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【医師が解説】TFCC損傷が後遺障害認定されるポイント|交通事故

交通事故で発生する手関節周囲の外傷のひとつにTFCC損傷があります。
TFCC損傷は後遺症を残しやすい外傷です。

 

本記事は、TFCC損傷の後遺症が等級認定されるヒントとなるように作成しています。

 

 

最終更新日:2024/4/19

 

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TFCC損傷とは

TFCCは軟骨と靭帯の複合体

TFCCとは三角線維軟骨複合体(triangular fibrocartilage complex)をさし、手関節の尺側(小指側)にある、前腕の2本の骨(橈骨と尺骨)を結ぶ三角の形状をした組織のことをいいます。

 

 

TFCC

 

 

軟骨と靭帯から構成される軟部組織で、手関節の尺側(小指側)の安定性・支持性を与えると同時に、手関節をひねったり、ねじったり、力が加わったときに、力の伝達・分散・吸収などを行う役割を担っています。

 

TFCCがあることで手関節は安定し、手関節・前腕を複雑に動かすことができるようになります。

 

 

<参考>
【医師が解説】手首骨折(橈骨遠位端骨折)が後遺症認定されるヒント
【医師が解説】バートン骨折とショーファー骨折|交通事故の後遺症

 

 

交通事故でのTFCC損傷の原因

TFCC損傷は転倒や交通事故、スポーツなどで手関節を強くひねる、ねじるなどの動作をすることで生じる障害として知られています。

 

バイクや自転車での事故で転倒し地面に強く手をついた時や、自動車運転中にハンドルを握った状態で事故が発生し、手関節に強い負荷がかかった時にTFCC損傷を起こすことも多く見られます。

 

 

TFCC損傷の症状

症状としては手関節尺側(小指側)の動作時痛、前腕をひねる動作(回内外)の可動域制限が多く見られます。

 

損傷が高度の場合、橈骨と尺骨の間にある遠位橈尺関節(distal radioulnar joint: DRUJ)の不安定性が出ることもあります。

 

ドアノブの開け閉め、タオル絞りなどの手関節のひねり操作の際に疼痛を訴えることが多く、重度の回内外可動域制限を生じることはあまり多くありません。

 

遠位橈尺関節の不安定性は自覚的に音として感知することが多く、重度になると人にものを渡す際や動作を開始する際などに手が抜ける感じがあります。

 

TFCC損傷の診断

徒手検査では手関節を他動的に尺屈させる尺屈テストやさらに回外操作を加える尺屈回外テストなどのTFCCストレステスト(ulnocarpal stress test)があります。

 

遠位橈尺関節不安定性は回内外中間位での掌背方向への遠位橈尺関節の不安定性を診るBallottement test(バロットメントテスト)で診断します。

 

画像診断にはMRIと関節造影が有用です。MRIではTFCC損傷は三角線維軟骨内や橈尺靭帯の連続性がない部分として描出されます。

 

関節造影では橈骨手根関節から遠位橈尺関節への造影剤の漏出、TFCC構造体内への造影剤の侵入などがTFCC損傷を示す重要な所見です。詳細な診断には手関節鏡が有効です。

 

 

examination of TFCC

 

 

TFCC損傷に対する治療

 

TFCC損傷の治療には安静、消炎鎮痛剤投与、サポーター固定、ギプス固定などの保存療法と手術療法があります。

 

 

TFCC損傷の保存療法

保存療法としてギプスまたはサポーター固定は有効とされています。3ヵ月以上保存療法を行っても症状が改善しない場合には手術療法を考慮します。

 

 

TFCC損傷の手術療法

手術療法として鏡視下TFCC部分切除術、尺骨短縮術が一般的に行われています。また、TFCCの縫合手術や再建手術が行われることもあります。

 

受傷後長期間経過したTFCC損傷でDRUJの損傷が著しい場合には最終手術であるSauvé-Kapandji(関節固定)手術の検討対象となります。

 

 

TFCC損傷の手術費用

健康保険が3割負担のケースでは、入院にかかる期間と費用の概算は以下のようになります。

 

  • 期間:3~4日
  • 費用:20~25万円

 

上記の期間や金額はあくまでも目安です。個々の症例によって期間や金額が変わるのでご了承ください。

 

 

TFCC損傷の治療期間

保存療法では約1~3ヶ月

受傷してから2~3週であれば、まず保存療法を選択します。約1~3ヶ月の間、シーネ固定やサポーターで手首を固定すると、多くのケースで痛みなく治癒します。

 

 

手術療法では約4~6ヶ月

保存療法が無効だった症例では手術療法が選択されます。術式によっても異なりますが、おおむね4~6ヶ月で競技復帰するケースが多いです。

 

 

TFCC損傷でも仕事をできるのか?

