交通事故で負った後遺症が想定していた後遺障害に認定されないケースは多いです。そのような場合には異議申し立てしますが、12級以上の等級が認定されるハードルは高いです。
本記事は、異議申し立てで12級に認定された事例を提示することで、後遺障害12級認定のために必要なことを理解するヒントとなるように作成しています。
最終更新日: 2024/5/13
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後遺障害12級とは
後遺障害12級には1~14号の14つの等級があります。その中でも12級6号、12級7号、12級13号が認定数も多く、12級の中ではメジャーな等級と言えます。
しかし、後遺障害12級は、その下の等級である後遺障害14級と比較して、後遺障害に認定されるハードルがかなり高いです。
後遺障害14級は、症状の存在が客観的に認められなくても、通院状況や事故の大きさなどが一定の基準を満たせば認定される可能性があります。
一方、後遺障害12級では、医学的検査によって客観的に症状の存在を証明できるものでなければ認定されません。
自賠責保険の実務では、12級と14級の間には後遺障害に認定されるハードルに雲泥の差があるのです。
後遺障害12級の分類
後遺障害12級には、以下に示すように1~14号の14つの等級があります。
12級1号
1眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの
調節機能障害
遠くの物や近くの物を見た時にピントを合わせる機能が、2分の1以下になると「著しい調節機能障害」と定義されます。
運動障害
眼だけで追うことができる範囲を注視野と呼びます。注視野が2分の1になった場合になると「著しい運動障害」と定義されます。
55歳超は認定されない
眼の調節機能は加齢と共に衰えます。このため、自賠責保険の実務上は、55歳より上の年齢では後遺障害に認定されません。
12級2号
1眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの
片方のまぶたが十分に開かずに瞳孔が隠れた状態のもの、もしくは自分でまぶたを閉じれない状態です。
12級3号
7歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
歯科補綴(ほてつ)とは、歯を失ったり欠けた場合に、差し歯を入れたりブリッジなどで義歯を付けることを言います。
<参考>
【歯科医師が解説】歯牙欠損が後遺症認定されるヒント|交通事故
12級4号
片耳が半分以上無くなってしまった状態です。
<参考>
【医師が解説】醜状が後遺症認定されるポイント|交通事故
12級5号
鎖骨,胸骨,ろく骨,けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの
裸になった状態で目で見て変形していると判断できる状態です。レントゲン検査で変形がわかる程度では、後遺障害に認定されません。
<参考>
- 【医師が解説】骨盤骨折の後遺症が等級認定されるポイント|交通事故
- 【医師が解説】肋骨骨折が後遺症認定されるポイント|交通事故
- 【医師が解説】胸骨骨折の後遺症が等級認定されるポイント|交通事故
- 【医師が解説】肩甲骨骨折の後遺症が等級認定されるヒント|交通事故
- 【医師が解説】鎖骨骨折の後遺症が等級認定されるポイント|交通事故
12級6号
1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
肩関節・肘関節・手関節の関節可動域が3/4以下になった状態をいいます。
<参考>
- 【医師が解説】腱板断裂の後遺症が等級認定されるポイント|交通事故
- 【医師が解説】上腕骨近位端骨折が後遺症認定されるコツ|交通事故
- 【医師が解説】肘関節骨折が後遺症認定されるポイント|交通事故
- 【医師が解説】肘頭骨折が後遺症認定されるヒント|交通事故
- 【医師が解説】橈骨遠位端骨折が後遺症認定されるコツ|交通事故
12級7号
1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
股関節・膝関節・足関節の関節可動域が3/4以下になった状態をいいます。
<参考>
- 【医師が解説】骨盤骨折の後遺症が等級認定されるポイント|交通事故
- 【医師が解説】大腿骨骨折が後遺症認定されるポイント|交通事故
- 【医師が解説】脛骨高原骨折の後遺症が等級認定されるコツ|交通事故
- 【医師が解説】足首骨折(足関節脱臼骨折)の後遺症|交通事故
- 【医師が解説】脛骨骨折の後遺症が等級認定されるポイント|交通事故
12級8号
長管骨に変形を残すもの
長管骨とは、上腕骨、橈骨、尺骨、大腿骨、脛骨、腓骨を指します。
下記のいずれかの条件を満たすものです。
- 骨幹部・骨幹端部に癒合不全を残すものではあるが常に補装具は不要
- 15度以上屈曲して不正癒合
