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【医師が解説】急性硬膜下血腫が後遺症認定されるポイント|交通事故

交通事故による頭部外傷のひとつに急性硬膜下血腫があります。急性硬膜下血腫は、続発する二次的な病態の程度にもよりますが、死亡率が高い病態です。

 

交通事故の後に急性硬膜下血腫と診断されたら、最も重症の頭部外傷のひとつといえるでしょう。本記事は、急性硬膜下血腫が後遺障害に認定されるヒントとなるように作成しています。

 

 

最終更新日:2024/4/19

 

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急性硬膜下血腫とは

 

急性硬膜下血腫とは、頭部外傷後すぐ(数分後から数日後の急性期)に脳と硬膜(こうまく:脳を包む膜)の間に出血が起こり、血腫(血の塊)となった状態をいいます。

 

血腫量が多い場合は脳そのものを広範囲に圧迫して、脳虚血(のうきょけつ:脳の血の巡りが悪くなること)や、脳腫脹(のうしゅちょう:脳が腫れること)などの二次的な病態を引き起こして重篤になることもあります。重症頭部外傷の5〜20%に発生するとされています。

 

 

交通事故での急性硬膜下血腫の受傷機序

 

交通事故の場合、頭部の直線的または回転加速によって脳と頭蓋骨の間にズレ(剪断力:せんだんりょく)が生じます。この際に脳の表面(皮質)の小さな動脈が破綻してここから出血が起こります。

 

また、小児例やスポーツ外傷によるものでは、架橋静脈(かきょうじょうみゃく:脳と硬膜内を走行する静脈洞を橋渡しする静脈)が破綻して出血が起こる場合が多いとされています。

 

出血源として、小動脈が62%、静脈性が26%、出血源不明が10%でした(※)。受傷機転は年齢によって差がみられ、若年者では交通事故、高齢者では落下事故が多いです。

 

 

(※)Shenkin H A. J Neurosurg 57: 254-257, 1982.

 

 

急性硬膜下血腫の症状

意識障害

受傷直後より意識障害を呈していることが多いですが、受傷直後は意識がしっかりしていて(意識清明期)、その後に意識障害を来たすケースもあります。

 

 

瞳孔不同

脳幹部が圧迫されると、圧迫された側の瞳孔が開き、瞳孔の左右差が生じます。命の危険が迫っているサインです。

 

 

片麻痺

一般的に血腫が存在する側と逆の手足に麻痺が生じます。手足の運動を司る錐体路という部位が圧迫されるためです。稀に血腫と同じ側の手足の麻痺が生じることもあります。

 

 

けいれん

血腫や脳挫傷により脳が刺激されて手足のけいれん発作を生じることがあります。

 

 

頭痛・吐き気

意識障害の程度が軽い場合は、強い頭痛や吐き気を訴えます。頭の中の圧(頭蓋内圧)が高くなっている証拠です。

 

 

急性硬膜下血腫の診断

 

急性硬膜下血腫が発生する部位は、大脳半球全面にわたりますが、円蓋部(えんがいぶ:脳を覆っている骨の丸い部分)の前頭部、側頭部、頭頂部に多いです。

 

一般的に血腫は片側だけに生じますが、まれに両側に生じることもあります。外傷に遭遇することの多い男性に多いのが特徴です。

 

基本的に診断は頭部CT検査で行います。脳の表面に沿って三日月型(鎌状)の高吸収域(白い領域)として描出されます。血腫の厚さの程度により、正中構造物が反対側へ偏位します(正中偏位)。

 

 

acute subdural hematoma

 

<術前>

三日月型の高吸収域(白矢印)を認め、および正中構造物が反対側に著明に偏位しています(黒矢印)。
 

 

acute subdural hematoma (post operation)

 

<術後>

血腫が除去され(白矢印)、減圧の目的で頭蓋骨が外されています(黒矢印)。正中偏位が術前と比べて改善しています。

 

 

