膝の半月板損傷はスポーツによる受傷がその多くを占めるものの、交通事故事案においてもしばしば起きうる外傷の一つです。その一方、後遺障害非該当となる事例は少なくありません。
事故後に症状が出現し、画像所見が認められているにも関わらず、事故との因果関係の証明が難しいことがその理由です。本記事では交通事故で受傷した半月板損傷の事例を紹介し、半月板損傷が後遺障害に認定されるポイントを解説します。
目次
半月板損傷-交通事故の後遺症-
半月板損傷とは
半月板は大腿骨と脛骨の間に位置するくさび状の形をしたコラーゲン組織です。膝関節を安定させるとともに、膝関節にかかる衝撃を吸収する役割を果たしています。
半月板損傷は、下肢の軸圧や膝の回旋を伴う比較的大きな外力により起こるとされています。しかし、加齢に伴い半月板の組織が劣化して強度が低下していると、わずかな外力でも半月板損傷をきたすことがあります。
損傷により半月板が持つ膝関節を安定させる機能が失われると、
- 痛み
- 引っかかり
- 膝の曲げ伸ばしにおける違和感
などの自覚症状が出現します。
また、膝関節の衝撃を吸収する機能が失われると膝関節に大きなストレスがかかるため、関節のすり減りが早期に出現してしまいます。この場合、将来的な変形性関節症の発症リスクが大きくなります。
交通事故での半月板損傷の受傷機序
交通事故の場合には、バイクや自転車乗車中の事故の際に「転倒しそうになって踏ん張った」という受傷機序が多いです。
自動車乗車中の追突事故では、フットレストやフロアに足を踏ん張った際の外力で受傷するケースもあります。
半月板損傷の症状
歩行時や運動時、しゃがみ込み動作時の膝関節痛や、膝関節の曲げ伸ばし動作における引っ掛かり感、関節水腫が代表的な症状です。
断裂部が大きい場合には断裂した半月板が大腿骨と脛骨に挟まって膝が動かせなくなる状態(ロッキング)に陥ることもあります。
半月板損傷の診断
徒手検査としてはMcMurray testやWatson-Jones test, Apley’s testなどが挙げられ、近年では超音波検査が補助的に施行される場合があります。
半月板損傷の診断に最も多く用いられるのはMRI検査ですが、その診断率は80%〜90%にとどまり、関節鏡検査によって損傷が判明するケースもあります。
半月板損傷に対する治療
損傷が軽いケースでは筋力強化のリハビリを行い膝関節の負担を減らすとともに、関節内注射療法、痛み止めの内服などで経過を見ます。保存的治療を行ったにもかかわらず症状が残存し、日常生活や就労・スポーツに支障をきたす症例は、関節鏡視下手術の適応となります。
近年では半月板の機能をできるかぎり温存することを目的とした半月板縫合術が施行される事が一般的になりつつあります。しかし、損傷が比較的小さな範囲にとどまる場合や、修復困難なひどい損傷の場合には半月板切除術が選択されます。
半月板損傷で起きうる後遺症とは?
