相続争いで最も大きな問題になるのは、遺言を作成した時に、遺言者の判断能力が本当に保たれていたのかという点です。
本記事は、遺言時の判断能力の有無を証明する方法が分かるヒントとなるように作成しています。
最終更新日:2024/9/18
Table of Contents
認知症とは
認知症は、脳細胞の障害により記憶や判断力などの認知機能が低下してしまい、日常生活に支障をきたす状態です。認知症が進行すると、生活に大きな影響が現れます。
認知症の原因
認知症の主な原因として、アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症が挙げられます。
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症は、最も一般的な認知症のタイプです。このタイプの認知症は、脳内にアミロイドβと呼ばれる物質が蓄積することで発症します。
血管性認知症
血管性認知症は、認知症の中で2番目に多いタイプです。この種の認知症は、脳梗塞などの血管障害によって引き起こされます。そのため、半身麻痺などの症状がしばしば見られます。
<参考>
【医師が解説】まだら認知症は遺言能力の判断が難しい|遺言能力鑑定
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症は、脳内にレビー小体と呼ばれる物質が蓄積することで発症します。このタイプの特徴は、認知機能の低下だけでなく、歩行が不安定になり転倒しやすくなることです。
認知症と物忘れの違い
認知症は、一般的な「物忘れ」とは異なります。例えば、物忘れでは朝食で何を食べたのかを忘れることがありますが、認知症では朝食を食べたこと自体を忘れます。
認知症のリスクファクター
肥満に伴う高脂血症、糖尿病、高血圧などの状態が合併した状態は、メタボリックシンドローム(メタボ)として知られています。メタボの人は、さまざまな種類の認知症を発症するリスクが高まります。
意思能力と遺言能力の違い
意思能力とは、意思表示などの法律行為を行ったときに、自分の権利、義務、結果を判断できる精神能力です。簡単に言うと、自分の意思表示を有効に実行できる能力のことです。
一方、日常生活での意思表示と比較して、遺言を行う際には一段高いレベルの精神能力が要求されます。意思能力の中でも遺言を実行できるレベルの能力は、遺言能力と呼ばれています。
つまり、遺言能力は意思能力の一種であり、意思能力の中でも高度な判断能力なのです。
遺言では遺言能力(意思能力)が必須
具体的に言うと、遺言能力(意思能力)とは遺言の内容や法律的な効果を理解して適切に判断できる能力です。
そして、遺言を作成するためには遺言能力が必要です。遺言能力が無いと、遺言は無効になります。
遺言能力(意思能力)の判断基準
遺言能力の判断基準は、それぞれの事案によって異なります。
裁判では「総合的に見て、遺言の時点で遺言事項を判断する能力があったか否かによって判断すべき(東京地判平成16年7月7日)」という判例があります。
総合的に判断すると言われても、漠然として分かりにくいですね。過去の裁判例では、下記のような点で遺言能力の有無を判断しています。
- 精神医学的な評価
- 遺言内容
- 遺言者と相続人の人間関係
- 遺言と同じ内容を記した別資料
そろぞれの項目について、詳しく見ていきましょう。
精神医学的な評価
遺言能力(意思能力)には、遺言時における遺言者の年齢や健康状態が大きな影響を及ぼします。
一般的には認知症の進行が問題になりますが、それ以外にも癌の末期などでも、正常な遺言能力が無い可能性があります。
<参考>
【医師が解説】神経心理学的検査は高次脳機能障害の等級認定ポイント
【医師が解説】長谷川式認知症スケールの解釈|遺言能力鑑定
【医師が解説】MMSEの認知症でのカットオフ値は?|遺言能力鑑定
【医師が解説】認知症ステージ分類のFASTとは|遺言能力鑑定
【医師が解説】認知症ステージ分類のFASTとは|遺言能力鑑定
遺言内容
遺言の内容に、事実の誤認や矛盾点が無いかなども精査されます。また、遺言者の精神医学的な状態に照らし合わせて、遺言内容が複雑過ぎないかなども考慮されます。
遺言者と相続人の人間関係
遺言能力が無いことを疑わせる例として、単なる知人や疎遠な親族に財産を贈与する遺言が挙げられます。
常識的に考えて、合理的な判断とみなされない遺言内容では、遺言能力は無かったと判断される傾向にあります。
遺言と同じ内容を記した別資料
遺言者の意向が遺言とは別の資料にもあれば、遺言能力は認められやすいです。
遺言を無効にされないためのポイント
公正証書遺言を作成
公正証書遺言とは、公証役場で公証人が遺言の内容を遺言者から聞き取って作成する遺言書です。
公証人は法律の専門家なので形式不備による無効リスクは低く、遺言書の紛失や偽造を防止できます。
一般的には公正証書遺言を作成すれば完璧と思われがちですが、実際には公正証書遺言が無効になるケースを散見します。
実際に弊社でも、公正証書遺言作成時の遺言能力の有無が争点となって、遺言者の没後に遺言能力鑑定を実施する事案があります。
公正証書遺言をもってしても、完全に相続争いを回避するできるわけではないのです。
遺言能力(意思能力)を証明する資料を保管しておく
遺言能力(意思能力)の有無は、遺言時の各種資料から裁判官が推認します。下記のような資料を残しておくことが望ましいでしょう。
- 診断書
- 遺言時の頃に遺言者が記載した文書
