高齢者が作成した遺言書は、後になって「意思能力がなかった」と争われるケースが少なくありません。
せっかく作成した遺言が、他の家族から無効であると主張されれば、相続トラブルの原因になります。
では、遺言書に必要な「意思能力」とは何を指しており、どの程度あれば足りるのでしょうか。
また、認知症がある場合や高齢の場合は、どのようにして意思能力を確認・証明するべきかも重要なポイントです。
本記事では、遺言に必要な意思能力の基準から確認方法、裁判での証明までを分かりやすく解説しています。
最終更新日: 2026/2/16
Table of Contents
- 1 意思能力とは何か?遺言における基本的な概念
- 2 高齢者の意思能力を判断する3要件
- 3 遺言書作成時の意思能力を確認する方法
- 4 意思能力と遺言でよくある質問
- 4.1 認知症でも遺言は有効に作成できるのか?
- 4.2 意思能力がないと判断される基準は何か?
- 4.3 医師の診断書があれば必ず意思能力が認められるのか?
- 4.4 公正証書遺言なら意思能力が否定されにくいのか?
- 4.5 遺言作成後に認知症が進行した場合、遺言は無効になるのか?
- 4.6 家族が「意思能力がなかった」と主張した場合、どうやって反論するのか?
- 4.7 成年後見制度を利用していると遺言は作れないのか?
- 4.8 意思能力の有無は誰が判断するのか(医師・公証人・裁判所)?
- 4.9 遺言能力を確実に残すために事前にできる対策は何か?
- 4.10 遺言の有効・無効の判断基準は「診断名」なのか「遺言作成時点の具体的な判断能力」なのか
- 5 まとめ
- 6 関連ページ
- 7 資料・サンプルを無料ダウンロード
意思能力とは何か?遺言における基本的な概念
意思能力の定義と遺言における重要性
意思能力とは、法律行為を行う際にその行為の意味や結果を理解して、自らの意思で決定を下す能力を指します。
民法第3条の2では「意思能力を有しない者の法律行為は無効とする」と規定されており、契約や遺言などすべての法律行為に適用されます。
遺言における意思能力は特に遺言能力と呼ばれ、①遺言の意味の理解 ②遺言内容の理解 ③遺言結果の理解という3つの要素が求められます。
これらが欠けていると判断された場合、どんなに形式を整えた遺言書でも法的効力を失い、被相続人の最後の意思が反映されなくなります。
意思能力が不足していると遺言は無効になる!
意思能力が不足した状態で作成された遺言書は、後に「遺言無効確認訴訟」の対象となり、無効と判断されるリスクがあります。
遺言が無効になると、被相続人の意思が反映されないだけでなく、法定相続分による分割となり相続人同士の紛争に発展します。
裁判には長期間と多額の費用がかかり、家族関係が修復不可能なほど悪化するケースも少なくありません。
特に、認知症や精神疾患がある方の遺言では、作成時点での判断能力が後日争われる可能性が高く、慎重な対応が必要です。
高齢者の意思能力の特殊性
高齢者の意思能力判断には特有の難しさがあります。例えば、長谷川式スケール(HDS-R)16点は、低い認知機能検査結果です。
しかし、生活自立度や遺言内容の単純さ、動機の合理性などを総合的に考慮して、遺言能力が認められた裁判例も存在します。
また、認知症には症状の波があり、日や時間帯によって判断力が変動するため、「良い時間帯」であれば意思能力が認められる可能性があります。
高齢者の場合、単に「認知症だから無効」と決めつけるのではなく、個別具体的な状況を丁寧に評価することが重要です。

高齢者の意思能力を判断する3要件
精神医学的な観点
精神医学的な評価は意思能力判断の中核となります。医師の診断や認知機能検査を通じて、遺言内容を理解する判断能力があるかを確認します。
具体的には、長谷川式認知症スケールやMMSE(ミニメンタルステート検査)が用いられ、記憶力、計算能力、言語能力などを測定します。
特に、精神科医や神経内科医といった認知症専門医による評価は信頼性が高く、裁判所でも重要な証拠として扱われます。
ただし、検査結果の数値だけで機械的に判断するのではなく、他の要素と併せて総合的に評価することが求められます。
遺言書の複雑さ
遺言内容の複雑さも意思能力判断の重要な要素です。単純な内容であれば、認知機能が多少低下していても意思能力が認められやすいです。
