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【医師が解説】SLTA標準失語症検査|高次脳機能障害

高次脳機能障害は重い症状を残すため、大きな後遺症を抱えたまま社会生活を送らざるを得ません。しかし、後遺症を客観的に判定することは難しいです。その理由は、高次脳機能障害のすべての後遺症を、一括して評価できる検査が存在しないからです。

 

高次脳機能障害の後遺症のひとつに、言語機能障害(失語症)があります。言語機能障害の程度を測る代表的な検査が、SLTA(Standard Language Test of Aphasia)標準失語症検査です。

 

本記事は、SLTA(Standard Language Test of Aphasia)標準失語症検査を理解することで、高次脳機能障害が等級認定されるヒントとなるように作成しています。

 

 

最終更新日:2023/4/6

 

 

高次脳機能障害とは

 

高次脳機能障害とは、脳損傷に起因する認知障害全般を指ます。高次脳機能障害の後遺症には、失語症・失行症・失認症などの巣症状のほか、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などがあります。

 

 

<参考>
【医師が解説】高次脳機能障害が後遺症認定されるポイント|交通事故

 

 

神経心理学的検査とは

 

課題に対する被験者の反応を得点化する心理検査のうち、主に脳損傷による高次脳機能障害の診断と評価に用いられるものを神経心理学的検査といいます。神経心理学的検査は大別すると、以下の項目に分類されます。

 

  • 知能検査
  • 記憶検査
  • 言語機能検査
  • 注意力検査
  • 遂行(前頭葉)機能検査
  • その他

 

 

言語機能検査の代表的なものが、SLTA(Standard Language Test of Aphasia)標準失語症検査です。

 

 

<参考>
【医師が解説】神経心理学的検査は高次脳機能障害の等級認定ポイント

 

 

aphasia

 

 

失語症とは

失語症は言語能力の障害

失語症とは、言語能力が障害されることで、話す、書く、読む、理解するなどの言語的な活動が困難になる状態を指します。

 

 

失語症の原因

失語症は、脳の特定の領域が損傷を受けたことによって引き起こされることが一般的です。脳卒中(脳梗塞や脳出血)、外傷性脳損傷以外にも、脳腫瘍や感染症などが原因となることもあります。

 

 

失語症の症状

失語症の症状には、言葉の出しにくさ、言葉を認識できない、文章が理解できない、話すことができない、書くことができないなどがあります。

 

 

失語症の種類

 

失語症には、以下のような種類があります。

 

 

  • 運動性失語(Broca失語症)
  • 感覚性失語(Wernicke失語症)
  • 健忘失語(失名詞失語)
  • 全失語

 

 

運動性失語(Broca失語症)

左側の前頭葉(Broca野)損傷が原因です。話すことが難しく、言葉を探しているような印象を与えます。文法や構文の間違いが多く、言葉が詰まりやすい傾向があります。

 

 

感覚性失語(Wernicke失語症)

左側の側頭葉(Wernicke野)損傷が原因です。話すことは流暢ですが、意味が通じない言葉を発しているケースが多いです。文法的に正しい言葉を使っていることもありますが、その文脈や意味が理解できないために、会話に参加することが難しくなります。

 

 

健忘失語(失名詞失語)

相手の話を理解できて会話も滑らかですが、物や人の名前が出てこない症状が特徴的です。物や人の名前が出てこないため、回りくどい話し方になる傾向にあります。

 

 

全失語

読む、書く、話す、聞く、などが困難となる重度の言語機能障害です。会話をほとんど理解できず、意味のある言葉も言えなくなります。コミュニケーションをとるのが極めて難しいです。

 

 

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SLTA標準失語症検査とは

SLTA標準失語症検査は言語機能障害(失語症)の検査

SLTA(Standard Language Test of Aphasia)標準失語症検査は、失語症の有無、重症度、タイプなどを評価できます。

 

 

SLTA

 

 

SLTAの下位検査

SLTAの下位検査は26項目で構成されています。26項目では、「聴く」「話す」「読む」「書く」「計算」のいずれかを評価します。

 

 

SLTA

 

 

SLTAの評価

下位検査の各項目を、以下のような6段階で評価します。

 

