ブログ詳細

fv fv

【医師が解説】高次脳機能障害の後遺症が認定されるコツ|交通事故

交通事故による頭部外傷後で発生する後遺症のひとつに高次脳機能障害があります。交通事故による高次脳機能障害で、年間約3000件が後遺障害として等級認定されています。

 

高次脳機能障害は重度の障害であるにもかかわらず、世間一般で広く認知されているとは言い難いです。

 

また高次脳機能障害の症状自体が気付かれにくく、周囲の人は交通事故による後遺症とは思い至らないケースが多いです。

 

高次脳機能障害が認定されるかどうかは医学的評価が重要になります。本記事では、具体例を挙げて高次脳機能障害の等級認定について説明します。

 

高次脳機能障害とは

 
高次脳機能とは、人間が社会生活を営む過程で発達した、

  • 理解する
  • 判断する
  • 論理的に物事を考える

等の認知機能のことであり、知覚、言語、記憶、学習、思考、判断、感情等がこれにあたります。

 

脳の損傷を受けた部位によって障害される機能は異なります。高次脳機能が障害されると、程度の差はありますが、合目的・合理的な日常生活を営むことが出来なくなります。

 

 

高次脳機能障害の発症機序

 
高次脳機能障害は、頭部外傷以外(脳卒中、脳腫瘍、脳感染症、神経変性疾患、脳代謝性疾患など)でも原因となり得ますが、ここでは交通事故による頭部外傷について述べます。

 

厚生労働省による報告では、高次脳機能障害の原因の4分の3は頭部外傷によるものとされています(注1)。

 

頭部外傷による高次脳機能障害には、脳の特定の部位に損傷が生じ、その部位が担っていた機能が脱落して症状として出る『巣症状』と、広範囲の脳損傷である『びまん性脳損傷』によって生じる症状があります。

 

交通事故事案では、後者の広範囲脳損傷による高次脳機能障害が問題となるケースが多い印象です。

 

 

高次脳機能障害の診断

 
高次脳機能障害は障害の程度が重度であるにもかかわらず、世間一般に広く認知されているとは言い難いです。

 

また、高次脳機能障害の症状は「怒りっぽくなった」「忘れっぽくなった」「こだわりが強くなった」等の性格変化が多いです。

 

このため、親族を含めた周囲の人は、これらの性格変化が交通事故による後遺症であるとは思い至らないケースを散見します。

 

また、交通事故の被害者が高齢者の場合には、加齢による認知症の症状との見分けがつきにくいケースも多いです。

 

 

<参考>
日経メディカル|交通事故後の高次脳機能障害を見逃すな!把握しにくい2つの理由

 

 

このように高次脳機能障害の原因は一つとは限らないため、既往症として高次脳機能障害をきたす疾患がなかったかどうかを確認する必要があります。

 

特に高齢者では交通事故より以前に認知機能低下がなかったのかどうか、事故前の頭部画像写真があれば脳萎縮の程度など確認すべきでしょう。

 

交通事故により脳損傷をきたし、事故前後で明らかに高次脳機能が低下している場合は、交通事故による頭部外傷が原因と考えられます。

 

ただし、交通事故による高次脳機能障害と診断されるためには、さらに以下の項目を満たす必要があります。

 

  • 日常生活や社会生活に制約があり、その主たる原因が記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害であること。
  • 画像所見(CT、MRI等)で高次脳機能障害の原因と考えられる脳の器質的病変(画像で脳の損傷が確認できる)の存在が確認されていること。

 

意識障害に関しては、中等度(強い刺激でようやく開眼する程度)以上の意識障害が6時間以上、もしくは健忘あるいは軽度(呼びかけないと目を閉じてしまう程度)の意識障害が1週間以上続くことがひとつの基準です。

 

ただし、意識障害が全くないにもかかわらず高次脳機能障害の後遺障害等級第7級4号が認定された例もありました。

 

受傷急性期に意識障害を伴っていることが後遺障害等級認定には必要とされていますが、必須条件とまでは言えません。

 

高次脳機能障害の等級認定には、
 

  • 神経心理学的検査
  • 急性期および慢性期の画像検査(CT、MRI)
  • 主治医が作成する「神経系統の障害に関する医学的意見」、主に被害者の家族が記載する「日常生活状況報告」

 
を参考にして総合的に判断します。

 

 

高次脳機能障害に対する治療

 
頭部外傷による高次脳機能障害は、早期から各障害に応じた認知リハビリテーションが勧められています(注2)。

 

受傷からの時間とともに高次脳機能障害は改善傾向を示すことが多く、受傷後1年程度は医学的リハビリテーションによる効果が期待できると考えられています。

 

そして、生活訓練プログラムから職能訓練プログラムという流れ、包括的プログラムでリハビリテーションを行うことが勧められています(注2)。

 

その他、症状に応じた薬物治療も行われる場合があります。情動コントロール障害(攻撃性・易怒性・興奮)に対しては否定型精神病薬や抗てんかん薬(カルバマゼピンやバルプロ酸)を処方します。

 

注意障害に対してはメチルフェニデート、記憶障害にはコリンエステラーゼ阻害薬などが効果を示したと報告されています(すべて保険適応外)。また、うつ症状にはセルトラリンの有効性が示されています。

 

 

高次脳機能障害ではどんな後遺症害が認められるの?

