交通事故コラム詳細

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【医師が解説】バイク事故は死亡率が高くて悲惨な理由|交通事故

交通事故の中でも、特にバイク事故は死亡率が高く、また命を取り留めた場合にも後遺障害が重度になる傾向にあります。

 

本記事は、実臨床に携わっている現役の整形外科医が、バイク事故は死亡率が高くなる理由が分かるように作成しています。

 

 

最終更新日:2024/4/20

 

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Table of Contents

バイク事故は死亡率が高いのか?

バイク事故の死亡率は1.3%

令和3年度版交通安全白書(内閣府)では、令和2年(2020年)年のバイク事故の死亡率は1.3%、重傷者率は17.5%でした。

 

死亡率が最も高かったのは歩行者の2.6%でしたが、バイク事故の死亡率1.3%は、自動車事故の死亡率0.4%と比較して高い死亡率と言えます。

 

 

traffic accident

 

令和3年版交通安全白書(内閣府)より転載

 

 

令和4年度版はバイク事故死亡率が不明

令和4年度版交通安全白書(内閣府)では、令和3年(2021年)年の死亡件数などが詳細に報告されています。しかし、なぜかバイク事故の死亡率は報告されていません。

 

正確には、状態別(自動車乗車中や自動二輪車乗車中など)の事故件数が報告されていないため、事故全体に占める死亡率の割合が算出できないのです。

 

公的機関による他の資料も精査しましたが、現時点(2023/1/31)で状態別の事故件数は公表されていません。理由は定かではありませんが、移動手段毎の死亡率を算出するためにも公開が望まれます。

 

 

<参考>
令和4年版交通安全白書(内閣府)

 

 

死亡事故におけるバイク事故は17.6%

令和4年度版交通安全白書(内閣府)では、令和3年(2021年)年のバイク事故の死亡件数(自動二輪車+原付)は、332名+131名=463名で、全体の死亡者数2636名の約17.6%でした。

 

 

<参考>
令和4年版交通安全白書(内閣府)45ページ

 

 

重傷者事故におけるバイク事故は25.6%

令和4年度版交通安全白書(内閣府)では、令和3年(2021年)年のバイク事故の重傷者件数(自動二輪車+原付)は、4192名+2777名=6969名で、全体の死亡者数27204名の約25.6%でした。

 

 

<参考>
令和4年版交通安全白書(内閣府)46ページ

 

 

bike accident

 

 

バイク事故の死因は頭部と胸部が多い

 

令和3年度版交通安全白書(内閣府)では、バイク事故の死者における損傷主部位は、頭部が43.3%、胸部が26.6%でした。この2つの部位だけで、7割近い死亡原因となっています。

 

 

<参考>

令和3年版交通安全白書(内閣府)

 

 

バイク事故の死亡率が高い原因

バイクは体を保護する車体がない

バイク事故の死亡率が高い原因として、バイクには自動車のようなドライバーの体を包み込む車体が無いことが挙げられます。

 

極論すると、ドライバーの身体が剥き出しの状態であるため、転倒するだけでドライバーに大きな外力が加わります。

 

 

バイクは車両重量が軽い

交通事故では、ドライバーが乗っている乗り物の重量は、ドライバーの体にかかる外力に反比例します。つまり、車両重量が軽いほど、ドライバーにかかる外力が大きくなります。

 

トラックと普通乗用車では、普通乗用車のドライバーにかかる負荷の方が大きいです。同様に、普通乗用車とバイクでは、車両重量の軽いバイクのドライバーにかかる負担の方が大きいです。

 

 

運動エネルギーと脆弱性のバランスが悪い

バイクのメリットは燃費が良いことです。バイクの燃費が良い理由は、車両重量に比べてスピードが出る(運動エネルギーが大きい)からです。

 

一方、バイクの車両重量は軽く、またドライバーの体を守る躯体がありません。それにもかかわらず時速100km/h以上の速度を容易に出せるため、運動エネルギーと脆弱性のバランスが極めて悪いと言えます。

 

 

バイクは自動車から認識されにくい

バイクは車体がコンパクトであるため、自動車から存在が認識されにくいです。このため、バイクは自動車と比べても事故に遭いやすいと言えます。

 