一方、複雑な内容や細かな条件が付された遺言では、より高度な判断能力が必要とされるため、意思能力が否定されやすくなります。
遺言者が、その内容について自分の言葉で説明できるか、質問に対して適切に答えられるかが、能力判断の重要な手がかりとなります。
遺言者と相続人の関係性
遺言者と相続人や受遺者との関係性や遺言の動機も考慮されます。遺言の背景を検討して、遺言内容が合理的な意思に基づくものかを判断します。
例えば、特定の相続人への遺贈に客観的な理由(介護への貢献など)がある場合、遺言の動機は理解しやすく不合理とは判断されません。
逆に、生前の言動と矛盾する内容や、外部からの不当な影響が疑われる場合は、意思能力が否定される要因となります。
遺言前後の日常生活状況や家族との関係性も、意思能力があるかどうかの総合判断の材料として重視されます。
遺言書作成時の意思能力を確認する方法
認知症専門医の診察を受ける
認知症専門医(脳神経科医や老年精神科医)による診察は、意思能力を確認する最も有効な方法です。
認知症専門医は、日常的に認知機能や判断力の評価を行っており、遺言者の状態を客観的に判断できます。
診察では、問診、神経心理学的検査、脳の画像検査などが実施されて、認知症の種類や進行度を詳細に診断します。
主治医が脳神経科や精神科の認知症専門医である場合、その診断書や所見は遺言能力を裏付ける有力な根拠となります。
ただし、認知症専門医による診察は、遺言書の作成時期に近いタイミングで行うことが重要です。
医学的証拠(医証)を集める
意思能力の有無を証明するためには、複数の医学的証拠を収集することが効果的です。
介護保険の主治医意見書や認定調査票は、被保険者の認知機能や生活状況を示す客観的な指標となります。
長谷川式認知症スケール(HDS-R)やMMSEの検査結果も重要な証拠です。さらに、診断書、診療録、画像検査なども収集しておくべきです。
これらの医証を時系列で整理して、遺言書作成時点での状態を多角的に示すことで、裁判での説得力が高まります。
遺言能力鑑定という選択肢
遺言能力鑑定とは、臨床経験豊富な脳神経科医や精神科医が各種医証を精査して、遺言書作成時の意思能力を専門的に評価する制度です。
生前の遺言書作成時にも、没後の相続トラブル時にも利用できます。遺言能力鑑定では、画像検査や診療録を詳細に分析します。
認知機能検査や生活状況を総合的に評価して、鑑定書が作成されます。裁判所でも重視される証拠となり、相続争いの予防や解決に寄与します。
弊社は、全国から遺言能力鑑定のご依頼をいただいています。遺言者の意思能力で、お困りの事案があれば、お問合せフォームからご連絡下さい。
<参考>
【遺言能力鑑定】意思能力の有無を専門医が証明|相続争い
意思能力と遺言でよくある質問
認知症でも遺言は有効に作成できるのか?
認知症と診断されても、直ちに遺言能力が否定されるわけではありません。重要なのは診断名ではなく、遺言書作成時点での判断能力です。
軽度の認知症であれば、遺言内容が本人にとって理解可能な範囲であれば意思能力が認められるケースもあります。
認知症には症状の波があるため、判断力が比較的保たれている「良い時間帯」に遺言を作成すれば、有効となる可能性があります。
意思能力がないと判断される基準は何か?
意思能力がないと判断される基準は、認知症や精神疾患により、遺言の意味・内容・結果を理解できない状態です。具体的には以下の通りです。
- 自分が誰に何を与えるのか理解できない
- 自分の財産の種類や全体像を把握できない
- 遺言書作成が持つ法的意味を認識できない
裁判では、医師の診断結果、認知機能検査の点数、生活自立度、遺言内容の複雑さ、動機の合理性などを総合的に考慮して判断されます。
意思能力があるかどうかの判断は、単一の要素だけでなく、多角的な評価が行われます。
医師の診断書があれば必ず意思能力が認められるのか?
医師の診断書は重要な証拠ですが、それだけで意思能力が自動的に認められるわけではありません。
診断書の内容、作成時期、医師の専門性(認知症専門医など)によって、証拠価値が異なります。
特に、脳神経内科、脳神経外科、精神科などの専門医による診断は有力な根拠ですが、最終的には他の状況も踏まえて総合的に判断されます。
診断書があっても、遺言作成時期から離れていれば証拠価値が低下します。また、かかりつけ医の簡易的な診断書では不十分な場合もあります。
公正証書遺言なら意思能力が否定されにくいのか?