- 骨端部に癒合不全
- 骨端部のほとんどを欠損
- 骨端部を除く部分に直径の3分の2以下に減少した部分がある
- 明らかに回旋変形癒合が認められる
12級9号
一手の小指を失ったもの
片方の小指のPIP関節(第2関節)から末梢を欠損した場合です。
12級10号
1手の人さし指,なか指又はくすり指の用を廃したもの
片方の手の示指・中指・環指のどれかが下記状態になったものです。
- 末節骨の長さが半分以下になったもの
- MP関節もしくはPIP関節の可動域が1/2以下になったもの
- 指先の痛みや温度、あるいは触感などの感覚が完全に失われたもの
<参考>
【医師が解説】手、指の骨折が後遺症認定されるポイント|交通事故
12級11号
1足の第2の足指を失ったもの、第2の足指を含み2の足指を失ったもの又は第3の足指以下の3の足指を失ったもの
<参考>
12級12号
1足の第1の足指又は他の4の足指の用を廃したもの
<参考>
12級13号
局部に頑固な神経症状を残すもの
交通事故外傷で最も多い頚椎捻挫(むちうち)が該当する可能性があります。しかし、自賠責実務上では、12級13号に認定されるためには画像所見+身体所見と症状が一致することが絶対条件です。
これ以外にも細かい認定基準があるため、後遺障害に認定されるハードルは相当高いと言わざるを得ないです。
<参考>
12級14号
外貌に醜状を残すもの
顔や首などに大きな傷跡が残ったものです。
<参考>
【医師が解説】醜状が後遺症認定されるポイント|交通事故
後遺傷害の異議申し立てで12級になった事例
【12級6号】手首骨折の後遺障害認定事例
事案サマリー
- 被害者:42歳
- 初回申請:非該当
- 異議申立て:12級13号(局部に頑固な神経症状を残すもの)
歩行中に自動車に衝突されて橈骨遠位端骨折を受傷しました。初回申請で非該当でしたが、手首の痛みが強く日常生活への影響が大きいため、弊社に相談がありました。
弊社の取り組み
手首の痛みを精査する目的で、3テスラのMRIを再施行しました。MRIでは、TFCC損傷の所見がありました。
手の外科専門医(整形外科専門医)による意見書を作成しました。自賠責保険は手関節のTFCC損傷の存在をみとめ、12級13号を認定しました。
【12級7号】足首骨折の後遺障害認定事例
事案サマリー
- 被害者:60代男性
- 認定等級:12級13号
本件は症状固定前の時点で相談を受けた事例です。
弊社の取り組み
提出資料のレントゲン検査では変形の残存や関節症性変化を窺わせる所見はあるものの(赤丸部)、明確な他覚的所見には至らないと判断しました。この点をクリアするために、CT検査の追加撮像を提案しました。
CT検査では関節面の陥凹と変形が残存していることが確認できたため(黄丸部)、後遺障害認定で非常に有益な所見となりました。
【12級13号】眼窩底骨折の後遺障害認定事例
事案サマリー
- 被害者:30歳
- 傷病名:眼窩底骨折
- 被害者請求:14級9号
- 異議申立て:12級13号(局部に頑固な神経症状を残すもの)
バイク乗車中に自動車と衝突して受傷しました。左頬部のしびれと知覚障害が残りましたが、被害者請求では14級9号に留まりました。
弊社の取り組み
改めて画像検査を精査したところ、CT検査で神経管周囲にfree airを認めました。大学病院の耳鼻科医師(助教)による画像鑑定報告書を添付して異議申し立てしたところ、12級13号が認定されました。
<参考>
【医師が解説】眼窩底骨折の後遺症が等級認定されるヒント|交通事故
【12級13号】むちうちの後遺障害認定事例
事案サマリー
- 被害者:46歳
- 初回申請:非該当
- 異議申立て:12級13号(局部に頑固な神経症状を残すもの)
交通事故後に頚部痛と右頚部から母指にかけて放散する痛みが持続していました。痛みのため、1年以上通院、治療を余儀なくされましたが、症状は改善しませんでした。初回申請時には非該当と判定されました。
弊社の取り組み
診療録を詳細に確認すると、受傷直後から頚椎椎間板ヘルニアに特徴的な「スパーリング徴候陽性」と複数箇所に記載されていました。
MRIで、C5/6レベルに椎間板ヘルニア(矢印)を認め、患者さんの上肢痛(右母指にかけての放散痛)は椎間板ヘルニアが圧迫しているC6神経根の知覚領域と完全に一致していました。
脊椎脊髄外科指導医が診療録を確認して、初回申請時に見落とされていた身体所見を記載した医師意見書を作成しました。異議申立てを行ったところ12級13号が認定されました。
【12級13号】鎖骨骨折の後遺障害認定事例
事案サマリー
- 被害者:48歳
- 事前認定:14級9号
- 異議申し立て:神経障害として12級13号が認定
弊社の取り組み
鎖骨骨幹部骨折に対して、プレート固定術が施行されましたが痛みが残りました。
単純X線像(レントゲン検査)では骨癒合しているように見えるため、事前認定では14級9号にとどまりました。
弊社でCT検査を追加施行することを提案したところ、骨幹部に遷延癒合を確認できました。