 

バイク事故で受傷しやすい外傷

 

バイク事故は、さまざまな部位の外傷が発生する可能性があります。その中でも特にバイク事故で発生しやすい代表的な傷病を抽出して、弊社の各傷病コラム記事へのリンクを張っています。

 

 

傷病の総論

開放骨折
関節内骨折
偽関節、遷延癒合

 

 

部位別の頻出傷病

顔面、眼、鼻、口の外傷

 

遷延性意識障害(植物状態)
高次脳機能障害
びまん性軸索損傷
脳挫傷
急性硬膜下血腫
外傷性くも膜下出血
脳出血
外傷性てんかん
MTBI
脳震盪
頭蓋骨骨折
眼窩底骨折(眼窩吹き抜け骨折)
頬骨骨折

 

 

頚椎の外傷

 

頚椎骨折
脊髄損傷
中心性脊髄損傷
むちうち(頚椎捻挫)
頚椎椎間板ヘルニア

 

 

腰椎の外傷

 

腰椎圧迫骨折
腰椎横突起骨折
腰椎椎間板ヘルニア

 

 

肩関節の外傷

 

鎖骨骨折
肩鎖関節脱臼
上腕骨近位端骨折
腱板損傷
肩甲骨骨折

 

 

肘関節の外傷

 

肘頭骨折
肘関節骨折
肘関節脱臼

 

 

手の外傷

 

橈骨遠位端骨折
尺骨骨折
TFCC損傷
手や指の骨折(指節骨骨折、中手骨骨折、手根骨骨折)
舟状骨骨折

 

 

体幹の外傷

 

内臓破裂
肋骨骨折
胸骨骨折

 

 

骨盤・股関節の外傷

 

骨盤骨折
股関節骨折
大腿骨骨頭骨折、大腿骨頚部骨折、大腿骨転子部骨折、大腿骨転子下骨折

 

 

大腿部の外傷

 

大腿骨骨幹部骨折

 

 

膝関節の外傷

 

大腿骨顆上骨折、大腿骨顆部骨折
脛骨高原骨折
膝蓋骨骨折

 

 

下腿の外傷

 

脛骨骨折
腓骨骨折

 

 

足の外傷

 

脛骨遠位端骨折
足関節脱臼骨折
距骨骨折
中足骨骨折
リスフラン関節脱臼骨折
足趾骨折(足指骨折)

 

 

pelvic fracture

 

 

バイク事故で想定される後遺障害の種類

神経障害

1級1号

 

高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの
 

  • 重篤な高次脳機能障害のため、食事・入浴・用便・更衣等に常時介護を要するもの
  • 高次脳機能障害による高度の認知症や情意の荒廃があるため、常時監視を要するもの

 

 

2級1号

 

高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわりの処理の動作について、随時介護を要するもの
 

  • 重篤な高次脳機能障害のため、食事・入浴・用便・更衣等に随時介護を要するもの
  • 高次脳機能障害による認知症、情意の障害、幻覚、妄想、頻回の発作性意識障害等のため随時他人による監視を必要とするもの
  • 重篤な高次脳機能障害のため自宅内の日常生活動作は一応できるが、1人で外出することなどが困難であり、外出の際には他人の介護を必要とするため、随時他人の介護を必要とするもの

 

 

3級3号

 

生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高次脳機能障害のため、労務に服することができないもの
 

  • 4能力のいずれか1つ以上の能力が全部失われているもの
  • 4能力のいずれか2つ以上の能力の大部分が失われているもの

 

 

5級2号

 

高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの
 

  • 4能力のいずれか1つの能力の大部分が失われているもの
  • 4能力のいずれか2つ以上の能力の半分程度が失われているもの

 

 

7級4号

 

高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないもの
 

  • 4能力のいずれか1つの能力の半分程度が失われているもの
  • 4能力のいずれか2つ以上の能力の相当程度が失われているもの

 

 

9級10号

 

通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの
 

  • 高次脳機能障害のため4能力のいずれか1つの能力の相当程度が失われているもの

 

