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【医師が解説】腕神経叢損傷の後遺症の等級認定ポイント|交通事故

交通事故で発生する肩関節、首周囲の外傷のひとつに腕神経叢損傷があります。腕神経叢損傷は事故後にトラブルとなることが多く、診断も困難です。

 

本記事は、腕神経叢損傷の後遺症が等級認定されるヒントとなるように作成しています。

 

 

最終更新日:2024/4/19

 

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腕神経叢とは

 

読み方は「わんしんけいそう」です。
非常に難しい傷病ですので、専門医のいる病院で治療を受けられることをお勧めします。

 

腕神経叢は通常、頚椎第5-8神経根(C5-8)と第1胸椎(T1)で形成されています。首から肩に向かって網目状に伸びている神経です。頭から出た神経が頚髄へといき、5本の神経根に分かれます。

 

その神経根が複雑に交差しながら手に伸びていきます。交差した部位が叢(くさむら)のように絡み合うことから、腕神経叢と呼びます。

 

 

 

出典:神中整形外科 上巻 2013年23版 南山堂より引用

 

 

交通事故での腕神経叢損傷の受傷機序

 

腕神経叢損傷の原因は外傷性と非外傷性に分かれますが、そのほとんどが外傷性です。外傷性の原因としては、切創・刺創、圧迫、牽引損傷などがあります。

 

その中でも最も多い原因は牽引損傷です。牽引損傷というとイメージが湧きにくいかもしれません。頭がどちらかに傾くと、反対側の肩関節が下方に引き下げられ、引き下がった方の腕神経叢が引っ張られて生じます。

 

具体的には、交通事故、とりわけオートバイ事故で転倒した際に手を引っ張られる患者さんを最も多く経験します。また、高所転落や打撲も手を引っ張られることで起きます。

 

ごくまれに、リュックサックで上肢の引っ張られる力が持続することで起きることもあります。

 

 

腕神経叢損傷の症状

C5・C6型麻痺

棘上筋、棘下筋、三角筋、上腕二頭筋、腕撓骨筋、回外筋が麻痺します。上肢挙上、肘屈曲、前腕回外が不能となります。前腕以下の筋は正常で、上肢外側の感覚鈍麻を生じます。

 

 

C5-C7型麻痺

C5・C6型に加え、大胸筋鎖骨部、前鋸筋が麻痺し、約1/3で上腕三頭筋、橈側手根伸筋、総指伸筋、長母指伸筋が麻痺します。母指と指の屈筋、内在筋は正常です。感覚は上肢外側、母指、示指、中指に鈍麻が見られます。

 

 

C5-8型麻痺

肩周囲筋、上腕の筋は全て麻痺します。手根伸筋は90%、総指伸筋は80%、長母指伸筋は60%の例で麻痺します。

 

しかし、母指と指の屈筋は全例3以上で、60%以上で内在筋が効いています。感覚は上肢外側と手全体に感覚鈍麻があり、半数で前腕内側も起こります。

 

感覚脱失の範囲は上肢全体と手全体のものから感覚脱失の全く無いものまで様々です。

 

 

C8・T1型麻痺

手指の屈筋、内在筋の麻痺を呈し、環指尺側、小指と上肢内側の感覚脱失を生じます。

 

 

全型麻痺

僧帽筋を除いて、肩甲帯、上肢の筋は全て麻痺します。感覚は上腕内側近位部を除いて上肢全体が感覚脱失となります。

 

 

後束障害

腋窩神経麻痺と上腕三頭筋を含んだ橈骨神経麻痺の像を呈します。上肢挙上不能または不全、肘伸展、手関節、指の伸展が不能となり、肩関節外側と手背母-示指間に感覚鈍麻を生じます。

 

 

外束障害

筋皮神経麻痺と正中神経部分麻痺の像を呈します。すなわち、上腕二頭筋、上腕筋は麻痺し、筋収縮がみられないが、橈骨神経支配の腕撓骨筋が効いているので肘屈曲は可能です。

 

前腕回内、手関節掌屈力が減弱し、前腕外側と母指、示指の感覚鈍麻を生じます

 

 

内束障害

円回内筋と撓側手根屈筋を除く、正中神経麻痺と尺骨神経麻痺の像を呈します。

 

 

腕神経叢損傷の診断

 

十分な病歴の聴取、徒手筋力テスト、感覚検査、Tinel徴候(損傷部位を叩くと、放散痛が生じる検査)の検査をします。

 