術後に痺れが残存した鎖骨上神経障害も加味された可能性もありますが、神経障害として12級13号が認定されました。
【12級13号】腰椎捻挫の後遺障害認定事例
事案サマリー
- 被害者:46歳
- 初回申請:非該当
- 異議申立て:12級13号(局部に頑固な神経症状を残すもの)
交通事故後に腰痛と右下肢に放散する痛みが持続していました。痛みのため、半年以上通院を余儀なくされましたが、症状は改善しませんでした。初回申請時には非該当と判定されました。
弊社の取り組み
弊社に相談があり、診療録を詳細に確認すると、受傷直後から腰椎椎間板ヘルニアに特徴的な「ラセーグ徴候陽性」と複数箇所に記載されていました。
MRIで、L4/5レベルに椎間板ヘルニア(矢印)を認め、患者さんの右下肢痛は椎間板ヘルニアが圧迫しているL5神経根の知覚領域と一致していました。
脊椎外科専門医が診療録を確認したところ、初回申請時に見落とされていたため、これらの所見を丁寧に医師意見書に記載しました。
初回申請時には、腰椎MRI画像で確認できる椎間板ヘルニアの所見が軽視されていたため、読影所見の補足も行いました。異議申立てを行ったところ12級13号が認定されました。
【12級13号】脛骨高原骨折の後遺障害認定事例
事案サマリー
- 事案背景:事前認定は14級9号でしたが、後遺症との乖離があるため医療相談を受けました
- 受傷機序:高所からの転落により受傷
- 自覚症状:右膝関節の痛み、小走り時の跛行
- 画像所見:脛骨骨折部に陥凹変形を疑う所見あり(自賠責保険は「良好な整復癒合」と評価)
等級スクリーニングを実施したところ、骨折部にわずかな変形が残存している可能性がありました。被害者に追加でCTを受けていただいたところ、脛骨外側関節面に変形を認めました(赤丸)。
弊社の取り組み
自賠責保険の審査結果に対する反論および後遺障害の蓋然性を主張する医師意見書を作成して異議申立てを行いました。
事前認定では「骨折や半月板損傷は認められるものの、鏡視下観血的整復術が施行され、良好な整復癒合が認められる」として14級9号の認定にとどまっていましたが、異議申し立てでは12級13号が認定されました。
【弁護士必見】後遺障害12級認定のポイント
後遺障害12級認定はかなり難しい
交通事故で後遺障害に認定される事案では、むちうちや腰椎捻挫で後遺障害14級9号に認定されるケースが最も多いです。
一方、後遺障害12級に認定される事案では、むちうちや腰椎捻挫は激減します。その理由は、むちうちや腰椎捻挫で神経障害が認定されるハードルがかなり高いからです。
むちうちや腰椎捻挫の神経障害12級13号の自賠責認定基準は、関節機能障害12級6号や12級7号、関節の神経障害12級13号と比べても、かなり厳しいです。
そうであっても、後遺障害12級に認定されるためのステップは、基本的に後遺障害14級と変わりありません。以下に示す戦略は必須でしょう。
- どの項目が自賠責認定基準をクリアしていないのかを精査
- いかにして不足分を補うのか
大枠の考え方は変わりませんが、後遺障害12級が認定されるためには、実務レベルでは要求される基準が14級よりも更に高くなります。
後遺障害12級認定のキモは足りない医証の補充方法
後遺障害12級が認定されるためには、身体所見、画像所見、治療経過、後遺症の4つの完全一致が求められています。完全一致なので、ひとつでも欠けていると後遺障害12級には認定されません。
ほとんどの事案は、4つのうちいずれかが欠けています。実際には完全に一致している場合でも、自賠責保険が審査する資料から抜け落ちているケースも多いです。
後遺障害12級の自賠責認定基準をクリアするためには、身体所見、画像所見、治療経過、後遺症で不足しているパーツを補う新たな医証を収集する必要があります。医証にはいくつか種類がありますが、第三者医師による医師意見書と画像鑑定報告書があります。
<参考>
【医師が解説】後遺障害の異議申し立てを成功させるヒント|交通事故
自賠責認定基準を熟知している鑑定医師が作成した医師意見書や画像鑑定報告書は、後遺障害12級認定に足りないパーツを補う有力なツールとなります。
弊社では、年間1000事案の圧倒的取り組み事案数に裏付けされた医師意見書と画像鑑定報告書を提供しています。
<参考>
後遺傷害の異議申し立てで12級が認定されずにお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
まとめ
後遺障害12級には1~14号の14つの等級があります。その中でも12級6号、12級7号、12級13号が認定数も多く、12級の中ではメジャーな等級です。
しかし、後遺障害12級が認定されるためには、身体所見、画像所見、治療経過、後遺症の4つの完全一致が求められているため、後遺障害14級と比較してハードルがかなり高いです。
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