問題解決能力の相当程度が失われているものの例:1人で手順とおりに作業を行うことに困難を生じることがあり、たまに助言を必要とする

 

 

12級13号

 

  • 局部に頑固な神経症状を残すもの
  • 通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、多少の障害を残すもの

 

むちうち(頚椎捻挫)などでは局部に頑固な神経症状を残すもの、高次脳機能障害では通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、多少の障害を残すものに認定される可能性があります。

 

 

14級9号

 

  • 局部に神経症状を残すもの
  • 通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、軽微な障害を残すもの

 

むちうち(頚椎捻挫)などでは局部に神経症状を残すもの、高次脳機能障害では通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、軽微な障害を残すものに認定される可能性があります。

 

 

doctor

 

 

呼吸器の後遺障害

呼吸器に関連する臓器として、気管、気管支、肺、横隔膜等があります。

 

呼吸器の障害では、原因となった傷病や臓器によって区別するのではなく、自賠責認定基準で定められた動脈血ガス分析の検査結果で後遺障害が認定されます。

 

動脈血ガス分析で得られた動脈血酸素分圧と動脈血炭酸ガス分圧の検査結果によって、下記の後遺障害に認定されます。

 

 

動脈血酸素分圧が50Torr以下のもの

 

  • 1級4号:呼吸機能の低下により常時介護が必要なもの
  • 2級2号:呼吸機能の低下により随時介護が必要なもの
  • 3級4号:上記2つに当たらないもの

 

 

動脈血酸素分圧が50Torrを超え60Torr以下のもの

 

  • 1級4号:動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲(37Torr以上43Torr以下)外で、かつ呼吸機能低下のために常時介護が必要なもの
  • 2級2号:動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲外で、かつ呼吸機能低下のために随時介護が必要なもの
  • 3級4号:動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲外で、かつ上記2つに該当しないもの
  • 5級3号:上記3つに該当しないもの

 

 

動脈血酸素分圧が60Torrを超え70Torr以下のもの

 

  • 7級5号:動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲外のもの
  • 9級11号:上記に該当しないものは

 

 

動脈血酸素分圧が70Torrを超えるもの

 

  • 11級9号:動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲外のもの

 

 

動脈血ガス分析以外の計測方法

 
原則として、呼吸器の後遺障害は動脈血ガス分析の計測結果(動脈血酸素分圧と動脈血炭酸ガス分圧)で後遺障害が等級認定されます。

 

ただし、

  1. スパイロメトリーの結果および呼吸困難の程度による判定
  2. 運動負荷試験の結果による判定

によって判定された後遺障害等級よりも、動脈血ガス分析により判定された後遺障害等級が低い場合には、①スパイロメトリー、または②運動負荷試験によって判定された後遺障害等級が認定されます。

 

交通事故被害者の立場にとっては、敗者復活戦のような位置付けと言えます。

 

 

循環器の後遺障害

循環器に関連する臓器として、心臓、心膜、大動脈等があります。

 

循環器の障害では、以下の4つの後遺症に対して、自賠責認定基準が定められています。

  • 心機能が低下したもの
  • 除細動器またはペースメーカーを植え込んだもの
  • 房室弁または大動脈弁を置換したもの
  • 大動脈に解離を残すもの

 

 

心機能が低下したもの

 

  • 9級11号:心機能の低下による運動耐容能の低下が中程度(6METsを超える)であるもの

 

【例】
平地を健康な人と同じ程度の速度で歩くのは差し支えないものの、平地を急いで歩く、健康な人と同じ速度で階段を上るという身体活動が制限される場合

 

 

除細動器またはペースメーカーを植え込んだもの

 

  • 7級5号:除細動器を植え込んだもの
  • 9級11号:ペースメーカーを植えこんだもの

 

 

房室弁または大動脈弁を置換したもの

 

  • 9級11号:房室弁または大動脈弁を置換し、継続的に抗疑血薬療法を行うもの
  • 11級10号:上記以外のもの

 

 

大動脈に解離を残すもの

 

  • 11級10号:偽腔開存型の解離を残すもの

 

 

