交通事故コラム詳細

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2022.12.5

骨折・脱臼

【医師が解説】骨折後の痛みが後遺症認定されるポイント|交通事故

交通事故で骨折すると、折れた骨は治ったはずなのに、骨折部の痛みや関節の可動域制限が残るケースがあります。

 

これらの症状が残る原因は、関節面の不整癒合、骨折部周囲の軟部組織損傷、遷延癒合、骨の変形癒合などが考えられます。

 

本記事は、骨折後の痛みなどの後遺症が後遺障害に認定されるヒントとなるように作成しています。

 

 

最終更新日: 2024/5/16

 

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骨折後の痛みなどの後遺症が残る原因

 

骨折は治ったはずなのに、骨折部の痛みや関節の可動域制限が残る原因として、以下のようなものが考えられます。

 

  • 関節面の不整癒合
  • 骨折部周囲の軟部組織損傷
  • 遷延癒合
  • 骨の変形癒合

 

 

tibial fracture

 

 

関節面の不整癒合

関節がスムーズに動くためには、相対する2つの骨の関節面が段差の無い状態である必要があります。

 

骨折線が関節面にまで及んでいると、関節の表面に段差ができてしまいます。この状態は、関節内骨折と呼ばれています。

 

骨折による関節表面の段差がわずかなものであっても、関節面のすり合わせが悪くなってしまいます。

 

関節面のすり合わせが悪いと、時間の経過とともに関節の痛みが出たり、関節可動域制限(関節の動く範囲に制限が生じる)をきたす可能性があります。

 

膝、足首、肩、肘、手首などの骨折は、関節内骨折の可能性が高く、痛みや関節可動域制限が残りやすいです。

 

 

<参考>
【医師が解説】関節内骨折の後遺症が等級認定されるヒント|交通事故

 

 

骨折部周囲の軟部組織損傷

骨折部に直達外力が加わった場合には、骨折部周囲の軟部組織に大きなダメージが加わります。

 

また、骨折部には血種が発生します。血種は少しずつ吸収されて瘢痕組織に置き換わります。

 

骨折部周囲の軟部組織へのダメージや瘢痕組織の形成によって、小さな神経損傷が発生して痛みの原因になる可能性があります。

 

 

遷延癒合

遷延癒合とは、骨折の受傷時、もしくは手術をしてから3ヵ月経過しても、単純X線像(レントゲン検査)などで骨癒合していないものです。

 

骨折部が部分的にしか骨癒合していない状態も含まれます。骨折部の骨癒合が不十分だと、骨折部の痛みの原因となります。

 

 

<参考>
【医師が解説】偽関節の後遺症が等級認定されるポイント|交通事故

 

 

骨の変形癒合

骨が変形して治ると、痛みの原因となる可能性があります。特に、背骨が変形癒合すると、腰痛や背部痛が残りやすいです。

 

 

<参考>
【医師が解説】脊柱の変形障害、運動障害が認定されるコツ|交通事故

 

 

Lumbar spine X-ray

 

 

痛みなどの後遺症が残ることのある骨折

 

交通事故ではさまざまな部位の外傷が発生する可能性があります。その中でも後遺障害認定の対象となる代表的な傷病を抽出して、弊社の各傷病コラム記事へのリンクを張っています。

 

弊社が取り組んできた数千例に及ぶ事案から選んでいるので、自賠責保険の実務で登場する傷病のほぼ全てを網羅しています。

 

 

傷病の総論

開放骨折
関節内骨折
偽関節、遷延癒合
骨挫傷
打撲
CRPS

 

 

部位別の頻出傷病

顔面、眼、鼻、口の外傷

 

眼窩底骨折(眼窩吹き抜け骨折)
頬骨骨折
鼻骨骨折

 

 

頚椎の外傷

 

頚椎骨折

 

 

腰椎の外傷

 

圧迫骨折
腰椎横突起骨折

 

 

肩関節の外傷

 

鎖骨骨折
肩鎖関節脱臼
上腕骨近位端骨折
肩甲骨骨折

 

 

肘関節の外傷

 

肘頭骨折
肘関節骨折
肘関節脱臼

 

 

手の外傷

 

橈骨遠位端骨折
尺骨骨折
TFCC損傷
手や指の骨折(指節骨骨折、中手骨骨折、手根骨骨折)
舟状骨骨折

 

 

体幹の外傷

 

肋骨骨折
胸骨骨折

 

 

骨盤・股関節の外傷

 

骨盤骨折
股関節脱臼骨折
大腿骨骨頭骨折、大腿骨頚部骨折、大腿骨転子部骨折、大腿骨転子下骨折

 

 

大腿部の外傷

 

大腿骨骨幹部骨折

 

 

膝関節の外傷

 

大腿骨顆上骨折、大腿骨顆部骨折
脛骨高原骨折
膝蓋骨骨折

 

 

下腿の外傷

 

脛骨骨折
腓骨骨折

 

 

足の外傷

 

