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【医師が解説】頚椎骨折が後遺症認定されるポイント|交通事故

交通事故で発生する首の外傷のひとつに頚椎骨折があります。首には手足に行く重要な神経が通っているため、頚椎骨折はさまざまな後遺症を残しやすい外傷です。

 

本記事は、頚椎骨折の後遺症が等級認定されるヒントとなるように作成しています。

 

 

最終更新日:2024/4/19

 

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頚椎骨折とは

環椎破裂骨折(ジェファーソン骨折)

環椎破裂骨折は、転落、スポーツ、交通事故などで受傷します。頭頂部から首に垂直方向+伸展方向の外力が加わった時に受傷することが多いです。

 

環椎破裂骨折は環椎の椎弓が外に向かってずれる(転位する)ので、後述する軸椎歯突起骨折に比べて脊髄損傷の頻度は少ないと言われています。

 

脊髄損傷を併発することは比較的稀であるため、ハローベスト等で保存療法を行うケースが多いです。

 

 

軸椎歯突起骨折

首の過屈曲もしくは過伸展によって発生します。上位頚椎損傷では最も頻度の高い骨折です。臨床的に問題になるのは、歯突起基部の骨折です。

 

この部位の骨折では、歯突起のずれ(転位)と一緒に環椎が脱臼します。屈曲損傷による前方へのずれ(転位)が多いので、脊髄損傷をきたす可能性があります。

 

転位の少ない症例では保存療法が選択されますが、骨折部の不安定性が大きい場合は、スクリュー挿入などの手術療法が選択されます。

 

 

軸椎関節突起間骨折(ハングマン骨折)

軸椎関節突起間骨折は、絞首刑者の頚椎にみられることからハングマン骨折(Hangman’s fracture)と呼ばれています。

 

C2/3の椎間板が損傷されて軸椎全体が前方にずれます。脊髄損傷を併発することは比較的稀であるため、ハローベスト等で保存療法を行うケースが多いです。

 

 

頚椎椎体骨折

頭部に強い衝撃が加わって、首の過屈曲もしくは過伸展によって発生します。脊髄損傷を併発する可能性が高く、交通事故で最も問題となる外傷の一つと言えます。

 

外傷性頚椎椎間板ヘルニアを合併している事案では、頚椎前方除圧固定術などの手術療法の適応となります。

 

また頚椎骨折の骨折型によっては、頚椎後方固定術が選択されるケースもあります。

 

頚椎椎体の圧壊がごく軽度で脊髄損傷も無い事案では、保存療法が選択されるケースもあります。

 

 

頚椎椎弓骨折

椎体などの前方成分には骨折が無くて、後方(背中側)の椎弓にのみが骨折する事案も多いです。

 

このようなケースでは、脊髄損傷を合併する頻度は少ないため、保存療法が選択されることが多いです。

 

 

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頚椎骨折で必要な検査

単純X線像

まず単純X線像(レントゲン検査)を撮影します。

 

 

CT検査

頚椎骨折は高エネルギー外傷であることが多いので、搬送時に全身CT検査が実施されるケースも多いです。

 

レントゲン検査で頚椎骨折が確認できれば、治療方針決定のためにCT検査を施行します。

 

特に、第6頚椎や第7頚椎などの下位頚椎は肩が重なるためにレントゲン検査だけは骨折部の評価が難しいです。このため、CT検査は必須と言えるでしょう。

 

 

MRI検査

頚椎骨折の診断でも、MRIの有用性は言うまでもありません。特に脊髄損傷を合併している事案では、MRI検査は必須と言えます。

 

骨折線はT1強調画像では低信号領域(黒)として写ります。新鮮骨折ではSTIRという撮像条件が重要で、椎体が高信号(白)になっていれば、T1強調画像と合わせて新鮮骨折と診断できます。

 

骨折後の経過を追うと、順調に骨癒合が得られた場合はT1強調画像では約3ヶ月で正常化すると言われています。一方、骨癒合が遷延化すると6ヶ月後も椎体内部にT1強調画像で低信号領域が残ると言われています。

 