腹部臓器(食道、胃、小腸、大腸、肝臓)の後遺障害

腹部臓器として、食道・胃・小腸、大腸、肝臓、胆のう、膵臓、脾臓、腹壁等があります。

 

腹部臓器では呼吸器と異なり、臓器別に後遺障害が等級認定されます。

 

 

食道の後遺障害

  • 9級11号:食道の狭窄による通過障害を残すもの

 

食道の狭窄による通過障害を残すものとは、通過障害の自覚症状があり、消化管造影検査により食道の狭窄による造影剤のうっ滞が認められるものをいいます。

 

 

胃の後遺障害

胃の後遺症は、胃の切除により生じる以下の症状有無により後遺障害等級が定められています。

  • 消化吸収障害
  • ダンピング症候群
  • 胃切除術後逆流性食道炎の症状

 

 

  • 7級5号:消化吸収障害、ダンピング症候群、胃切除術後逆流性食道炎のすべてが認められるもの
  • 9級11号:消化吸収障害およびダンピング症候群が認められるもの
  • 11級10号:消化吸収障害、ダンピング症候群および胃切除術後逆流性食道炎のいずれかが認められるもの
  • 13級11号:噴門部または幽門部を含む胃の一部を亡失したもので、上記に該当しないもの

 

 

小腸の後遺障害

小腸を大量に切除したもの

 

  • 9級11号:残存する空腸及び回腸の長さが100cm以下になったもの
  • 11級10号:残存する空腸及び回腸の長さが100cmを超え300cm未満となったものであって、消化吸収障害が認められるもの

 

 

人工肛門を増設したもの

 

  • 5級3号:小腸の内容が漏出することにより、ストマ周辺または皮膚瘻周辺に著しいびらんを生じ、パウチ等の装着ができないもの
  • 7級5号:人工肛門を装着したもののうち、第5級に該当するもの以外のもの

 

 

小腸皮膚瘻を残すもの

 

  • 5級3号:瘻孔から小腸の内容の全部または大部分が漏出するもののうち、皮膚瘻周辺に漏出による著しいびらんを生じ、パウチ等の装着ができないもの
  • 7級5号:瘻孔から小腸の内容の全部または大部分が漏出するもの
  • 7級5号:瘻孔から漏出する小腸の内容が100ml/日以上のもので、小腸内容が漏出することにより小腸皮膚瘻周辺に著しいびらんを生じ、パウチ等の装着ができないもの
  • 9級11号:瘻孔から漏出する小腸の内容が100ml/日以上のもの
  • 11級10号:瘻孔から少量ではあるが、明らかに小腸の内容が漏出する程度のもの

 

 

小腸の狭窄を残すもの

 

  • 小腸の狭窄を残すものは11級10号

 

 

小腸の狭窄を残すものとは、以下の2つの条件を同時に満たすものを言います。

  • 1ヶ月に1回程度、腹痛、腹部膨満感、嘔気、嘔吐などの症状がみとめられ
  • 単純X線像において、ケルクリングひだ像(多数の輪状ひだ)が認められるもの

 

弊社の取り扱い事案の中でも、小腸の狭窄を残すものは争いになる事案が多いです。その理由は、単純X線像でのケルクリングひだ像を認めないケースが多いからです。

 

単純X線像でのケルクリングひだ像は常に認められるわけではありません。腹痛、腹部膨満感、嘔気、嘔吐などの症状が出現した際に撮影しなければ描出できないケースが多いのです。

 

 

Kerckring's fold

 

 

 

大腸の後遺障害

大腸を大量に切除したもの

 

  • 11級10号:結腸のすべてを切除するなど大腸のほとんどを切除したもの

 

 

人工肛門を増設したもの

 

  • 5級3号:大腸の内容が漏出することにより、ストマ周辺または皮膚瘻周辺に著しいびらんを生じ、パウチ等の装着ができないもの
  • 7級5号:人工肛門を装着したもののうち、第5級に該当するもの以外のもの

 

 

大腸皮膚瘻を残すもの

 

