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【医師が解説】股関節骨折が後遺症認定されるポイント|交通事故

交通事故で発生する脚の大きな外傷のひとつに股関節の骨折があります。股関節の骨折は大きな外力によって受傷することが多く、後遺症を残しやすい外傷です。

 

本記事は、股関節骨折の後遺症が後遺障害に認定されるヒントとなるように作成しています。

 

 

最終更新日:2024/4/19

 

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股関節骨折とは

 

交通事故で受傷する可能性がある股関節の骨折には、以下の5種類があります。

 

  • 大腿骨頚部骨折
  • 大腿骨転子部骨折
  • 大腿骨転子下骨折
  • 寛骨臼骨折
  • 股関節脱臼骨折

 

 

大腿骨頚部骨折

femoral neck fracture

 

大腿骨頚部骨折は、脚の付け根の骨折です。上の図のように大腿骨のくびれている部分が折れます。股関節の中にある大腿骨頭は体重を受ける重要な部分ですが、関節内にあるため血流が乏しいです。

 

 

大腿骨転子部骨折

femoral intertrochanteric fracture

 

大腿骨転子部骨折も脚の付け根の骨折ですが、大腿骨頚部骨折と異なり僅かに外側で折れています。距離でいうと2~3cmの違いですが、治療方針が変わるほど大きな差があります。

 

 

大腿骨転子下骨折

acetabular fracture

 

大腿骨転子下骨折も脚の付け根の骨折ですが、大腿骨転子部骨折よりも更に足側で折れています。解剖学的な特性から手術が難しく、骨癒合しにくいことで有名です。

 

 

寛骨臼骨折

 

大腿骨骨頭と一緒に股関節を形成しています。股関節はお茶碗とボールの関係に例えられます。お茶碗の中をボールが回転するイメージです。寛骨臼はお茶碗側です。

 

寛骨臼骨折は、大腿骨頭を介して大きな外力が伝わることで発生します。ダッシュボード外傷が有名で、車の座席に座っていて急停車したときに、膝をダッシュボードに強打することで受傷します。

 

 

股関節脱臼骨折

pelvic fracture

 

寛骨臼が骨折するだけではなく、大腿骨頭が股関節内から脱臼する股関節脱臼骨折は、重症度が高いです。

 

また、ダッシュボード外傷では、寛骨臼骨折だけではなく股関節の後方脱臼(股関節脱臼骨折)を伴うことがあり、坐骨神経損傷(坐骨神経麻痺)を併発することもあります。

 

 

股関節骨折の症状

股関節の痛みや可動域制限

股関節骨折で最も重い障害を残しやすいのは、寛骨臼骨折後の股関節痛や可動域制限です。寛骨臼骨折は股関節の関節内骨折です。

 

 

<参考>
【医師が解説】関節内骨折の後遺症が等級認定されるヒント|交通事故

 

 

寛骨臼骨折は体重がかかる下肢の関節内骨折なので、少しでも関節面に段差を残すと、高度の股関節の痛みや可動域制限を残します。

 

わずかな関節面の段差であっても変形性股関節症に移行して歩行困難となることがあり、将来的に人工股関節全置換術(THA)が必要となる事案が少なくありません。

 

 

骨折部の痛み

寛骨臼骨折ほどではないものの、大腿骨頚部骨折、大腿骨転子部骨折、大腿骨転子下骨折でも骨折部の痛みを残すことがあります。

 

 

<参考>
【医師が解説】骨盤骨折の後遺症が等級認定されるポイント|交通事故
【医師が解説】恥骨骨折の後遺症が等級認定されるポイント|交通事故

 

 

下肢の神経麻痺

股関節脱臼骨折(ダッシュボード外傷)では坐骨神経損傷を、仙骨骨折では神経根損傷や馬尾損傷を合併することがあり、下肢の筋力低下、知覚低下、膀胱直腸障害をきたします。

 

 

<参考>
【医師が解説】腓骨神経麻痺の後遺症が等級認定されるポイント|交通事故

 

