脳挫傷とは、外傷によって発生する脳実質の局所的な損傷です。脳挫傷は、いろいろな後遺症を残す可能性があります。
脳挫傷の後遺症が、自賠責保険で後遺障害に認定されると、1級、2級、3級、5級、7級、9級、12級に認定される可能性があります。
本記事では、脳挫傷の後遺症が、自賠責保険で後遺障害に認定されるヒントとなるよう具体例を挙げて説明しています。
最終更新日:2023/9/7
Table of Contents
脳挫傷とは
脳実質の損傷は脳挫傷とびまん性脳損傷に大別される
交通事故などの頭部外傷で生じる脳実質の損傷は、局所の脳損傷とびまん性脳損傷に大別されます。脳実質の局所損傷の代表が脳挫傷です。
脳実質が局所的に挫滅してしまい、脳実質内に出血や浮腫を生じます。脳実質の損傷度合いや損傷された部位に応じて、さまなまな症状が生じます。
<参考>
【医師が解説】びまん性軸索損傷が後遺症認定されるヒント|交通事故
脳挫傷の原因
直撃損傷
歩行者 vs 自動車の交通事故で、歩行者が後方に転倒して後頭部を強打した場合には、頭蓋骨が衝撃を受け止めて頭部の動きは止まります。
しかし、頭蓋骨の中では、慣性によって脳はそのまま後頭部の方向へ動き続けて、頭蓋骨に衝突し損傷を受けます。
これは直撃損傷(coup injury)と呼ばれ、受傷した部位と同じ側の脳に脳挫傷を生じます。
対側損傷
脳が後頭部の方向へ移動すると、受傷部位と反対側の前頭部には、空間ができて陰圧になります。脳は慣性によりそのまま後頭部方向へ進もうとしますが、陰圧になった空間によって、脳には前頭部方向へ引っ張られる力が働きます。
この反対方向に作用する二つの力によって、受傷した部位(後頭部)とは反対側(前頭部)の脳や血管に損傷が生じることがあります。これは対側損傷(contrecoup injury)と呼ばれています。
脳挫傷の診断
頭部CT検査
脳挫傷の診断は、画像検査で行います。頭部CT検査では、点状出血、壊死した脳、浮腫を起こした脳、正常脳が混在してみられます。
出血は白く、壊死や浮腫は黒く見えるため、典型的な脳挫傷のCTではsalt and pepper(塩とコショウ)と呼ばれる所見を呈します。
上に例示した頭部CT検査の画像では、左側頭葉に脳挫傷を認めます(赤矢印)。
頭部MRI検査
小さな出血性病変については、頭部MRI検査の方が鋭敏に病変を検出できます。
上に例示した頭部MRI検査の画像では、出血性病変はT2強調画像で低信号域(黒色)として検出されています(左図 赤矢印)。
一方、脳浮腫は、FLAIRで高信号域(白色)(右図 赤矢印)、 DWIで高信号域(白色)として検出されています。
尚、以下に示す左側の頭部CT検査と、右側の頭部MRI検査(T2強調画像)は同一の患者さんの検査画像です。
頭部CT検査では明らかな異常所見は見られませんでしたが、頭部MRI検査(T2強調画像)では、微小出血を低信号域(黒色)として検出できました(右図 の赤矢印)。
また、小さな浮腫性病変についても、頭部MRI検査の方が鋭敏に病変を検出できます。以下に示す左側の頭部CT検査と右側の頭部MRI検査(DWI)は同一の患者さんの検査画像です。
頭部CT検査では明らかな異常所見は見られませんでしたが、頭部MRI検査(DWI)では浮腫性病変を高信号域(白色)として検出できました(右図 赤矢印)。
脳挫傷に対する治療
脳挫傷の保存療法
軽症の場合、保存的治療を行います。脳挫傷による出血に対して止血剤の投与や、挫傷性浮腫に対して高浸透圧利尿薬の投与を行うこともあります。
脳挫傷は、受傷してから最初の48時間位の間に増悪することが多いのですが、急性期を乗り切れば、その後は症状に対してリハビリテーションを行い機能の回復を目指します。
脳挫傷の手術療法
重症の場合、保存的治療を行なっても脳挫傷の病変がどんどん大きくなり、神経症状が悪化したり、意識障害が進行したりすることがあります。
その場合には救命のために緊急で手術が必要になることがあります。手術は、開頭術といって頭を大きく開いて、頭蓋骨を外して行うものです。
頭蓋骨を外した後に、脳挫傷で生じた血腫を取り除き、壊死した脳組織を摘出します。あくまでも手術は救命のための治療で、神経症状を改善させるための治療ではありません。
脳挫傷の治療期間
脳挫傷の軽症例
脳の出血や腫れがわずかな症例では、約1週間程度の経過観察入院となるケースが多いです。
脳挫傷の重症例