  • 5級3号:瘻孔から大腸の内容の全部または大部分が漏出するもののうち、皮膚瘻周辺に漏出による著しいびらんを生じ、パウチ等の装着ができないもの
  • 7級5号:瘻孔から大腸の内容の全部または大部分が漏出するもの
  • 7級5号:瘻孔から漏出する大腸の内容が100ml/日以上のもので、大腸内容が漏出することにより大腸皮膚瘻周辺に著しいびらんを生じ、パウチ等の装着ができないもの
  • 9級11号:瘻孔から漏出する大腸の内容が100ml/日以上のもの
  • 11級10号:瘻孔から少量ではあるが、明らかに大腸の内容が漏出する程度のもの

 

 

大腸の狭窄を残すもの

 

  • 11級10号:大腸の狭窄を残すもの

 

 

大腸の狭窄を残すものとは、以下を両方とも満たすものを言います。

  • 1ヶ月に1回程度、腹痛、腹部膨満感などの症状がみとめられ
  • 単純X線像において、貯留した大量のガスにより結腸膨起像が相当区間認められるもの

 

 

便秘を残すもの

 

  • 9級11号:用手摘便を要すると認められるもの
  • 11級10号:第9級に該当しないもの

 

排便反射を支配する神経の損傷が、MRIまたはCTなどにより確認され、排便回数が週2回以下の頻度であって、恒常的に便が硬い場合は後遺障害等級の対象となります。

 

 

便失禁を残すもの

 

  • 7級5号:完全便失禁を残すもの
  • 9級11号:常時おむつの装着が必要なもの
  • 11級10号:常時おむつの装着は必要ないものの、明らかに便失禁があると認められるもの

 

 

肝臓の後遺障害

  • 9号11号:肝硬変(ウイルスの持続感染が認められ、かつ、GOT・GPTが持続的に低値であるもの)
  • 11級10号:慢性肝炎(ウイルスの持続感染が認められ、かつ、GOT・GPTが持続的に低値であるもの)

 

弊社には、消化器内科医師が在籍しています。このため、B型肝炎訴訟にも対応可能です。

 

 

その他の腹部臓器の後遺障害

胆嚢の後遺障害

 

  • 13号11号:胆嚢を失ったもの

 

 

膵臓の後遺障害

  • 9号11号:外分泌機能の障害と内分泌機能の障害の両方が認められるもの
  • 11級10号:外分泌機能の障害または内分泌機能の障害のいずれかが認められる
  • 12級13号もしくは14級9号:軽微な膵液瘻を残したために皮膚に疼痛等を生じるもの

 

 

脾臓の後遺障害

  • 13号11号:脾臓を失ったもの

 

 

腹壁瘢痕ヘルニアの後遺障害

 

  • 9号11号:常時ヘルニアの脱出・膨隆が認められるもの、 または立位をしたときヘルニア内容の脱出・膨隆が認められるもの
  • 11級10号:重激な業務に従事した場合等、腹圧が強くかかるときにヘルニア内容の脱出・膨隆が認められるもの

 

 

泌尿器の後遺障害

腎臓の後遺障害

 

腎臓の障害は、以下によって後遺障害等級が認定されます。

  • 腎臓の亡失の有無
  • 糸球体濾過値(GFR)

 

 

膀胱機能障害

 

  • 9級11号:膀胱の機能の障害により、残尿が100ml以上であるもの
  • 11級10号:膀胱の機能の障害により、残尿が50ml以上100ml未満であるもの

 

 

生殖器の後遺障害

7級相当:生殖機能を完全に喪失したもの

 

  • 両側の睾丸を失ったもの
  • 常態として精液中に精子が存在しない
  • 両側の卵巣を失ったもの
  • 常態として卵子が形成されないもの

 

 

9級17号:生殖機能に著しい障害があるもの

 

  • 陰茎の大部分を欠損したもの
  • 勃起障害があるもの
  • 射精障害があるもの
  • 膣口狭さくがあるもの(陰茎を膣に挿入することができないもの)
  • 両側の卵管に閉塞もしくは癒着があるもの、頸管に閉塞があるものまたは子宮を失ったもの(画像所見があるもの)

 

 

11級相当:生殖機能に障害があるもの

 