 

股関節骨折の診断

 
股関節骨折では、多くの事案で単純X線像(レントゲン検査)に加えてCT検査が施行されます。

 

大腿骨頚部骨折では、レントゲン検査やCT検査では分からない症例があります。このようなケースではMRI検査が有用です。

 

 

 

 

股関節骨折に対する治療

大腿骨頚部骨折の治療

大腿骨頚部が骨折すると大腿骨頭を栄養する血管が破綻するため、大腿骨頭が壊死する可能性が高くなります(大腿骨頭壊死症)。このため、大きくずれてしまった大腿骨頚部骨折では、人工骨頭置換術を選択せざるを得ません。

 

 

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大腿骨転子部骨折の治療

大腿骨転子部骨折は、股関節の外側の骨折なので血流が豊富です。このため、大腿骨頚部骨折のように大腿骨頭壊死症を併発しません。治療法は髄内釘などで骨折部をつなぐ手術になります。

 

 

intramedullary nail

 

 

大腿骨転子下骨折の治療

大腿骨転子下骨折は解剖学的な特性から手術が難しく骨癒合しにくいことで有名です。治療法は大腿骨転子部骨折と同様に髄内釘などで骨折部をつなぐ手術になります。

 

 

寛骨臼骨折や股関節脱臼骨の治療

股関節脱臼骨折(ダッシュボード外傷)を伴う場合には、緊急で全身麻酔下もしくは静脈麻酔下に、股関節の脱臼整復術を行う必要があります。

 

骨折部の転位が2mm以下の場合は保存療法が選択されます。数週間にわたる患肢の免荷が必要です。骨折部の転位が2mm以上の場合は手術療法が選択されます。

 

手術ではプレートやスクリューでの内固定手術が必要となります。寛骨臼骨折は整形外科領域の骨折の中で最も難易度の高い骨折のひとつです。私も寛骨臼骨折の手術をたくさん執刀してきましたが、何度やっても難しさを実感します。

 

 

股関節骨折で後遺障害に認定されると損害賠償金を請求できる

 

股関節骨折で後遺障害に認定されると、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益を請求できます。

 

 

後遺障害慰謝料とは

交通事故で後遺障害が残ってしまった精神的苦痛に対する補償金です。後遺障害慰謝料は、下の表のように後遺障害等級によって異なります。

 

 

後遺障害等級

後遺障害慰謝料

1級

2800万円

2級

2370万円

3級

1990万円

4級

1670万円

5級

1400万円

6級

1180万円

7級

1000万円

8級

830万円

9級

690万円

10級

550万円

11級

420万円

12級

290万円

13級

180万円

14級

110万円

 

 

後遺障害逸失利益とは

後遺障害が残ると、労働能力が低下してしまいます。労働能力が低下したために失うであろう収入の不足分に対する補償金です。

 

後遺障害逸失利益は、交通事故被害者の年収、年齢をベースにして、後遺障害等級に応じた労働能力喪失率と労働能力喪失期間で決まります。

 

 

後遺障害逸失利益の計算式

後遺障害逸失利益は、以下の計算式で算出されます。

 

基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数

 

 

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Traffic accident patient

 

 

股関節骨折で考えられる後遺障害

機能障害

8級7号:下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの

 

下記のいずれかの条件を満たすと、8級7号に該当することになります。

  • 関節が強直したもの
  • 関節の完全弛緩性麻痺又はこれに近い状態にあるもの
  • 人工関節・人工骨頭をそう入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの

 

 

10級11号:1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの

 

関節の可動域が健側の可動域の1/2以下に制限されているものです。
 

 

12級7号:1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの

 

関節の可動域が健側の可動域の3/4以下に制限されているものです。

 

 

神経障害

12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの

 

寛骨臼骨折後の股関節部痛や坐骨神経損傷による麻痺症状を、画像検査や神経伝導速度検査で他覚的所見に証明できる事案が該当します。

 

 

