交通事故コラム詳細

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2022.8.28

顔面

【歯科医師が解説】歯牙欠損が後遺障害認定されるヒント|交通事故

交通事故で発生する口の外傷のひとつに歯牙欠損があります。歯牙欠損はトラブルになることが多い外傷です。

 

本記事は、歯牙欠損を含めた歯の後遺症が後遺障害等級認定されるヒントとなるように作成しています。

 

 

最終更新日:2024/4/19

 

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歯牙欠損とは

 

交通事故で発生する歯牙欠損とは、事故による外力が歯牙に加わることで、歯牙が歯根ごと脱落したり、口腔内に露出している部分の3/4以上を欠損している状態です。

 

 

toothache

 

 

 

歯の後遺障害を理解するためには、治療法を知る必要があります。少し遠回りに感じるかもしれませんが、まず治療法からご説明します。

 

 

歯牙の大部分が欠損した場合の治療法

全部被覆冠による修復が多く、前処置として一般に神経の治療と呼ばれる根管治療や支台築造などを行うこともあります。

 

全部被覆冠の材質は健康保険適応のプラスチックや金属から自由診療になるゴールド、セラミックなど多岐にわたります。

 

それぞれの材質に特徴がありますが、受傷まで歯科での治療暦がなかった歯牙を治療する場合、現時点で最も審美的、機能的な回復が見込めるのはセラミック製の全部被覆冠と考えられます。

 

しかし、噛み合わせや咬合力のために、セラミックが適応から外されることもあります。

 

 

歯根から歯そのものが欠損した場合の治療法

可撤性義歯(入れ歯)、固定性義歯(ブリッジ)、インプラントの3種類があります。

 

 

可撤性義歯(入れ歯)

 

残存歯牙に対して鉤をもって装着する患者可撤式の義歯であり、自由診療によるものと保険診療によるものがあります。

 

単独から複数の歯牙欠損まで対応可能で、比較的治療期間も短いことがメリットになります。自由診療による義歯の方が材質や設計上自由度が大きいため、様々な面で優れていることが多いです。

 

しかし、基本的な構造は変わらないため、咀嚼時の咬合負担能力、食事毎の清掃や睡眠時の管理、定期的なメンテナンスの必要性があります。

 

もし受傷前の口腔機能が健全であった場合、その機能を回復する見込みは他の治療方法に比較すると高くないのが現状です。

 

 

固定性義歯(ブリッジ)

 

欠損した歯牙の両隣在歯を支台として形態修正を行い、欠損部を含む連結した冠をセメントで固定する治療法です。可撤性義歯(入れ歯)と同様に、自由診療と保険診療によるものがあります。

 

装着感や咀嚼感は可撤性義歯(入れ歯)に比較すると違和感が少なく、自由診療ですがセラミックを用いれば審美性の回復も可能です。

 

しかし、両隣在歯の状況や歯牙の欠損本数、部位により治療の可否が分かれます。支台となる歯牙にとっては欠損した歯牙の分の負担も負うことになります。

 

このため、残存している歯質の強度や歯周病の進行状況、咬合負担能力についての評価式によっては固定性義歯が適応できないこともあります。

 

また長期的使用により欠損している部分の歯茎の形態が萎縮するので、審美障害や食物が挟まるなどのトラブルが生じて、追加の治療が必要になることも珍しくありません。

 

 

インプラント

 

歯牙を支える歯槽骨にチタン性の人工歯根を埋入し、そこに冠を装着する治療法で、ほとんどのケースで自由診療になります。

 

歯槽骨を直接支台とするので、隣接歯牙を形態修正することなく咬合力を十分に回復でき、単独歯牙から複数歯牙の欠損まで幅広く対応が可能です。

 

治療法自体も確立してますので、適切な治療を行えば長期的予後も他の治療法と同等かそれ以上のものを見込めます。

 

一方で、治療に際しては必ず外科的な処置が必要になり、状況によってはインプラント埋入と同時か前もって骨補填材により歯槽骨増大術や歯肉移植術を行うことも多いです。

 

結果的に患者本人の恐怖心や全身的な既往からインプラント治療が適応できず、他の治療方法へ変更することもあります。

 

