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【医師が解説】骨折と塞栓症(脳梗塞、脂肪塞栓、肺塞栓)の因果関係

大腿骨近位端骨折などの骨折後に、塞栓症(脳梗塞、脂肪塞栓症、肺塞栓症)になる事例を散見します。しかし、一般的には、脳梗塞は私病とみなされるため、骨折と脳梗塞との因果関係が争いになるケースが多いです。

 

本記事は、塞栓症(脳梗塞、脂肪塞栓症、肺塞栓症)と骨折との因果関係について解説しています。

 

 

最終更新日:2023/9/14

 

 

塞栓症とは

塞栓症の原因

塞栓症とは、血流に乗って飛んできた血栓、脂肪、細菌、空気などによって、血管が詰まる病態です。血管が詰まると、そこから先に血液が行かなくなって組織が壊死します。

 

 

塞栓症の種類

塞栓症の種類には、飛んでいくもの(塞栓子)によって、以下のように分類されます。

 

  • 血栓性塞栓症
  • アテローム塞栓症
  • 腫瘍塞栓症
  • 脂肪塞栓症
  • 空気塞栓症
  • 羊水塞栓症

 

 

最も数が多いのは、血栓性塞栓症とアテローム塞栓症です。血栓性塞栓症で有名な傷病は、脳梗塞や肺塞栓症です。一方、アテローム塞栓症では脳梗塞が有名です。

 

 

pulse oximeter

 

 

骨折に合併する可能性のある塞栓症

 

骨折後に合併しやすい塞栓症には、以下のものが有名です。

 

  • 肺塞栓症
  • 脂肪塞栓症
  • 脳梗塞

 

 

肺塞栓症

肺塞栓症の原因

 

肺塞栓症は、血の流れに乗ってきた塞栓子(血栓、脂肪、空気、腫瘍など)が、肺動脈が詰まることで生じます。肺の血管が詰まると呼吸できなくなります。

 

 

肺塞栓症の危険因子

 

肺塞栓症を発生させる危険因子として以下のものがあります。

 

  • 肥満
  • 長期臥床
  • 外傷
  • 悪性腫瘍
  • 妊娠
  • 経口避妊薬などの使用

 

 

肺塞栓症の症状

 

肺塞栓症は、突然の胸痛や呼吸困難で発症します。喀血を伴うケースもあります。長時間の飛行機などで、同じ姿勢をとり続けることで発症するエコノミークラス症候群も肺塞栓症です。

 

 

肺塞栓症の予後

 

広範な肺塞栓症では、突然死の原因になることがあります。肺塞栓症が発生してから数時間以内に死亡するケースも珍しくありません。

 

 

脂肪塞栓症

脂肪塞栓症の原因

 

脂肪塞栓症候群とは、大腿骨などの長管骨骨折や髄内釘手術をきっかけにして、中性脂肪が血管内に流入して、肺や脳の血管を詰まらせる病態です。長管骨骨折での発生率は0.9~2.2%と言われています。

 

 

脂肪塞栓症の症状

 

脂肪塞栓症では、以下の三大症状が有名です。いずれも、末梢にある微小血管が、脂肪塞栓で詰まってしまうことが原因です。

 

  • 呼吸不全
  • 中枢神経症状
  • 皮膚点状出血

 

 

脂肪塞栓症が発生しやすい骨折

 

脂肪塞栓症を発生しやすい骨折には以下のものがあります。

 

  • 大腿骨骨幹部骨折
  • 脛腓骨骨折
  • 大腿骨近位部骨折

 

 

脂肪塞栓症の予後

 

脂肪塞栓症の予後は比較的良好で、適切な対処すれば後遺症を残すことなく回復すると言われています。しかし、肺の障害が強いケースでは、死亡することもあります。

 

 

 

stroke

 

 

脳梗塞

脳梗塞の原因

 

脳梗塞とは、脳の動脈が詰まってしまい、そこから先に血液が行かなくなって脳組織が壊死する傷病です。

 

 

脳梗塞の分類

 

脳梗塞は、血管が詰まる原因によって、以下に分類されます。脳梗塞の塞栓症には、心原性脳塞栓症が該当します。

 

アテローム血栓性脳梗塞

高血圧や糖尿病などを放置していると、血管が傷んで動脈硬化を引き起こします。動脈硬化が起こると、動脈が狭くなったところに血栓を生じやすくなります。血栓が大きくなると、血流を止めてしまい脳梗塞を引き起こします。

