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【医師が解説】脳挫傷の後遺症が等級認定されるポイント|交通事故

交通事故などの頭部外傷で生じる脳実質の損傷は、局所の脳損傷とびまん性脳損傷に大別されます。

 

脳実質の損傷では後遺症として様々な症状を残しますが、脳損傷と症状についての関連を見極めるのが難しいことがあります。

 

本記事では、頭部外傷による局所の脳損傷の代表疾患である脳挫傷について、等級認定されるヒントとなるよう具体例を挙げて説明します。

 

脳挫傷とは

 
脳挫傷は、頭部外傷による脳実質の損傷のうち、局所の脳損傷の代表的なものです。脳の局所に挫滅創を生じ、出血や浮腫をきたします。重症度や損傷された部位に応じて様々な症状を生じます。

 

 

交通事故での受傷機序

歩行者×自動車の交通事故で、歩行者が受傷する場合を想定します。事故により歩行者が後方に転倒し後頭部を強打した場合、頭蓋骨が衝撃を受け止めて頭部の動きは止まります。

 

しかし、頭蓋骨の中では、慣性により脳はそのまま後頭部の方向へ動き続けて、頭蓋骨に衝突し損傷を受けます。

 

これは直撃損傷(coup injury)と呼ばれ、受傷した部位と同じ側の脳(本事例では後頭葉)に脳挫傷を生じます。

 

また、脳が後頭部の方向へ移動すると、受傷部位の反対側の前頭部には空間ができ陰圧となります。脳は慣性によりそのまま後頭部方向へ進もうとしますが、陰圧になった空間により脳には前頭部方向へ引っ張られる力が働きます。

 

この反対方向に作用する二つの力によって、受傷した部位(後頭部)とは反対側(前頭部)の脳や血管に損傷が生じることがあります。これは対側損傷(contrecoup injury)と呼ばれています。

 

 

脳挫傷の症状

急性期には、様々な程度の意識障害をきたすことがあり、脳挫傷による浮腫が進行すると意識障害が悪化します。

 

麻痺や失語などの局所症状(巣症状)を認める場合もありますが、急性期に意識障害が存在する場合、局所症状(巣症状)をしっかりと評価できない場合があります。

 

慢性期には、損傷した脳の部位に応じた局所症状(巣症状)として、身体性機能障害や高次脳機能障害などが後遺症として残存することがあります。

 

重症の場合には、急性期を乗り越えても意識障害が改善せず、慢性期にも意識障害が遷延してしまう場合があり、遷延性意識障害(植物状態)と呼ばれます。

 

また、頭部外傷で生じた脳挫傷が原因となり、てんかんの発作が生じる様になってしまうことがあります。(外傷性てんかん)

 

脳は部位によって担っている機能が異なるため、損傷された部位により症状も多岐にわたります。脳挫傷による代表的な症状について、次項で具体的に解説していきます。

 

 

局所症状(巣症状)

 
局所が障害された場合の症状(巣症状)と障害部位について、代表的なものを以下に示します。
 

  • 麻痺 … 前頭葉の運動野が障害されると反対側の身体に麻痺を生じます。例えば、右側の前頭葉(運動野)が損傷されると左半身の麻痺を生じます。(身体性機能障害の症状です。)
  • 感覚障害 … 頭頂葉の感覚野が障害された場合に反対側の身体に感覚障害を生じます。例えば、右側の頭頂葉(感覚野)が損傷されると左半身の感覚障害を生じます。(身体性機能障害の症状です。)
  • 視野障害 … 後頭葉の視覚野が障害された場合にみられる症状です。
  • 高次脳機能障害 … 記憶、思考、言語、感情や意欲など大脳の働きで生み出されているものは高次脳機能と呼ばれます。それらの機能を司っている部位が障害されて起こるものです。次項で詳しく説明します。

 

 

高次脳機能障害

 

  • 運動性失語 … 前頭葉のBroca野という言語を司る部分が障害された場合にみられる症状です。言語理解は可能ですが、発話ができません。
  • 感覚性失語 … 側頭葉のWernicke野という言語を司る部分が傷害された場合にみられる症状です。発話は可能ですが、言語理解ができません。

 