脛骨遠位端骨折
足関節脱臼骨折
足関節靱帯損傷
距骨骨折
踵骨骨折
中足骨骨折
リスフラン関節脱臼骨折
足趾骨折(足指骨折)

 

 

骨折後の痛みや可動域制限で想定される後遺障害

神経障害(痛み)

12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの

 

骨折においては、局所の神経損傷を伴っていることが多く経験します。その際は、tinel徴候(損傷部位を軽く叩打すると、その遠位部にチクチクと響く症状)を確認します。

 

例えば、脛骨骨幹部骨折で髄内釘を施行した事案では、高率に伏在神経膝蓋下枝損傷を併発します。

 

 

14級9号:局部に神経症状を残すもの

 

骨折後に残った痛みで最も認定されやすいのは14級9号です。大腿骨骨幹部骨折や脛骨骨幹部骨折などでしっかり骨癒合している事案では、客観的な痛みの原因を証明することは難しいケースが多いです。

 

このような事案では、12級13号が認定される可能性は非常に低いですが、14級9号が認定される可能性は十分にあります。

 

 

機能障害(上肢の関節可動域制限)

8級6号:1上肢の三大関節中の1関節の用を廃したもの

 

関節が全く動かないか、これに近い状態(関節可動域の10%程度以下)です。実臨床では、ここまで高度の関節可動域制限をきたすケースはほとんど無いです。

 

 

10級10号:1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの

 

関節の可動域が健側の可動域の1/2以下に制限されているものです。重度の粉砕骨折では、10級10号に該当する関節機能障害を残すことが時々あります。

 

 

12級6号:1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの

 

関節の可動域が健側の可動域の3/4以下に制限されているものです。実臨床でよく見かける関節機能障害です。

 

 

小関節(手指)について

 

  • 4級6号:両手の手指の全部の用を廃したもの
  • 7級7号:1手の5の手指又は母指を含み4の手指の用を廃したもの
  • 8級4号:1手の母指を含み3の手指又は母指以外の4の手指の用を廃したもの
  • 9級9号:1手の手指を含み2の手指又は母指以外の3の手指の用を廃したもの
  • 10級6号:1手の母指又は母指以外の2の手指の用を廃したもの
  • 12級9号:1手の手指、中指又は監視の用を廃したもの
  • 13級4号:1手の小指の用を廃したもの
  • 14級7号:1手の母指以外の手指の遠位指節間関節(=DIP関節)を屈伸することができなくなったもの

 

 

機能障害(下肢の関節可動域制限)

8級7号:1下肢の三大関節中の1関節の用を廃したもの

 

関節が全く動かないか、これに近い状態(関節可動域の10%程度以下)です。実臨床では、ここまで高度の関節可動域制限をきたすケースはほとんど無いです。

 

 

10級11号:1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの

 

関節の可動域が健側の可動域の1/2以下に制限されているものです。重度の粉砕骨折では、10級11号に該当する関節機能障害を残すことが時々あります。

 

 

12級7号:1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの

 

関節の可動域が健側の可動域の3/4以下に制限されているものです。膝関節や足関節では、よく見かける関節機能障害です。

 

 

小関節(足指)について

 

  • 7級11号:両足の足指の全部の用を廃したもの
  • 9級11号:1足の足指の全部の用を廃したもの
  • 11級8号:1足の第1の足指を含み2以上の足指の用を廃したもの
  • 12級11号:1足の第1の足指又は他の4の足指の用を廃したもの
  • 13級10号:1足の第2の足指の用を廃したもの、第2の足指を含み2の足指の用を廃したもの又は第3の足指以下の3の足指の用を廃したもの
  • 14級8号:1足の第3の足指以下の1又は2の足指の用を廃したもの

 

 

変形障害(上肢)

7級9号:1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの

 

上腕骨骨幹部や前腕骨幹部に癒合不全を残した場合、日常生活への支障が大きく出ます。そのため、補装具が必要なことがあります。常に硬性装具が必要であれば7級9号となります。

 

 

8級8号:1上肢に偽関節を残すもの

 

硬性装具を常に必要とするわけではない上腕骨もしくは前腕に偽関節を残す状態です。

 

 

12級8号:長管骨に変形を残すもの

 

上肢の長管骨に変形を残すものとは、次のいずれかに該当するものです。尚、同一の長管骨に以下の障害を複数残す場合でも12級8号になります。
 

  1. 上腕骨または橈骨と尺骨の両方で、15度以上変形癒合したもの
  2. 上腕骨、橈骨又は尺骨の骨端部にゆ合不全を残すもの
  3. 橈骨または尺骨の骨幹部等にゆ合不全を残すもので、硬性補装具を必要としないもの
  4. 上腕骨、橈骨または尺骨の骨端部のほとんどを欠損したもの
  5. 上腕骨(骨端部を除く)の直径が2/3以下に、または橈骨若しくは尺骨(それぞれの骨端部を除く)の直径が1/2以下に減少したもの
  6. 上腕骨が50度以上外旋または内旋変形ゆ合しているもの

 

