親が認知症と診断されると、「遺言書は有効なのか?」という不安を抱く方も多いでしょう。認知症でも、遺言書が無効になるとは限りません。
その判断基準となるのが「遺言能力」です。遺言能力とは、自分の意思を理解して判断できる状態です。
本記事では、遺言能力の判断基準や、認知症と遺言書の関係、無効にする手続きや有効性を守る方法について解説します。
最終更新日: 2025/1/31
Table of Contents
認知症でも遺言書が無効になるとは限らない!
遺言能力の有無が判断基準
遺言能力は、遺言の内容やその法的効果を理解して、自らの意思で適切に判断・表現できる能力です。
遺言能力の有無は、遺言の内容の複雑さや遺言者の認知機能の状態など、様々な要素を総合的に考慮して判断されます。
認知症の診断を受けていても、遺言作成時に遺言能力が認められれば、遺言書は有効とされます。
認知症と遺言能力の関係
認知症と診断されていても、遺言能力が完全に失われているわけではありません。
遺言の内容が簡潔で理解しやすかったり、遺言者の認知機能が比較的保たれていると、遺言能力が認められるケースもあります。
ただし、遺言の内容が複雑であったり、認知機能の低下が著しい場合には、遺言能力が否定される可能性もあります。
認知症の公正証書遺言が無効かは意思能力が判断基準
認知症の親が作成した遺言書が無効と判断される要因として、以下の点が考慮されます。
長谷川式認知症スケール(HDS-R)
長谷川式認知症スケール(HDS-R)は、認知症の診断や評価に用いられる検査で、30点満点中20点以下で認知症の疑いがあるとされます。
遺言作成時のHDS-Rの得点が低い場合、遺言能力がないと判断されて、遺言書が無効とされる可能性があります。
ミニメンタルステート検査(MMSE)
ミニメンタルステート検査(MMSE)は、認知機能を評価するための検査で、30点満点中23点以下で認知症の疑いがあるとされます。
遺言作成時のMMSEの得点が低いケースでは、遺言能力の欠如が疑われて、遺言書の有効性に影響を及ぼす可能性があります。
<参考>
MMSEの認知症でのカットオフ値は?|遺言能力鑑定
遺言の内容は複雑か
遺言の内容が複雑であると、遺言者がその内容を十分に理解して判断できたかが問題となります。
内容が複雑であればあるほど、遺言能力の有無が厳しく問われ、無効と判断されるリスクが高まります。
遺言の内容は合理的か
遺言書の内容が不合理であるケースでは、遺言者の遺言能力が欠如している可能性があります。
例えば、親族ではなく知人に全財産を遺贈するなど、一般的に考えて不自然な内容は、遺言書が無効とされる可能性があります。
これらの要素を総合的に考慮して、遺言能力の有無が判断されます。遺言能力の判断基準について、詳細に知りたい方は、以下のコラム記事を参照してください。
<参考>
遺言能力の判断基準4つのポイント|認知症の遺言能力鑑定
認知症の遺言書を無効にする方法
相続人の間で協議する
まず、相続人同士で話し合い、遺言書の有効性について合意を目指します。全員が遺言無効に同意すれば、遺産分割協議を行い、遺産の分配方法を決定できます。
ただし、全員の合意が必要であり、意見の対立がある場合は難航することがあります。
遺言無効確認調停
相続人間での協議がまとまらない場合、家庭裁判所に遺言無効確認の調停を申し立てます。
調停では、裁判官や調停委員が仲介して、話し合いによる解決を目指します。調停が成立すれば、遺言の無効が確認されます。
遺言無効確認訴訟
遺言無効確認調停が不成立の場合には、地方裁判所に遺言無効確認訴訟を提起します。
訴訟では、遺言者の遺言能力の有無や遺言書の形式的な不備などを証拠に基づいて主張して、遺言の無効を求めます。
裁判所が、遺言者に十分な遺言能力が無いと判断すれば、遺言書は無効となります。
遺言能力鑑定という選択肢
遺言者の遺言能力を判断するために、医療記録や専門医の意見を基に遺言能力鑑定を行うことがあります。
遺言能力鑑定の結果は、調停や訴訟において重要な証拠となります。ただし、遺言能力鑑定には時間と費用がかかるため、専門家と相談して、実施の是非を検討しましょう。
<参考>
【遺言能力鑑定】意思能力の有無を専門医が証明|相続争い
認知症の遺言書が無効にならない対策
遺言能力のあるうちに遺言書を作成
認知症の進行に伴って遺言能力が低下する前に、遺言書を作成することが重要です。早めの準備が、遺言の有効性を確保する鍵となります。
公正証書遺言を選択する
公正証書遺言は、公証人が関与して作成されるため、形式的な不備が少なく、信頼性が高いとされています。
公証人が遺言者の意思能力を確認するため、認知症の方でも有効な遺言を残しやすくなります。
<参考>
公正証書遺言は認知症でも無効は稀なのか?|遺言能力鑑定
診断書を取得しておく
遺言作成時に医師の診断書を取得して、遺言能力があったことを証明できるようにしておくと、後々の紛争防止に役立ちます。
特に認知症の初期段階での遺言作成時には、専門医による診断書の取得が推奨されます。
日記や動画などを残しておく
遺言作成時の状況や遺言能力を示すために、日記や動画などの記録を残しておくことも有効です。これらの記録は、遺言者の意思を明確に伝える証拠となります。
生前遺言能力鑑定のススメ
遺言能力を証明する手段として、生前遺言能力鑑定が効果的です。遺言能力鑑定は、認知症に詳しい専門医が、遺言者の遺言能力を詳しく評価するものです。
生前に遺言能力鑑定を受けることで、遺言書の法的有効性を確保して、後々のトラブルや相続に関する争いを未然に防ぐことが可能となります。
<参考>
【生前遺言能力鑑定】認知症になる前に遺言するメリットとポイント
認知症の遺言書でよくある質問
認知症で公正証書遺言が無効になる場合は?
公正証書遺言は、公証人が関与して作成されるため、形式的な不備が少なく、信頼性が高いとされています。
しかし、遺言者が認知症で遺言能力を欠いていると、公正証書遺言であっても無効とされる可能性があります。遺言能力の有無は、遺言作成時の遺言能力が基準となります。
<参考>
公正証書遺言は認知症でも無効は稀なのか?|遺言能力鑑定
認知症になったら生前贈与は無効ですか?
生前贈与は、贈与者と受贈者の合意によって成立する法律行為です。認知症の方が生前贈与を行う際、その意思能力が欠如していると判断されると、贈与契約は無効とされる可能性があります。
ただし、認知症の程度によっては意思能力が認められる場合もあり、医師の診断を受けて意思能力を確認することが重要です。
まとめ
認知症でも遺言書が無効になるとは限りません。遺言の有効性は「遺言能力」があるかどうかで判断されます。
遺言能力とは、遺言内容を理解して、判断できる能力です。認知症と診断されていても、遺言時に意思能力があれば遺言書は有効です。
ただし、内容が複雑で不合理な場合や認知機能の低下が著しいと、無効とされる可能性があります。
遺言書の有効性を確保するためには、公正証書遺言の作成や診断書の取得など、早めの準備が大切です。
認知症の親が作成した遺言書の遺産相続争いで、お困りの事案があれば、遺言能力鑑定が有用になる可能性があります。お問合せフォームから気軽にご連絡下さい。
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