 

高次脳機能障害の評価バッテリー

高次脳機能障害の神経心理学的検査

高次脳機能障害の神経心理学的検査には、全般的認知機能をみる検査と、記憶や前頭葉機能といった個別の認知機能を評価する検査に分けられます。

 

 

全般的認知機能を評価する検査

 

知能検査

 

記憶検査

 

 

個別の認知機能を評価する検査

 

言語機能検査

 

注意力検査

 

遂行(前頭葉)機能検査

 

 

推奨されている高次脳機能障害の評価バッテリー

高次脳機能障害の評価では、一般的に以下のような神経心理学的検査の組み合わせ(評価バッテリー)が推奨されています。

 

 

全般的認知機能検査

ウェクスラー成人知能検査 (WAIS-Ⅳ)

 

記憶機能検査

ウェクスラー記憶検査(WMS-R)
リバーミード行動記憶検査 (RBMT)

 

注意機能検査

TMT (trail making test) 線引きテスト

 

遂行機能検査

遂行機能の行動評価法 (BADS)
ウィスコンシンカードソーティングテスト(WCST)

 

社会的行動検査

認知-行動障害尺度(TBI-31)

 

 

SLTA

 

 

【弁護士必見】高次脳機能障害認定のポイント

画像所見と意識障害のクリアが最初の関門

頭部外傷の後遺障害は、大きく分けて高次脳機能障害と身体機能性障害に大別されます。実務上は、高次脳機能障害に認定されるか否かが最初の関門になります。

 

高次脳機能障害が認定されるためには、多くの事案で画像所見と意識障害をクリアできるのかがポイントになります。

 

まず画像所見ですが、脳実質の損傷を示す脳挫傷痕、脳萎縮、脳室拡大などが認められる必要があります。

 

受傷直後の急性期に「派手な」所見があっても、慢性期になると消失している事案が多いことには注意が必要です。

 

次に意識障害ですが、受傷直後に声掛けしなければ開眼しないレベル以上の意識障害を認めた、もしくはある自分の名前や生年月日が言えない等の意識障害が、ある一定期間は持続したというカルテの記録が必要です。

 

画像所見と意識障害をクリアした事案に対して、「神経心理学的検査」「神経系統の障害に関する医学的意見」「日常生活状況報告」を勘案して、何級に該当するのかが判断されることになります。

 

 

高次脳機能障害では意識障害はそれほど重視されない

最近の傾向として、意識障害はそれほど重要視されておらず、少なくとも絶対視されていないと感じています。

 

意識障害が軽度や短時間であっても、画像所見、神経系統の障害に関する医学的意見、日常生活状況報告と併せて総合的に判断しているのでしょう。

 

従来であれば、高次脳機能障害に認定されなかったであろう事案が、事実上のMTBIとして認定されるケースを散見します。

 

 

<参考>
【医師が解説】MTBIの後遺症が障害認定されるヒント|交通事故
【医師が解説】高次脳機能障害、MTBI、非器質性精神障害は類似病態
【日経メディカル】交通事故における曖昧な高次脳機能障害の定義

 

 

脳外傷では高次脳機能障害と身体性機能障害を分離しない

脳外傷による後遺障害では、身体のあらゆる部位にさまざまな症状を残します。そして身体だけではなく、精神状態にも障害を残すことがあります。

 

臨床的には脳外傷による種々の障害を分離することは困難であり、このことは自賠責保険の考え方にも踏襲されています。

 

このため脳外傷による後遺障害では、高次脳機能障害と身体性機能障害を分離することなく、それらの障害による就労制限や日常生活制限の程度に応じて総合的に等級評価を行います。

 

上記の例外は、眼、耳、鼻などの感覚器に生じた障害です。これらの障害がある際には、脳の障害と別の障害として等級を算出して両者を併合します。

 

高次脳機能障害と身体性機能障害に関しては併合されるのではないかと考えがちです。しかし実際には、精神障害も含めて総合的に等級判断されることになります。

 

尚、総合的に等級判断する際には労働能力の喪失程度を基準とされますが、学生や家事労働者、高齢者では日常生活に支障をきたす程度で等級判断します。

 

 

