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【医師が解説】高次脳機能障害が後遺症認定されるポイント|交通事故

交通事故による頭部外傷後で発生する後遺症のひとつに高次脳機能障害があります。交通事故による高次脳機能障害で、年間約3000件が後遺障害として等級認定されています。

 

高次脳機能障害は重度の障害であるにもかかわらず、世間一般で広く認知されているとは言い難いです。

 

また高次脳機能障害の症状自体が気付かれにくく、周囲の人は交通事故による後遺症とは思い至らないケースが多いです。

 

自賠責保険で高次脳機能障害が認定されるかどうかは医学的評価が重要になります。本記事では、具体例を挙げて高次脳機能障害の後遺障害認定について説明します。

 

 

最終更新日:2024/4/20

 

 

 

Table of Contents

高次脳機能障害とは

 

高次脳機能とは、人間が社会生活を営む上で発達させてきた
 

  • 理解する
  • 判断する
  • 論理的に物事を考える

 

などの認知機能のことです。具体的には、知覚、言語、記憶、学習、思考、判断、感情などです。

 

脳の損傷を受けた部位によって障害される機能は異なります。高次脳機能が障害されると、程度の差はありますが、合目的・合理的な日常生活を営むことが出来なくなります。

 

 

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高次脳機能障害の原因

 

高次脳機能障害は、頭部外傷以外(脳卒中、脳腫瘍、脳感染症、神経変性疾患、脳代謝性疾患など)でも原因となり得ますが、ここでは交通事故による頭部外傷について述べます。

 

厚生労働省による報告では、高次脳機能障害の原因の4分の3は頭部外傷によるものとされています(注1)。

 

頭部外傷による高次脳機能障害には、脳の特定の部位に損傷が生じ、その部位が担っていた機能が脱落して症状として出る『巣症状』と、広範囲の脳損傷である『びまん性脳損傷』によって生じる症状があります。

 

交通事故事案では、後者の広範囲脳損傷(びまん性軸索損傷など)による高次脳機能障害が問題となるケースが多いです。

 

 

<参考>
【医師が解説】びまん性軸索損傷が後遺症認定されるヒント|交通事故

 

 

高次脳機能障害の症状

 

高次脳機能障害は、 外傷や脳卒中などの疾患のために脳組織が損傷して発症します。主に以下の4つの症状が顕在化します。

 

 

記憶障害

記憶障害には以下の3つがあります。高次脳機能障害で問題になるのは、新しい出来事を覚えることができない前向性健忘です。

 

 

前向性健忘

交通事故より前の出来事は覚えていますが、交通事故以降の出来事を覚えられなくなります。具体的には、昔のことは思い出せるものの、新しい出来事は記憶できない状態です。

 

 

逆行性健忘

交通事故以前の記憶を失ってしまいます。失った記憶の期間は、交通事故から数日以内のケースが多いですが、中には交通事故から数十年前までさかのぼる長い期間の記憶がなくなるケースもあります。

 

 

全健忘

新しい出来事を記憶できなくなるだけではなく、古い記憶や体感的に学習した記憶も、すべて無くなった状態です。記憶障害の中で最も重度の障害です。

 

 

注意障害

同時に2つのことを実行できない、集中力が続かないといった状態です。主な症状として以下のようなものがあります。

 

  • 同じことを長く続けられない
  • 他人の会話を自分事として聞いてしまう
  • 物を探すときに同じ場所ばかり探す
  • 周囲が気になって作業の手を止める

 

 

遂行機能障害

自分で考えてスムーズに行動できない状態です。主な症状として以下のようなものがあります。

 

  • 変化に対応できない
  • スムーズに作業できない

 

 

社会的行動障害

情緒不安定になりやすい、周囲とのトラブルをおこしやすい状態です。主な症状として以下のようなものがあります。

 

  • 喜怒哀楽などの感情コントロールができなくなる
  • 子供っぽくなる
  • 欲求をコントロールできない
  • 人間関係が下手になる
  • 同じことを何度もする
  • 行動を起こす意欲がなくなり物事をやめる
  • 窃盗や暴力など反社会的行動

 

 

高次脳機能障害の診断

 

高次脳機能障害は障害の程度が重度であるにもかかわらず、世間一般に広く認知されているとは言い難いです。

 

また、高次脳機能障害の症状は「怒りっぽくなった」「忘れっぽくなった」「こだわりが強くなった」等の性格変化が多いです。

 

