人生の大切な意思を残す手段として「遺言書」を考える方は多いでしょう。しかし、せっかく作成しても、法律の要件を満たしていなければ無効になってしまう可能性があります。
遺言書が無効になると、相続人同士のトラブルを招いたり、希望していた財産の分配が叶わなかったりすることも。そうした事態を防ぐためには、「法的に有効な遺言書」の要件を正しく理解して、適切に作成することが重要です。
本記事では、遺言書が法的に有効とされるための条件や、無効になりやすいケースについて詳しく解説します。また、自筆証書遺言の形式的要件や「遺言能力」に関するポイントについても触れています。
最終更新日: 2025/3/6
Table of Contents
法的に有効な遺言書とは
法的に有効な遺言書は、遺言者の意思を確実に反映して、相続手続きの円滑化に寄与します。
遺言書が法的効力を持つためには、形式的および実質的な要件を満たす必要があります。
以下では、法定遺言事項、自筆証書遺言の形式的要件、公正証書遺言の有効性について解説します。
法的に有効な遺言書でできる3つのこと(法定遺言事項)
遺言書には、遺言者の意思を法的に実現するための特定の事項(法定遺言事項)を記載できます。主なものは以下の3つです。
1. 相続分の指定
法定相続分と異なる割合で財産を分配したい場合に有効です。
2. 遺産分割方法の指定
具体的な財産の分配方法を指定して、相続人間の争いを防げます。
3. 遺言執行者の指定
遺言内容を確実に実行するための遺言執行者を指定できます。
自筆証書遺言では形式的要件を満たす必要がある
自筆証書遺言は、遺言者が自ら全文、日付、氏名を手書きして、押印することで成立します。形式的要件を満たさない場合、無効となる可能性があります。
また、訂正箇所がある場合は、遺言者がその場所を指示して、署名・押印する必要があります。これらの要件を厳守することで、遺言書の有効性が確保されます。
公正証書遺言は法的に有効な可能性が高い
公正証書遺言は、公証人が遺言者の口述を基に作成して、証人2名の立会いのもとで行われます。公証人が関与するため、形式的要件の不備や内容の不明確さが避けられ、無効となるリスクが低減します。
また、原本が公証役場に保管されるため、紛失や改ざんの心配も少なく、遺言者の意思を確実に実現する手段として信頼性が高いとされています。
法的に有効な自筆証書遺言の形式的要件
1. 遺言者が自筆で書く
遺言書の全文は、遺言者自身が手書きで記載する必要があります。パソコンや代筆による作成は無効となります。
ただし、財産目録に関しては、パソコンでの作成や通帳のコピー添付が認められています。その場合でも、各ページに遺言者の署名押印が必要です。
2. 作成日を自筆で書く
遺言書には、作成した日付を正確に記載する必要があります。「○月吉日」のような曖昧な表現は無効となる可能性があります。年月日を具体的に明記して、遺言書の有効性を確保しましょう。
3. 氏名を自筆で書く
遺言者の氏名を自筆で記載することが求められます。これにより、遺言書の作成者が誰であるかを明確にして、偽造や改ざんを防止します。
4. 押印する
遺言書には、遺言者自身の押印が必要です。印鑑の種類に関しては、実印である必要はなく、認印や指印でも有効とされています。ただし、確実性を高めるために、実印の使用が推奨されます。
5. 訂正は押印して欄外に訂正箇所を書いて署名する
遺言書の内容を訂正する際には、訂正箇所を明確に示して、その近くに訂正の旨を付記して、署名押印する必要があります。この手続きを怠ると、訂正部分が無効となる可能性があります。
1~5の要件を満たすことで、自筆証書遺言は法的に有効となり、遺言者の意思を確実に伝える手段となります。
遺言書が無効になるケース
遺言書は、遺言者の最終意思を法的に反映させる重要な文書です。しかし、以下のようなケースでは遺言書が無効となる可能性があります。
自筆証書遺言で形式的要件を守っていない
自筆証書遺言は、遺言者が自ら全文、日付、氏名を手書きして、押印する必要があります。
これらの形式的要件を満たさない場合、遺言書は無効と判断される可能性があります。
例えば、パソコンで作成された遺言書や、日付が不明確なもの、押印が欠けているものなどは無効となります。
遺留分を侵害している
遺留分とは、法律で定められた相続人が最低限受け取ることが保証されている財産の割合です。
遺言書の内容が遺留分を侵害していると、侵害された相続人は遺留分減殺請求を行えます。その結果、遺言書の一部または全部が無効となる可能性があります。
遺言能力が無い
遺言能力とは、遺言を作成する時点で、遺言者が自身の行為の結果を理解して、適切に意思表示できる精神的能力を指します。
認知症や精神疾患などにより、遺言能力が欠如していると判断されると、遺言書は無効とされることがあります。
<参考>
相続で認知症の程度はどこまで有効?|遺言能力鑑定の有用性
遺言能力鑑定という選択肢
遺言者の遺言能力に疑義が生じた事案では、認知症専門医による遺言能力鑑定が行われるケースがあります。
遺言能力鑑定は、遺言作成時の遺言者の精神状態を医学的・心理学的に評価して、遺言の有効性を判断するための手段です。
遺言書作成時における遺言能力の有無が争点になっている事案に対して、有力な証拠となる可能性があります。
<参考>
【遺言能力鑑定】意思能力の有無を専門医が証明|相続争い
法的に有効な遺言書でよくある質問
法務局で遺言書を作る費用はいくらですか?
法務局では遺言書の内容に関する相談や作成は行っていませんが、自筆証書遺言を保管する「自筆証書遺言書保管制度」を利用する際には、手数料として3,900円が必要です。
エンディングノートは遺言書になる?
エンディングノートは、葬儀の希望や家族へのメッセージなどを記載するもので、法的効力はありません。
遺産分割の意思を確実に伝えるには、法律で定められた形式に則った遺言書を作成する必要があります。
メモに書いた遺言は効力がありますか?
遺言書が法的に有効となるためには、全文、日付、氏名を遺言者が自筆して、押印する必要があります。これらの要件を満たさないメモ書きは、遺言書としての効力を持ちません。
遺言書はパソコンで書いたものだと無効ですか?
自筆証書遺言は、遺言者が全文を自筆する必要があり、パソコンで作成したものは無効となります。
ただし、公正証書遺言など他の形式の遺言書では、パソコンでの作成が認められる場合があります。
口頭で遺言をしたら効力はある?
原則として、遺言は書面で作成する必要があります。口頭での遺言は、特別な場合(死亡の危急時など)を除き、法的効力を持ちません。
まとめ
法的に有効な遺言書は、相続手続きを円滑にして、遺言者の意思を確実に反映させる重要な書類です。
自筆証書遺言は全文を自筆して、日付・氏名・押印が必要ですが、形式を守らないと無効になります。
一方、公正証書遺言は公証人が作成して、証人の立会いのもとで成立するため、確実性が高いです。
遺言書が無効となるケースとして、形式の不備、遺言能力の欠如、遺留分の侵害などがあり、適切な方法で作成することが重要です。
遺言書作成時における遺言能力の有無で争いの事案では、認知症専門医による遺言能力鑑定が有用かもしれません。お困りの事案があれば、お問合せフォームから気軽にご連絡下さい。
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