また、治療の成功率が術者の技量によるところもあるため、治療を行う医院選びが難しい治療と捉えることもできます。

 

 

Orthodontics

 

 

歯牙欠損の後遺障害の決まり方

 

歯牙障害の後遺障害等級は、条件を満たす歯牙の本数により決定されます。その条件とは、交通事故により下記3つのいずれかに該当する状態になったときです。
 

  1. 歯牙そのものを歯根に至るまで喪失した場合
  2. 口腔内に露出している部分の3/4以上を欠損した場合
  3. 上記1)および2)の治療に際して歯科技工上の理由により残存歯冠の大部分を欠損したものと同等の状態になった場合

 

特に条件3)が理解しにくいです。例えば連続して並んでいる健全な3本の歯牙があり、その中央の歯牙を事故により欠損したとします。

 

これを可撤式義歯(自分で着脱できる入れ歯)により治療した場合、両隣の歯牙には鉤(フック)を装着するための形態修正を行うことが一般的です。

 

しかし、その範囲はあくまでも小規模となります。その結果、歯牙障害の条件を満たす歯牙は欠損した歯牙1本のみとなります。

 

一方で、固定性義歯(ブリッジ)により治療した場合、両隣の歯牙を健全な状態から全部被覆冠(外に出ている部分全体の被せもの)を装着する為の支台として形態修正を行うため、その範囲は大規模となります。

 

最終的に欠損した歯牙1本に加えて隣接の歯牙2本も条件を満たし、認定対象歯牙は3本となります。従って、適応される治療法により認定対象歯牙本数は変化することになります。

 

 

次に、歯牙本数別の等級ですが認定対象歯数別に以下のようになります。
 

  • 14歯以上     10級4号
  • 10歯以上     11級4号
  • 7歯以上       12級3号
  • 5歯以上       13級4号
  • 3歯以上       14級2号

 

 

実際には、受傷後の後遺障害は受傷前から存在する既存障害も含まれた状態です。受傷前の記録が残っていれば、既存障害の後遺障害も別途で算出します。

 

それらを評価して、
加重 ○級△号 既存障害 ×級□号
となります。

 

尚、受傷前から存在した既存障害が自賠責認定基準に達していない場合は、当然のごとく既存障害は非該当となります。

 

このようなケースでは、今回の交通事故で受傷した歯牙欠損の本数のみで、後遺障害等級が判定されます。

 

 

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Traffic accident patient

 

 

歯牙欠損に関連する後遺障害

 

歯牙欠損に関連すると考えられる後遺障害として、歯牙障害、言語機能障害、咀嚼障害、開口障害などが挙げられます。

 

 

歯牙障害

歯牙欠損の後遺障害の決まり方で説明したように、歯科補てつを加えた本数によって以下のような後遺障害が認定されます。

 

  • 10級4号:14歯以上に対し歯科補てつを加えたもの
  • 11級4号:10歯以上に対し歯科補てつを加えたもの
  • 12級3号:7歯以上に対し歯科補てつを加えたもの
  • 13級5号:5歯以上に対し歯科補てつを加えたもの
  • 14級2号:3歯以上に対し歯科補てつを加えたもの

 

 

言語機能障害

歯牙障害で障害されうる語音は子音の中でも“歯舌音”と呼ばれるものが考えられます。

 

具体的には“さ行“や“だ行“など、発音時に舌を上顎前歯に接触させるものや上下顎前歯の隙間から発音するものは、歯牙障害により発音が困難になることが多く、日常生活に大きく影響します。

 

その結果、単純な歯牙の補綴治療だけでなく、舌に接触する部分の形態や噛み合わせる対顎の歯牙との隙間の大小など細かい部分の回復が必要になります。

 

尚、言語機能障害の評価対象になる4種の語音は以下のごとくです。
 

  • 口唇音:ま行、ぱ行、ば行、わ行、ふ
  • 歯舌音:な行、た行、だ行、ら行、さ行、ざ行、しゅ、じゅ、し
  • 口蓋音:か行、が行、や行、ひ、にゅ、ぎゅ、ん
  • 咽頭音:は行

 

 