脳の出血や腫れがひどい症例では、急性期には集中治療が必要です。また、入院期間は長期化する傾向にあります。
回復期病院(リハビリテーション病院)での入院期間も含めると、数ヶ月から1年ちかくかかるケースも珍しくありません。
脳挫傷の後遺症
急性期には、さまざまな程度の意識障害をきたす可能性があります。そして、脳挫傷による浮腫が進行すると、意識障害が悪化します。
手足の麻痺や失語などの局所症状(巣症状)を認める場合もあります。しかし、急性期に意識障害が存在すると、局所症状(巣症状)をしっかり評価できないケースもあります。
慢性期には、損傷した脳の部位に応じた局所症状(巣症状)として、手足の麻痺(身体性機能障害)や高次脳機能障害などが後遺症として残る可能性があります。
重症例では、急性期を乗り越えても意識障害が改善せずに遷延してしまう場合があり、遷延性意識障害(植物状態)と呼ばれます。
また、頭部外傷で生じた脳挫傷が原因となって、てんかん発作(外傷性てんかん)を発症するケースもあります。
脳は部位によって担っている機能が異なるため、損傷された部位によって後遺症も多岐にわたります。脳挫傷の代表的な後遺症は以下の通りです。
局所症状(巣症状)
局所の脳実質が損傷された場合の症状(巣症状)と傷害部位について、代表的なものを以下に示します。
運動障害
前頭葉の運動野が障害されると反対側の身体に麻痺を生じます。例えば、右側の前頭葉(運動野)が損傷されると左半身の麻痺(身体性機能障害)を生じます。
感覚障害
頭頂葉の感覚野が障害された場合に反対側の身体に感覚障害を生じます。例えば、右側の頭頂葉(感覚野)が損傷されると、左半身の感覚障害(身体性機能障害)を生じます。
視野障害
後頭葉の視覚野が障害された場合にみられる症状です。
高次脳機能障害
記憶、思考、言語、感情や意欲など大脳の働きで生み出される認知機能は、高次脳機能と呼ばれます。それらの機能を司っている部位が傷害されると発症します。
運動性失語
前頭葉のBroca野という言語を司る部分が障害された場合にみられる症状です。言語理解は可能ですが、発話ができません。
感覚性失語
側頭葉のWernicke野という言語を司る部分が傷害された場合にみられる症状です。発話は可能ですが、言語理解ができません。
<参考>
【医師が解説】高次脳機能障害の後遺症が認定されるコツ|交通事故
遷延性意識障害(植物状態)
脳挫傷が重症の場合には、急性期を乗り越えても意識障害が改善せずに遷延してしまうケースがあります。この状態を、遷延性意識障害(植物状態)と言います。
遷延性意識障害は、大脳の機能が広範囲に障害されて生じます。遷延性意識障害では脳幹の機能は保たれているので、心臓は動いていて自発呼吸もあります。
遷延性意識障害は、大脳と脳幹の両方の機能が停止した脳死とは異なる状態です。脳死では心臓が動いていますが、自発呼吸はみられません。
<参考>
【遷延性意識障害(植物状態)】医師意見書の有効性|交通事故
外傷性てんかん
頭部外傷で生じた脳挫傷が原因となって、てんかん発作(症候性てんかん)が生じるケースもあります。
てんかんと言うと「意識がなくなって痙攣する」という症状を思い浮かべる方が多いでしょう。
しかし実際には、病変(脳挫傷)が存在する部位によって、症状はさまざまです。症候性てんかんの原因部位と症状を以下に示します。
前頭葉
顔、上肢や下肢の痙攣
頭頂葉
身体の一部にチクチク・ピリピリなどといった異常感覚を覚える。(感覚発作)
側頭葉
内臓の異常感覚、既視感(デジャブ)、不安感・恐怖感など
後頭葉
幻視(光、点・線、模様などが見える。)
上記に代表的な症状を呈示しましたが、脳実質の損傷部位によって、他にもさまざまな症状をきたします。
<参考>
【医師が解説】外傷性てんかんの後遺障害認定ポイント|交通事故
脳挫傷の後遺症が後遺障害認定されると損害賠償金を請求できる
脳挫傷で後遺障害に認定されると、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益を請求できます。
脳挫傷後遺症の後遺障害慰謝料とは
交通事故で負った脳挫傷の後遺障害が残ってしまった精神的苦痛に対する補償金です。後遺障害慰謝料は、下の表のように後遺障害等級によって異なります。
後遺障害等級 | 後遺障害慰謝料 |
1級 | 2800万円 |
2級 | 2370万円 |
3級 | 1990万円 |
4級 | 1670万円 |
5級 | 1400万円 |