このため、親族を含めた周囲の人は、これらの性格変化が交通事故による後遺症であるとは思い至らないケースを散見します。

 

また、交通事故の被害者が高齢者の場合には、加齢による認知症の症状との見分けがつきにくいケースも多いです。

 

 

このように高次脳機能障害の原因は一つとは限らないため、既往症として高次脳機能障害をきたす疾患がなかったかどうかを確認する必要があります。

 

特に高齢者では交通事故より以前に認知機能低下がなかったのかどうか、事故前の頭部画像写真があれば脳萎縮の程度など確認すべきでしょう。

 

 

<参考>

 

 

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高次脳機能障害の後遺症に対する治療

受傷後1年はリハビリテーションの効果が期待できる

頭部外傷による高次脳機能障害は、早期から各障害に応じた認知リハビリテーションが勧められています(注2)。

 

受傷からの時間とともに高次脳機能障害は改善傾向を示すことが多く、受傷後1年程度は医学的リハビリテーションによる効果が期待できると考えられています。

 

そして、生活訓練プログラムから職能訓練プログラムという流れ、包括的プログラムでリハビリテーションを行うことが勧められています(注2)。

 

その他、症状に応じた薬物治療も行われる場合があります。情動コントロール障害(攻撃性・易怒性・興奮)に対しては否定型精神病薬や抗てんかん薬(カルバマゼピンやバルプロ酸)を処方します。

 

注意障害に対してはメチルフェニデート、記憶障害にはコリンエステラーゼ阻害薬などが効果を示したと報告されています(すべて保険適応外)。また、うつ症状にはセルトラリンの有効性が示されています。

 

 

高次脳機能障害の後遺症は治るのか(症状固定時期)

成人の被害者は、急性期の症状の回復が急速に進みます。それ以降は目立った回復が見られなくなるという時間的経過を辿り、受傷後少なくとも1年程度で症状固定にいたることが多いです。

 

一方、小児の場合は、障害の回復に当たって脳の可塑性や環境の影響に配慮する必要があります。集団生活への適応困難さの有無が、成人後の自立した社会生活や就労能力に反映される可能性があると考えられます。

 

学校やその他の社会的活動における適応状況の充分な検討が必要です。このため、症状固定までの期間が長くなる傾向があります。

 

 

高次脳機能障害の平均余命(平均寿命)

東京都福祉保健局の資料によると、脳卒中(脳出血、脳梗塞、くも膜下出血)の各年代毎の平均余命が記載されています。交通事故で発症する高次脳機能障害は、脳出血に該当するケースが多いと思われます。

 

 

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東京都福祉保健局の高次脳機能障害者数の推計より転載

 

 

高次脳機能障害で認められる後遺症

局所性脳損傷による巣症状

失語

頭に浮かんだ言葉がなかなか出てこない運動性失語と、人の言うことが理解できずにトンチンカンなこと話す感覚性失語があります。右利きの場合、運動性言語野は左前頭葉に、感覚性言語野は左側頭葉にあることが多いです。

 

失行

運動麻痺はなく記憶も問題ないにもかかわらず、日常生活の行為が出来なくなることをいいます。道具の使い方がわからない(観念執行)、服をうまく着ることが出来ない(着衣執行)、図を書けない(構成執行)などです。

 

失認

目は見えているのに見たものを認識出来ないことをいいます。触っている身体の場所がわからない(身体部位失認)、麻痺などの身体の異常がわからない(病態失認)などです。

 

 

びまん性脳損傷(広範囲脳損傷)

記憶障害

「食事をしたこと自体を忘れる」
「通い慣れた場所への道順がわからなくなる」
などが例として挙げられます。

 

注意障害

「他のことが気になって仕事を途中で止めてしまう」
「仕事をしていて、優先すべき事柄が生じてもそちらに移行できない」
などが例として挙げられます。

 

遂行機能障害

「目標や計画を立てて物事を行うことができず、行き当たりばったりで始めてしまう」
「不測の事態に対し、臨機応変に対処できない」
などが例として挙げられます。

 

社会的行動障害

「何もやる気がおきず家に引きこもっている」
「ちょっとしたことで怒りが爆発し暴力を振るう」
「親しくない人に馴れ馴れしく接する」
などが例として挙げられます。

 

 

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高次脳機能障害が後遺障害認定されると損害賠償金を請求できる

 

高次脳機能障害で後遺障害に認定されると、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益を請求できます。

 

 