1級2号:咀嚼及び言語の機能を廃したもの

 

咀嚼の機能を廃したものとは、固形物を食べられず流動食以外は摂取できない状態です。一方、言語の機能を廃したものとは、語音4種のうち3種以上の発音ができない状態です。

 

 

3級2号:咀嚼又は言語の機能を廃したもの

 

固形物を食べられず流動食以外は摂取できない状態、もしくは語音4種のうち3種以上の発音ができない状態です。

 

 

4級2号:咀嚼及び言語の機能に著しい障害を残すもの

 

咀嚼の機能に著しい障害を残すものとは、お粥と同じくらいの物しか食られない状態です。一方、言語の機能に著しい障害を残すものとは、語音4種のうち2種以上の発音ができない状態、もしくは綴音(てつおん)機能の障害のために、言葉で意思疎通できない状態です。

 

 

6級2号:咀嚼又は言語の機能を著しい障害を残すもの

 

以下のいずれかの状態です。
 

  • お粥と同じくらいの物しか食られない
  • 語音4種のうち2種以上の発音ができない
  • 綴音(てつおん)機能の障害のために、言葉で意思疎通できない

 

 

9級6号:咀嚼及び言語の機能に障害を残すもの

 

咀嚼の機能に障害を残すものとは、咀嚼できない固形物がある状態、もしくは十分に咀嚼できない物があって医学的に確認できるものを指します。

 

一方、言語の機能に障害を残すものとは、語音4種のうち1種以上の発音ができない状態です。

 

 

10級3号:咀嚼又は言語の機能に障害を残すもの

 

以下のいずれかの状態です。
 

  • 咀嚼できない固形物がある
  • 十分に咀嚼できない物があって医学的に確認できる
  • 語音4種のうち1種以上の発音ができない

 

 

12級相当:開口障害等を原因として咀嚼に相当時間を要するもの

 

口を開けづらいため、咀嚼に時間がかかることを医学的に証明できる状態です。

 

 

咀嚼障害

咀嚼に関連する器官の障害により咀嚼機能が低下していることを指します。関連器官としては、舌や顎顔面周囲筋、歯牙、顎骨などがあります。

 

咀嚼とは、これらの器官が協調して行う動作ですが、これらの器官に一つでも障害が生じれば食物を意図通りに噛み砕けないため、咀嚼障害が生じる可能性があります。

 

歯牙障害が起因する咀嚼障害としては、歯牙の喪失に伴う上下顎の歯牙接触の喪失や接触部位の変化などが考えられます。

 

評価方法として、患者や家族の主観的評価による“そしゃく状況報告表”やピーナッツなど具体的な試料を用いる方法があります。

 

しかし、試料を用いる試験は一般的な歯科医院では施行できないことが多く、大学病院口腔外科などで施行することが多いと思われます。

 

 

1級2号:咀嚼及び言語の機能を廃したもの

 

咀嚼の機能を廃したものとは、固形物を食べられず流動食以外は摂取できない状態です。一方、言語の機能を廃したものとは、語音4種のうち3種以上の発音ができない状態です。

 

 

3級2号:咀嚼又は言語の機能を廃したもの

 

固形物を食べられず流動食以外は摂取できない状態、もしくは語音4種のうち3種以上の発音ができない状態です。

 

 

4級2号:咀嚼及び言語の機能に著しい障害を残すもの

 

咀嚼の機能に著しい障害を残すものとは、お粥と同じくらいの物しか食られない状態です。一方、言語の機能に著しい障害を残すものとは、語音4種のうち2種以上の発音ができない状態、もしくは綴音(てつおん)機能の障害のために、言葉で意思疎通できない状態です。

 

 

6級2号:咀嚼又は言語の機能を著しい障害を残すもの

 

以下のいずれかの状態です。
 

  • お粥と同じくらいの物しか食られない
  • 語音4種のうち2種以上の発音ができない
  • 綴音(てつおん)機能の障害のために、言葉で意思疎通できない

 

 

9級6号:咀嚼及び言語の機能に障害を残すもの

 

咀嚼の機能に障害を残すものとは、咀嚼できない固形物がある状態、もしくは十分に咀嚼できない物があって医学的に確認できるものを指します。

 

