関節内骨折の事案は、後遺障害等級が認定されやすい傾向にあります。なぜ関節内骨折は、通常の骨折よりも重視されているのでしょうか。
その理由は、関節内骨折を受傷すると将来的に変形性関節症に移行して、関節痛や可動域制限を残す可能性が高くなるからです。
本記事は、関節内骨折の後遺症が等級認定されるヒントとなるように作成しています。
最終更新日:2024/11/12
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関節内骨折とは
関節内骨折とは、骨折線が関節の表面(関節面)にまで及んだ骨折形態です。関節がスムーズに動くためには、相対する2つの骨の関節面が段差の無い状態である必要があります。
骨折線が関節面にまで及んでいると、関節の表面に段差ができてしまいます。骨折による段差がわずかなものであっても、関節面のすり合わせが悪くなってしまいます。
関節面のすり合わせ悪い状態が続くと、将来的に関節の痛みが出たり、関節の動く範囲に制限が生じる可能性があります。
大腿骨の真ん中で骨折した場合は、多少の骨のずれ(転位)は許容されます、しかし、大腿骨遠位部の膝関節内部の骨折では、わずかな関節面の段差も許容されません。
このため、よほど骨折のずれが少ない症例以外は、手術をおこなって関節面の段差を寸分たがわず整復する必要があります。
関節内骨折では、骨だけではなく骨の表面を覆っている関節軟骨まで傷めてしまいます。残念ながら現在の医療水準では、関節軟骨を完全に元に修復することは不可能です。
このため、手術をおこなっても関節痛やの可動域制限などの後遺症が残ることが少なくありません。
交通事故での関節内骨折の受傷機序
交通事故で関節内骨折を受傷する原因は、関節を強打して骨折するケースと、関節に捻じりの力が加わって骨折するケースの2つのパターンがあります。
関節内骨折の症状
関節内骨折で残る可能性のある主な後遺症は、関節痛と関節の可動域制限です。これらの症状はお互いに密接に関係しており、2つの症状が併存するケースが多いです。
関節内骨折の診断
関節内骨折では、骨のずれ(転位)の小さい症例が多いです。小さな骨のずれでも大きな後遺症を残すため、診断には慎重を期す必要があります。
まず単純X線像で診断しますが、手術を前提にする症例ではCTが必須です。単純X線像やCTでは診断できないような僅かな転位の症例では、MRIが必要なケースもあります。
交通事故で受傷する可能性のある主な関節内骨折
肩関節周囲の関節内骨折
肘関節の関節内骨折
- 上腕骨顆部骨折
- 上腕骨通顆骨折
- 尺骨肘頭骨折
手関節の関節内骨折
手や手指の関節内骨折
股関節の関節内骨折
膝関節の関節内骨折
足関節の関節内骨折
足部の関節内骨折
関節内骨折に対する治療
関節内骨折の保存療法
股関節、膝関節、足関節などの体重のかかる荷重関節では、基本的に手術が必要な症例が多いです。
しかし、ほとんど関節面に段差(転位)が無い症例では、手術せずにギプスやシーネで外固定したうえで体重をかけない治療方法(免荷療法)が選択されるケースもあります。
関節内骨折の手術療法
前述したように、多くの関節内骨折の症例では手術療法が選択されます。
手術の種類としては、直視下もしくは関節鏡視下に関節面の段差を整復した後に、チタン製のプレートやスクリューを使用して内固定する方法が主流です。
関節内骨折が変形性関節症に移行する理由
関節内骨折が変形性関節症に移行する理由として、主に下記の2つが挙げられます。
- 関節面に段差が残存して関節の適合性が破綻する
- 関節内骨折の受傷時に関節軟骨の損傷を併発している
まず、①関節の適合性が破綻ですが、正常の関節は極めて精巧な2つの関節面から構成されています。例えてみれば、関節の表面は鏡面加工のようになっており、ほぼ同じ曲率半径の関節面が2つそろうことで、痛みのない関節運動が可能となります。
関節内骨折では、そのうちの片方の関節が段違いになるため、関節の適合性が破綻してしまいます。片方が正常でも、関節内骨折をおこした方の関節はガタガタになるため、関節を動かす毎にゴリゴリ鳴って関節を破壊し続けます。
つまり、関節内骨折は、関節破壊を引きおこすトリガーとなるのです。このため通常の骨幹部骨折と比較して、関節内骨折の有無は後遺障害等級認定において重視されます。
②関節軟骨損傷ですが、正常の関節では骨端の表面は「鏡面加工」された関節軟骨に覆われています。この弾力性があって表面がツルツルの関節軟骨が存在するおかげで、スムーズな関節の動きが可能となります。
関節内骨折を受傷する時には関節に軸方向の強烈な力が加わるため、関節内骨折=関節軟骨損傷の等式が成り立ちます。
傷んだ関節軟骨は正常の軟骨に再生することはなく、性能に劣る線維性軟骨に置き換わります。線維性軟骨は関節軟骨としての性能に劣るため、経年的に変形性関節症へ移行する原因となります。
このように①②の原因が重なることで、将来的に大きな障害をきたす素因ができてしまうのです。
関節内骨折で考えられる後遺障害
局部の神経障害(痛み)
等級 | 認定基準 |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの
骨折においては、局所の神経損傷を伴っていることが多く経験します。その際は、tinel徴候(損傷部位を軽く叩打すると、その遠位部にチクチクと響く症状)を確認します。