急性硬膜下血腫に対する治療療

急性硬膜下血腫の手術療法

以下のような場合はできるだけ早く手術(開頭して血腫を取り除く)が必要です。

  1. 血腫の厚さが1cm以上の場合、意識障害があり正中偏位が5mm以上の場合
  2. 血腫による脳の圧迫所見が強いもの、血腫による脳の圧迫で手足の麻痺などの神経症状があるもの
  3. 当初意識障害がなくても神経症状が急速に進行するもの

 

 

逆に、脳幹機能が完全に停止(瞳孔が左右とも開いている、呼吸が停止している)し、長時間経過している場合には、手術は勧められません。

 

標準的な手術は、全身麻酔で大きな開頭を行なって血腫を取り除き、脳が腫れて頭蓋内圧が高くなっていると予想される場合には開頭した骨を戻さず(減圧開頭)に皮膚を閉じます。

 

状況に応じて、局所麻酔による穿頭や小開頭を行う場合、内視鏡を併用する場合などがあります。

 

 

急性硬膜下血腫の保存療法

血腫が少量で、ほとんど脳の圧迫が認められない場合は、手術を行わずに入院して経過をみることもあります。

 

また、病態に応じて、抗浮腫剤や抗けいれん剤などの薬物治療も補助的治療として行います。

 

 

急性硬膜下血腫の予後

 

手術を要する重症例では、手術を行ったとしても予後が非常に悪く、死亡率は50%以上とされています。転帰を悪くする因子としては下記が挙げられます。

 

  • 交通事故
  • 65歳以上の高齢者
  • 手術前の意識障害が強い
  • 術後の頭蓋内圧が高い
  • 正中偏位が強い
  • 脳挫傷を伴っているなどが挙げられています(※)

 

受傷後の手術が早ければ早いほど死亡率は低下します。後遺障害の種類や程度は、合併する病態に応じて決まり、状況によってまちまちです。

 

少量の急性硬膜下血腫のみで他の頭蓋内出血等を合併していない例で、自然もしくは手術により血腫が排除された場合は、後遺障害がないこともあります。

 

逆に不可逆的(戻ることのない)な脳幹損傷を合併した場合は遷延性意識障害(遷延性植物状態)となることもあります。

 

 

<参考>
【日経メディカル】遷延性意識障害では住宅改修費も補償の対象に?!
【医師が解説】遷延性意識障害の交渉に使用する医師意見書|交通事故

 

 

術前に片麻痺が生じている例で、発症後すぐに開頭術により血腫が除去されて脳の圧迫が解除された場合には片麻痺が完全に改善する場合もあります。

 

術前に脳挫傷(外傷による脳実質の損傷)を伴っている例では、障害を受けた部位が司る機能に応じた後遺障害(失語、運動麻痺、視野障害、高次脳機能障害など)が残存します。

 

これらの後遺障害はリハビリテーションによりある程度回復しますが、受傷から半年〜1年経過すると症状固定となり、それ以上回復せず後遺症として残ります。

 

 

(※)Massaro F, et al. Acta Neurochir (Wien) 138: 185-191, 1996.

 

 

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急性硬膜下血腫で考えられる後遺障害

高次脳機能障害

高次脳機能障害については、意思疎通能力、問題解決能力、作業負荷に対する持続力・持久力、及び、社会行動能力の4つの能力の各々の喪失の程度に着目し、評価を行います。

 

 

1級1号

 

高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの
 

  • 重篤な高次脳機能障害のため、食事・入浴・用便・更衣等に常時介護を要するもの
  • 高次脳機能障害による高度の認知症や情意の荒廃があるため、常時監視を要するもの

 

 

2級1号

 