6級 | 1180万円 |
7級 | 1000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
脳挫傷後遺症の後遺障害逸失利益とは
脳挫傷の後遺障害が残ると、労働能力が低下してしまいます。労働能力が低下したために失うであろう収入の不足分に対する補償金です。
後遺障害逸失利益は、交通事故被害者の年収、年齢をベースにして、後遺障害等級に応じた労働能力喪失率と労働能力喪失期間で決まります。
後遺障害逸失利益の計算式
後遺障害逸失利益は、以下の計算式で算出されます。
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数
脳挫傷の後遺症で考えられる後遺障害
身体性機能障害
脳挫傷による身体性機能障害は、麻痺の範囲や程度、介護の有無と程度によって、後遺障害等級が認定されます。
なお、麻痺の範囲や程度については、身体所見、MRI検査、CT検査によって裏付けできることが必要です。
後遺障害1級1号
身体性機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの
- 高度の四肢麻痺が認められるもの
- 中等度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの
- 高度の片麻痺があって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの
高度の四肢麻痺や片麻痺の具体例は以下のごとくです。
- 障害のある上肢または下肢の運動性・支持性がほとんど失われている状態
- 障害のある上肢または下肢の基本動作(物を持ち上げて移動させたり、立ったり歩行すること)ができない状態
- 完全強直またはこれに近い状態にあるもの
- 三大関節および5つの手指のいずれの関節も自動運動によって可動させることができないもの、またはこれに近い状態にあるもの
- 随意運動の顕著な障害により、障害を残した一上肢では物を持ち上げて移動させることができないもの
- 随意運動の顕著な障害により、一下肢の支持性および随意的な運動性をほとんど失ったもの
中等度の四肢麻痺の具体例は以下のごとくです。
- 障害を残した一上肢では、仕事に必要な軽量の物(おおむね500g)を持ち上げることができないもの、または障害を残した一上肢では文字を書くことができないもの
- 障害を残した一下肢を有するため、杖もしくは硬性装具なしには階段を上ることができないもの、または障害を残した両下肢を有するため杖もしくは硬性装具なしには歩行が困難であること
後遺障害2級1号
身体性機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、随時介護を要するもの
- 高度の片麻痺が認められるもの
- 中等度の四肢麻痺であって食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を必要とするもの
高度の片麻痺の具体例は以下のごとくです。
- 障害のある上肢または下肢の運動性・支持性がほとんど失われている状態
- 障害のある上肢または下肢の基本動作(物を持ち上げて移動させたり、立ったり歩行すること)ができない状態
- 完全強直またはこれに近い状態にあるもの
- 三大関節および5つの手指のいずれの関節も自動運動によって可動させることができないもの、またはこれに近い状態にあるもの
- 随意運動の顕著な障害により、障害を残した一上肢では物を持ち上げて移動させることができないもの
- 随意運動の顕著な障害により、一下肢の支持性および随意的な運動性をほとんど失ったもの
中等度の四肢麻痺の具体例は以下のごとくです。
- 障害のある上肢または下肢の運動性・支持性が相当程度失われている状態
- 障害のある上肢または下肢の基本動作にかなりの制限があるもの
- 障害を残した一上肢では、仕事に必要な軽量の物(おおむね500g)を持ち上げることができないもの、または障害を残した一上肢では文字を書くことができないもの
- 障害を残した一下肢を有するため、杖もしくは硬性装具なしには階段を上ることができないもの、または障害を残した両下肢を有するため杖もしくは硬性装具なしには歩行が困難であること
後遺障害3級3号
生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、身体機能性障害のため労務に服することができないもの
