整形外科専門医が解説:上腕骨近位端骨折の後遺症(交通事故)

投稿日:2022年4月16日 更新日:

上腕骨近位端骨折とは

上腕骨近位端の解剖

上腕骨とは、肩関節と肘関節の間にある長い骨です。上腕骨近位端は長い上腕骨の体幹に近い部分を指します。上腕骨近位端が他の部位と異なる点は、肩関節の構成体の一部になっていることです。

 

肩関節は、上腕骨近位端と肩甲骨の関節窩から構成されます。ざっくりしたイメージで言うと、肩関節はお茶碗の中にボールが入っている状態です。お茶碗が肩甲骨の関節窩、ボールが上腕骨近位端に該当します。

 

肩甲骨の関節窩の中で上腕骨近位端がクルクル回ることで、肩関節が自由に動くイメージです。実際の解剖では、肩甲骨の関節窩と上腕骨近位端の関節部分は柔らかい軟骨で覆われています。

 

正常の肩関節は非常に精密にできているため、ほとんど摩擦力を発生させずにスムーズに動かせます。ところが上腕骨近位端骨折を受傷すると、ボール側の精密さが破綻します。このため、上腕骨近位端骨折のためにいろいろな合併症が発生します。

 

受傷の原因

上腕骨近位端骨折は、転倒や交通事故などで肩を強く打ち付けることで受傷します。若年者は骨質が良好なので、交通事故でもかなり大きな衝撃が加わったときに受傷します。一方、高齢者は骨粗鬆症を併発しており骨質が不良の方が多いです。

 

 

このため、高齢者では転倒して手をついただけでも上腕骨近位端骨折を受傷するケースが多いです。このように同じ上腕骨近位端骨折と言っても、若年者と高齢者では受傷形態が少し異なります。

 

治療

上腕骨近位端骨折の治療では、保存療法と手術療法に分けられます。骨折のズレ(転位)が小さければ保存治療が選択される場合が多いです。一方、転位が大きければ手術療法が選択されます。

 

手術療法では、チタン製の髄内釘やプレートなどで骨折をつなげる骨折観血的手術と、骨折部を取り除いて人工関節に置き換える人工骨頭置換術に大別されます。通常の骨折型では、骨折観血的手術が選択されます。

 

人工骨頭置換術が選択されるのは骨折部の粉砕が強い症例です。このため、人工骨頭置換術が選択される症例はそれほど多くありません。上腕骨近位端骨折において、人工骨頭置換術は比較的珍しい手術療法といえるでしょう。

 

後遺障害の種類

肩関節の可動域制限(機能障害)

8級6号

  • 人工骨頭置換術が施行されており、かつ肩関節の可動域が2分の1以下に制限されるもの

上腕骨近位端骨折で最も残存する可能性の高い障害が、肩関節の可動域制限です。その理由は、上腕骨近位端骨折は関節内もしくは関節近傍の骨折だからです。一般的に関節内骨折や関節近傍の骨折は、可動域制限が残りやすいと言われています。

 

臨床的には、人工骨頭置換術後には高率に著明な肩関節の可動域制限を残存します。特に外転90度に満たない症例が多いです。

 

 

10級10号

  • 肩関節の可動域が健側と比べて2分1以下に制限されるもの
  • 人工骨頭置換術により人工骨頭を挿入したもの

臨床的には、特に高齢者や骨折型の粉砕が強いほど、肩関節の可動域制限を残しやすいです。人工骨頭置換術が施行された場合には、肩関節の可動域制限の有無にかかわらず、最低でも10級10号に該当します。

 

12級6号

  • 肩関節の可動域が健側と比べて4分3以下に制限されるもの

比較的軽度の骨のずれ(転位)であっても、肩関節の可動域制限を残す可能性があります。10級10号と同様に、高齢者や骨折型の粉砕が強い症例で肩関節の可動域制限を残しやすいです。

 

肩関節の疼痛(神経障害)

12級13号

  • 局部に頑固な神経症状を残すもの

骨折部が骨癒合しても、関節の可動域制限に付随して肩関節の疼痛が残存しやすいです。また上腕骨頭の骨折で関節面の不整を残して骨癒合したなど、明らかな疼痛の原因が認められる症例も散見します。

 

14級9号

  • 局部に頑固な神経症状を残すもの

12級13号には至らない程度の骨折の変形では、14級9号に認定される症例が多いです。

 

偽関節や変形治癒(変形障害)

8級8号

  • 1上肢に偽関節を残すもの

高齢者の上腕骨近位端骨折で保存療法が選択された場合、最終的に骨折部が偽関節になる場合があります。上腕骨近位端骨折は骨幹端部の骨折が多いです。自賠責保険では、骨幹端部は骨幹部等に分類されます。このため、上腕骨近位端骨折が偽関節になると8級8号に認定される可能性があります。

 

尚、上腕骨近位端骨折では偽関節になったとしても常に硬性補装具が必要になる症例はほとんどありません。このため、7級9号に認定されることはほとんど無いといえます。

 

12級8号

  • 長管骨に変形を残すもの

上腕骨大結節が中枢側に大きく転位した症例は比較的良くみられます。一方、上腕骨骨幹部骨折でときどき見かける上腕骨の直径が2/3以下に減少したものは、上腕骨近位端骨折ではほとんど存在しません。また、上腕骨が50度以上外旋または内旋変形癒合したものもほとんど存在しません。

 

争いになりやすいポイント

上腕骨近位端骨折の後遺障害で争いになりやすいのは、可動域制限が残存するケースです。後遺障害診断書で肩関節の可動域が健側と比べて2分1以下や4分3以下に制限されるものであっても、骨折の変形が軽度の事案では非該当になりがちです。

 

このような事案では、いくら画像所見を示しても後遺障害等級が認定されることはありません。異議申立てで機能障害が認定されるケースは多くありませんが、治療経過や骨折型から可動域制限が残存した理由を説明した意見書が有効なケースもあります。

 

 

まとめ

上腕骨近位端骨折によって残存する可能性のある後遺障害を説明しました。機能障害、神経障害、変形障害の3つありますが、最も多いのは肩関節の可動域制限である機能障害です。しかし、上腕骨近位端骨折で肩関節の可動域制限が残存すれば自動的に10級10号や12級6号に認定されるわけではありません。

 

骨折のずれ(転位)が少ない場合には、肩関節の可動域制限があっても機能障害が認定されずに非該当となるケースが多いです。このような事案では、いくら画像所見を示しても後遺障害等級が認定されないため、可動域制限が残存した理由を説明した意見書が必要なケースが多いです。

 

 

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