが考慮されます。

 

軟骨損傷がある場合、途中経過で必要に応じて関節を保護するヒアルロン酸注射を行う場合もあります。リハビリテーションとしては受傷直後には物理療法を中心に行い、さらに再受傷を防ぐため日常生活指導を実施します。

 

前十字靱帯損傷後には膝の曲げ伸ばしの回復の遅れや筋肉が減少して力が入りにくくなる場合があり、ひどい場合には正常な歩行ができず日常生活に支障をきたしてしまいます。

 

それを防ぐためにも適切なリハビリテーションを行うことが必要で、日常生活に不便が生じないようにすることが保存療法の目的といえます。

 

ケースによっては日常生活や運動の強度を上げていく段階で膝関節の動揺性抑制装具(いわゆる硬性サポーター)を装着して痛みのない範囲で関節の動きを改善する可動域訓練を積極的に行い、筋力低下を最小限にとどめるようにします。

 

 

膝前十字靭帯損傷の手術療法

損傷した靱帯は縫合等で治癒させることは難しく、通常は患者さん自身の腱(自家腱)を採取し、前十字靭帯があった場所に代用して移植する「前十字靭帯再建術」が一般的です。

 

手術は関節鏡を用いて低侵襲で行われることがほとんどです。麻酔は全身麻酔あるいは腰椎麻酔で行います。

 

再建靭帯の材料として、主に太ももの裏の腱を用いる方法と膝蓋骨の下の腱(膝蓋腱)を用いる方法があります。太ももの裏の腱を用いる方法では膝の内側に約3cmの皮膚切開線を作成し、25cm前後の腱(半腱様筋腱、薄筋腱)を採取します。

 

採取した腱を折りたたんで適切な太さと長さになるよう細工し、前十字靭帯の代わりとして使用します。膝蓋腱を使用する方法では腱を採取する際、腱の両端の骨(膝蓋骨・脛骨)の一部も一緒に取り出します。

 

その後、大腿骨と脛骨の適切な位置に移植腱を通すための骨孔を作成し、その中に再建靱帯を通して両端を種々の金属・非金属の器具(スクリュー・ボタン・ステープルなど)を用いて骨に固定します。症例によりますが、手術は約1~1.5時間程度で終了することが多いです。

 

 

 

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膝前十字靭帯損傷(ACL損傷)で考えられる後遺症

 

前十字靭帯単独の損傷であれば、適切な手術治療が専門医によりなされ、かつ術後のリハビリをしっかりとすれば通常は目立った後遺症なく治癒することがほとんどです。

 

採取した腱がないことによる軽微な後遺症(膝関節の伸展・屈曲の力がわずかに弱まる、創部の疼痛がしばらく残存する)はほとんどのケースで認められます。

 

重大な後遺症が残りやすいのは、本来は外科手術すべきなのに種々の理由により保存療法しか行われなかった場合です。 この場合、膝関節が不安定なままであり、日常生活や家事労働において重大な支障が発生します。

 

逆に痛みによる拘縮で膝関節の可動域制限が生じることもあります。その場合には関節の可動域が健側の可動域の3/4以下に制限されることも考えられます。

 

 

下肢機能障害(動揺関節)

 

本来は外科手術すべきなのに種々の理由により保存療法しか行われず、関節不安定性が残存した場合は「動揺関節」としての評価を受けます。

 

自賠責保険による等級認定では、画像所見(MRI検査+ストレス単純X線撮影)および「膝関節靭帯損傷による動揺性に関する所見についてのご質問」の記載内容で判断されます。

 

 

8級7号(関節の用を廃したもの)

 

複合靱帯損傷や膝関節骨折を合併する特殊な事例では、日常生活において硬性補装具を常に必要とする状況に至ることもあります。

 

前述の2つの画像所見に加えて「膝関節靭帯損傷による動揺性に関する所見についてのご質問」において膝補装具の「硬性」にチェックされている事案が該当します。

 

 

10級11号(著しい機能障害)

 

膝関節の動揺性のために、ときどき硬性補装具を必要とする事案が該当します。

 

 

12級7号(単なる機能障害)

 

重労働の際以外には硬性補装具を必要としない事案が該当します。弊社の事例では、ストレス単純X線撮影が実施されていない事案は、12級7号にとどまっています。

 