中等度の四肢麻痺が認められるものが該当します(第1級、第2級に該当するものは除きます)。中等度の四肢麻痺の具体例は以下のごとくです。
- 障害のある上肢または下肢の運動性・支持性が相当程度失われている状態
- 障害のある上肢または下肢の基本動作にかなりの制限があるもの
- 障害を残した一上肢では、仕事に必要な軽量の物(おおむね500g)を持ち上げることができないもの、または障害を残した一上肢では文字を書くことができないもの
- 障害を残した一下肢を有するため、杖もしくは硬性装具なしには階段を上ることができないもの、または障害を残した両下肢を有するため杖もしくは硬性装具なしには歩行が困難であること
後遺障害5級2号
身体性機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの
- 軽度の四肢麻痺が認められるもの
- 中等度の片麻痺が認められるもの
- 高度の単麻痺が認められるもの
軽度の四肢麻痺の具体例は以下のごとくです。
- 障害を残した一上肢では文字を書くことに困難を伴うもの
- 障害を残した一下肢を有するため、杖もしくは硬性装具なしには階段を上ることができないもの、または障害を残した両下肢を有するため杖もしくは硬性装具なしには歩行が困難であること
中等度の片麻痺の具体例は以下のごとくです。
- 障害のある上肢または下肢の運動性・支持性が相当程度失われている状態
- 障害のある上肢または下肢の基本動作にかなりの制限があるもの
- 障害を残した一上肢では、仕事に必要な軽量の物(おおむね500g)を持ち上げることができないもの、または障害を残した一上肢では文字を書くことができないもの
- 障害を残した一下肢を有するため、杖もしくは硬性装具なしには階段を上ることができないもの、または障害を残した両下肢を有するため杖もしくは硬性装具なしには歩行が困難であること
高度の単麻痺(片腕、もしくは片足の麻痺)の具体例は以下のごとくです。
- 完全強直またはこれに近い状態にあるもの
- 三大関節および5つの手指のいずれの関節も自動運動によって可動させることができないもの、またはこれに近い状態にあるもの
- 随意運動の顕著な障害により、障害を残した一上肢では物を持ち上げて移動させることができないもの
- 随意運動の顕著な障害により、一下肢の支持性および随意的な運動性をほとんど失ったもの
後遺障害7級4号
身体性機能障害のため、軽易な労務以外には服することができないもの
- 軽度の片麻痺が認められるもの
- 中等度の単麻痺が認められるもの
軽度の片麻痺の具体例は以下のごとくです。
- 障害を残した一上肢では文字を書くことに困難を伴うもの
- 障害を残した一下肢を有するため、杖もしくは硬性装具なしには階段を上ることができないもの、または障害を残した両下肢を有するため杖もしくは硬性装具なしには歩行が困難であること
中等度の単麻痺の具体例は以下のごとくです。
- 障害を残した一上肢では、仕事に必要な軽量の物(おおむね500g)を持ち上げることができないもの、または障害を残した一上肢では文字を書くことができないもの
- 障害を残した一下肢を有するため、杖もしくは硬性装具なしには階段を上ることができないもの、または障害を残した両下肢を有するため杖もしくは硬性装具なしには歩行が困難であること
後遺障害9級10号
通常の労務に服することはできるが、身体性機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当程度に制限されるもの
- 軽度の単麻痺が認められるもの
軽度の単麻痺の具体例は以下のごとくです。
- 障害を残した一上肢では文字を書くことに困難を伴うもの
- 日常生活はおおむね独歩であるが、障害を残した一下肢を有するため不安定で転倒しやすく速度も遅いもの、または障害を残した両下肢を有するため杖もしくは硬性装具なしには階段を上ることができないもの
後遺障害12級13号
通常の労務に服することはできるが、身体性機能障害のため、多少の障害を残すもの
- 通常の労務に服することはできるが、身体性機能障害のため、多少の障害を残すもの
- 運動性、支持性、巧緻性及び速度についての支障がほとんど認められない程度の軽微な麻痺を残すもの
- 運動障害は認められないものの、広範囲にわたる感覚障害が認められるものも該当します。
高次脳機能障害
