認知症と診断された方やそのご家族にとって、「遺言は有効なのか?」という疑問は大きな関心事です。その判断基準が「遺言能力」です。遺言能力とは、自分の意思を理解して判断できる状態です。
認知症が進行すると、遺言能力に影響が出ることがあり、適切な遺言を残せるか不安に感じる方も多いでしょう。
しかし、認知症であっても遺言能力が完全に失われるわけではなく、法律上有効とされるケースもあります。では、どのような基準で遺言能力が判断されるのでしょうか?
本記事では、認知症患者の遺言能力の判断基準や、遺言を有効にするための対策、さらには死後の対応について詳しく解説します。
最終更新日: 2025/2/1
Table of Contents
認知症でも遺言能力が認められるケースがある
遺言能力とは
遺言能力とは、遺言者が遺言の内容を理解して、その結果を認識できる意思能力を指します。
具体的には、遺言によって自身の死後にどのような結果が生じるかを理解できる能力です。
認知症でも遺言能力があれば遺言書は有効
認知症であっても、民法第963条の規定では、遺言能力が認められると、作成された遺言書は有効とされています。
民法第973条では、成年被後見人であっても、一時的に判断能力が回復した際に、医師2人以上の立会いのもとで遺言を行うことができると規定されています。
認知症の程度で遺言能力が判断される
遺言能力の有無は、遺言作成時の認知症の進行度によって判断されます。遺言者の精神的状態や遺言内容の複雑さなど、さまざまな要素を総合的に考慮して判断されます。
このため、認知症の程度が軽度であれば、遺言能力が認められる可能性は十分にあります。
遺言能力の判断基準
遺言能力の判断基準では、認知機能の評価や遺言内容の性質が重要な要素となります。
長谷川式認知症スケール(HDS-R)
HDS-Rは、認知症の診断に広く用いられる検査で、30点満点中20点以下で認知症の疑いがあるとされます。
遺言能力の判断においては、一般的に20点以上で「遺言能力あり」、10点未満で「遺言能力なし」と判断される傾向があります。
ミニメンタルステート検査(MMSE)
ミニメンタルステート検査(MMSE)は、認知機能を評価するための検査で、30点満点中23点以下で認知症の疑いがあるとされます。
遺言作成時のMMSEの得点が低いケースでは、遺言能力の欠如が疑われて、遺言書の有効性に影響を及ぼす可能性があります。
<参考>
MMSEの認知症でのカットオフ値は?|遺言能力鑑定
遺言内容の複雑性
遺言の内容が複雑で専門的な場合、遺言者には高度な理解力が求められます。一方、内容が単純であれば、遺言能力が認められやすいとされています。遺言の内容と遺言者の理解力のバランスが重要です。
遺言内容の合理性
遺言の内容が遺言者の状況や背景と照らし合わせて合理的であるかも、遺言能力の判断材料となります。
例えば、特定の相続人に多くの財産を遺贈する場合、その理由が明確であれば、遺言能力が認められやすいとされています。
これらの要素を総合的に考慮して、遺言能力の有無が判断されます。遺言能力の判断基準について、詳細に知りたい方は、以下のコラム記事を参照してください。
<参考>
遺言能力の判断基準4つのポイント|認知症の遺言能力鑑定
認知症における生前の遺言書対策
遺言能力が無くなる前に遺言書を作成する
認知症の進行に伴い、遺言能力が低下する可能性があります。このため、遺言能力が十分に保たれているうちに遺言書を作成することが推奨されます。
認知症によって遺言能力が失われる前に、自らの意思を明確に示すことで、遺言の有効性を確保できます。
公正証書遺言を選択する
公正証書遺言は、公証人が関与して作成されるため、信頼性が高く、後々のトラブルを防ぐ効果があります。公証人が遺言者の意思能力を確認するため、軽度の認知症の方でも安心して利用できます。
<参考>
公正証書遺言は認知症でも無効は稀なのか?|遺言能力鑑定
診断書を取得しておく
遺言作成時の精神状態を証明するために、医師から診断書を取得しておくことが有効です。診断書によって、遺言能力があったことを後日証明しやすくなります。
遺言書と同じ内容の動画や日記を残しておく
遺言内容を補強するため、同じ内容を動画や日記として記録しておくと、遺言者の意思を明確に伝える手段となります。これらの資料は、遺言の有効性を裏付ける証拠となります。
生前遺言能力鑑定という選択肢
遺言能力を証明する手段として、生前遺言能力鑑定が効果的です。遺言能力鑑定は、認知症に詳しい専門医が、遺言者の遺言能力を詳しく評価するものです。
生前に遺言能力鑑定を受けることで、遺言書の法的有効性を確保して、後々のトラブルや相続に関する争いを未然に防ぐことが可能となります。
<参考>
【生前遺言能力鑑定】認知症になる前に遺言するメリットとポイント
認知症の親が亡くなった後の対応
不審な遺言書があれば他の相続人と話し合う
遺言書の内容や作成状況に不審な点があれば、他の相続人と情報を共有して、話し合いを行うことが重要です。共通の理解を深めて、今後の対応方針を協議します。
遺言無効確認調停
話し合いで解決しない場合、家庭裁判所に遺言無効確認調停を申し立てることができます。調停では、第三者の調停委員が仲介して、合意を目指します。調停が成立すれば、裁判よりも迅速かつ費用を抑えて解決できます。
遺言無効確認訴訟
調停が不成立になると、遺言無効確認訴訟が検討されます。裁判所で遺言の有効性を法的に争う手続きであり、証拠の提出や専門家の意見が求められます。時間と費用がかかるため、慎重な判断が必要です。
遺言能力鑑定を検討する
遺言者の遺言能力を判断するために、医療記録や専門医の意見を基に遺言能力鑑定を行うことが可能です。
遺言能力鑑定の結果は、調停や訴訟において重要な証拠となります。ただし、遺言能力鑑定には時間と費用がかかるため、専門家と相談して、実施の是非を検討しましょう。
<参考>
【遺言能力鑑定】意思能力の有無を専門医が証明|相続争い
認知症の遺言能力でよくある質問
認知症でも遺言は作れる?
認知症と診断されていても、遺言作成時に判断能力(遺言能力)が保たれていれば、遺言書を作成することは可能です。
遺言能力の有無は、遺言の内容の複雑さや合理性、遺言者の精神状態などを総合的に考慮して判断されます。
要介護3の人は遺言能力はありますか?
要介護3は、身体能力の低下や認知症の進行が見られ、常に家族のサポートや見守りが必要な状態とされています。
しかし、要介護度は主に介護の必要性を示すものであり、遺言能力の有無を直接判断する基準ではありません。遺言能力の有無は、遺言作成時の判断能力に基づき、個別に判断されます。
<参考>
要介護1の親の遺言能力は有効か?|遺言能力鑑定|認知症
まとめ
認知症でも遺言能力があれば、遺言書は有効とされます。遺言能力とは、遺言の内容を理解し、その結果を認識できる能力のことです。
民法では、判断能力があれば認知症でも遺言できるとされています。また、成年被後見人でも一時的に回復すれば、医師の立会いのもとで遺言可能です。
遺言能力の判断には、認知症の進行度や精神状態、遺言内容の複雑さなどが考慮されます。長谷川式認知症スケールやMMSEで認知機能を評価して、合理的な遺言内容であるかが判断基準になります。
認知症の親が作成した遺言書の遺産相続争いで、お困りの事案があれば、遺言能力鑑定が有用になる可能性があります。お問合せフォームから気軽にご連絡下さい。
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