相続手続き中に、親が認知症であることがバレるとどうなるのでしょうか? 認知症の人が、相続人(遺産をもらう人)と被相続人(遺産を残す人)の2つのパターンがあります。
しかし、親の認知症が進行していることに気付いてから、遺言書の必要性に気付くことも珍しくありません。
本記事は、相続で認知症がバレるとどうなるのかと、対処法を理解するヒントとなるように作成しています。
最終更新日: 2024/12/15
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相続手続き中に認知症がバレるリスクは?
認知症がバレるリスクは高い
相続人(遺産をもらう人)の中に認知症の方がいると、銀行や家庭裁判所に認知症がバレる可能性が高いです。
相続手続き中は発覚せずに相続できたとしても、後からバレると私文書偽造(刑法159条1項)が明るみに出ることもあります。
遺産分割協議書などの相続手続き書類に、家族が署名・押印することは私文書偽造罪に該当するため違法です。
意思能力の有無の明確な判断基準はない
認知症だからといって、必ずしも遺産分割協議や相続手続きができないわけではありません。相続手続きに必要なのは「意思能力の有無」です。
法律では、意思能力がない状態で行った法的行為は無効と定められていますが、意思能力の有無に明確な基準はありません。
例えば、軽度の認知症と診断されても、本人が遺産分割の内容を十分に理解していて、適切に署名押印できれば問題ないこともあります。
意思能力の有無は、認知症専門医による診断書が重視されます。認知症の相続人がいる場合は、専門医受診の要否も含めて、相続に詳しい司法書士や弁護士に相談しましょう。
<参考>
【医師が解説】相続で認知症の程度はどこまで有効?|遺言能力鑑定
認知症の相続人がいると起こるトラブル
遺産分割協議ができない
遺産分割協議では相続人(遺産をもらう人)全員の同意が必要です。しかし、相続人の中に意思能力の無い人がいると、同意が無効になることがあります。このような場合、遺産分割協議は成立しません。
預貯金が凍結されてしまう
相続手続き時の連絡で金融機関に口座名義人の死亡が伝わると、預貯金口座が凍結されてしまいます。口座が凍結されると、遺産分割協議が成立するまで預貯金の引き出しができません。
認知症の相続人がいると遺産分割協議が成立しないので、一部の金額を除いて預貯金を引き出せない期間が続くことになります(※)。
(※)仮払い制度で、150万円または「該当金融機関の預貯金額×1/3×法定相続分」の少ない金額までは引き出せます。
不動産の扱いが困難になる
遺産に不動産がある場合は、大きな問題が発生します。遺産分割協議が成立しないと、不動産は相続人全員の共有名義になります。
不動産の共有解除には相続人全員の同意が必要なので、認知症の相続人がいると、不動産が共有状態のままになる可能性が高いです。
不動産を共有所有していると、売却時や有効活用時に全員の同意が必要です。しかし、所有者に認知症の人が居ると同意が無効になるため、不動産の扱いが極めて困難になります。
相続税対策ができなくなる
認知症の相続人がいると、相続税対策ができません。小規模宅地の特例などの相続税を軽減するための対策も、遺産分割協議ができなければ活用できません。
不動産管理が大きく制限される
認知症の相続人が不動産を相続すると、自分で判断できないので管理が難しくなります。実務では後述する成年後見制度(法定後見制度)を利用することになりますが、制限が大きくデメリットが大きいです。
制限の大きな成年後見制度を利用しなければいけない
認知症の相続人がいると、遺産分割協議や相続不動産を売却するためには、成年後見制度(法定後見制度)を利用しなければいけません。
本人に代わって成年後見人が有効な同意を行いますが、柔軟な遺産分割が難しくなるなどの問題がいくつかあります。
認知症の相続人がいるときの相続対策
任意後見制度の利用
任意後見制度は、親(後見人)が自分の意思で被後見人を選び、財産の処分を委ねる制度です。
親(後見人)が認知症で判断能力が低下した場合でも、事前に任意後見契約を結んでいれば相続対策が可能です。
ただし、この契約は親(後見人)の意思能力があるうちに結ぶ必要があります。認知症になってからでは、法定後見制度しか利用できません。
家族信託の利用
家族信託は、親が認知症になった際の資産凍結リスクを防ぐ手法で、相続対策としても注目されています。
親が認知症になっても資産に関するトラブルが発生しないよう、事前に契約を結びます。家族信託を結ぶことで、認知症になる前から相続の生前対策を進めることができます。
任意後見制度と家族信託は似ているように見えますが、以下の4つの違いがあります。
- 任意後見制度は判断能力が不十分になってから開始しますが、家族信託は契約時から開始できます
- 家族信託には身上監護権(生活、医療、介護などの契約手続きを代行する権利)がありません
- 任意後見制度には裁判所による監督があります
- 任意後見制度では積極的な財産管理ができません
任意後見制度の目的は、本人の財産の保全です。現状維持が原則となるため、積極的な相続対策は困難です。
遺言書の利用
認知症の相続人がいる場合には、遺言書を作成しておくことも有効な方法です。遺言書では、預金や不動産の承継先を指定しておきます。有効な遺言書があると、遺産分割協議を行う必要がなくなります。