軟性補装具を使用した場合にも、各種レントゲン撮影において明らかな後方不安定性が示されている場合に限り、等級認定の可能性があります。

 

 

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下肢機能障害(可動域制限)

12級7号(1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの)

 

前十字靱帯損傷自体がその自然経過において関節可動域制限の原因となり得ることはありませんが、靭帯再建手術に伴い軽度の可動域制限をきたす事例が稀に存在します。

 

患側他動可動域が健側他動可動域の3/4以下に制限された場合には、関節機能障害として12級7号に該当します。

 

 

神経症状(膝関節の痛み)

12級13号(局部に頑固な神経症状を残すもの)

 

前十字靱帯付着部骨折を合併している事例や、高度の不安定性により膝関節構成体の変性が起きた場合には該当する可能性があります。

 

また、見落とされるケースが多いですが、手術に際して伏在神経膝蓋下肢障害を併発することがあります。その場合には等級認定される可能性があります。

 

 

14級9号(局部に神経症状を残すもの)

 

12級13号と同じケースであっても、治療状況によっては14級9号が認定されるケースもあります。

 

 

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【弁護士必見】膝前十字靭帯損傷(ACL損傷)の後遺障害認定ポイント

動揺関節の証明には2つの要点がある

前述のように、自賠責保険による等級認定では、画像所見(MRI検査+ストレス単純X線撮影)および「膝関節靭帯損傷による動揺性に関する所見についてのご質問」の記載内容の2点で判断されます。

 

8級7号と10級11号では、MRI検査およびストレス単純X線撮影での有意所見が必須です。12級7号ではストレス単純X線撮影を実施されていない事案も散見されますが、ストレス単純X線撮影の施行が望ましいでしょう。

 

「膝関節靭帯損傷による動揺性に関する所見についてのご質問」の記載内容で重要なのは、膝補装具の「硬性」にチェックされているか否かです。問題点は、保存治療の場合は軟性補装具を処方されるケースがほとんどであることでしょう。

 

 

<参考>
【医師が解説】後十字靭帯損傷(PCL損傷)の後遺症|交通事故

 

 

膝前十字靭帯損傷(ACL損傷)と事故との因果関係

前十字靭帯損傷は、その受傷機序から交通事故との因果関係を問われる事案が多いです。弊社に相談があった事案の多くは、自賠責保険から交通事故との因果関係を否定されています。

 

特に受傷して1ヵ月以内にMRI検査を施行されていない事案や、MRI検査を施行されたとしても膝関節血種を認めない事案では、高率に膝前十字靭帯損傷と交通事故との因果関係が否定されます。

 

このような事案では、診療録を精査して前十字靭帯損傷が今回の交通事故で受傷したことを証明しなければいけません。

 

しかし精査した結果、交通事故とは無関係である陳旧性の前十字靭帯損傷だった事案も少なくありません。

 

一方、診療録で受傷当初から膝関節痛が記載されているものの、MRI検査で関節内血種が無いために交通事故との因果関係を否定された事案では、膝関節外科医による医師意見書が有効なケースがあります。

 

 

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手術症例では伏在神経膝蓋下肢損傷の見落とし例もある

膝蓋腱を移植腱に用いた場合、腱の採取に伴う伏在神経膝蓋下枝損傷を併発することがあります。その際には膝関節内側の知覚低下や痛みが残ります。

 

また、その他の腱を移植腱に用いた場合でも、脛骨側の固定器具によって伏在神経の刺激症状をきたす事例があります。

 

意外と主治医も見逃しているケースもあるため注意が必要です。伏在神経障害を併発した事案では、膝関節外科医による医師意見書が有効なケースがあります。

 

 

 

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まとめ

 

前十字靭帯単独の損傷であれば、適切な手術治療が専門医によりなされ、かつ術後のリハビリをしっかりとすれば通常は目立った後遺症なく治癒することがほとんどです。

 

しかし、本来は外科手術すべきなのに種々の理由により保存療法しか行われなかった場合は重大な後遺症が残りやすいです。

 

この場合、膝関節が不安定なままであり、日常生活や家事労働において重大な支障が発生します。前十字靭帯損傷でお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。

 

 

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