整形外科専門医が解説:圧迫骨折の後遺症(交通事故)

投稿日:2022年1月29日 更新日:

脊椎の圧迫骨折で発生する後遺症

腰椎や胸椎の圧迫骨折は、交通事故でも頻度の高い傷病です。圧迫骨折は11級7号以上に認定されるケースが多いですが、全例が等級認定されるわけではありません。ここでは臨床医の視点から、圧迫骨折の後遺症が後遺障害等級に認定されない理由について解説したいと思います。

 

脊椎の圧迫骨折によって、どのような症状が発生するのでしょうか。圧迫骨折による症状は下記に挙げているように多岐に渡ります。

  1. 腰痛
  2. 背部痛
  3. 背中が曲がる
  4. 歩容の悪化
  5. 身体が固くなる
  6. 胸やけなどの消化器症状

 

これらの症状のうち、最も多いのは腰痛および背部痛です。人間は二本足歩行の生き物なので、もともと腰部にかかる負担が大きいです。このため国民病と言われるほど腰痛の頻度は高いのですが、脊椎に圧迫骨折を併発すると腰痛や背部痛の発生率がさらに増加します。

 

腰痛や背部痛と並んで、脊椎の圧迫骨折で顕著な後遺症は「背中が曲がること」です。腰の曲がっている高齢者をよくみかけますが、その多くは多発性の脊椎圧迫骨折が原因となっています。背中が曲がることのデメリットは単に見た目が悪いことだけではありません。歩行時に前かがみになるため、転倒しやすくなります。

 

また、1か所でも圧迫骨折をおこすと背中が曲がってしまうため、他の椎体も圧迫骨折が発生しやすくなります。最初は1か所だったのに、いくつも新しい圧迫骨折を併発してしまい、どんどん背中の曲がり方が強くなってしまうケースも少なくありません。こうなると更に歩容も悪くなるという悪循環に陥ります。

 

圧迫骨折の治療には保存治療と手術治療がありますが、どちらを選択しても身体が固くなりがちです。保存治療では体幹を覆う長いコルセットを3ヵ月程度装着します。これだけ長期間にわたってコルセットを装着すると脊柱の可動性が低下します。また手術治療ではインストゥルメンテーションという脊椎を直接固定する内固定材料を使用するケースが多いです。最低でも3椎体ほど金属で固定するので、それだけ脊柱の可動性は低下します。

 

そして、圧迫骨折で背中が曲がると腹腔内の容積が小さくなります。このため胃が圧迫されてしまい、胸やけの原因となる逆流性食道炎を併発しやすくなります。このように単なる脊椎の圧迫骨折と言っても、骨折をきっかけにしてさまざまな症状を引き起こしてしまうのです。

 

 

圧迫骨折の後遺障害等級

脊椎の圧迫骨折ではたくさんの後遺症を残す可能性があることを説明しましたが、それでは交通事故の後遺障害等級に該当するのはどの症状なのでしょうか。自賠責保険では下記3つの後遺症が後遺障害等級に認定される可能性があります。

  1. 腰痛や背部痛
  2. 背中が曲がる
  3. 身体が固くなる

 

腰痛や背部痛が残存することは一般の方にもイメージしやすいでしょう。背骨を骨折したのだからかなりの痛みが残りそうですね。実臨床においても、圧迫骨折を受傷すると多くの方にがんこな痛みが残ります。自賠責保険では、14級9号の神経障害に該当する可能性があります。神経障害では14級9号よりも上位等級として12級13号があります。しかし、後述するように椎体の圧壊が著明であれば11級7号以上に該当するので、脊椎の圧迫骨折では、実質的に12級13号は存在しません。

 

背中が曲がることは、専門用語では「脊柱アライメント異常」と言います。脊柱アライメント異常には、前弯、後弯、側弯の3種類があります。圧迫骨折でよくみかける背中が曲がった状態は、後弯に該当します。自賠責保険では、脊柱の後弯の程度によって6級5号、8級2号、11級7号のいずれかに該当する可能性があります。後遺障害等級は脊柱の後弯変形の程度で変わりますが、実務的には椎体の圧壊量で等級が判定されます。

 

身体が固くなると、日常生活でとても不便になり、また転倒するリスクも上昇します。自賠責保険では、脊柱の可動域制限の程度によって、6級5号、8級2号のいずれかに該当する可能性があります。ここまでみてきたように、脊椎の圧迫骨折の後遺障害は、神経障害、変形障害、そして運動障害の3種類で評価されるのです。

 

圧迫骨折の後遺症が後遺障害等級に認定されない理由

頚椎捻挫や腰椎捻挫と比べると、圧迫骨折は後遺障害等級が認定されやすいです。しかし全例で後遺障害が認定されるわけではありません。圧迫骨折の後遺症が後遺障害等級に認定されない理由は主に2つです。

  1. 画像上でほとんど変形を残していない事案では変形障害は認定されにくい
  2. 保存治療例では身体が固くなる原因が明確でないため運動障害は認定されにくい

 

圧迫骨折による椎体圧壊の程度がどの程度であれば11級7号に認定されるかについての明確な基準はありません。少なくとも、MRIで椎体の信号強度の変化が観察されるものの、レントゲンやCTで椎体の圧壊が分からない程度では、脊柱の変形障害に認定されないと思って良いでしょう。

 

圧迫骨折後に身体が固くなってしまう方はよく見かけます。しかし、いくら長期間にわたって体幹コルセットを装着していたとしても、保存治療では6級5号、8級2号が認定されることはほとんどありません。何故なら画像所見等ではっきりと脊柱の可動域制限を引き起こす原因を指摘できないからです。

 

一方、手術治療では脊椎の固定範囲が明確なので、特に胸腰移行部の多椎間固定術では脊柱の運動障害が認定されやすいです。ただし、固定する高位によって運動障害を残す程度は大きく異なります。このため、手術治療で脊椎固定術を施行されると、必ず8級以上の運動障害に認定されるわけではないので注意が必要です。

 

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