ただし、遺言書作成ではトラブルが発生するケースが珍しくありません。事前に司法書士や弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。
生命保険の利用
被相続人(遺産を残す人)が、生命保険に加入することも有効な方法です。生命保険の保険金は、遺産分割協議の対象にならず、受取人が取得できます。
生前贈与の利用
認知症の相続人がいる場合には、生前贈与を利用する方法があります。認知症の相続人以外の相続人に生前贈与することで、スムーズに財産を継承できます。
ただし、生前贈与では多額の贈与税がかかる可能性が高いので注意が必要です。
被相続人が認知症のときにおこるトラブル
法律行為が無効になる
法律上、遺言書を作成するためには遺言能力が必要です(民法963条)。遺言能力とは、遺言内容やその法律効果を理解・判断するために必要な能力です。
このため、親が高度の認知症を患っていて遺言能力が無い場合には、遺言書を作成しても無効です。
遺言書の有効性が認められない可能性がある
認知症があるからといって、必ずしも遺言能力が無いわけではありません。認知症にも軽重があり、低下している能力にも大きな個人差があります。
仮に被相続人が認知症だったとしても、遺言能力を欠くほどの認知症でなければ、有効な遺言書を書くことは可能です。
成年後見制度(法定後見制度)は制限が大きい
成年後見制度は、親が認知症になっても資産管理や契約行為が可能です。しかし、成年後見制度は、本人の財産保護が目的です。
このため、成年後見制度では、遺産分割や相続税対策は実現できません。親が認知症を発症する前に、あらかじめ相続対策を検討しておきましょう。
被相続人が認知症になる前にする相続対策
被相続人が認知症になる前にできる相続対策は、以下のとおりです。
- 任意後見制度の利用
- 家族信託の利用
- 遺言書の利用
- 生命保険の利用
- 生前贈与の利用
項目を見ると分かりますが、こちらで説明した認知症の相続人がいるケースとほぼ同じです。
被相続人が認知症になったときの相続対策
認知症の程度を知る
被相続人(親)が認知症になっても、認知症には程度があるため、必ずしも遺言能力が無くなるわけではありません。
このため、どの能力がどの程度低下しているのかを把握する必要があります。認知症で低下した能力を診断するのは、脳神経内科・脳神経外科・精神科などの認知症専門医です。
親が認知症かもしれないと思ったら、できるだけ早い時期に医療機関を受診しましょう。内科などのかかりつけ医が居る場合には、まず主治医に相談することをお勧めします。
<参考>
【医師が解説】認知症の初期症状について知ろう|遺言能力鑑定
【医師が解説】認知症受診のタイミングは?|遺言能力鑑定
ある程度の認知症なら遺言は可能
認知症になった人の遺言書が有効かは、遺言能力の有無で判断されます。裁判になった場合、遺言の有効性を判断するのは裁判官です。
裁判官は、「総合的に見て、遺言の時点で遺言事項を判断する能力があったか否かによって判断すべき(東京地判平成16年7月7日)」という判例にしたがって、遺言能力の有無を判断します。詳細はこちらをご覧ください。
<参考>
【医師が解説】相続で認知症の程度はどこまで有効?|遺言能力鑑定
遺言能力があるのかを確認する
認知症の程度や症状を総合的に検討して、親に遺言能力があるのかを判断します。そして、遺言能力がある場合には、有効な遺言書を書くことが可能です。
遺言能力鑑定が訴訟で効果的
被相続人が認知症になったからと言って、相続対策がすべて無効になるわけではありません。認知症の程度によっては相続対策は十分可能です。
しかし、トラブル発生を未然に防ぎ、また有効な相続対策を実施するには、それなりの対策が必要です。その際に有効な方法の1つが、認知症専門医が作成する遺言能力鑑定です。
遺言能力鑑定は、認知症専門医がカルテ、各種検査、診断書、画像検査などを精査して、遺言者に遺言能力があったのかを総合的に鑑定します。
このため、遺言能力鑑定は、裁判官の判断に大きな影響を及ぼすケースが少なくありません。
<参考>
【生前遺言能力鑑定】認知症になる前に遺言するメリットとポイント
【遺言能力鑑定】意思能力の有無を専門医が証明|相続争い
まとめ
相続人(遺産をもらう人)の中に認知症の方がいると、銀行や家庭裁判所に認知症がバレる可能性が高いです。
認知症の相続人には意思能力が無いため、遺産分割協議ができません。遺産分割協議が成立しないと、不動産などの資産の処分ができなくなる可能性が高いです。
このため、相続人の中に認知症の方がいる場合には、あらかじめ以下のような対策をする必要があります。
- 任意後見制度の利用
- 家族信託の利用
- 遺言書の利用
- 生命保険の利用
- 生前贈与の利用
一方、被相続人が認知症になった場合には、十分な遺言能力があるのかが有効な相続対策ができるポイントになります。
遺言能力の有無を客観的に主張するためには、遺言能力鑑定が有効な手段となり得ます。お困りの事案があれば、お問合せフォームからご連絡下さい。
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