高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわりの処理の動作について、随時介護を要するもの
 

  • 重篤な高次脳機能障害のため、食事・入浴・用便・更衣等に随時介護を要するもの
  • 高次脳機能障害による認知症、情意の障害、幻覚、妄想、頻回の発作性意識障害等のため随時他人による監視を必要とするもの
  • 重篤な高次脳機能障害のため自宅内の日常生活動作は一応できるが、1人で外出することなどが困難であり、外出の際には他人の介護を必要とするため、随時他人の介護を必要とするもの

 

 

3級3号

 

生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高次脳機能障害のため、労務に服することができないもの
 

  • 4能力のいずれか1つ以上の能力が全部失われているもの
  • 4能力のいずれか2つ以上の能力の大部分が失われているもの

 

 

5級2号

 

高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの
 

  • 4能力のいずれか1つの能力の大部分が失われているもの
  • 4能力のいずれか2つ以上の能力の半分程度が失われているもの

 

 

7級4号

 

高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないもの
 

  • 4能力のいずれか1つの能力の半分程度が失われているもの
  • 4能力のいずれか2つ以上の能力の相当程度が失われているもの

 

 

9級10号

 

通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの
 

  • 高次脳機能障害のため4能力のいずれか1つの能力の相当程度が失われているもの

 

問題解決能力の相当程度が失われているものの例:1人で手順とおりに作業を行うことに困難を生じることがあり、たまに助言を必要とする

 

 

12級13号

 

通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、多少の障害を残すもの
 

  • 4能力のいずれか1つ以上の能力が多少失われているもの

 

実務上は、高次脳機能障害として認定される等級の下限は12級13号と言われています。臨床的な症状が無くても、症状固定時のCTやMRIで脳挫傷痕や脳萎縮などの所見を認めれば、12級13号が認定されます。

 

 

14級9号

 

通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、軽微な障害を残すもの
 

  • MRI、CT等による他覚的所見は認められないものの、脳損傷のあることが医学的にみて合理的に推測でき、高次脳機能障害のためわずかな能力喪失が認められるもの

 

 

遷延性意識障害

1級1号

 

「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」に該当するため、1級1号が認定されます。

 

 

外傷性てんかん

外傷性てんかんに係る等級の認定は発作の型、発作回数等に着目し、以下の基準によることとなります。

 

なお1ヶ月に2回以上の発作がある場合には、通常高度の高次脳機能障害を伴っているので、脳の高次脳機能障害に係る第3級以上の認定基準により障害等級を認定することとなります。

 

 

5級2号

 

1ヶ月に1回以上の発作があり、かつ、その発作が「意識障害の有無を問わず転倒する発作」又は「意識障害を呈し、状況にそぐわない行為を示す発作」(以下「転倒する発作等」という。)であるもの

 

 

7級4号

 

転倒する発作等が数ヶ月に1回以上あるもの又は転倒する発作等以外の発作が1ヶ月に1回以上あるもの

 

 

9級10号

 

数ヶ月に1回以上の発作が転倒する発作等以外の発作であるもの又は服薬継続によりてんかんの発作がほぼ完全に抑制されているもの

 

 

12級13号

 

発作の発現はないが、脳波上に明らかにてんかん性棘波を認めるもの

 

 

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【弁護士必見】急性硬膜下血腫の後遺障害認定ポイント

 

後遺症を残すような重症の急性硬膜下血腫を負った例では、事故と後遺症の因果関係は明らかなケースがほとんどです。

 

急性硬膜下血腫によって、高次脳機能障害、遷延性意識障害、外傷性てんかんを併発する可能性があります。後遺障害の等級認定ポイントについては、下記を参照してください。

 

 

<参考>
【医師が解説】高次脳機能障害の後遺症が認定されるコツ|交通事故

 

 

 

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まとめ

 

頭部外傷による急性硬膜下血腫について概説しました。他の頭蓋内出血を合併することもあり、病態や臨床症状が複雑となることもあります。

 

急性硬膜下血腫でお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。

 

 

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    ※ 本コラムは、脳神経外科専門医の高麗雅章医師が解説した内容を、弊社代表医師の濱口裕之が監修しました。

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