ただし、STIRで椎体信号が正常化するには、順調な症例でも約1年かかる場合があります。STIRの高信号だけで新鮮骨折と診断できないので、他の撮像方法、単純X線像、臨床症状を総合して診断する必要があります。

 

 

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頚椎骨折で考えられる後遺障害

脊柱の変形障害

脊柱の変形障害には、変形程度に応じて下記3つがあります。

 

 

6級5号:脊柱に著しい変形を残すもの

 

2個以上の椎体の前方椎体高の高さの合計が、後方椎体の高さの合計よりも、1個の椎体分以上低くなっているものです。端的に言うと、椎体1個以上の椎体前方高の減少したものです。

 

1個の椎体分とは、骨折した椎体の後方椎体高の平均値のことです。

 

 

8級2号:脊柱に中程度の変形を残すもの

 

1個以上の椎体の前方椎体高の高さの合計が、後方椎体の高さの合計よりも、1/2個の椎体分以上低くなっているものです。端的に言うと、椎体の1/2以上の椎体前方高の減少したものです。

 

 

11級7号:脊柱に変形を残すもの

 

下記3つのいずれかに該当すれば認定されます。

 

  • 脊椎圧迫骨折等を残しており、そのことがエックス線写真等により確認できるもの
  • 脊椎固定術が行われたもの
  • 3個以上の脊椎について、椎弓切除術などの椎弓形成術を受けたもの

 

 

脊髄損傷の後遺障害(神経障害)

頚椎骨折では、脊髄損傷による四肢麻痺を併発する事案が多いです。脊髄損傷では残された日常生活を送る能力によって、下記のような後遺障害があります。

 

 

1級1号

 

せき髄症状のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの

 

  • 高度の四肢麻痺が認められるもの
  • 高度の対麻痺(両下肢麻痺)が認められるもの
  • 中等度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの
  • 中等度の対麻痺(両下肢麻痺)であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの

 

 

高度の四肢麻痺や対麻痺の具体例は以下のごとくです。

 

  • 障害のある上肢または下肢の運動性・支持性がほとんど失われている状態
  • 障害のある上肢または下肢の基本動作(物を持ち上げて移動させたり、立ったり歩行すること)ができない状態
  • 完全強直またはこれに近い状態にあるもの
  • 三大関節および5つの手指のいずれの関節も自動運動によって可動させることができないもの、またはこれに近い状態にあるもの
  • 随意運動の顕著な障害により、障害を残した一上肢では物を持ち上げて移動させることができないもの
  • 随意運動の顕著な障害により、一下肢の支持性および随意的な運動性をほとんど失ったもの

 

 

中等度の四肢麻痺や対麻痺の具体例は以下のごとくです。

 

  • 障害を残した一上肢では、仕事に必要な軽量の物(おおむね500g)を持ち上げることができないもの、または障害を残した一上肢では文字を書くことができないもの
  • 障害を残した一下肢を有するため、杖もしくは硬性装具なしには階段を上ることができないもの、または障害を残した両下肢を有するため杖もしくは硬性装具なしには歩行が困難であること

 

 

2級1号

 

せき髄症状のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、随時介護を要するもの

 

  • 中等度の四肢麻痺が認められるもの
  • 軽度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの
  • 中等度の対麻痺(両下肢麻痺)であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの

 

 

中等度の四肢麻痺や対麻痺の具体例は以下のごとくです。

 

  • 障害のある上肢または下肢の運動性・支持性が相当程度失われている状態
  • 障害のある上肢または下肢の基本動作にかなりの制限があるもの
  • 障害を残した一上肢では、仕事に必要な軽量の物(おおむね500g)を持ち上げることができないもの、または障害を残した一上肢では文字を書くことができないもの
  • 障害を残した一下肢を有するため、杖もしくは硬性装具なしには階段を上ることができないもの、または障害を残した両下肢を有するため杖もしくは硬性装具なしには歩行が困難であること

 

 

軽度の四肢麻痺の具体例は以下のごとくです。

 

  • 障害を残した一上肢では文字を書くことに困難を伴うもの
  • 障害を残した一下肢を有するため、杖もしくは硬性装具なしには階段を上ることができないもの、または障害を残した両下肢を有するため杖もしくは硬性装具なしには歩行が困難であること