14級9号:局部に神経症状を残すもの

 

画像検査で変形性股関節症の所見や、神経伝導速度検査で坐骨神経損傷の所見を認めないものの、治療経過から神経症状の存在が推認される事案が該当します。

 

 

変形障害(骨が治癒しなかった)

12級8号:長管骨に変形を残すもの

 

  • 大腿骨または脛骨の直径が2/3以下に減少したもの
  • 大腿骨が外旋45度または内旋30度以上回旋変形癒合しているもの

 

大腿骨の変形障害は、骨折のCTを撮像することで判定します。

 

 

短縮障害(下肢が短くなった)

8級5号:1下肢を5センチメートル以上短縮したもの

10級8号:1下肢を3センチメートル以上短縮したもの

13級8号:1下肢を1センチメートル以上短縮したもの

 

高齢者の骨折では、3cm程度の下肢短縮は珍しくありません。いずれも下肢の長さはSMDで計測します。

 

SMD(Spina Malleollar Distance:棘果長)は、下肢の長さの計測法のひとつです。骨盤にある上前腸骨棘から足関節の内果(内くるぶし)までの距離をメジャーを用いて計測します。

 

 

<参考>
【医師が解説】脚長差(短縮障害)の評価はSMDが妥当?|交通事故

 

 

 

nikkei medical

 

 

【弁護士必見】股関節骨折の後遺障害認定ポイント

大腿骨頚部骨折の注意点

大腿骨頚部骨折で人工骨頭置換術ではなく、ネジなどで骨折をつなぐ手術(骨折観血的手術)を施行された時には、遅発性に大腿骨頭壊死症を併発することがあります。

 

骨癒合しても痛みが続く場合には、MRI検査で大腿骨頭壊死症を併発していないかを確認する必要があります。

 

 

大腿骨転子部骨折や大腿骨転子下骨折の注意点

大腿骨転子部骨折や大腿骨転子下骨折も、どちらかと言えば大腿骨ではなく股関節の外傷と言うべきでしょう。骨折自体が大きいため、股関節の可動域制限を高い確率で併発します。

 

しかし、特に若年者では単純X線像(レントゲン)では転位(ずれ)もほとんど無く骨癒合するケースが多いです。このようなケースでは股関節の可動域制限が残っているにもかかわらず、非該当や14級9号にとどまる事案を散見します。

 

この場合は画像鑑定では対応できないため、股関節外科医による医師意見書を添付して異議申立てせざるを得ません。

 

 

<参考>
【弊社ホームページ】意見書説明サイト
【医師が解説】医師意見書が交通事故の後遺症認定で効果的な理由

 

 

寛骨臼骨折や股関節脱臼骨折の注意点

寛骨臼骨折や股関節脱臼骨折は、高確率に変形性股関節症に移行します。このため、股関節の機能障害に該当するケースが多いです。

 

一方、股関節そのものの症状であれば迷うことはないですが、股関節脱臼骨折では坐骨神経損傷を合併して下肢の麻痺をきたす症例もあります。

 

坐骨神経損傷の証明には神経伝導速度検査が有用ですが、治療に直接結び付かないため実臨床では積極的に実施されているとは言い難い検査です。

 

また整形外科医といっても、寛骨臼骨折では股関節外科医の意見を聞くことが望まれます。実際に寛骨臼骨折の執刀経験のある股関節外科医とそれ以外の整形外科医とでは、病態に対する理解度が全く異なるからです。

 

股関節骨折でお困りの事案があればこちらからお問い合わせください。

 

 

inquiry

 

Traffic accident patient

 

 

まとめ

 

股関節骨折は、大腿骨側と寛骨臼側(骨盤側)の骨折に大別されます。股関節は体重を支える大きな関節の外傷なので、さまざまな後遺症を残す可能性があります。

 

股関節骨折の後遺症は多岐に渡るため、後遺障害が見落とされているケースを散見します。このような事案では、経験豊富な股関節外科医に医療相談することが望ましいでしょう。

 

 

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