高次脳機能障害の後遺障害慰謝料とは

交通事故で高次脳機能障害が残ってしまった精神的苦痛に対する補償金です。後遺障害慰謝料は、下の表のように後遺障害等級によって異なります。

 

 

後遺障害等級

後遺障害慰謝料

1級

2800万円

2級

2370万円

3級

1990万円

4級

1670万円

5級

1400万円

6級

1180万円

7級

1000万円

8級

830万円

9級

690万円

10級

550万円

11級

420万円

12級

290万円

13級

180万円

14級

110万円

 

 

高次脳機能障害の後遺障害逸失利益とは

高次脳機能障害が残ると、労働能力が低下してしまいます。労働能力が低下したために失うであろう収入の不足分に対する補償金です。

 

後遺障害逸失利益は、交通事故被害者の年収、年齢をベースにして、後遺障害等級に応じた労働能力喪失率と労働能力喪失期間で決まります。

 

 

後遺障害逸失利益の計算式

後遺障害逸失利益は、以下の計算式で算出されます。

 

基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数

 

 

 

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高次脳機能障害が後遺障害に認定される3つの要件

 

自賠責保険における高次脳機能障害とは、自動車事故によって脳に器質的な損傷を受けて、意識障害が一定期間継続した場合に発生する後遺障害です。

 

認知障害や人格障害が認められるものとされており、それらの障害の軽重は脳損傷の程度や意識喪失期間が関係するとされています。

 

自賠責保険では、高次脳機能障害が後遺障害に認定されるための要件は、以下の3つだと言われています。

 

  • 脳外傷の診断名がついている
  • 症状固定時に脳実質損傷の画像所見が存在する
  • 受傷直後に意識障害がありそれが一定時間の継続している

 

 

 

脳外傷の診断名がついている

脳外傷の診断名とは、脳挫傷、びまん性軸索損傷、急性硬膜下血腫等の傷病名です。外傷性くも膜下出血は、後遺症を残さないケースが多いので注意が必要です。

 

<参考>

 

 

症状固定時に脳実質損傷の画像所見が存在する

CT検査やMRI検査で高次脳機能障害の原因と考えられる脳の器質的病変の存在が必須です。脳の器質的病変には脳挫傷痕だけではなく、脳萎縮や脳室拡大などの所見も含まれます。

 

 

受傷直後に意識障害がありそれが一定時間の継続している

意識障害に関しては、中等度(強い刺激でようやく開眼する程度)以上の意識障害が6時間以上、もしくは健忘あるいは軽度(呼びかけないと目を閉じてしまう程度)の意識障害が1週間以上続くことがひとつの基準です。

 

ただし、意識障害が全くないにもかかわらず高次脳機能障害の後遺障害等級の5級2号や7級4号が認定された例もありました。

 

受傷急性期に意識障害を伴っていることが後遺障害等級認定には必要とされていますが、必須条件とまでは言えません。

 

 

 

 

高次脳機能障害の後遺障害等級の判定法

高次脳機能障害の後遺障害等級を決める5つの医証

前述した3つの要件を満たす事案は、高次脳機能障害が残存していると認定されます。まずは第一関門クリアです。

 

そして次のステップは、残存している高次脳機能障害が、どの後遺障害等級に該当するのかが検討されます。

 

高次脳機能障害がどの等級に該当するのかは、以下の項目を参考にして総合的に判断します。
 

  • 神経心理学的検査
  • 急性期および慢性期の画像検査(CT、MRI)
  • 主治医が作成する「頭部外傷後の意識障害についての所見」
  • 主治医が作成する「神経系統の障害に関する医学的意見」
  • 主に被害者の家族が記載する「日常生活状況報告」

 

 

<参考>
【高次脳機能障害】神経系統の障害に関する医学的意見|交通事故
【高次脳機能障害】日常生活状況報告の書き方とポイント|交通事故

 

 

高次脳機能障害で必要な神経心理学的検査とは

神経心理学的検査とは、課題に対する被験者の反応を得点化する心理検査です。高次脳機能障害の後遺障害等級を判定するために必要な神経心理学的検査は以下のとおりです。

 

<参考>
【医師が解説】神経心理学的検査は高次脳機能障害の等級認定ポイント

 

 

知能検査

  • ミニメンタルステート検査 (MMSE)
  • 長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)
  • ウェクスラー成人知能検査 (WAIS-Ⅳ)
  • レーブン色彩マトリックス検査(RCPM)

 