TFCC損傷でも仕事をできるのかは、職種とTFCC損傷の重症度によります。保存療法の場合でも約1~3ヶ月の手首の固定が必要ですが、手首を固定していると実施できない業務は限られているのではないでしょうか。

 

TFCC損傷の治療中であっても、手首に過度の負担をかけない業務であれば、仕事を休む必要性は低いと考えられます。

 

 

TFCC損傷を放置するとどうなる?

TFCC損傷の程度にもよりますが、大きく損傷して遠位橈尺関節の不安定性をきたしているケースでは、変形性手関節症を併発することがあります。変形性手関節症の症状は、手首の痛みや動かしにくさ(可動域制限)です。

 

 

TFCC損傷で後遺障害認定されると損害賠償金を請求できる

 

TFCC損傷で後遺障害に認定されると、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益を請求できます。

 

 

後遺障害慰謝料とは

交通事故で後遺障害が残ってしまった精神的苦痛に対する補償金です。後遺障害慰謝料は、下の表のように後遺障害等級によって異なります。

 

 

後遺障害等級

後遺障害慰謝料

1級

2800万円

2級

2370万円

3級

1990万円

4級

1670万円

5級

1400万円

6級

1180万円

7級

1000万円

8級

830万円

9級

690万円

10級

550万円

11級

420万円

12級

290万円

13級

180万円

14級

110万円

 

 

後遺障害逸失利益とは

後遺障害が残ると、労働能力が低下してしまいます。労働能力が低下したために失うであろう収入の不足分に対する補償金です。

 

後遺障害逸失利益は、交通事故被害者の年収、年齢をベースにして、後遺障害等級に応じた労働能力喪失率と労働能力喪失期間で決まります。

 

 

後遺障害逸失利益の計算式

後遺障害逸失利益は、以下の計算式で算出されます。

 

基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数

 

 

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Traffic accident patient

 

 

TFCC損傷で考えられる後遺障害

機能障害(手関節の可動域制限)

10級9号(1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの)

関節の可動域が健側の可動域の1/2以下に制限されているものです。

 

 

12級6号(1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの)

関節の可動域が健側の可動域の3/4以下に制限されているものです。

 

 

神経障害(手関節の痛み)

12級13号(局部に頑固な神経症状を残すもの)

MRIや手術の所見からTFCC損傷が明らかである事案では、12級13号に認定されるケースもあります。

 

 

14級9号(局部に頑固な神経症状を残すもの)

12級13号には至らない程度の損傷では、14級9号に認定される事案が多いです。

 

 

 

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【弁護士必見】TFCC損傷の後遺障害認定ポイント

画像所見が認められない場合の対処法

交通事故の実務で頻出するTFCC損傷ですが、整形外科領域では比較的新しく提唱された外傷です。この外傷は手関節の小指側に頑固な疼痛を残すため、日常生活ではかなり不便です。

 

受傷機転は手関節の強制伸展(背屈)なので、ハンドルを握っている際に衝撃が加わると受傷してしまいます。このため交通事故では頻出の外傷となりますが、自賠責保険はTFCC損傷の存在をなかなか認めません。

 

一般的には診察による身体所見(Fovea signやulno-carpal stress test)、およびMRIでTFCC損傷が診断されます。

 

客観的に分かるのはMRI検査の画像所見なのですが、明らかにTFCC損傷が存在するにもかかわらず「明らかな損傷をみとめない」とされて非該当となる事案が多発しています。

 

このような事案では手外科専門医(日本手外科学会)による画像鑑定報告書を添付して異議申し立てしますが、それでもTFCC損傷の存在を否定されることがあります。

 

このような場合、次の手が悩ましいのですが、

  1. 3テスラ以上のMRIで再検査する
  2. 別の医師による画像鑑定報告書を作成する
  3. 関節造影を実施する

という3つの選択肢が考えられます。

 

最も有効なのは③関節造影ですが、侵襲的な検査であることと、主治医が慣れていない場合が多いため実施が難しいケースが多いです。

 

一方、②別医師による画像鑑定報告書も効果がイマイチな印象を受けます。このため、弊社では①3テスラ以上のMRIで再検査することを推奨しています。

 

そして再検査で明確なTFCC損傷があれば、主治医に新規の診断書を発行してもらいます。ダメ押しで新規検査にたいする画像鑑定報告書を添付することも有効と考えています。

 