<参考>
高次脳機能障害では、他にも様々な症状をきたします。詳しくは下記リンク先をご参照下さい。
 
【医師が解説】高次脳機能障害の後遺症が認定されるコツ|交通事故

 

 

遷延性意識障害(植物状態)

 
重症の場合には、急性期を乗り越えても初期からみられた意識障害が改善せず、慢性期にも意識障害が遷延してしまう場合があります。(遷延性意識障害(植物状態)と呼ばれます。)

 

これは広範囲に大脳の機能が障害された結果生じます。まれに回復することもあります。遷延性意識障害(植物状態)では、脳幹の機能は保たれているので、心臓は動いていて自発呼吸もあります。

 

大脳と脳幹の両方の機能が停止した脳死とは異なる状態です。(脳死では、心臓は動いていますが、自発呼吸はみられません。)

 

 

外傷性てんかん

 
頭部外傷で生じた脳挫傷が原因となり、てんかんの発作が生じる様になってしまうことがあります。

 

脳に何かしらの器質的病変が存在し、それが原因となって起こるてんかんのことを症候性てんかんと言います。他にも脳出血、脳梗塞、脳腫瘍などが症候性てんかんの原因になります。

 

てんかんと言うと、「意識がなくなって痙攣する」という症状を思い浮かべる方が多いと思いますが、病変(脳挫傷)が存在する部位によって症状は様々です。

 

症候性てんかんの原因部位と症状について、一部を具体的に示します。

  • 前頭葉 … 顔、上肢や下肢の痙攣
  • 頭頂葉 … 身体の一部にチクチク・ピリピリなどといった異常感覚を覚える。(感覚発作)
  • 側頭葉 … 内臓の異常感覚、既視感(デジャブ)、不安感・恐怖感など
  • 後頭葉 … 幻視(光、点・線、模様などが見える。)

 

上記に代表的な症状を呈示しましたが、損傷部位によって他にも様々な症状をきたします。

 

 

脳挫傷の診断

脳挫傷の診断は画像検査で行います。頭部CTでは、点状出血、壊死した脳、浮腫を起こした脳、正常脳が混在してみられます。

 

出血は白く、壊死や浮腫は黒く見えるため、典型的な脳挫傷のCTではsalt and pepper(塩とコショウ)と呼ばれる所見を呈します。
 

 

頭部CT

 

 

  • 左側頭葉の脳挫傷(赤矢印)

 

 

頭部MRI

 

 

  • 出血性病変はT2*WIで低信号域(黒色)として検出されます(左図 赤矢印)
  • 脳浮腫はFLAIRで高信号域(白色)(右図 赤矢印)、 DWIで高信号域(白色)として検出されます

 

小さな出血性病変については、頭部MRI検査の方が鋭敏に病変を検出できます。以下に示す左図の頭部CTと右図の頭部MRI(T2*WI)は同一の患者さんの検査画像です。

 

 
頭部CTでは明らかな異常所見は見られませんでしたが、頭部MRI(T2*WI)では微小出血を低信号域(黒色)として検出することができました。(右図 赤矢印)

 

また、小さな浮腫性病変についても、頭部MRI検査の方が鋭敏に病変を検出できます。以下に示す左図の頭部CTと右図の頭部MRI(DWI)は同一の患者さんの検査画像です。

 

 

頭部CTでは明らかな異常所見は見られませんでしたが、頭部MRI(DWI)では浮腫性病変を高信号域(白色)として検出することができました。(右図 赤矢印)
 

 

脳挫傷に対する治療

脳挫傷の保存療法

 
軽症の場合、保存的治療を行います。脳挫傷による出血に対して止血剤の投与や、挫傷性浮腫に対して高浸透圧利尿薬の投与を行うこともあります。

 

脳挫傷は、受傷してから最初の48時間位の間に増悪することが多いのですが、急性期を乗り切れば、その後は症状に対してリハビリテーションを行い機能の回復を目指します。

 

 

脳挫傷の手術療法

 
重症の場合、保存的治療を行なっても脳挫傷の病変がどんどん大きくなり、神経症状が悪化したり、意識障害が進行したりすることがあります。

 

その場合には救命のために緊急で手術が必要になることがあります。手術は、開頭術といって頭を大きく開いて、頭蓋骨を外して行うものです。

 

頭蓋骨を外した後に、脳挫傷で生じた血腫を取り除き、壊死した脳組織を摘出します。手術はあくまで救命のための治療で、神経症状を改善させるためのものではありません。

 

 

脳挫傷で考えられる後遺症には何があるの?

