交通事故で発生する肘関節周囲の外傷のひとつに肘関節脱臼があります。肘関節脱臼は転倒して手をついた際に受傷する可能性があります。
本記事は、肘関節脱臼の後遺症が等級認定されるヒントとなるように作成しています。
最終更新日:2023/3/5
Table of Contents
肘関節脱臼とは
肘関節は、上腕骨と前腕の2本の骨(橈骨、尺骨)で構成される関節です。上腕骨から、橈骨と尺骨が一緒に後方(背中側)に外れます(肘関節後方脱臼)。
肘関節脱臼では、尺骨鉤状突起の裂離骨折を併発することがあります。尺骨鉤状突起の裂離骨折が大きいと手術が必要です。
肘関節脱臼の受傷機序
肘関節脱臼は、肘を伸ばした状態で転倒して手をついて受傷することが多いです。交通事故関係では、圧倒的にバイク事故や自転車事故が多いですが、歩行中に自動車に衝突されて受傷することもあります。
肘関節脱臼の症状
肘に激しい痛みと腫れがあります。自分で肘を動かすことができなくなります。
肘関節脱臼の診断
単純X線像(レントゲン検査)を撮影することで、肘関節脱臼の診断は容易です。特に正面像では分かりにくいので、側面像が重要です。
尺骨鉤状突起の裂離骨折の合併が疑わる際には、CT検査を実施して詳しく調べる必要があります。
肘関節脱臼の治療
肘関節脱臼の保存療法
肘関節脱臼では、前腕を軸方向に引っ張っると徒手整復できるケースが多いです。整復後は肘関節を90度にしてシーネ固定を行います。
長期間にわたってシーネ固定を継続すると、肘関節の拘縮を併発するので注意が必要です。
肘関節脱臼の手術療法
ほとんどの肘関節脱臼は保存療法が選択されますが、尺骨鉤状突起の大きな裂離骨折を併発している場合には手術が必要です。
手術によって骨折部を強固に内固定できた症例では、早期のリハビリテーション実施が可能となります。
肘関節脱臼で考えられる後遺症
機能障害
10級9号:1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
関節の可動域が健側の可動域の1/2以下に制限されているものです。通常のケースでは、肘関節脱臼はそれほど大きな関節可動域制限を残しません。
しかし、肘関節脱臼に異所性骨化を併発した場合には、高度の関節可動域制限を残す可能性があります。
12級6号:1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
関節の可動域が健側の可動域の3/4以下に制限されているものです。10級9号と同様に異所性骨化を併発した場合には、関節可動域制限を残す可能性があります。
神経障害
12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの
肘関節脱臼では、稀に尺骨神経麻痺をきたす事案があります。自験例では、肘関節脱臼後に異所性骨化が生じて、遅発性の肘部管症候群を併発した事案がありました。
肘部管症候群に対して、尺骨神経前方移行術および神経剥離術を施行しましたが、尺骨神経麻痺が残存したため12級13号に認定されました。
<参考>
【医師が解説】尺骨神経麻痺が後遺症認定されるポイント|交通事故
14級9号:局部に頑固な神経症状を残すもの
手術施行有無やリハビリテーションなどの条件次第で、後遺障害等級認定される可能性があります。
【弁護士必見】等級認定のポイント
肘関節脱臼単独では、機能障害を残す可能性は低いです。このため非該当事案がほとんどと思われます。
しかし、肘関節脱臼に限らず肘関節周囲の外傷では、異所性骨化を併発する可能性があります。
肘関節周囲に異所性骨化が発生すると、非常に治療が難しくなります。高度の関節可動域制限や、遅発性の肘部管症候群から尺骨神経麻痺に至る可能性があります。
異所性骨化が併発するかを予測することはできません。しかし、受傷後早期から強力な他動運動を実施すると併発する可能性が高まると言われています。
異所性骨化を併発した事案や尺骨鉤状突起の裂離骨折を併発した事案は、通常の経過と異なるため手外科医師による評価が必要です。
肘関節脱臼でお困りの事案があればこちらからお問い合わせください。
まとめ
肘関節脱臼は、肘を伸ばした状態で転倒して手をついて受傷することが多いです。肘関節脱臼単独では機能障害を残す可能性は低いです。
しかし、異所性骨化を併発すると、高度の関節可動域制限を残したり、遅発性の肘部管症候群から尺骨神経麻痺に至る可能性があります。
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