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【医師が解説】外傷性くも膜下出血が後遺症認定される要点|交通事故

交通事故で発生する頭部外傷のひとつに外傷性くも膜下出血があります。病名を聞くと何だか恐ろしい病気のような印象を受けますね。

 

本記事は、外傷性くも膜下出血の後遺症が等級認定されるヒントとなるように説明しています。

 

 

最終更新日:2024/4/19

 

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外傷性くも膜下出血とは

 

脳の表面は、くも膜という半透明の膜に覆われています。くも膜は脳の外表面を覆う「膜」の部分と、脳と脳の隙間を埋める「くも膜小柱」から成り立っています。

 

外傷性くも膜下出血とは、頭部外傷によりくも膜と脳の表面の間(くも膜下腔)に出血することをいいます。

 

 

anatomy of arachnoid

 

 

anatomy of arachnoid

 

 

脳卒中の「くも膜下出血」と混同しやすいですが、両者は明確に区別される必要があります。なぜなら両者の治療方針は全く異なるからです。

 

内因性(元々存在する病気によるもの)のくも膜下出血は脳動脈瘤破裂が原因のことがほとんどであり、治療の主座はこの破裂した脳動脈瘤の治療になります。

 

一方、外傷性くも膜下出血は原因が頭部外傷ですので、頭部外傷に対する治療を行います。

 

 

交通事故での外傷性くも膜下出血の受傷機序

 

交通事故で頭部外傷を負った場合、脳が勢いをもって振られます(回転加速)。この時、脳に逆向きの力が加わり(剪断力)、架橋静脈(脳の表面の静脈)に代表される脳表の血管が破綻します。

 

破綻した血管からくも膜下腔に出血が起こり、(外傷性)くも膜下出血となります。

 

 

shear force

 

 

非常に稀ですが、かなり大きな剪断力が加わった場合には、くも膜下腔に存在する内頚動脈や椎骨動脈が破綻して、重篤なくも膜下出血を生じることがあります。

 

また、交通事故で外傷性くも膜下出血を生じた場合は、血管の検査をして出血の原因が内因性のくも膜下出血ではないことを確認する必要があります。運転中に脳動脈瘤が破裂してくも膜下出血を発症した可能性もあるからです。

 

 

外傷性くも膜下出血の症状

 

頭部打撲に伴う頭痛はありますが、少量のくも膜下出血なら顕著な症状はないことが多いです。くも膜下出血の量や、合併する急性硬膜下血腫や脳挫傷に伴い意識障害を生じることがあります。

 

むしろこれらの合併する病態が、症状や予後を規定するといえるでしょう。また、内頚動脈や椎骨動脈が破綻するような重篤な外傷性くも膜下出血の場合は残念ながら救命は困難でしょう。

 

 

外傷性くも膜下出血の診断

 

通常、頭部CTで脳と脳の隙間にうっすらと高吸収域(白く映る)のくも膜下出血を認めます。症状が軽く出血が少量の場合は、見逃されることもあるので注意が必要です。

 

頭部MRIでは、T2 FLAIR画像が診断に有用とされています。

 

 

head computerized tomography

 

画像所見:頭部CTにて右前頭部に少量の外傷性くも膜下出血を認めます。

 

 

外傷性くも膜下出血に対する治療

 

くも膜下出血そのものに対する外科的な治療は行わないことがほとんどです。小さな静脈からの出血なら自然に止血されて、くも膜下腔の出血は脳脊髄液によって流されて綺麗になるからです。

 

約半数は24時間以内に画像上の所見は消失します。くも膜下出血が少量の場合は、血圧管理や内服薬の管理など行います。

 

血をさらさらにする薬(抗血小板薬や抗凝固薬)を定期的に内服されている方には、薬の必要性と出血を助長させる危険性とを天秤にかけて休薬期間を決めます。

 

外傷性くも膜下出血には、急性硬膜下血腫を合併することが多く、この程度により頭蓋骨を開けて血腫を取り除く手術(開頭血腫除去術)を行うかどうか判断します。

 

急性硬膜下血腫により脳が圧迫される脳ヘルニアという状態になると、命の危険が生じます。

 

その場合は緊急で開頭血腫除去術と頭蓋骨を大きく取り除いて脳の腫れに備える減圧開頭術を必要とします。高齢者では元々脳が萎縮していることが多いため、頭蓋骨を戻すこともあります。

 

また、内頚動脈や椎骨動脈が破綻しているような場合は、緊急で脳カテーテル手術による母血管閉塞術(太い動脈の血管ごとコイルで閉塞させる)の適応になります。ただし救命は極めて難しいでしょう。

 

 

外傷性くも膜下出血で考えられる後遺障害

 

単独の外傷性くも膜下出血なら後遺症を残さずに回復する場合が多いです。

 

急性硬膜下血腫や脳挫傷を合併した場合には、その損傷部位に応じた局所症状(運動麻痺、失語、視野障害など)を残す可能性があります。

 

びまん性脳損傷を合併した場合には、高次脳機能障害(記憶力、判断力、集中力などの低下)を残す可能性があります。

 

また、高齢者では頭部外傷の1~2ヶ月後に慢性硬膜下血腫を発症することがあります。

 

 

<参考>

 

 

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【弁護士必見】外傷性くも膜下出血だけでは後遺障害が認定されにくい?!

 

前述の如く、単独の外傷性くも膜下出血なら後遺症を残さずに回復する場合が多いです。

 

このため、外傷性くも膜下出血単独では後遺障害の等級認定対象とはなりにくいです。

 

一方、合併する脳挫傷やびまん性脳損傷の程度により、身体性機能障害や高次脳機能障害の後遺障害等級が認定されます。

 

 

<参考>
高次脳機能障害が等級認定されるポイント

 

 

 

nikkei medical

 

 

まとめ

 

交通事故による頭部外傷で受傷することの多い「外傷性くも膜下出血」について概説しました。

 

くも膜下出血が少量でも、びまん性脳損傷を起こしていることがありますので、CT検査のみならずMRI検査も依頼すべきでしょう。

 

外傷性くも膜下出血でお困りの事案があればこちらからお問い合わせください。

 

 

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    ※ 本コラムは、脳神経外科専門医の高麗雅章医師が解説した内容を、弊社代表医師の濱口裕之が監修しました。

     

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