  • 狭骨盤または比較的狭骨盤が認められるもの
    (産科的真結合線が10.5㎝未満または入口部横径が11.5㎝未満のもの)

 

 

13級相当:生殖機能に軽微な障害があるもの

 

  • 1側の睾丸を失ったもの(1側の睾丸を失ったのと準ずべき程度の萎縮を含む)
  • 1側の卵巣を失ったもの

 

 

機能障害(上肢の関節可動域制限)

8級6号:1上肢の三大関節中の1関節の用を廃したもの

 

関節が全く動かないか、これに近い状態(関節可動域の10%程度以下)です。実臨床では、ここまで高度の関節可動域制限をきたすケースはほとんど無いです。

 

 

10級10号:1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの

 

関節の可動域が健側の可動域の1/2以下に制限されているものです。重度の粉砕骨折では、10級10号に該当する関節機能障害を残すことが時々あります。

 

 

12級6号:1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの

 

関節の可動域が健側の可動域の3/4以下に制限されているものです。実臨床でよく見かける関節機能障害です。

 

 

小関節(手指)について

 

  • 4級6号:両手の手指の全部の用を廃したもの
  • 7級7号:1手の5の手指又は母指を含み4の手指の用を廃したもの
  • 8級4号:1手の母指を含み3の手指又は母指以外の4の手指の用を廃したもの
  • 9級9号:1手の手指を含み2の手指又は母指以外の3の手指の用を廃したもの
  • 10級6号:1手の母指又は母指以外の2の手指の用を廃したもの
  • 12級9号:1手の手指、中指又は監視の用を廃したもの
  • 13級4号:1手の小指の用を廃したもの
  • 14級7号:1手の母指以外の手指の遠位指節間関節(=DIP関節)を屈伸することができなくなったもの

 

 

機能障害(下肢の関節可動域制限)

8級7号:1下肢の三大関節中の1関節の用を廃したもの

 

関節が全く動かないか、これに近い状態(関節可動域の10%程度以下)です。実臨床では、ここまで高度の関節可動域制限をきたすケースはほとんど無いです。

 

 

10級11号:1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの

 

関節の可動域が健側の可動域の1/2以下に制限されているものです。重度の粉砕骨折では、10級11号に該当する関節機能障害を残すことが時々あります。

 

 

12級7号:1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの

 

関節の可動域が健側の可動域の3/4以下に制限されているものです。膝関節や足関節では、よく見かける関節機能障害です。

 

 

小関節(足指)について

 

  • 7級11号:両足の足指の全部の用を廃したもの
  • 9級11号:1足の足指の全部の用を廃したもの
  • 11級8号:1足の第1の足指を含み2以上の足指の用を廃したもの
  • 12級11号:1足の第1の足指又は他の4の足指の用を廃したもの
  • 13級10号:1足の第2の足指の用を廃したもの、第2の足指を含み2の足指の用を廃したもの又は第3の足指以下の3の足指の用を廃したもの
  • 14級8号:1足の第3の足指以下の1又は2の足指の用を廃したもの

 

 

変形障害(上肢)

7級9号:1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの

 

上腕骨骨幹部や前腕骨幹部に癒合不全を残した場合、日常生活への支障が大きく出ます。そのため、補装具が必要なことがあります。常に硬性装具が必要であれば7級9号となります。

 

 

8級8号:1上肢に偽関節を残すもの

 

硬性装具を常に必要とするわけではない上腕骨もしくは前腕に偽関節を残す状態です。

 

 

12級8号:長管骨に変形を残すもの

 

上肢の長管骨に変形を残すものとは、次のいずれかに該当するものです。尚、同一の長管骨に以下の障害を複数残す場合でも12級8号になります。

  1. 上腕骨または橈骨と尺骨の両方で、15度以上変形癒合したもの
  2. 上腕骨、橈骨又は尺骨の骨端部にゆ合不全を残すもの
  3. 橈骨または尺骨の骨幹部等にゆ合不全を残すもので、硬性補装具を必要としないもの
  4. 上腕骨、橈骨または尺骨の骨端部のほとんどを欠損したもの
  5. 上腕骨(骨端部を除く)の直径が2/3以下に、または橈骨若しくは尺骨(それぞれの骨端部を除く)の直径が1/2以下に減少したもの
  6. 上腕骨が50度以上外旋または内旋変形ゆ合しているもの