<参考>
【医師が解説】MMSEの認知症でのカットオフ値は?|遺言能力鑑定
【医師が解説】長谷川式認知症スケールの解釈|遺言能力鑑定
【医師が解説】MMSEと長谷川式認知症スケールの違い|遺言能力鑑定
【医師が解説】WAISとWMS-Rは高次脳機能障害の等級認定ポイント
【医師が解説】レーブン色彩マトリックス検査RCPM|高次脳機能障害

 

 

記憶検査

  • ウェクスラー記憶検査(WMS-R)
  • リバーミード行動記憶検査 (RBMT)

 

<参考>
【医師が解説】WAISとWMS-Rは高次脳機能障害の等級認定ポイント
【医師が解説】リバーミード行動記憶検査RBMT|高次脳機能障害

 

 

言語機能検査

  • 標準失語症検査 (SLTA)

 

<参考>
【医師が解説】SLTA標準失語症検査|高次脳機能障害

 

 

注意力検査

  • TMT (trail making test) 線引きテスト

 

<参考>
【医師が解説】TMT(trail making test)の検査法|高次脳機能障害

 

 

遂行(前頭葉)機能検査

  • 遂行機能の行動評価法 (BADS)
  • ウィスコンシンカードソーティングテスト(WCST)

 

<参考>
【医師が解説】BADS遂行機能障害症候群の行動評価|高次脳機能障害
【医師が解説】WCSTウィスコンシンカードソーティングテスト|高次脳機能障害

 

 

高次脳機能障害の評価バッテリー

高次脳機能障害の評価では、一般的に以下のような神経心理学的検査の組み合わせ(評価バッテリー)が推奨されています。

 

 

全般的認知機能検査

 

記憶機能検査

 

注意機能検査

 

遂行機能検査

 

社会的行動検査

  • 認知-行動障害尺度(TBI-31)

 

 

<参考>
【医師が解説】高次脳機能障害の検査一覧と評価バッテリー|交通事故

 

 

 

 

高次脳機能障害で認定される後遺障害等級

 

高次脳機能障害については、意思疎通能力、問題解決能力、作業負荷に対する持続力・持久力、及び、社会行動能力の4つの能力の各々の喪失の程度に着目し、評価を行います。

 

 

1級1号

高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの
 

  • 重篤な高次脳機能障害のため、食事・入浴・用便・更衣等に常時介護を要するもの
  • 高次脳機能障害による高度の認知症や情意の荒廃があるため、常時監視を要するもの

 

 

2級1号

高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわりの処理の動作について、随時介護を要するもの
 

  • 重篤な高次脳機能障害のため、食事・入浴・用便・更衣等に随時介護を要するもの
  • 高次脳機能障害による認知症、情意の障害、幻覚、妄想、頻回の発作性意識障害等のため随時他人による監視を必要とするもの
  • 重篤な高次脳機能障害のため自宅内の日常生活動作は一応できるが、1人で外出することなどが困難であり、外出の際には他人の介護を必要とするため、随時他人の介護を必要とするもの

 

 

3級3号

生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高次脳機能障害のため、労務に服することができないもの
 

  • 4能力のいずれか1つ以上の能力が全部失われているもの
  • 4能力のいずれか2つ以上の能力の大部分が失われているもの

 

 

5級2号

高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの
 

  • 4能力のいずれか1つの能力の大部分が失われているもの
  • 4能力のいずれか2つ以上の能力の半分程度が失われているもの

 

 

7級4号

高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないもの
 

  • 4能力のいずれか1つの能力の半分程度が失われているもの
  • 4能力のいずれか2つ以上の能力の相当程度が失われているもの

 

 

9級10号

通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの
 

  • 高次脳機能障害のため4能力のいずれか1つの能力の相当程度が失われているもの

 

問題解決能力の相当程度が失われているものの例:1人で手順とおりに作業を行うことに困難を生じることがあり、たまに助言を必要とする

 

 

12級13号

通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、多少の障害を残すもの
 

  • 4能力のいずれか1つ以上の能力が多少失われているもの

 

実務上は、高次脳機能障害として認定される等級の下限は12級13号と言われています。臨床的な症状が無くても、症状固定時のCTやMRIで脳挫傷痕や脳萎縮などの所見を認めれば、12級13号が認定されます。

 

 

14級9号

通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、軽微な障害を残すもの
 

  • MRI、CT等による他覚的所見は認められないものの、脳損傷のあることが医学的にみて合理的に推測でき、高次脳機能障害のためわずかな能力喪失が認められるもの

 