高次脳機能障害については、意思疎通能力、問題解決能力、作業負荷に対する持続力・持久力、及び、社会行動能力の4つの能力の各々の喪失の程度に着目し、評価を行います。
後遺障害1級1号
高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの
- 重篤な高次脳機能障害のため、食事・入浴・用便・更衣等に常時介護を要するもの
- 高次脳機能障害による高度の認知症や情意の荒廃があるため、常時監視を要するもの
後遺障害2級1号
高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわりの処理の動作について、随時介護を要するもの
- 重篤な高次脳機能障害のため、食事・入浴・用便・更衣等に随時介護を要するもの
- 高次脳機能障害による認知症、情意の障害、幻覚、妄想、頻回の発作性意識障害等のため随時他人による監視を必要とするもの
- 重篤な高次脳機能障害のため自宅内の日常生活動作は一応できるが、1人で外出することなどが困難であり、外出の際には他人の介護を必要とするため、随時他人の介護を必要とするもの
後遺障害3級3号
生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高次脳機能障害のため、労務に服することができないもの
- 4能力のいずれか1つ以上の能力が全部失われているもの
- 4能力のいずれか2つ以上の能力の大部分が失われているもの
後遺障害5級2号
高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの
- 4能力のいずれか1つの能力の大部分が失われているもの
- 4能力のいずれか2つ以上の能力の半分程度が失われているもの
後遺障害7級4号
高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないもの
- 4能力のいずれか1つの能力の半分程度が失われているもの
- 4能力のいずれか2つ以上の能力の相当程度が失われているもの
後遺障害9級10号
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの
- 高次脳機能障害のため4能力のいずれか1つの能力の相当程度が失われているもの
問題解決能力の相当程度が失われているものの例:1人で手順とおりに作業を行うことに困難を生じることがあり、たまに助言を必要とする
後遺障害12級13号
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、多少の障害を残すもの
- 4能力のいずれか1つ以上の能力が多少失われているもの
実務上は、高次脳機能障害として認定される等級の下限は12級13号と言われています。臨床的な症状が無くても、症状固定時のCTやMRIで脳挫傷痕や脳萎縮などの所見を認めれば、12級13号が認定されます。
後遺障害14級9号
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、軽微な障害を残すもの
- MRI、CT等による他覚的所見は認められないものの、脳損傷のあることが医学的にみて合理的に推測でき、高次脳機能障害のためわずかな能力喪失が認められるもの
<参考>
【医師が解説】高次脳機能障害の後遺症が認定されるコツ|交通事故
遷延性意識障害(植物状態)
後遺障害1級1号
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
後遺障害2級1号
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
<参考>
【遷延性意識障害(植物状態)】医師意見書の有効性|交通事故
外傷性てんかん(症候性てんかん)
外傷性てんかんに係る等級の認定は発作の型、発作回数等に着目し、以下の基準によることとなります。
なお1ヶ月に2回以上の発作がある場合には、通常高度の高次脳機能障害を伴っているので、脳の高次脳機能障害に係る第3級以上の認定基準により障害等級を認定することとなります。
後遺障害5級2号
1ヶ月に1回以上の発作があり、かつ、その発作が「意識障害の有無を問わず転倒する発作」又は「意識障害を呈し、状況にそぐわない行為を示す発作」(以下「転倒する発作等」という。)であるもの
後遺障害7級4号