 

 

3級3号

 

生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、せき髄症状のために労務に服することができないもの

 

  • 軽度の四肢麻痺が認められるもので、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要しないもの
  • 中等度の対麻痺(両下肢麻痺)が認められるもので、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要しないもの

 

 

軽度の四肢麻痺の具体例は以下のごとくです。

 

  • 障害を残した一上肢では文字を書くことに困難を伴うもの
  • 障害を残した一下肢を有するため、杖もしくは硬性装具なしには階段を上ることができないもの、または障害を残した両下肢を有するため杖もしくは硬性装具なしには歩行が困難であること

 

 

中等度の対麻痺の具体例は以下のごとくです。

 

  • 障害のある上肢または下肢の運動性・支持性が相当程度失われている状態
  • 障害のある上肢または下肢の基本動作にかなりの制限があるもの
  • 障害を残した一下肢を有するため、杖もしくは硬性装具なしには階段を上ることができないもの、または障害を残した両下肢を有するため杖もしくは硬性装具なしには歩行が困難であること

 

 

5級2号

 

せき髄症状のため、きわめて軽易な労務のほかに服することができないもの

 

  • 軽度の対麻痺が認められるもの
  • 一下肢の高度の単麻痺(片腕、もしくは片足の麻痺)が認められるもの

 

 

軽度の対麻痺の具体例は以下のごとくです。

 

  • 障害を残した一下肢を有するため、杖もしくは硬性装具なしには階段を上ることができないもの、または障害を残した両下肢を有するため杖もしくは硬性装具なしには歩行が困難であること

 

 

一下肢の高度の単麻痺(片腕、もしくは片足の麻痺)の具体例は以下のごとくです。

 

  • 完全強直またはこれに近い状態にあるもの
  • 三大関節および5つの手指のいずれの関節も自動運動によって可動させることができないもの、またはこれに近い状態にあるもの
  • 随意運動の顕著な障害により、障害を残した一上肢では物を持ち上げて移動させることができないもの
  • 随意運動の顕著な障害により、一下肢の支持性および随意的な運動性をほとんど失ったもの

 

 

7級4号

 
せき髄症状のため、軽易な労務以外には服することができないもの

  • 一下肢の中等度の単麻痺が認められるもの

 

 

一下肢の中等度の単麻痺の具体例は以下のごとくです。

 

  • 障害を残した一下肢を有するため、杖もしくは硬性装具なしには階段を上ることができないもの、または障害を残した両下肢を有するため杖もしくは硬性装具なしには歩行が困難であること

 

 

9級10号

 

通常の労務に服することはできるが、せき髄症状のため、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの

 

  • 一下肢の軽度の単麻痺が認められるもの

 

 

一下肢の軽度の単麻痺の具体例は以下のごとくです。

 

  • 日常生活はおおむね独歩であるが、障害を残した一下肢を有するため不安定で転倒しやすく速度も遅いもの、または障害を残した両下肢を有するため杖もしくは硬性装具なしには階段を上ることができないもの

 

 

12級13号

 

通常の労務に服することはできるが、せき髄症状のため、多少の障害を残すもの

 

  • 運動性、支持性、巧緻性(手の細かい動き)及び速度についての障害はほとんど認められない程度の軽微な麻痺を残すもの
  • 運動障害は認められないものの、広範囲にわたる感覚障害が認められるもの

 

 

<参考>
【医師が解説】脊髄損傷の後遺障害認定ポイント|交通事故

 

 

脊髄損傷の後遺障害(胸腹部臓器の障害)

脊髄損傷では四肢麻痺だけではなく、膀胱直腸障害などの胸腹部臓器の障害を併発する可能性があります。このようなケースでは、併合の取扱いは行わず、脊髄の障害として認定します。

 

ただし、脊髄損傷に伴う胸腹部臓器の障害が麻痺の範囲と程度により判断される後遺障害等級よりも重い場合には、それらの障害の総合評価により等級を認定することになります。

 