 

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【弁護士必見】高次脳機能障害の後遺障害認定ポイント

すべての基本は主治医との信頼関係

まず、急性期(最初に受診した病院)および慢性期(受傷から約1年程度経過した)の画像を脳神経外科専門医に診てもらい、現在の後遺症と照らし合わせる必要があります。医学的整合性、客観性を持って画像診断と後遺症が合致する場合は等級認定される可能性があります。

 

局所の脳損傷である脳挫傷では、損傷した部位によって症状が多岐にわたるので、損傷部位と症状の整合性をきちんと判断することが大切です。

 

さらに「神経心理学的検査」、「神経系統の障害に関する医学的意見」、「日常生活状況報告」を総合的に判断し等級認定がなされます。

 

被害者および被害者の家族は主治医(ここでの主治医は主にリハビリテーションに通っている病院の医師になります)と普段から信頼関係を築いておくことが重要です。

 

受傷後にどのようなことが出来なくなったのかを詳しく主治医に知ってもらう必要があります。

 

 

画像所見と意識障害のクリアが最初の関門

頭部外傷の後遺障害は、大きく分けて高次脳機能障害と身体機能性障害に大別されます。実務上は、高次脳機能障害に認定されるか否かが最初の関門になります。

 

高次脳機能障害が認定されるためには、多くの事案で画像所見と意識障害をクリアできるのかがポイントになります。

 

まず画像所見ですが、脳実質の損傷を示す脳挫傷痕、脳萎縮、脳室拡大などが認められる必要があります。

 

受傷直後の急性期に「派手な」所見があっても、慢性期になると消失している事案が多いことには注意が必要です。

 

次に意識障害ですが、受傷直後に声掛けしなければ開眼しないレベル以上の意識障害を認めた、もしくはある自分の名前や生年月日が言えない等の意識障害が、ある一定期間は持続したというカルテの記録が必要です。

 

画像所見と意識障害をクリアした事案に対して、「神経心理学的検査」、「神経系統の障害に関する医学的意見」、「日常生活状況報告」を勘案して、何級に該当するのかが判断されることになります。

 

 

高次脳機能障害では意識障害はそれほど重視されない

最近の傾向として、意識障害はそれほど重要視されておらず、少なくとも絶対視されていないと感じています。

 

意識障害が軽度や短時間であっても、画像所見、神経系統の障害に関する医学的意見、日常生活状況報告と併せて総合的に判断しているのでしょう。

 

従来であれば、高次脳機能障害に認定されなかったであろう事案が、事実上のMTBIとして認定されるケースを散見します。

 

 

<参考>

 

 

脳外傷では高次脳機能障害と身体性機能障害を分離しない

脳外傷による後遺障害では、身体のあらゆる部位にさまざまな症状を残します。そして身体だけではなく、精神状態にも障害を残すことがあります。

 

臨床的には脳外傷による種々の障害を分離することは困難であり、このことは自賠責保険の考え方にも踏襲されています。

 

このため脳外傷による後遺障害では、高次脳機能障害と身体性機能障害を分離することなく、それらの障害による就労制限や日常生活制限の程度に応じて総合的に等級評価を行います。

 

上記の例外は、眼、耳、鼻などの感覚器に生じた障害です。これらの障害がある際には、脳の障害と別の障害として等級を算出して両者を併合します。

 

高次脳機能障害と身体性機能障害に関しては併合されるのではないかと考えがちです。しかし実際には、精神障害も含めて総合的に等級判断されることになります。

 

尚、総合的に等級判断する際には労働能力の喪失程度を基準とされますが、学生や家事労働者、高齢者では日常生活に支障をきたす程度で等級判断します。

 

 

 

 

高次脳機能障害は主観的要素の強い神経心理学的検査が争点となる

自賠責保険の後遺障害認定では、科としての性質の違いから、客観性の幅に大きな違いがあると感じています。

 

最も客観的と思われる科は外科・内科であり、これに次ぐのは耳鼻咽喉科や眼科、そして整形外科と続きます。もっとも主観が入る科は脳神経外科や精神科です。

 

外科や内科は検査結果や画像所見でほぼ等級が決まるため、主観的な要素が入ることはさほどありません。耳鼻咽喉科や眼科もほぼ同様です。

 

整形外科も客観的な要素が強いですが、領域が多岐に渡り事案数も多いため、主観的要素の入った後遺障害認定をせざるを得ない事案が一定数認められます。

 

