整形外科専門医が解説:肩鎖関節脱臼の後遺症(交通事故)

投稿日:2022年4月9日 更新日:

肩鎖関節脱臼(けんさかんせつだっきゅう)とは

肩鎖関節とは、鎖骨と肩峰(肩甲骨)の間にある関節です。肩鎖関節は、肩鎖靱帯(肩峰と鎖骨をつないでいる靭帯)、烏口鎖骨靱帯(烏口突起と鎖骨の間をつないでいる靭帯)、三角筋や僧帽筋によって安定化しています。

 

鎖骨は釣り竿の本体、肩鎖関節は釣り竿の先に例えられます。鎖骨が竿の部分の役割を果たしており、肩鎖関節を介して肩峰~上肢をぶら下げているのです。

 

このように鎖骨および肩鎖関節は、体幹から上肢を支える役割を果たしています。肩鎖関節を損傷すると、体幹が上肢を支える機能が低下します。肩峰から上肢にかけての自重に耐えきれず、鎖骨に対して肩峰が下方に転位します。

 

この状況が肩鎖関節脱臼です。つまり肩鎖関節が脱臼する理由は、肩峰から上肢にかけての自重に耐えきれないからです。他の関節とは少し脱臼の趣が異なることに注意が必要ですね。

 

受傷機転は、サッカー、ラクビー、柔道などの激しいコンタクトスポーツや、転倒や転落、そして交通事故などが多いです。これらの外傷で肩関節を強打してしまった結果、肩鎖靱帯や烏口鎖骨靱帯、そして三角筋や僧帽筋が断裂してしまい肩鎖関節が脱臼します。

 

肩鎖関節のずれの程度で、捻挫、亜脱臼、脱臼に分類されます。整形外科医が用いる最も有名な分類は、Rockwood分類です。肩鎖関節のずれの程度で Type 1 から Type 6 に分類されており、肩鎖関節の治療方針の決定に一役買っています。

 

一般的には保存治療を行う症例が多いですが、脱臼程度の大きい Type 3以上では、手術療法が選択される場合もあります。ただし、決定版と言える手術療法は存在せず、どの治療法を選択しても完全に受傷前の状態に治る見込みは低いです。

 

Acromioclavicular joint dislocation

 

 

変形障害の12級5号が最も多い

肩鎖関節脱臼でもっとも多くみられる後遺症は変形障害です。この場合の変形障害とは、裸体になったときに皮膚の上から鎖骨遠位端が飛び出している状態を指します。

 

Rockwood分類で Type 3以上の転位が残存している症例では、肩鎖関節周囲には筋肉が少ないため、かなり派手に鎖骨遠位端が皮膚上に突出してしまいます。

 

服の上からは分かりにくいかもしれませんが、裸体になると肩鎖関節脱臼の存在は一目瞭然です。このため交通事故の自賠責保険においても、Rockwood分類で Type 3以上の転位が残存している症例では、肩鎖関節の変形障害として12級5号に認定されるケースが多いです。

 

一方、Rockwood分類の Type 2や Type 1の場合はどうなのかと言うと、この程度の脱臼では変形障害が認められない可能性が高いです。その理由は体表からは左右差が分からない程度の変形に留まるからです。

 

 

神経障害の14級9号の可能性もある

Rockwood分類で Type 2や Type 1の転位が残存している症例では、変形障害が認定されないケースが多いです。それでは、これらの事案では後遺障害がまったく認定されずに非該当になるのかと言うとそうとも限りません。

 

肩鎖関節では激しい痛みが残存するケースは少ないですが、肩関節より上に上肢を挙上する際の鈍痛を訴える人が多いです。

 

このような肩鎖関節脱臼に疼痛を残した事案では、神経障害の14級9号に認定される可能性があります。Rockwood分類で Type 2では、単純X線像ではっきりと脱臼をしてきできるので12級13号に認定されそうですね。

 

しかし実際には、弊社の経験でも12級13号ではなく14級9号に留まる印象を受けます。

 

 

肩関節機能障害の12級6号は難しい

それでは肩関節機能障害はどうでしょうか? 肩鎖関節脱臼そのものでは、肩関節機能障害をきたしにくいです。特に、外固定もせず保存的に経過観察した若年者の症例では、あまり肩関節拘縮をきたさない印象を受けています。

 

一方、中高年では話が異なります。外傷性の肩関節周囲炎を併発してしまい、肩関節の可動域制限を残してしまう人が多いのです。

 

中高年に関しては、肩鎖関節脱臼に限らず鎖骨骨折や腱板断裂などの外傷によっても、すぐに肩関節可動域制限を併発してしまいます。肩関節の可動域制限をきたしてしまうと、リハビリテーションを頑張ってもなかなか元通りには動きません。

 

このため、肩鎖関節脱臼後の肩関節機能障害は簡単に認定されそうに思えます。しかし実際には、肩関節機能障害で後遺障害等級が認定される事案はさほど多くありません。

 

医師の間では、肩鎖関節脱臼では肩関節の可動域制限を残しにくいというコンセンサスがあります。このため、審査側も肩鎖関節脱臼では肩関節の可動域制限を残さないという判断をするのでしょう。そしてこの判断は、若年者においては間違いではないと考えます。

 

一方、中高年の肩鎖関節脱臼では、前述したように外傷性の肩関節周囲炎を併発してしまい、可動域制限が残る事案をよくみかけます。しかし審査側は、若年者も中高年も一括して判断している可能性があります。

 

少なくとも被害者請求段階で、関節機能障害として12級6号に認定されたケースはあまり見たことがありません。被害者が中高年であれば異議申立てする価値はあると考えます。

 

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