6.上腕骨が50度以上外旋または内旋変形癒合しているものとは、次のいずれにも該当することを確認することによって判定します。

 

  • 外旋変形癒合にあっては肩関節の内旋が50度を超えて可動できないこと、また、内旋変形ゆ合にあっては肩関節の外旋が10度を超えて可動できないこと
  • エックス線写真等により、上腕骨骨幹部の骨折部に回旋変形ゆ合が明らかに認められること

 

 

実臨床の観点からは、外見から想定できる程度(15度以上屈曲して不正癒合したもの)の変形はあまり経験しません。また、上腕骨が50度以上回旋変形癒合することも、ほとんど存在しません。

 

 

変形障害(下肢)

7級10号:1下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの

 

大腿骨や脛骨、腓骨に癒合不全を残すもので、常に硬性補装具が必要であるものです。

 

プレート固定や髄内釘固定を行った後に偽関節となると、補装具なしに全荷重歩行するとスクリューやプレートが折れる可能性があります。

 

 

8級9号:1下肢に偽関節を残すもの

 

硬性装具を常に必要とするわけではない大腿骨もしくは脛骨に偽関節を残す状態です。

 

 

12級8号:長管骨に変形を残すもの

 

下肢の長管骨に変形を残すものとは、次のいずれかに該当するものです。尚、同一の長管骨に以下の障害を複数残す場合でも12級8号になります。

 

  1. 大腿骨または脛骨で、15度以上変形癒合したもの
  2. 大腿骨もしくは脛骨の骨端部に癒合不全を残すもの、または腓骨の骨幹部等に癒合不全を残すもの
  3. 大腿骨または脛骨の骨端部のほとんどを欠損したもの
  4. 上腕骨、橈骨または尺骨の骨端部のほとんどを欠損したもの
  5. 大腿骨または脛骨(骨端部を除く)の直径が2/3以下に減少したもの
  6. 大腿骨が外旋45度以上または内旋30度以上回旋変形ゆ合しているもの

 

6.大腿骨が45度以上外旋または内旋変形癒合しているものとは、次のいずれにも該当することを確認することによって判定します。

 

  • 外旋変形癒合にあっては股関節の内旋が0度を超えて可動できないこと、内旋変形癒合にあっては、股関節の外旋が15度を超えて可動できないこと
  • エックス線写真等により、大腿骨の骨折部に回旋変形癒合が明らかに認められること

 

 

骨欠損が生じて大腿骨や脛骨の直径が2/3以下に減少したものは比較的よく見られます。下腿の変形障害で認定されるのは、このケースが多いかと考えられます。

 

 

短縮障害(下肢)

8級5号:1下肢を5センチメートル以上短縮したもの

 

10級7号:1下肢を3センチメートル以上短縮したもの

 

13級8号:1下肢を1センチメートル以上短縮したもの

 

下肢の長さを測定する際は、上前腸骨棘と下腿内果下端の長さを健側と比較することによって行います。

 

 

<参考>
【医師が解説】脚長差(短縮障害)の評価はSMDが妥当?|交通事故

 

 

【弁護士必見】骨折後の痛みの原因検索は難しい

 

これまで見てきたように骨折後に残る痛みや可動域制限の原因は、関節面の不整癒合、骨折部周囲の軟部組織損傷、遷延癒合、骨の変形癒合などが考えられます。

 

これらの後遺症の原因を探るためには、レントゲン検査だけではなくCT検査やMRI検査などが必要なケースもあります。

 

骨折後に後遺症が残る原因はたくさん考えられるため、整形外科専門医による分析が必要な事案が多いです。

 

 

【12級13号】骨折後の痛みの後遺障害認定事例

事例サマリー

  • 被害者:30歳代
  • 初回申請:14級9号
  • 異議申立て:12級13号

 

高所からの転落により受傷しました。初回申請で14級9号の認定を受けましたが、症状との乖離があるため、弊社に医療相談を依頼されました。

 

 

弊社の取り組み

弊社で調査したところ、骨折部にわずかな変形が残存している可能性がありました。被害者に追加CT撮像を受けていただいたところ、脛骨外側関節面の変形が残存する画像所見が得られました(赤丸)。

 

後遺障害の蓋然性を主張する医師意見書を作成し、異議申し立てを行ったところ、12級13号が認定されました。

 

 

tibial plateau fracture

 

 

 

nikkei medical

 

 

まとめ

 

交通事故で骨折すると、折れた骨は治ったはずなのに、骨折部の痛みや関節の可動域制限が残るケースがあります。

 

これらの症状が残る原因は、関節面の不整癒合、骨折部周囲の軟部組織損傷、遷延癒合、骨の変形癒合などが考えられます。

 

骨折後に後遺症が残る原因はたくさん考えられるため、整形外科専門医による分析が必要な事案が多いです。

 

骨折後に痛みや可動域制限が残ったにもかかわらず、非該当や想定よりも低い後遺障害等級になってお困りの事案があればこちらからお問い合わせください。

 

 

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