転倒する発作等が数ヶ月に1回以上あるもの又は転倒する発作等以外の発作が1ヶ月に1回以上あるもの
後遺障害9級10号
数ヶ月に1回以上の発作が転倒する発作等以外の発作であるもの又は服薬継続によりてんかんの発作がほぼ完全に抑制されているも
後遺障害12級13号
発作の発現はないが、脳波上に明らかにてんかん性棘波を認めるもの
<参考>
【医師が解説】外傷性てんかんの後遺障害認定ポイント|交通事故
【国土交通省】後遺障害等級表
【弁護士必見】脳挫傷後遺症の後遺障害認定ポイント
脳挫傷の後遺症が高次脳機能障害に認定されるかが重要
脳挫傷などの頭部外傷の後遺障害は、大きく分けて高次脳機能障害と身体機能性障害に大別されます。実務上は、高次脳機能障害に認定されるか否かが最初の関門になります。
脳挫傷の後遺症が高次脳機能障害に認定されるためには、多くの事案で画像所見と意識障害をクリアできるのかがポイントになります。
まず画像所見ですが、脳実質の損傷を示す脳挫傷痕、脳萎縮、脳室拡大などが認められる必要があります。
受傷直後の急性期に「派手な」所見があっても、慢性期になると消失している事案が多いことには注意が必要です。
次に意識障害ですが、受傷直後に声掛けしなければ開眼しないレベル以上の意識障害を認めた、もしくはある自分の名前や生年月日が言えない等の意識障害が、ある一定期間は持続したというカルテの記録が必要です。
画像所見と意識障害をクリアした事案に対して「神経心理学的検査」「神経系統の障害に関する医学的意見」「日常生活状況報告」を勘案して、何級に該当するのかが判断されることになります。
高次脳機能障害の後遺障害認定基準を理解するためには、たくさんの知識が必要です。必要に応じて、以下のコラムを参照してください。
<参考>
【医師が解説】高次脳機能障害が後遺症認定されるポイント|交通事故
後遺症の無い脳挫傷でも後遺障害12級13号に該当する可能性がある
一般的に、脳外傷は後遺症を残しやすい外傷と言えます。その理由は、神経細胞が一度損傷すると自己再生しないからです。
しかし、脳挫傷を受傷しても外観上は全く後遺症を残さないケースもあります。CT検査やMRI検査で脳挫傷痕が存在しても、部位によっては後遺症が分からないケースもあります。
症状が無ければ、自賠責保険の後遺障害に該当しないと思いがちです。しかし、CT検査やMRI検査で脳挫傷痕が確認できれば、症状が無くても神経障害として12級13号に認定されます。
脳挫傷でお困りの事案があればこちらからお問い合わせください。
【7級4号】脳挫傷後遺症の後遺障害認定事例
事案サマリー
- 被害者:50歳(事故当時)
- 初回申請:9級10号
- 異議申立て:7級4号が認定されました
自賠責保険は、高次脳機能障害と神経因性膀胱に関係する画像検査の所見が乏しいことを根拠に、9級10号の等級認定となりました。
弊社の取り組み
弊社で画像検査を再度確認したところ、被害者の症状を説明し得る検査所見を新たに指摘することができました。異議申し立てによって7級4号が認定されました。
頭部MRI検査(DWI)で左前頭葉に浮腫性病変(高信号域(白色))を新たに指摘することができました(赤矢印)。
脳挫傷後遺症の後遺障害認定まとめ
交通事故などの頭部外傷で生じる脳実質の損傷は、局所の脳損傷とびまん性脳損傷に大別されます。脳実質の局所損傷の代表が脳挫傷です。
脳挫傷では、脳実質の損傷度合いや損傷された部位に応じて、以下のような後遺症が生じます。
- 局所症状(巣症状):運動障害、感覚障害、視野障害
- 高次脳機能障害
- 遷延性意識障害(植物状態)
- 外傷性てんかん
脳挫傷後遺症の後遺障害認定では、高次脳機能障害に認定されるか否かがポイントになります。
<参考>
【日経メディカル】交通事故後の高次脳機能障害を見逃すな!把握しにくい2つの理由
【日経メディカル】交通事故における曖昧な高次脳機能障害の定義
【医師が解説】高次脳機能障害の後遺症が認定されるコツ|交通事故
【医師が解説】びまん性軸索損傷が後遺症認定されるヒント|交通事故
【医師が解説】急性硬膜下血腫が後遺症認定されるポイント|交通事故
【医師が解説】脳出血が後遺症認定されるポイント|交通事故
【医師が解説】外傷性くも膜下出血が後遺症認定される要点|交通事故
【医師が解説】慢性硬膜下血腫の後遺症|交通事故
関連ページ
※ 本コラムは、脳神経外科専門医の鈴木智医師が解説した内容を、弊社代表医師の濱口裕之が監修しました。