公正証書遺言は、公証人が遺言者本人と面談して意思確認を行うため、自筆証書遺言よりも有効性が認められやすい傾向があります。
公証人は表情、言葉遣い、受け答えを通じて意思疎通が可能かを確認して、必要に応じて医師の診断書提出を求めることもあります。
しかし、公証人が認知機能の低下に気づかず、頷いているだけで意思能力があると判断してしまった事例もあります。
公正証書遺言でも、後に無効と判断されるケースは存在するため、公正証書形式であっても医学的証拠の準備が重要です。
遺言作成後に認知症が進行した場合、遺言は無効になるのか?
遺言の有効性は「作成時点」での意思能力で判断されるため、作成後に認知症が進行しても遺言は無効になりません。
遺言書を作成する時に意思能力があれば、その後の状態変化は遺言の効力に影響しないのです。
ただし、作成時に既に認知症が始まっていたかどうかが後日争点となる可能性があるため、作成時点での医学的証拠を残しておくことが重要です。
家族が「意思能力がなかった」と主張した場合、どうやって反論するのか?
家族から意思能力がなかったと主張された場合、作成時点での医学的証拠や客観的事実で反論します。具体的には、以下のような資料です。
- 遺言作成時期に近い医師の診断書や認知機能検査結果
- 介護保険の主治医意見書や認定調査票
- 遺言前後の日常生活状況を示す証拠(日記、ビデオ、証言など)
- 遺言内容の合理性や動機の説明
- 遺言能力鑑定意見書
特に、認知症専門医による遺言能力鑑定は、医学的根拠に基づいた客観的評価として裁判で重視されます。
成年後見制度を利用していると遺言は作れないのか?
成年被後見人でも遺言作成は可能ですが、厳格な要件が必要です。民法973条により、以下の3つの条件を満たせば有効に遺言できます。
- 事理弁識能力を一時的に回復したとき
- 医師2名以上の立会
- 医師が遺言書に「遺言作成時に事理を弁識する能力を有していた」旨を付記して署名押印する
ただし実務上は、立会医師の確保や公証人の判断などが厳しく、実際に作成できるケースは極めて稀です。
被保佐人や被補助人の場合は、意思能力さえあれば通常通り遺言書作成が可能です。
意思能力の有無は誰が判断するのか(医師・公証人・裁判所)?
意思能力の有無は、状況によって判断する主体が異なります。遺言時は、医師が医学的観点から判断して、公証人が法律的観点から確認します。
公証人は専門家として意思能力を厳格にチェックして、必要に応じて医師の診断書提出を求めます。
しかし、後日遺言の有効性が争われた場合、最終的な判断は裁判所(裁判官)が行います。
裁判所は医師の診断結果、検査データ、生活状況、遺言内容など多角的な証拠を総合的に考慮して意思能力の有無を判断します。
遺言能力を確実に残すために事前にできる対策は何か?
遺言能力を確実に証明するための事前対策として、以下のようなものが有効です。
- 早期の遺言作成(判断能力が十分なうちに作成)
- 公正証書遺言の活用(公証人による確認記録が残る)
- 遺言作成時期に近い医師の診断書取得
- 認知機能検査(HDS-RやMMSE)の実施と記録保存
- 遺言能力鑑定の実施
- 遺言作成過程のビデオ録画などの証拠保全
- 遺言内容を説明できる状態の記録化
特に高齢者や認知症の疑いがある場合、複数の医学的証拠を組み合わせることで、後日の紛争を予防できます。
遺言の有効・無効の判断基準は「診断名」なのか「遺言作成時点の具体的な判断能力」なのか
遺言の有効・無効の判断基準は「診断名」ではなく「遺言作成時点の具体的な判断能力」です。
認知症やアルツハイマー病という診断があっても、それだけで直ちに遺言能力が否定されることはありません。
裁判所は、遺言作成時に、①遺言の意味を理解していたか ②遺言内容を把握していたか ③その結果を認識できたかを具体的に判断します。
認知機能検査も参考にしますが、生活自立度、遺言の複雑さ、動機の合理性なども考慮するため、診断名や検査結果だけで機械的に判断しません。
まとめ
意思能力とは、法律行為の意味や結果を理解し、自分の意思で決定する能力で、民法3条の2により欠けると法律行為は無効になります。
遺言では「遺言の意味・内容・結果の理解」が必要で、不足すると遺言無効や相続紛争の原因となります。
認知症や精神疾患があっても、遺言書作成時点の判断能力があれば有効となり得ます。
意思能力生むの判断は、医師の診断、認知機能検査、遺言内容の複雑さや動機の合理性などを総合評価して、最終的には裁判所が判断します。
意思能力のトラブルで、お困りの事案があれば、お問合せフォームから気軽にご連絡下さい。
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