 

6.上腕骨が50度以上外旋または内旋変形癒合しているものとは、次のいずれにも該当することを確認することによって判定します。

 

  • 外旋変形癒合にあっては肩関節の内旋が50度を超えて可動できないこと、また、内旋変形ゆ合にあっては肩関節の外旋が10度を超えて可動できないこと
  • エックス線写真等により、上腕骨骨幹部の骨折部に回旋変形ゆ合が明らかに認められること

 

 

実臨床の観点からは、外見から想定できる程度(15度以上屈曲して不正癒合したもの)の変形はあまり経験しません。また、上腕骨が50度以上回旋変形癒合することも、ほとんど存在しません。

 

 

変形障害(下肢)

7級10号:1下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの

 

大腿骨や脛骨、腓骨に癒合不全を残すもので、常に硬性補装具が必要であるものです。

 

プレート固定や髄内釘固定を行った後に偽関節となると、補装具なしに全荷重歩行するとスクリューやプレートが折れる可能性があります。

 

 

8級9号:1下肢に偽関節を残すもの

 

硬性装具を常に必要とするわけではない大腿骨もしくは脛骨に偽関節を残す状態です。

 

 

12級8号:長管骨に変形を残すもの

 

下肢の長管骨に変形を残すものとは、次のいずれかに該当するものです。尚、同一の長管骨に以下の障害を複数残す場合でも12級8号になります。

 

  1. 大腿骨または脛骨で、15度以上変形癒合したもの
  2. 大腿骨もしくは脛骨の骨端部に癒合不全を残すもの、または腓骨の骨幹部等に癒合不全を残すもの
  3. 大腿骨または脛骨の骨端部のほとんどを欠損したもの
  4. 上腕骨、橈骨または尺骨の骨端部のほとんどを欠損したもの
  5. 大腿骨または脛骨(骨端部を除く)の直径が2/3以下に減少したもの
  6. 大腿骨が外旋45度以上または内旋30度以上回旋変形ゆ合しているもの

 

6.大腿骨が45度以上外旋または内旋変形癒合しているものとは、次のいずれにも該当することを確認することによって判定します。

 

  • 外旋変形癒合にあっては股関節の内旋が0度を超えて可動できないこと、内旋変形癒合にあっては、股関節の外旋が15度を超えて可動できないこと
  • エックス線写真等により、大腿骨の骨折部に回旋変形癒合が明らかに認められること

 

 

骨欠損が生じて大腿骨や脛骨の直径が2/3以下に減少したものは比較的よく見られます。下腿の変形障害で認定されるのは、このケースが多いかと考えられます。

 

 

変形障害(脊柱)

脊柱の変形障害には、変形程度に応じて下記3つがあります。

 

 

6級5号:脊柱に著しい変形を残すもの

 

2個以上の椎体の前方椎体高の高さの合計が、後方椎体の高さの合計よりも、1個の椎体分以上低くなっているものです。端的に言うと、椎体1個以上の椎体前方高の減少したものです。

 

この場合の1個の椎体分とは、骨折した椎体の後方椎体高の平均値です。

 

 

8級2号:脊柱に中程度の変形を残すもの

 

1個以上の椎体の前方椎体高の高さの合計が、後方椎体の高さの合計よりも、1/2個の椎体分以上低くなっているものです。端的に言うと、椎体の1/2以上の椎体前方高の減少したものです。

 

 

11級7号:脊柱に変形を残すもの

 

下記2つのいずれかに該当すれば認定されます。

 

  • 脊椎固定術が行われたもの
  • 3個以上の脊椎について、椎弓切除術などの椎弓形成術を受けたもの

 

 

認定基準を満たす側弯変形はほぼ存在しない

自賠責認定基準では、6級および8級の後遺障害認定基準に側弯変形もありますが、実臨床では脊椎骨折で側弯変形をきたすことはほぼありません。

 