このようにしてTFCC損傷の存在を証明するわけですが、画像所見だけでは認められないことが多いのも事実です。

 

このため弊社では診療録を精査して、経過や身体所見を洗い出します。また事故態様も重要な情報です。これらの情報と新たな画像所見をまとめて、手外科の専門医による意見書を作成することもあります。

 

 

機能障害(可動域制限)が等級認定されない場合の対処法

TFCC損傷の後遺障害で争いになりやすいのは、可動域制限が残存するケースです。

 

後遺障害診断書で手関節の可動域が健側と比べて2分の1以下や4分の3以下に制限されるものであっても、TFCC損傷の程度が軽度の事案では非該当になりがちです。

 

異議申し立てで機能障害が認定されるケースは多くありませんが、治療経過や損傷携帯から可動域制限が残存した理由を説明した意見書が有効なケースもあります。

 

一方、TFCC損傷で12級を目指すには、現実的には12級13号になります。もちろん容易に等級認定されませんが、画像検査と身体所見が一致していることを主張することで認定される可能性があります。

 

 

TFCC損傷で頻出する「内出血を認めない」問題

TFCC損傷でよく見かける非該当理由のひとつに「内出血を認めない」が挙げられます。局所の腫脹ならまだしも、私の30年近い臨床経験においても、橈骨遠位端骨折を併発していないTFCC損傷で皮下出血(内出血)を認めた症例は一例もありません。

 

それぐらいTFCC損傷で皮下出血を伴うことは稀なのですが、なぜか初診時に手関節尺側の皮下出血を認めないことが非該当理由に挙げられることが多いです。

 

異議申し立てでは、皮下出血が存在しないことをもって新鮮TFCC損傷が存在しない理由にはならないことを主張しますが、いつも釈然としない気持ちを抱いています。なぜ、このような実臨床と乖離した基準が大手を振って採用され続けているのでしょうか?

 

解剖学的に考えても、TFCC周囲で発生した出血が皮下出血になることは考えられません。そもそもTFCCには血行がないので損傷しても出血しないのです(もちろん周囲組織の出血を併発する可能性はあります)。

 

あまりに理不尽なので、医中誌(日本を代表する医学論文の検索サイト)で検索しましたが、TFCC損傷で皮下出血は伴わないことを明記している文献を見つけることができませんでした。

 

そもそも臨床医にとってTFCC損傷=皮下出血という発想は無く、実際に出血する症例は存在しないので、皮下出血に関する文献などゼロなのです。

 

まさに無いものを証明しなければならない「悪魔の証明」状態です。しかし、TFCC損傷の自賠責認定基準のひとつに皮下出血を認めることが挙げられているだけに、避けては通れない問題だと認識しています。

 

ところが最近になって、自賠責保険・共済紛争処理機構へ申請した結果、皮下出血を認めないことがTFCC損傷の存在を否定する理由にならないという画期的な判断がされた事案がありました。

 

明らかなTFCC損傷が存在するにもかかわらず非該当になってきた方には福音と言える判断でしょう。TFCC損傷でお困りの事案があればこちらからお問い合わせください。

 

 

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Traffic accident patient

 

 

TFCC損傷の後遺障害12級13号認定事例

 

初回審査が非該当という結果であったところ、意見書を付した異議申立てにより12級13号が認定されたTFCC損傷の事例をご紹介いたします。

 

  • 被害者:50代男性
  • 初回申請:非該当
  • 異議申立て:12級13号

 

 

バイク走行中に自動車と衝突して転倒し、手をついて受傷しました。受傷1ヶ月後のMRI検査でTFCC損傷を指摘されました。

 

リハビリテーションによる約6ヶ月の保存加療を施行したものの、手関節の動作時痛および、手関節の可動域制限が残存しています。

 

著明な可動域制限を残しているものの、TFCC損傷の存在が否定され、初回認定は非該当でした。

 

疼痛及び可動域制限の原因となることを主張した意見書を添付して異議申立てしたところ、12級13号が認定されました。

 

 

disc proper
TFCC injury

 

<画像所見>

MRIではdisc proper①と橈尺靱帯②は連続性を失い、尺側部断裂③も認めます。広範なTFCC 損傷の所見です。

 

 

まとめ

 

TFCC損傷は、交通事故で発生する手関節周囲の外傷のひとつです。TFCC損傷は後遺症を残しやすい傷病であるにもかかわらず、後遺障害等級が認定されにくいです。

 

初回申請で非該当になった事案であっても、治療経過や損傷形態から可動域制限が残存した理由を説明した意見書が有効なケースもあります。

 

 

 

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