例えば、脛骨骨幹部骨折で髄内釘を施行した事案では、高率に伏在神経膝蓋下枝損傷を併発します。
14級9号:局部に神経症状を残すもの
骨折後に残った痛みで最も認定されやすいのは14級9号です。大腿骨骨幹部骨折や脛骨骨幹部骨折などでしっかり骨癒合している事案では、客観的な痛みの原因を証明することは難しいケースが多いです。
このような事案では、12級13号が認定される可能性は非常に低いですが、14級9号が認定される可能性は十分にあります。
機能障害(上肢の関節可動域制限)
等級 | 認定基準 |
8級6号 | 上肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの |
10級10号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
12級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの |
8級6号:1上肢の三大関節中の1関節の用を廃したもの
関節が全く動かないか、これに近い状態(関節可動域の10%程度以下)です。実臨床では、ここまで高度の関節可動域制限をきたすケースはほとんど無いです。
10級10号:1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
関節の可動域が健側の可動域の1/2以下に制限されているものです。重度の粉砕骨折では、10級10号に該当する関節機能障害を残すことが時々あります。
12級6号:1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
関節の可動域が健側の可動域の3/4以下に制限されているものです。実臨床でよく見かける関節機能障害です。
小関節(手指)について
- 4級6号:両手の手指の全部の用を廃したもの
- 7級7号:1手の5の手指又は母指を含み4の手指の用を廃したもの
- 8級4号:1手の母指を含み3の手指又は母指以外の4の手指の用を廃したもの
- 9級9号:1手の手指を含み2の手指又は母指以外の3の手指の用を廃したもの
- 10級6号:1手の母指又は母指以外の2の手指の用を廃したもの
- 12級9号:1手の手指、中指又は監視の用を廃したもの
- 13級4号:1手の小指の用を廃したもの
- 14級7号:1手の母指以外の手指の遠位指節間関節(=DIP関節)を屈伸することができなくなったもの
機能障害(下肢の関節可動域制限)
等級 | 認定基準 |
8級7号 | 下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの |
10級11号 | 1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
12級7号 | 1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの |
8級7号:1下肢の三大関節中の1関節の用を廃したもの
関節が全く動かないか、これに近い状態(関節可動域の10%程度以下)です。実臨床では、ここまで高度の関節可動域制限をきたすケースはほとんど無いです。
10級11号:1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
関節の可動域が健側の可動域の1/2以下に制限されているものです。重度の粉砕骨折では、10級11号に該当する関節機能障害を残すことが時々あります。
12級7号:1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
関節の可動域が健側の可動域の3/4以下に制限されているものです。膝関節や足関節では、よく見かける関節機能障害です。
小関節(足指)について
- 7級11号:両足の足指の全部の用を廃したもの
- 9級11号:1足の足指の全部の用を廃したもの
- 11級8号:1足の第1の足指を含み2以上の足指の用を廃したもの
- 12級11号:1足の第1の足指又は他の4の足指の用を廃したもの
- 13級10号:1足の第2の足指の用を廃したもの、第2の足指を含み2の足指の用を廃したもの又は第3の足指以下の3の足指の用を廃したもの
- 14級8号:1足の第3の足指以下の1又は2の足指の用を廃したもの
変形障害(上肢)
等級 | 認定基準 |
7級9号 | 偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの |
8級8号 | 偽関節を残すもの |
12級8号 | 長管骨に変形を残すもの |
7級9号:1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの
上腕骨骨幹部や前腕骨幹部に癒合不全を残した場合、日常生活への支障が大きく出ます。そのため、補装具が必要なことがあります。常に硬性装具が必要であれば7級9号となります。
8級8号:1上肢に偽関節を残すもの
硬性装具を常に必要とするわけではない上腕骨もしくは前腕に偽関節を残す状態です。
12級8号:長管骨に変形を残すもの
上肢の長管骨に変形を残すものとは、次のいずれかに該当するものです。尚、同一の長管骨に以下の障害を複数残す場合でも12級8号になります。