半月板損傷で後遺障害に認定されうる症状は、神経障害および機能障害となります。
神経障害
12級13号(局部に頑固な神経症状を残すもの)の認定可能性があるのは下記のようなケースです。
- MRI検査や関節鏡検査によって、疼痛の原因となりえるタイプの半月板損傷(弁状断裂やバケツ柄断裂)所見や、半月板のロッキングを認める
- 半月板損傷部に対する半月板切除術が施行され、半月板の形が大きく変化するとともに半月板の体積が著しく減少している
また、第14級9号(局部に神経症状を残すもの)の認定可能性があるのは下記のようなケースです。
- MRI検査や関節鏡検査によって、外傷によって起きたと考えられる新鮮な半月板損傷の所見を認める
- 半月板損傷部に対する半月板縫合術が施行され、MRI検査にて半月板の形状変化や信号変化といった異常所見が確認できる
機能障害
半月板損傷は膝関節可動域制限の原因となりえるため、12級7号(一下肢の三大関節の一関節の機能に障害を残すもの)の認定可能性があります。
とはいえ、一般的に半月板損傷に伴う可動域制限は軽微なものであることから、機能障害で等級獲得に至るケースは、
- 半月板損傷がバケツ柄断裂かつロッキングの状態であり、外科的手術により病変部が整復されていない
というような特殊な事案に限られます。このような状況では外科的手術が施行されることから、現実的には等級獲得に至る可能性は極めて低いものとなります。
半月板損傷における等級認定のポイント
後遺障害等級認定の可能性を高める為には、
- 定期的な通院加療およびリハビリテーションが施行されている場合や関節鏡手術歴がある
- 受傷機序や事故規模、膝関節MRI検査において事故との因果関係を示す所見が確認できる
- (関節鏡手術を施行していない場合には)MRI画像所見において疼痛を引き起こすような損傷の形態を示す画像所見がある
等がポイントとして挙げられます。
また、特に被害者の年代が40代以降の場合には、加齢に伴う半月板の変性所見をもともと有しているケースが有るため、注意が必要です。
認定事例①:半月板損傷で12級13号が認定されました
初回審査が非該当という結果であったところ、医師意見書を用いた異議申し立てにより12級13号を獲得した半月板損傷の事例を紹介します。
事案サマリー(50代女性)
受傷機序:バイク走行中に対向車との接触し、転倒をこらえるため足を踏ん張った際に受傷
自覚症状:右膝内側の疼痛(立ちしゃがみ動作にて増強)
理学所見:McMurray test陽性、関節水腫あり、可動域制限なし
画像所見および関節鏡所見
- 受傷直後のMRI所見では内側半月板中節〜後節に損傷を疑う信号変化あり
- 関節鏡手術所見で同部の損傷を認め、半月板切除術+半月板縫合術が施行された
- 術後MRI所見では内側半月板の形態変化(サイズの縮小)および信号変化あり
医師意見書の効果
上記の事案において、自賠責審査機構の見解は「画像所見上本件事故による骨折や脱臼等の明らかな外傷性の異常所見は認められず、他覚的に神経系統の障害が証明されるものとは捉えられない」というものでした。
これに対し医師意見書において、
- 交通事故後より症状が出現したという診療録記載の引用
- 受傷直後および手術後の画像所見の提示
- 関節鏡手術所見の提示により事故との因果関係や後遺症状の医学的な説明
を行い、異議申し立てでは12級13号の後遺障害が認定されました。
主張内容および各種所見の医学的整合性が評価された結果であると考えられます。
認定事例②:半月板損傷で14級9号が認定されました
事前認定にて非該当であったところ、医師意見書を付して異議申し立てをおこない14級9号を獲得した事例を紹介します。
事案サマリー(30代男性)
受傷機序:道路横断中に走行してきた車に接触し、転倒受傷
自覚症状:左膝後面の疼痛
理学所見:関節血腫および外側のMcMurray test陽性
画像所見:外側半月板後節に断裂を認める
治療経過:関節鏡視下半月板縫合手術施行後、6ヶ月間の経過観察
画像所見および関節鏡所見
- 受傷直後のMRI所見では外側半月板後節に損傷を認める
- 関節鏡手術所見で同部の損傷を認め、半月板切除術+半月板縫合術が施行された
医師意見書の効果
上記の事案において、自賠責審査機構の見解は「画像所見上本件事故による半月板断裂に対する手術が施行されたものの良好に治癒しており、他覚的に神経系統の障害が証明されるものとは捉えられない」というものでした。
これに対し医師意見書において、
- 手術記録を引用し、半月板部分切除が併施されたことにより半月板の体積が減少したこと
- 術後経過観察時のMRIでは半月板内に信号変化が残存していること
を説明し、異議申し立てにて14級9号の後遺障害が認定されました。
まとめ
半月板損傷の後遺障害について解説するとともに、等級獲得におけるポイントを提示しました。半月板損傷の事案は交通事故では比較的少ないものの、後遺障害等級が争われるケースが多い外傷です。
等級獲得可能性や後遺障害の蓋然性に関する調査をご希望の際には、お気軽に弊社までご連絡をいただければ幸いです。
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