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高次脳機能障害は主観的要素の強い検査が争点となる

自賠責保険の後遺障害認定では、科としての性質の違いから、客観性の幅に大きな違いがあると感じています。

 

最も客観的と思われる科は外科・内科であり、これに次ぐのは耳鼻咽喉科や眼科、そして整形外科と続きます。もっとも主観が入る科は脳神経外科や精神科です。

 

外科や内科は検査結果や画像所見でほぼ等級が決まるため、主観的な要素が入ることはさほどありません。耳鼻咽喉科や眼科もほぼ同様です。

 

整形外科も客観的な要素が強いですが、領域が多岐に渡り事案数も多いため、主観的要素の入った後遺障害認定をせざるを得ない事案が一定数認められます。

 

一方、脳神経外科は画像検査もあるから客観的要素が強いと思いがちですが、高次脳機能障害に関してはそうではありません。

 

かなりひどい脳挫傷があっても、1対1対応で後遺症を残すとは限らないからです。このような現実に即して、自賠責保険の後遺障害認定基準も画像ではなく神経心理検査に重きを置いています。

 

 

<参考>
【医師が解説】神経心理学的検査は高次脳機能障害の等級認定ポイント
【医師が解説】WAISとWMS-Rは高次脳機能障害の等級認定ポイント
【医師が解説】MMSEの認知症でのカットオフ値は?|遺言能力鑑定
【医師が解説】長谷川式認知症スケールの解釈|遺言能力鑑定
【医師が解説】MMSEと長谷川式認知症スケールの違い|遺言能力鑑定
【医師が解説】レーブン色彩マトリックス検査RCPM|高次脳機能障害
【医師が解説】リバーミード行動記憶検査RBMT|高次脳機能障害
【医師が解説】SLTA標準失語症検査|高次脳機能障害
【医師が解説】TMT(trail making test)の検査法|高次脳機能障害
【医師が解説】BADS遂行機能障害症候群の行動評価|高次脳機能障害
【医師が解説】WCSTウィスコンシンカードソーティングテスト|高次脳機能障害

 

 

そして周知のように、神経心理学的検査は極めて主観性の強い検査です。このため、訴訟になると医証の解釈で争いになります。同じ医証を見ているのに、双方の主張が真っ向から対立することも稀ではありません。

 

弊社には、頻回に反論意見書の作成依頼があります。そして、自賠責保険ではマイナー科である内科・外科などとは異なり、膨大な医証を読み解く必要はあるものの何とか反論できる事案が多いです。

 

 

<参考>
【日経メディカル】交通事故における曖昧な高次脳機能障害の定義
【日経メディカル】交通事故後の高次脳機能障害を見逃すな!把握しにくい2つの理由
【医師が解説】脳挫傷の後遺症が等級認定されるポイント|交通事故
【医師が解説】脳出血が後遺症認定されるポイント|交通事故
【医師が解説】外傷性くも膜下出血が後遺症認定される要点|交通事故
【医師が解説】びまん性軸索損傷が後遺症認定されるヒント|交通事故
【医師が解説】慢性硬膜下血腫の後遺症|交通事故

 

 

 

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経時的に増悪する高次脳機能障害は争いになる

 

高次脳機能障害の障害の程度が最も強いのは受傷時です。ほとんどの事案は、経時的に障害が軽快していきます。少なくとも増悪するケースはありません。

 

高次脳機能障害は非進行性なので、経時的に増悪する障害は自賠責保険の後遺障害認定で争いになりやすいです。

 

障害が経時的に悪化する事案は、交通事故で負った障害に加えて、加齢によって障害が増悪した可能性があります。特に高齢者の高次脳機能障害では、私病の影響も出やすいので注意が必要です。

 

 

まとめ

 

高次脳機能障害の診断と評価に用いられる神経心理学的検査のうち、言語機能検査の代表的なものがSLTA(Standard Language Test of Aphasia)標準失語症検査です。

 

高次脳機能障害による言語機能障害(失語症)は、非進行性の障害です。このため、進行性の言語機能障害は外傷以外の要因が影響しているとされて、自賠責保険の後遺障害認定で争いになりやすいです。

 

高次脳機能障害でお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。

 

 

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