局所性脳損傷による巣症状

失語
頭に浮かんだ言葉がなかなか出てこない運動性失語と、人の言うことが理解できずにトンチンカンなこと話す感覚性失語があります。右利きの場合、運動性言語野は左前頭葉に、感覚性言語野は左側頭葉にあることが多いです。

 

失行
運動麻痺はなく記憶も問題ないにもかかわらず、日常生活の行為が出来なくなることをいいます。道具の使い方がわからない(観念執行)、服をうまく着ることが出来ない(着衣執行)、図を書けない(構成執行)などです。

 

失認
目は見えているのに見たものを認識出来ないことをいいます。触っている身体の場所がわからない(身体部位失認)、麻痺などの身体の異常がわからない(病態失認)などです。

 

 

びまん性脳損傷(広範囲脳損傷)

記憶障害
(例)「食事をしたこと自体を忘れる」、「通い慣れた場所への道順がわからなくなる」

 

注意障害
(例)「他のことが気になって仕事を途中で止めてしまう」、「仕事をしていて、優先すべき事柄が生じてもそちらに移行できない」

 

遂行機能障害
(例)「目標や計画を立てて物事を行うことができず、行き当たりばったりで始めてしまう」、「不測の事態に対し、臨機応変に対処できない」

 

社会的行動障害
(例)「何もやる気がおきず家に引きこもっている」、「ちょっとしたことで怒りが爆発し暴力を振るう」、「親しくない人に馴れ馴れしく接する」

 

 

高次脳機能障害で認定される後遺障害等級

 
高次脳機能障害については、意思疎通能力、問題解決能力、作業負荷に対する持続力・持久力、及び、社会行動能力の4つの能力の各々の喪失の程度に着目し、評価を行います。

 

 

1級1号

高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの
 

  • 重篤な高次脳機能障害のため、食事・入浴・用便・更衣等に常時介護を要するもの
  • 高次脳機能障害による高度の認知症や情意の荒廃があるため、常時監視を要するもの

 

 

2級1号

高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわりの処理の動作について、随時介護を要するもの
 

  • 重篤な高次脳機能障害のため、食事・入浴・用便・更衣等に随時介護を要するもの
  • 高次脳機能障害による認知症、情意の障害、幻覚、妄想、頻回の発作性意識障害等のため随時他人による監視を必要とするもの
  • 重篤な高次脳機能障害のため自宅内の日常生活動作は一応できるが、1人で外出することなどが困難であり、外出の際には他人の介護を必要とするため、随時他人の介護を必要とするもの

 

 

3級3号

生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高次脳機能障害のため、労務に服することができないもの
 

  • 4能力のいずれか1つ以上の能力が全部失われているもの
  • 4能力のいずれか2つ以上の能力の大部分が失われているもの

 

 

5級2号

高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの
 

  • 4能力のいずれか1つの能力の大部分が失われているもの
  • 4能力のいずれか2つ以上の能力の半分程度が失われているもの

 

 

7級4号

高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないもの
 

  • 4能力のいずれか1つの能力の半分程度が失われているもの
  • 4能力のいずれか2つ以上の能力の相当程度が失われているもの

 

 

9級10号

通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの
 

  • 高次脳機能障害のため4能力のいずれか1つの能力の相当程度が失われているもの

問題解決能力の相当程度が失われているものの例:1人で手順とおりに作業を行うことに困難を生じることがあり、たまに助言を必要とする

 

 

12級13号

通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、多少の障害を残すもの
 

  • 4能力のいずれか1つ以上の能力が多少失われているもの

 

実務上は、高次脳機能障害として認定される等級の下限は12級13号と言われています。臨床的な症状が無くても、症状固定時のCTやMRIで脳挫傷痕や脳萎縮などの所見を認めれば、12級13号が認定されます。

 

 

14級9号

通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、軽微な障害を残すもの
 

  • MRI、CT等による他覚的所見は認められないものの、脳損傷のあることが医学的にみて合理的に推測でき、高次脳機能障害のためわずかな能力喪失が認められるもの

 

 

後遺障害等級の認定事例<7級4号が認定されました>

 

  • 被害者:30代男性
  • 初回申請:12級13号
  • 異議申し立て:7級4号(軽易な労務以外の労務に服することが出来ないもの)

コメント:
被害者はバイク走行中に普通自動車に追突され転倒し、頭部を強く打ち、外傷性くも膜下出血、急性硬膜下血腫、脳挫傷を負いました。

 

受傷から1年以上経過し症状が固定した後も、社会行動能力が著明に低下、以前行なっていた営業職に戻ることが出来ず職場での配置転換を余儀なくされました。

 

保険会社は受傷後に軽度の意識障害が1時間しか継続していないことを理由に、頭痛やめまい感だけが後遺症として残っており後遺障害等級は14級9号を主張しました。

 

しかし、弊社意見書により、「脳挫傷後に脳萎縮が経時的変化として捉えられていること」、「受傷直後の意識障害の程度は高次脳機能障害の有無を検討する判断材料として必須ではないこと」、「社会行動能力が半分程度喪失しており高次脳機能障害の後遺障害等級7級4号が妥当であること」を主張し、これらの主張が全面的に認められました。

 

画像:

 

higherbraindysfunction

 

T2*強調画像にて右前頭葉、右中脳、両側頭頂葉などにびまん性脳損傷を認めます。

 

 

等級認定のポイント

 
高次脳機能障害が等級認定されるポイントは、下記にまとめていますので参考にしてください。

 

<参考>
高次脳機能障害が等級認定されるポイント

 

 

 

nikkei medical

 

 

まとめ

 
交通事故の頭部外傷による高次脳機能障害について概説しました。高次脳機能障害は被害者や家族にとってその後の人生を左右する一大事です。

 

それぞれの被害者が、医学的整合性および客観的評価に基づく後遺障害等級認定されることを望みます。

 

(注1)高次脳機能障害支援モデル事業・地方支援拠点期間等連絡協議会

(注2)頭部外傷治療・管理のガイドライン(第4版)

 

 

関連ページ

 

※ 本コラムは、脳神経外科専門医の高麗雅章医師が解説した内容を、弊社代表医師の濱口裕之が監修しました。

関連記事

ランキング