一方、脳神経外科は画像検査もあるから客観的要素が強いと思いがちですが、高次脳機能障害に関してはそうではありません。

 

かなりひどい脳挫傷があっても、1対1対応で後遺症を残すとは限らないからです。このような現実に即して、自賠責保険の後遺障害認定基準も画像ではなく神経心理検査に重きを置いています。

 

 

<参考>

 

 

そして周知のように、神経心理学的検査は極めて主観性の強い検査です。このため、訴訟になると医証の解釈で争いになります。同じ医証を見ているのに、双方の主張が真っ向から対立することも稀ではありません。

 

弊社には、頻回に反論意見書の作成依頼があります。そして、自賠責保険ではマイナー科である内科・外科などとは異なり、膨大な医証を読み解く必要はあるものの何とか反論できる事案が多いです。

 

 

<参考>

 

 

 

nikkei medical

 

 

経時的に増悪する高次脳機能障害は争いになる

高次脳機能障害は経時的に障害が軽快していく

高次脳機能障害の障害の程度が最も強いのは受傷時です。ほとんどの事案は、経時的に障害が軽快していきます。少なくとも増悪するケースはありません。

 

高次脳機能障害は非進行性なので、経時的に増悪する障害は自賠責保険の後遺障害認定で争いになりやすいです。

 

障害が経時的に悪化する事案は、交通事故で負った障害に加えて、加齢によって障害が増悪した可能性があります。特に高齢者の高次脳機能障害では、私病の影響も出やすいので注意が必要です。

 

 

高次脳機能障害ではHDS-Rの学習効果が問題になるケースがある

高次脳機能障害は受傷時が最も高度で、経時的に軽快していきます。経過の途中で認知機能が悪化した場合には、外傷ではなく加齢性変化が疑われます。

 

一方、神経心理学的検査の長谷川式認知症スケールを短期間に複数回実施すると、学習効果で点数がアップします。少し時間を置くと再び元の点数に戻るので、一見すると認知機能が悪化したように見えます。

 

経過の途中で悪化する認知機能は、高次脳機能障害ではなく加齢による認知機能の低下とみなされやすいので、訴訟の争点になる事案を散見します。

 

もちろん、真実は認知機能が本当に改善したのではなく、表面的に点数がアップしたに過ぎません。高次脳機能障害では長谷川式認知症スケールの学習効果が問題になることがあるのです。

 

 

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【7級4号】高次脳機能障害の後遺障害認定事例

事案サマリー

  • 被害者:30代男性
  • 初回申請:12級13号
  • 異議申し立て:7級4号(軽易な労務以外の労務に服することが出来ないもの)

 

 

弊社の取り組み

被害者はバイク走行中に普通自動車に追突され転倒し、頭部を強く打ち、外傷性くも膜下出血、急性硬膜下血腫、脳挫傷を負いました。

 

受傷から1年以上経過し症状が固定した後も、社会行動能力が著明に低下、以前行なっていた営業職に戻ることが出来ず職場での配置転換を余儀なくされました。

 

保険会社は受傷後に軽度の意識障害が1時間しか継続していないことを理由に、頭痛やめまい感だけが後遺症として残っており後遺障害等級は12級13号を主張しました。

 

しかし、弊社意見書により、「脳挫傷後に脳萎縮が経時的変化として捉えられていること」、「受傷直後の意識障害の程度は高次脳機能障害の有無を検討する判断材料として必須ではないこと」、「社会行動能力が半分程度喪失しており高次脳機能障害の後遺障害等級7級4号が妥当であること」を主張し、これらの主張が全面的に認められました。

 

 

 

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T2*強調画像にて、右前頭葉、右中脳、両側頭頂葉などにびまん性脳損傷を認めます。

 

 

高次脳機能障害の後遺障害認定まとめ

交通事故の頭部外傷による高次脳機能障害について概説しました。高次脳機能障害は被害者や家族にとってその後の人生を左右する一大事です。

 

それぞれの被害者が、医学的整合性および客観的評価に基づく後遺障害等級認定されることを望みます。高次脳機能障害でお困りの事案があればこちらからお問い合わせください。

 

 

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(注1)高次脳機能障害支援モデル事業・地方支援拠点期間等連絡協議会
(注2)頭部外傷治療・管理のガイドライン(第4版)

 

 

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    ※ 本コラムは、脳神経外科専門医の高麗雅章医師が解説した内容を、弊社代表医師の濱口裕之が監修しました。

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