 

アテローム血栓性脳梗塞は、高血圧、高脂血症、糖尿病などの基礎疾患を持っている人に起こりやすいと言われています。

 

心原性脳塞栓症

心房細動や心臓弁膜症などの心疾患があると、心臓内に血栓を生じることがあります。心臓の中に出来た血栓は、血流に乗って脳に送り出されて脳の血管を詰まらせます。

 

右脳や左脳全体を栄養する血管を詰まらせるケースが多いため、アテローム血栓性脳梗塞と比べて、脳の広い範囲に脳梗塞を引き起こすケースが少なくありません。

 

ラクナ梗塞

ラクナ梗塞は、高血圧のために脳の深い場所に存在する細い血管が詰まって発症します。ラクナ梗塞で詰まるのは細い血管なので、小さな脳梗塞に留まるケースが多いです。

 

 

脳梗塞の危険因子

 

脳卒中治療ガイドライン2015では、脳梗塞を発生させる危険因子として以下の8つを挙げています。

 

  • 加齢
  • 高血圧
  • 糖尿病
  • 脂質異常症
  • 不整脈(心房細動)、心臓弁膜症
  • 喫煙
  • 飲酒
  • 全身の高い炎症状態

 

 

脳梗塞の症状

運動障害

右(左)半身全体を動かせないなどの片麻痺、手足や指を動かしにくくなる単麻痺、言葉を話しにくくなる、物を飲み込めなくなるなどの、さまざまな症状が現れます。

 

感覚障害

手足のしびれや、感覚の消失(触っても分からない)などの症状が現れます。

 

失語症

言葉を言えなくなる、文字を読めなくなる、字を書けなくなるなどの症状が現れます。

 

高次脳機能障害

記憶障害、注意障害、社会的行動障害などの人格変化を伴う、さまざまなタイプの障害を引き起こします。

 

 

<参考>
【医師が解説】高次脳機能障害の後遺症が認定されるコツ|交通事故

 

 

 

nikkei medical

 

 

骨折と塞栓症の因果関係

骨折と肺塞栓症の因果関係

肺塞栓に関しては、骨折した事案では、因果関係がみとめられやすい傾向にあります。その理由は、肺塞栓症の危険因子に、外傷や長期臥床が挙げられているからです。

 

 

骨折と脂肪塞栓症の因果関係

脂肪塞栓症に関しては、診断が確定している事案では、骨折との因果関係がみとめられやすい傾向にあります。

 

しかし、骨折から1日以内の死亡例では、死因が脂肪塞栓症か否かの判断が難しいこともあります。このようなケースでは、骨折との因果関係が争われる傾向にあります。

 

 

骨折と脳梗塞の因果関係

一般的な脳梗塞の危険因子には挙げられていませんが、高齢者の骨折手術では、術後に脳梗塞を生じるリスクがあります。

 

しかし、自賠責保険は、骨折と脳梗塞の因果関係を認めないケースが多いです。このような場合には、交通事故被害者の既往歴や治療経過を慎重に精査する必要があります。

 

弊社の経験では、骨折と脳梗塞との因果関係を主張できる事案が多いです。このようなケースでは、専門医による医師意見書が必須と言えるでしょう。

 

弊社では事案に応じて、脳神経内科医師、循環器内科医師、整形外科医師のいずれか単独、もしくは複数の科の医師意見書を作成しています。

 

 

<参考>
【医師が解説】脳梗塞と交通事故の因果関係|高次脳機能障害

 

 

まとめ

 

塞栓症とは、血流に乗って飛んできた血栓、脂肪、細菌、空気などによって、血管が詰まる病態です。血管が詰まると、そこから先に血液が行かなくなって組織が壊死します。

 

骨折後に合併しやすい塞栓症には、以下のものが有名です。

 

  • 肺塞栓症
  • 脂肪塞栓症
  • 脳梗塞

 

 

骨折と塞栓症の因果関係に関しては、肺塞栓症や脂肪塞栓症は、因果関係が認められやすいです。一方、脳梗塞に関しては、因果関係が認められにくいです。

 

骨折と塞栓症(脳梗塞、脂肪塞栓、肺塞栓)の因果関係証明でお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。

 

 

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