 

運動障害(脊柱)

脊柱の運動障害には、可動域制限の程度に応じて下記2つがあります。

 

 

6級5号:脊柱に著しい運動障害を残すもの

 

脊柱に著しい運動障害を残すものとは、次のいずれかの原因で頚部および胸腰部が強直したものです。

  • 頚椎および胸腰椎のそれぞれに脊椎圧迫骨折等が存しており、それがレントゲン等によって確認できるもの
  • 頚椎および胸腰椎のそれぞれに脊椎固定術が行われたもの
  • 項背腰部軟部組織に明らかな器質的変化が認められるもの

 

 

8級2号:脊柱に運動障害を残すもの

 

脊柱に運動障害を残すものとは、次のいずれかに該当する場合です。

  • 頚部または胸腰部の可動域が参考可動域角度の2分の1以下に制限されたもの
  • 頚椎または胸腰椎に脊椎圧迫骨折等を残しており、そのことがレントゲン撮影などによって確認できるもの
  • 頚椎または胸腰椎に脊椎固定術が行われたもの
  • 項背腰部軟部組織に明らかな器質的変化が認められるもの
  • 頭蓋や上位頚椎間に著しい異常可動性が発生したもの

 

 

短縮障害(下肢)

8級5号:1下肢を5センチメートル以上短縮したもの

 

10級7号:1下肢を3センチメートル以上短縮したもの

 

13級8号:1下肢を1センチメートル以上短縮したもの

 

下肢の長さを測定する際は、上前腸骨棘と下腿内果下端の長さを健側と比較することによって行います。

 

 

<参考>
【医師が解説】脚長差(短縮障害)の評価はSMDが妥当?|交通事故

 

 

 

 

【弁護士必見】バイク事故の後遺障害認定ポイント

バイク事故にはあらゆる外傷がある

バイク事故は死亡率や重症率が高いことで有名です。このため、バイク事故では、あらゆる外傷を負う可能性があります。通常の整形外科や脳神経外科領域だけではなく、胸腹部臓器の外傷も多いです。

 

このため、整形外科や脳神経外科だけではなく、消化器外科、呼吸器外科、心臓血管外科、耳鼻咽喉科、眼科、泌尿器科、歯科など、あらゆる科が関連する可能性があります。

 

 

バイク事故は多発外傷が多い

バイク事故は死亡率や重症率が高いだけではなく、多発外傷が多いことでも有名です。身体能力の低下に最も影響を与えている外傷の特定が難しいことも珍しくありません。

 

複数科にまたがる外傷が存在する事案では、すべての科を横断的に把握する能力が求められます。脳神経外科、消化器外科、整形外科などを統括して方向性を決定できる力量が必要です。

 

 

バイク事故は後遺障害の見逃しが多い

弊社が取り扱った事案では、主治医でさえも見逃している外傷が存在したケースもあります。例えば、両側の上腕骨近位端骨折でしたが、片方は転位が小さく見逃されていた事案もあります。

 

両側の肩関節可動域が悪いため弊社でレントゲン検査を見直したところ、健側と思われていた側にも骨折があったのです。

 

特に、バイク事故での多発外傷は、適切な後遺障害等級が認定されていない事案を散見します。非該当や想定よりも低い後遺障害等級になってお困りの事案があればこちらからお問い合わせください。

 

 

 

nikkei medical

 

 

まとめ

 

令和2年(2020年)年のバイク事故の死亡率は1.3%、重傷者率は17.5%でした。死亡率が最も高かったのは歩行者の2.6%でしたが、バイク事故の死亡率1.3%は、自動車事故の死亡率0.4%と比較して高い死亡率と言えます。

 

バイク事故の死亡率が高い原因として、バイクは体を保護するものがない、バイクは車両重量が軽いため運動エネルギーと脆弱性のバランスが悪い、バイクは自動車運転手から認識されにくいなどが挙げられます。

 

バイク事故ではあらゆる外傷を負う可能性があり、多発外傷も珍しくありません。整形外科や脳神経外科領域だけではなく、多くの科の専門医の助けが必要となる事案が多いです。

 

 

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