交通事故で発生する顔面の外傷のひとつに複視があります。複視は眼窩底骨折(眼窩吹き抜け骨折)などの顔面外傷に併発しやすい後遺症です。
本記事は、複視が後遺障害認定されるヒントとなるように作成しています。
最終更新日:2023/5/10
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複視とは
複視とは、物が二重に見える状態です。複視には単眼性複視と両眼性複視があります。
単眼性複視
片眼で見るときにのみ、物が二重に見えます。乱視や白内障など、眼そのものに原因があります。
両眼性複視
両眼で見るときのみ物が二重に見え、片眼で見ると一つに見えます。両眼性複視の方が圧倒的に多いです。
交通事故で複視をきたす原因
眼窩底骨折(眼窩吹き抜け骨折)
眼に強い直達外力が加わると眼窩底骨折を受傷します。一般的には他人から眼を殴られた時や野球のボールが当たったときに受傷しますが、交通事故では自転車やバイク事故などで眼を強く打った場合に骨折することが多いです。
眼窩底が骨折してずれてしまう(転位)と、眼球が本来の動きをできなくなります。このため、大きなずれが残った眼窩底骨折では複視が残ってしまいます。
<参考>
【医師が解説】眼窩底骨折の後遺症が等級認定されるヒント|交通事故
脳神経損傷(動眼神経損傷、滑車神経損傷、外転神経損傷)
動眼神経(第3脳神経)、滑車神経(第4脳神経)、外転神経(第6脳神経)は、眼球の動きを支配する脳神経です。
眼窩壁骨折(側頭骨骨折や頬骨骨折)に伴って、これらの脳神経損傷を併発することがあります。
<参考>
【医師が解説】頬骨骨折が後遺症認定されるヒント|交通事故
脳挫傷などの脳実質損傷
頭部外傷によって脳挫傷や脳出血を受傷すると、複視の原因となることがあります。
<参考>
【医師が解説】脳挫傷の後遺症が等級認定されるポイント|交通事故
【医師が解説】脳出血が後遺症認定されるポイント|交通事故
複視の診断
画像検査
原因となる傷病(眼窩底骨折、眼窩壁骨折、脳挫傷など)に対して、CT検査やMRI検査が実施されます。
ヘスチャート(ヘススクリーンテスト)
眼球運動を評価するための検査です。自賠責保険でも、複視の程度を評価するために最も重要視されています。
複視に対する治療
複視の保存療法
複視があるからといって、必ずしも手術を施行するわけではありません。日常生活で不自由がなければ、しばらく経過観察することになります。
複視の手術療法
眼窩底骨折のずれ(転位)が大きいケースでは、手術を施行して骨折部を整復する必要があります。
脳神経損傷が原因の場合には、外眼筋が眼球に付着している位置をずらして、眼の動きを改善する手術を施行することもあります。
複視で後遺障害に認定されると損害賠償金を請求できる
複視で後遺障害に認定されると、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益を請求できます。
後遺障害慰謝料とは
交通事故で後遺障害が残ってしまった精神的苦痛に対する補償金です。後遺障害慰謝料は、下の表のように後遺障害等級によって異なります。
後遺障害等級 | 後遺障害慰謝料 |
1級 | 2800万円 |
2級 | 2370万円 |
3級 | 1990万円 |
4級 | 1670万円 |
5級 | 1400万円 |
6級 | 1180万円 |
7級 | 1000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
後遺障害逸失利益とは
後遺障害が残ると、労働能力が低下してしまいます。労働能力が低下したために失うであろう収入の不足分に対する補償金です。
後遺障害逸失利益は、交通事故被害者の年収、年齢をベースにして、後遺障害等級に応じた労働能力喪失率と労働能力喪失期間で決まります。
後遺障害逸失利益の計算式
後遺障害逸失利益は、以下の計算式で算出されます。
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数
複視で考えられる後遺障害
10級2号
正面を見た場合に複視の症状を残すもの
ヘスチャートで測定した複視の程度で認定されます。患側の像において、複視の中心位置が、水平方向または垂直方向の目盛りで5度以上離れた位置にあることが確認されたものです。
13級2号
正面以外を見た場合に複視の症状を残すもの
10級2号と同じく、ヘスチャートで測定した複視の程度で認定されます。患側の像が、水平方向または垂直方向の目盛りで5度以上離れた位置にあることが確認されたものです。
【弁護士必見】複視の後遺障害認定ポイント
弊社に相談のある事案では、眼窩底骨折に併発した複視が大半を占めます。その中でも、正面視での複視の有無が争点となっているケースが多いです。
ご存知のように複視では下記のような等級となります。
- 10級2号 正面視で複視の症状を残すもの
- 13級2号 正面視以外で複視の症状を残すもの
障害認定必携によると、正面視で複視を残すものは「ヘスチャートにより正面視で複視の中心の位置にあることが確認されること」と記載されています。
ヘスチャートは眼球の動きを他覚的に測定する検査なので、客観的に複視の存在を証明できると考えられるためです。
しかし、実臨床においては、ヘスチャートのみで正面視で複視があることは証明できません。あくまで眼球の動きの差を見ているにすぎないので、本当に複視が無いのかは分からないのです。
臨床的には、正面視で複視があるかを証明するためには、両眼単一視野検査が必要になります。
ヘスチャートで5度以上のずれがあり、かつ、両眼単一視領域で正面視で複視が検出されていれば、正面視で複視があると言えます。
しかし、両眼単一視領域は自覚的検査であり、単独では詐病を否定できません。このため、後遺障害認定の現場では、他覚的検査であるヘスチャートが必要となっています。
実臨床では両眼単一視野検査で複視の存在を把握しますが、後遺障害認定ではヘスチャートが基準になっています。この差異は大きな問題をはらんでいます。
つまり、実際には正面視で複視があるのに、ヘスチャートで5度以上のずれが無いという理由で、正面視での複視の存在が否定されてしまうのです。
確かに両眼単一視野検査だけでは詐病の存在を排除できません。しかし、正面視での複視による後遺障害が漏れている実情を鑑みると、何とかしてあげたいと悩んでいるのが現状です。
現実的には、診療録を取り寄せて受傷早期から複視が存在することを確認したうえで、眼科専門医による医師意見書を添付して異議申し立て、もしくは訴訟提起することになります。
複視でお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
まとめ
複視は眼窩底骨折(眼窩吹き抜け骨折)などの顔面外傷に併発しやすい後遺症です。複視の評価はヘスチャートで行われます。
患側の像が、水平方向または垂直方向の目盛りで5度以上離れた位置にあることが確認されたものが後遺障害に該当します。
自賠責保険の実務的には、正面視での複視の有無が争点となっているケースが多いです。
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