- 遺言時の頃に撮影した遺言者の動画
- 遺言時の頃の遺言者に関する日記
これらの資料によって、遺言者の遺言能力の有無を確認できる可能性があります。
遺言能力鑑定という選択肢
ここまで見てきたように、公正証書遺言を作成して、遺言時の遺言能力(意思能力)を証明する資料を保管しておくことで、相続争いをある程度回避できます。
しかし、最も客観的と思われる精神医学的な評価に関しては、片手落ちと言わざるを得ません。弊社に相談された事案の中にも、公正証書遺言の客観性に疑問符の付くケースが多数存在します。
このような事案の中には、公正証書遺言作成時に、遺言能力の有無を医学的に証明できる遺言能力鑑定を実施していれば、相続争いを回避できたと思われる事案が存在します。
転ばぬ先の杖として、遺言能力鑑定を公正証書遺言とセットで実施しておくことが望ましいでしょう。
遺言能力鑑定に必要な資料
遺言能力鑑定は、遺言者の生前に実施しておくことが望ましいです。しかし実際に弊社への依頼の多くは没後の遺言能力鑑定です。
すでに遺言者の没後であっても、下記のような資料があれば遺言能力鑑定は対応可能です。
- 診断書(介護保険の主治医意見書を含む)
- 診療録(カルテ)
- 介護保険の認定調査票
- 画像検査
- 各種の検査結果
- 看護記録
- 介護記録
すべて揃っていることが望ましいですが、足りない資料があっても遺言能力鑑定できる可能性はあります。
これらの資料の受け渡しは、オンラインストレージもしくは郵送となります。安全性や利便性からオンラインストレージの利用を推奨しています。
ご依頼いただいた際に、オンラインストレージの使用方法を簡単にご説明させていただきます。
お困りの事案があれば、お問合せフォームからご連絡下さい。
遺言能力鑑定を作成する流れ
事前審査が必須
まず、事前審査(生前:36,000円+税、没後:95,000円+税)を実施した上で、本鑑定に進むか否かを検討していただきます。
- 弊社による簡易な資料確認結果のご連絡、および事前審査に関する見積書の送付
- お見積りにご承諾いただいた段階で、正式に事前審査を開始
- 事前審査が完了後、ご請求書の送付
- ご入金確認後、事前審査結果のご提出(電子データ)
事前審査を必須とする理由は、おおまかな遺言能力の有無を確認したうえで本鑑定に進む方が、クライアントの利益に適うからです。
本鑑定(遺言能力鑑定)
事前審査の結果を踏まえて遺言能力鑑定(本鑑定)に進む場合には、以下の流れになります。
- 弊社より見積書を送付
- お見積りをご承諾いただいた段階で、正式に遺言能力鑑定を開始
- 遺言能力鑑定案完成後、電子データにてご確認いただき、修正点があれば調整
- 遺言能力鑑定の最終稿が完成した段階で、ご請求書の送付
- ご入金確認後、レターパックにて医師の署名・捺印入り原本の発送
遺言能力鑑定の作成にかかる期間
遺言能力鑑定を作成する期間は、お見積りをご了承いただいた時点から初稿提出まで約4週間です。
遺言能力鑑定の料金
生前鑑定
事前審査:36,000円+税
本鑑定 :400,000円+税
没後鑑定
事前審査:95,000円+税
本鑑定 :350,000円+税
- 本鑑定とは別途で、事前審査(生前:36,000円+税、没後:95,000円+税)が必須です。
- 本鑑定に進まない場合にも、事前審査費用の返金は致しかねます。
遺言能力鑑定の実例
【脳神経内科】公正証書遺言作成時の遺言能力を鑑定
- 80歳台前半
- 男性
平成29年に公正証書遺言書を作成しました。しかし、当時すでに遺言者はアルツハイマー型認知症が進行しており、神経内科で治療中でした。
相続人Cは、公正証書遺言の有効性について提訴して一審勝訴、控訴審係属中に弊社に遺言能力鑑定依頼となりました。
脳神経内科医師が医証を精査したところ、頭部CTでは著明な脳萎縮を認め、脳血流シンチグラフィーでは左頭頂葉と両側後方帯状回に脳血流低下を認めました。
診療録や画像検査から、公正証書遺言の作成時に充分な遺言能力を有していたとは到底言えないことが判明しました。
公正証書遺言を作成した事実は、被相続人が遺言能力を有している証拠にはならないことの一例です。
【消化器内科】癌末期の肝性昏睡患者の遺言能力を鑑定
- 60歳台前半
- 男性
平成27年に下行結腸癌、空腸浸潤に対して左半結腸切除術、空腸合併切除、リンパ節郭清を施行しました。多発性の肝転移を認めたため根治は困難とのことで在宅医療を行っていました。
しかし病状は少しずつ増悪して、食事摂取や体動が困難となり、平成28年に緩和治療目的で入院しました。多量の鎮痛剤で癌性疼痛のコントロールを行いましたが、徐々に全身状態は衰弱しました。
永眠される3日前に、疎遠だった兄弟に財産を贈与するという内容の自筆証書遺言が作成されました。遺言書の内容を不信に思った内縁の妻側の弁護士から、遺言能力鑑定の依頼を受けました。
消化器内科医師が診療録や画像検査を精査したところ、遺言書の作成時に充分な遺言能力を有していたとは到底言えないことが判明しました。
まとめ
相続争いで最も大きな問題は、遺言時の遺言者の遺言能力(意思能力)が本当に保たれていたのかという点です。
そして、本格的に遺言能力の有無が争点になると、公正証書遺言だけでは不充分です。
生前・没後とも、遺言能力の有無を客観的に判断するためには、遺言能力鑑定が必要となります。
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