身体性機能障害

脳の損傷による身体性機能障害については、麻痺の範囲及びその程度並びに介護の有無及び程度により障害等級を認定することとなります。

 

なお、麻痺の範囲及びその程度については、身体所見及びMRI, CT等によって裏付けることのできることが必要となります。
 

 

1級1号

身体性機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの

  • 高度の四肢麻痺が認められるもの
  • 中等度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの
  • 高度の片麻痺があって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの

 

2級1号

身体性機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、随時介護を要するもの

  • 高度の片麻痺が認められるもの
  • 中等度の四肢麻痺であって食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を必要とするもの

 

3級3号

生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、身体機能性障害のため労務に服することができないもの

 

中等度の四肢麻痺が認められるものが該当します。(第1級、第2級に該当するものは除きます。)

 

5級2号

身体性機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの
 

  • 軽度の四肢麻痺が認められるもの
  • 中等度の片麻痺が認められるもの
  • 高度の単麻痺が認められるもの

 

7級4号

身体性機能障害のため、軽易な労務以外には服することができないもの
 

  • 軽度の片麻痺が認められるもの
  • 中等度の単麻痺が認められるもの

 

9級10号

通常の労務に服することはできるが、身体性機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当程度に制限されるもの

  • 軽度の単麻痺が認められるもの

 

12級13号

通常の労務に服することはできるが、身体性機能障害のため、多少の障害を残すもの

  • 通常の労務に服することはできるが、身体性機能障害のため、多少の障害を残すもの
  • 運動性、支持性、巧緻性及び速度についての支障がほとんど認められない程度の軽微な麻痺を残すもの
  • 運動障害は認められないものの、広範囲にわたる感覚障害が認められるものも該当します。

 

 

高次脳機能障害

高次脳機能障害については、意思疎通能力、問題解決能力、作業負荷に対する持続力・持久力、及び、社会行動能力の4つの能力の各々の喪失の程度に着目し、評価を行います。

 

 

1級1号

高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの

  • 重篤な高次脳機能障害のため、食事・入浴・用便・更衣等に常時介護を要するもの
  • 高次脳機能障害による高度の認知症や情意の荒廃があるため、常時監視を要するもの

 

2級1号

高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわりの処理の動作について、随時介護を要するもの

  • 重篤な高次脳機能障害のため、食事・入浴・用便・更衣等に随時介護を要するもの
  • 高次脳機能障害による認知症、情意の障害、幻覚、妄想、頻回の発作性意識障害等のため随時他人による監視を必要とするもの
  • 重篤な高次脳機能障害のため自宅内の日常生活動作は一応できるが、1人で外出することなどが困難であり、外出の際には他人の介護を必要とするため、随時他人の介護を必要とするもの

 

3級3号

生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高次脳機能障害のため、労務に服することができないもの

  • 4能力のいずれか1つ以上の能力が全部失われているもの
  • 4能力のいずれか2つ以上の能力の大部分が失われているもの

 

5級2号

高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの

  • 4能力のいずれか1つの能力の大部分が失われているもの
  • 4能力のいずれか2つ以上の能力の半分程度が失われているもの

 

7級4号

高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないもの

  • 4能力のいずれか1つの能力の半分程度が失われているもの
  • 4能力のいずれか2つ以上の能力の相当程度が失われているもの

 

9級10号

通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの

  • 高次脳機能障害のため4能力のいずれか1つの能力の相当程度が失われているもの

問題解決能力の相当程度が失われているものの例:1人で手順とおりに作業を行うことに困難を生じることがあり、たまに助言を必要とする

 

12級13号

通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、多少の障害を残すもの

  • 4能力のいずれか1つ以上の能力が多少失われているもの

実務上は、高次脳機能障害として認定される等級の下限は12級13号と言われています。臨床的な症状が無くても、症状固定時のCTやMRIで脳挫傷痕や脳萎縮などの所見を認めれば、12級13号が認定されます。

 