損傷の程度の診断は電気生理学的検査をします。電気生理学的検査には、針筋電図検査と侵襲の少ない神経伝導速度検査があります。

 

残念ながら、腕神経叢損傷では侵襲のある針筋電図検査が必要なケースが多いです。

 

脊髄造影、ミエロCT(=脊髄造影後のCT)、MRIの画像診断が用いられ、最終的には手術で損傷部位が判明することもあります。

 

 

腕神経叢損傷に対する治療

 
一般的には保存療法となります。神経が切れておらず連続していれば保存療法、神経が断裂していれば神経の移植や剥離、神経移行術、腱移行術や関節固定術などが行われます。

 

 

腕神経叢損傷で考えられる後遺障害

 

最も重い等級として、腕神経叢が完全麻痺した場合に5級が認定されることになります。

 

 

5級6号:一上肢の用を全廃したもの

一上肢の用を全廃したとは、以下の状態をいいます。

 

  • 肩・肘・手関節の完全強直+手指の全部の用を廃したもの
  • 肩・肘・手関節の可動域が10%以内に制限+手指の全部の用を廃したもの
  • 肩・肘・手関節の完全弛緩性麻痺

 

 

6級6号:一上肢の2関節の用を廃したもの

一上肢の三大関節(肩・肘・手関節)のうち2つの関節の用を廃するものです。

 

関節の用を廃するとは、次のいずれかをいいます。

 

  • 関節が完全強直する
  • 関節の完全弛緩性麻痺(関節を動かそうとしても全く動かせない)
  • 関節可動域が健側の10%程度以下
  • 人工関節または人工骨頭関節の可動域が健側の半分以下

 

 

8級6号:一上肢の1関節の用を廃したもの

一上肢の三大関節(肩・肘・手関節)のうち1つの関節の用を廃するものです。

 

関節の用を廃するとは、次のいずれかをいいます。

 

  • 関節が完全強直する
  • 関節の完全弛緩性麻痺(関節を動かそうとしても全く動かせない)
  • 関節可動域が健側の10%程度以下
  • 人工関節または人工骨頭関節の可動域が健側の半分以下

 

 

10級10号:一上肢の1関節の著しい機能障害

1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すものです。

 

関節機能の著しい障害とは、関節可動域が健側の2分の1以下に制限されている場合です。

 

 

12級6号:一上肢の1関節の機能障害

1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すものです。

 

関節の機能障害とは、関節可動域が健側の4分の3以下に制限されている場合です。

 

 

【弁護士必見】等級認定のポイント

主治医は基幹病院の手外科専門医が望ましい

神経が複雑に交差し、解剖学的にも難しい場所ですので、手外科専門医や肩関節外科専門医のいる病院で治療を受けることをお奨めします。

 

後遺障害診断を受ける際は、肩・肘・前腕・手・手指の可動域の後遺障害診断書への記載が必要です。周知のように後遺障害診断書は医師であれば誰でも作成できます。

 

しかし、真に腕神経叢損傷で後遺症が残存している場合、大学病院や公的基幹病院の手外科専門医でしか治療することができません。

 

審査側もこの点は十分に理解しているようで、弊社の経験では基幹病院の手外科専門医による治療歴の無い事案では等級認定例が存在しません。

 

メインの治療を基幹病院でおこない、リハビリテーションは開業医やリハビリテーション病院で実施して、その医療機関で後遺障害診断書を作成するというパターンであれば問題ありません。

 

しかし、最後まで基幹病院や手外科専門病院を受診していない事案では、等級認定される確率は限りなく低くなるので注意が必要です。

 

 

頚椎MRIと神経伝導速度検査での有意所見が必須

頚椎MRI

 
腕神経叢損傷の有意所見として、傷害部位の偽性髄膜瘤があれば等級が認定される確率が上がります。

 

 

神経伝導速度検査

 
腕神経叢損傷の診断には神経伝導速度検査が必須です。腕神経叢損傷の有意所見として、傷害領域の運動神経や感覚神経の振幅低下を認めます。

 

 

nikkei medical

 

 

まとめ

 
腕神経叢損傷について説明しました。かなり複雑な病態で、専門医でも診断に悩むことがあります。そのため、不運なことに後遺障害が残った場合は争いになることが多い傷病です。

 

交通事故で腕が全く上がらなくなった、医師に神経が損傷(断裂)していると言われた、という事案でお困りであればこちらからお問い合わせください。

 

 

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