このようなケースでは、随伴する胸腹部臓器の障害の後遺障害等級を下回りません。

 

【具体例】

  • 麻痺:12級13号
  • 膀胱直腸障害:11級10号
  • 総合評価として9級10号に認定される

 

 

<参考>
【医師が解説】内臓破裂の後遺症が等級認定されるポイント|交通事故

 

 

脊柱の変形障害と脊髄損傷が合併した場合

頚椎骨折では、脊椎固定術などの脊柱の障害だけではなく、脊髄損傷による四肢麻痺を併発する可能性があります。このようなケースでは、併合の取扱いは行わず、脊髄の障害として認定します。

 

ただし、脊髄損傷に伴う脊柱の障害が麻痺の範囲と程度により判断される後遺障害等級よりも重い場合には、それらの障害の総合評価により等級を認定することになります。

 

このようなケースでは、随伴する脊柱の障害の後遺障害等級を下回りません。

 

【具体例】

  • 麻痺:7級4号
  • 脊柱の著しい変形:6級5号
  • 総合評価として5級2号に認定される

 

 

<参考>
【医師が解説】脊髄損傷が後遺症認定されるポイント|交通事故

 

 

骨盤骨等の変形障害

脊髄損傷では四肢麻痺だけではなく、脊椎固定術などの際の採骨によって骨盤骨等の変形障害を併発する可能性があります。このようなケースでは、併合の取扱いは行わず、脊髄の障害として認定します。

 

 

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【弁護士必見】頚椎骨折の後遺障害認定ポイント

椎体前下方の椎体骨折の見逃し事案が多い

頚椎の加齢性変化として、頚椎椎体前方に骨棘形成されるケースが多いです。もちろん、椎体の骨棘は外傷性ではありません。

 

ところが、ときどき椎体前下方に骨折を併発したものの、分離した骨棘と診断されて椎体骨折が見逃されている事案を散見します。

 

本来なら11級7号に認定されて然るべきですが、異議申し立てしても14級9号に留まる事案が多いです。

 

見逃し事案ではないですが、11級7号認定事例の紹介のようなケースもあります。

 

 

Modic変性を椎体骨折と間違うケース

椎体骨折とよく間違われる症例に、椎体終板変性(Modic変性)があります。Modic変性は、MRI検査で日常的に観察される変化です。

 

Modic変性には3タイプありますが、

  • Modic Type 1(MRI検査のT1強調画像で低信号、T2強調画像で高信号)
  • Modic Type 2(MRI検査のT1強調画像、T2強調画像ともに高信号)

 

は、整形外科医や放射線科医でも、読影で「椎体骨折」と誤診するケースが後を絶たちません。

 

おそらく、Modic変性による脊椎骨折誤診は保険会社の要注意チェックポイントにリスティングされており、自賠責保険が椎体骨折であると誤診した事案を否認するケースが多発しています。

 

Modic変性と頚椎椎体骨折の鑑別は、MRI検査だけでは判断できない事案があります。そのような事案ではレントゲン検査やCT検査の所見が鍵となります。

 

 

 

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認定事例:軸椎骨折で11級7号認定

 

  • 被害者:42歳
  • 初回申請:14級9号
  • 異議申立て:11級7号(脊柱に変形を残すもの)

 

コメント
自動車乗車中にトラックに追突されて受傷しました。軸椎骨折の傷病名がありましたが、初回申請で14級9号認定に留まりました。

 

しかし弊社にて精査すると軸椎骨折が転位して骨癒合していました。

 

脊椎脊髄外科専門医が作成した医師意見書を添付して異議申立てしたところ 11級7号が認定されました。

 

 

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まとめ

 

交通事故で発生する首の外傷のひとつに頚椎骨折があります。首には手足に行く重要な神経が通っているため、頚椎骨折はさまざまな後遺症を残しやすい外傷です。

 

頚椎骨折にはいくつかの骨折型がありますが、頚椎椎体骨折と軸椎歯突起骨折が後遺障害を残す可能性が高いです。特に脊髄損傷を合併すると重篤な後遺障害を残します。

 

頚椎骨折でお困りの事案があればこちらからお問い合わせください。

 

 

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