14級9号

通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、軽微な障害を残すもの

  • MRI、CT等による他覚的所見は認められないものの、脳損傷のあることが医学的にみて合理的に推測でき、高次脳機能障害のためわずかな能力喪失が認められるもの

 

 

遷延性意識障害(植物状態)

1級1号

神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの

 

2級1号

神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
 

 

外傷性てんかん(症候性てんかん)

外傷性てんかんに係る等級の認定は発作の型、発作回数等に着目し、以下の基準によることとなります。

 

なお1ヶ月に2回以上の発作がある場合には、通常高度の高次脳機能障害を伴っているので、脳の高次脳機能障害に係る第3級以上の認定基準により障害等級を認定することとなります。
 

 

5級2号

1ヶ月に1回以上の発作があり、かつ、その発作が「意識障害の有無を問わず転倒する発作」又は「意識障害を呈し、状況にそぐわない行為を示す発作」(以下「転倒する発作等」という。)であるもの

 

7級4号

転倒する発作等が数ヶ月に1回以上あるもの又は転倒する発作等以外の発作が1ヶ月に1回以上あるもの

 

9級10号

数ヶ月に1回以上の発作が転倒する発作等以外の発作であるもの又は服薬継続によりてんかんの発作がほぼ完全に抑制されているも
 

12級13号

発作の発現はないが、脳波上に明らかにてんかん性棘波を認めるもの

 

 

等級認定のポイント

すべての基本は主治医との信頼関係

まず、急性期(最初に受診した病院)および慢性期(受傷から約1年程度経過した)の画像を脳神経外科専門医に診てもらい、現在の後遺症と照らし合わせる必要があります。医学的整合性、客観性を持って画像診断と後遺症が合致する場合は等級認定される可能性があります。

 

局所の脳損傷である脳挫傷では、損傷した部位によって症状が多岐にわたるので、損傷部位と症状の整合性をきちんと判断することが大切です。

 

さらに「神経心理学的検査」、「神経系統の障害に関する医学的意見」、「日常生活状況報告」を総合的に判断し等級認定がなされます。

 

被害者および被害者の家族は主治医(ここでの主治医は主にリハビリテーションに通っている病院の医師になります)と普段から信頼関係を築いておくことが重要です。

 

受傷後にどのようなことが出来なくなったのかを詳しく主治医に知ってもらう必要があります。

 

 

画像所見と意識障害のクリアが最初の関門

頭部外傷の後遺障害は、大きく分けて高次脳機能障害と身体機能性障害に大別されます。実務上は、高次脳機能障害に認定されるか否かが最初の関門になります。

 

高次脳機能障害が認定されるためには、多くの事案で画像所見と意識障害をクリアできるのかがポイントになります。

 

まず画像所見ですが、脳実質の損傷を示す脳挫傷痕、脳萎縮、脳室拡大などが認められる必要があります。

 

受傷直後の急性期に「派手な」所見があっても、慢性期になると消失している事案が多いことには注意が必要です。

 

次に意識障害ですが、受傷直後に声掛けしなければ開眼しないレベル以上の意識障害を認めた、もしくはある自分の名前や生年月日が言えない等の意識障害が、ある一定期間は持続したというカルテの記録が必要です。

 

画像所見と意識障害をクリアした事案に対して、「神経心理学的検査」、「神経系統の障害に関する医学的意見」、「日常生活状況報告」を勘案して、何級に該当するのかが判断されることになります。

 

 

<参考>

 

 

 

nikkei medical

 

 

後遺障害等級の認定事例

7級4号が認定されました

  • 被害者:50歳(事故当時)
  • 初回申請:9級10号として、自賠責保険の事前認定を獲得
  • 異議申立て:7級4号が認定されました

コメント:自賠責保険は、高次脳機能障害と神経因性膀胱に関係する画像検査の所見が乏しいことを根拠に、9級10号の等級認定となりました。しかし、弊社で画像検査を再度確認したところ、被害者の症状を説明し得る検査所見を新たに指摘することができ、異議申し立てによって7級4号が認定されました。

 

 

 

頭部MRI(DWI)で左前頭葉に浮腫性病変(高信号域(白色))を新たに指摘することができました。(赤矢印)

 

 

関連ページ

 

※ 本コラムは、脳神経外科専門医の鈴木智医師が解説した内容を、弊社代表医師の濱口裕之が監修しました。

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