一方、言語の機能に障害を残すものとは、語音4種のうち1種以上の発音ができない状態です。

 

 

10級3号:咀嚼又は言語の機能に障害を残すもの

 

以下のいずれかの状態です。
 

  • 咀嚼できない固形物がある
  • 十分に咀嚼できない物があって医学的に確認できる
  • 語音4種のうち1種以上の発音ができない

 

 

12級相当:開口障害等を原因として咀嚼に相当時間を要するもの

 

口を開けづらいため、咀嚼に時間がかかることを医学的に証明できる状態です。

 

 

開口障害

これは受傷者の意図通りに開口ができない、具体的には開口量や開口路に変化が生じることを指します。

 

直接的に開閉口動作に影響を与える器官は、顎関節や顎顔面に付着する筋肉、それらを支配する神経系となり、歯牙はそれに含まれません。

 

一方で、閉口動作における最終的な顎の位置を決定するのは上下顎歯牙の接触なので、受傷によってそれらが障害され閉口時の顎の位置が不安定になれば、顎関節症が発症して二次的に開口障害が生じる可能性があります。

 

しかし、こちらは理論上関連があったとしてもその診断が困難であり、受傷前の顎関節症状の有無や程度、その他の口腔内状況を示す資料から関連性を主張する形となります。

 

 

12級相当:開口障害等を原因として咀嚼に相当時間を要するもの

 

口を開けづらいため、咀嚼に時間がかかることを医学的に証明できる状態です。

 

 

<参考>
【日経メディカル】顔面骨折の後遺症は眼科、耳鼻科、皮膚科も関与
【医師が解説】頬骨骨折が後遺症認定されるヒント|交通事故
【医師が解説】顎骨折の後遺症が等級認定されるポイント|交通事故

 

 

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【弁護士必見】歯牙欠損の後遺障害認定ポイント

治療方針が歯の後遺障害等級を左右することも多い

歯の治療でも説明したように、歯の治療方針が後遺障害等級を左右することも多いのが、歯牙障害の特徴です。

 

後遺障害等級を考えながら歯の治療を受けることは現実的ではありません。しかし、歯科医師から治療法の選択を提示された際には、自賠責認定基準を熟知した弁護士に相談することが望ましいかもしれません。

 

 

受傷前の状況を示す資料も重要

歯牙障害の後遺障害等級認定において、最も重要なものは受傷前の状況を示す資料です。その資料とは、一般歯科医院にて作成されるカルテ、レントゲン写真、口腔内写真などです。

 

近年は口腔内写真を撮影する歯科医院が増加してきましたが、レントゲン写真やカルテに加えて、受傷前の口腔内写真を参照することで、歯牙の状態をより具体的に把握でき、既存障害の有無も含めて受傷による影響を評価することができます。

 

また、歯牙だけでなく、歯茎や歯槽骨などの情報も含まれるので、適切で現実的な治療方法の検討も可能になり、最終的に後遺障害の等級認定に用いる対象歯牙の正確な算出に寄与します。

 

 

審美目的の治療とみなされるリスクを避ける

歯牙障害の後遺障害等級認定では、審美目的の治療とみなされると非該当になるケースがあります。治療方針の選択に際して、審美的な要素の強い治療法を選択する際には注意が必要です。

 

<参考>
【日経メディカル】歯科医の治療方針で慰謝料が大きく変わる?!

 

 

 

nikkei medical

 

 

まとめ

 

交通事故による強い外力が歯牙に与える影響はさまざまで、時間がたってから現れるものもあります。また、治療法についても様々なので、いざ始まってから、こんな方法もあったのかとなることもあります。

 

治療方針が歯の後遺障害等級を左右することも多いため、自賠責認定基準を熟知した弁護士に相談することが望まれます。

 

弊社では、全国各地の自賠責認定基準に精通した法律事務所を、無料でご紹介することが可能です。法律事務所の紹介を希望される方は弁護士紹介サービスからお問い合わせください。

 

 

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    ※ 本コラムは、定兼啓倫歯科医師が解説した内容を、弊社代表医師の濱口裕之が監修しました。

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