- 上腕骨または橈骨と尺骨の両方で、15度以上変形癒合したもの
- 上腕骨、橈骨又は尺骨の骨端部にゆ合不全を残すもの
- 橈骨または尺骨の骨幹部等にゆ合不全を残すもので、硬性補装具を必要としないもの
- 上腕骨、橈骨または尺骨の骨端部のほとんどを欠損したもの
- 上腕骨(骨端部を除く)の直径が2/3以下に、または橈骨若しくは尺骨(それぞれの骨端部を除く)の直径が1/2以下に減少したもの
- 上腕骨が50度以上外旋または内旋変形ゆ合しているもの
6.上腕骨が50度以上外旋または内旋変形癒合しているものとは、次のいずれにも該当することを確認することによって判定します。
- 外旋変形癒合にあっては肩関節の内旋が50度を超えて可動できないこと、また、内旋変形ゆ合にあっては肩関節の外旋が10度を超えて可動できないこと
- エックス線写真等により、上腕骨骨幹部の骨折部に回旋変形ゆ合が明らかに認められること
実臨床の観点からは、外見から想定できる程度(15度以上屈曲して不正癒合したもの)の変形はあまり経験しません。また、上腕骨が50度以上回旋変形癒合することも、ほとんど存在しません。
変形障害(下肢)
等級 | 認定基準 |
7級10号 | 偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの |
8級9号 | 偽関節を残すもの |
12級8号 | 長管骨に変形を残すもの |
7級10号:1下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの
大腿骨や脛骨、腓骨に癒合不全を残すもので、常に硬性補装具が必要であるものです。
プレート固定や髄内釘固定を行った後に偽関節となると、補装具なしに全荷重歩行するとスクリューやプレートが折れる可能性があります。
8級9号:1下肢に偽関節を残すもの
硬性装具を常に必要とするわけではない大腿骨もしくは脛骨に偽関節を残す状態です。
12級8号:長管骨に変形を残すもの
下肢の長管骨に変形を残すものとは、次のいずれかに該当するものです。尚、同一の長管骨に以下の障害を複数残す場合でも12級8号になります。
- 大腿骨または脛骨で、15度以上変形癒合したもの
- 大腿骨もしくは脛骨の骨端部に癒合不全を残すもの、または腓骨の骨幹部等に癒合不全を残すもの
- 大腿骨または脛骨の骨端部のほとんどを欠損したもの
- 上腕骨、橈骨または尺骨の骨端部のほとんどを欠損したもの
- 大腿骨または脛骨(骨端部を除く)の直径が2/3以下に減少したもの
- 大腿骨が外旋45度以上または内旋30度以上回旋変形ゆ合しているもの
6.大腿骨が45度以上外旋または内旋変形癒合しているものとは、次のいずれにも該当することを確認することによって判定します。
- 外旋変形癒合にあっては股関節の内旋が0度を超えて可動できないこと、内旋変形癒合にあっては、股関節の外旋が15度を超えて可動できないこと
- エックス線写真等により、大腿骨の骨折部に回旋変形癒合が明らかに認められること
骨欠損が生じて大腿骨や脛骨の直径が2/3以下に減少したものは比較的よく見られます。下腿の変形障害で認定されるのは、このケースが多いかと考えられます。
短縮障害(下肢)
等級 | 認定基準 |
8級5号 | 1下肢を5センチメートル以上短縮したもの |
10級8号 | 1下肢を3センチメートル以上短縮したもの |
13級8号 | 1下肢を1センチメートル以上短縮したもの |
下肢の長さを測定する際は、上前腸骨棘と下腿内果下端の長さを健側と比較することによって行います。
<参考>
【医師が解説】脚長差(短縮障害)の評価はSMDが妥当?|交通事故
【弁護士必見】関節内骨折の後遺障害認定ポイント
関節内骨折の画像検査チェックポイント
関節内骨折では、
- 症状固定時の関節面の段差の有無
- 外傷性変形性関節症の所見の有無
を精査することが、後遺障害に等級認定されるために重要です。
また、画像所見の精査以外にも、診療録で治療経過を確認して後遺障害の存在を証明する必要があるケースも多いです。
関節内骨折の後遺障害を証明する方法は、整形外科専門医でなければ正確に見極めることはできません。
非整形外科専門医が異議申立てを主導した場合は、知らないうちに機会損失を被っている可能性があるので注意が必要です。
関節内骨折では健側との比較が重要
関節内骨折の画像所見は、非整形外科専門医にとって非常に微妙で僅かな変化です。このため、患側の関節の画像所見を見ているだけでは、その有意所見を見逃してしまいがちです。
このような場合にお勧めするのが、健側との比較です。整形外科専門医でさえも、初診時には健側と比較することをルーチン化している医師が多いです。
関節内骨折では経時的評価も重要
健側の画像所見だけではなく、受傷後半年、1年、2年といった経時的な変化も重要です。経験豊富な弁護士は左右比較やCTでの評価を行いますが、経時的変化にまでは気が回らないことが多いです。
関節内骨折では、経時的に変形性関節症が進展することが多いです。特に膝関節や股関節などでは比較的高率に関節症性変化が進行します。
このような経時的変化を提示できれば、異議申し立ての際に後遺障害等級認定の鍵となることがあります。
関節内骨折の事案でスムーズに後遺障害等級が認定されなかった場合は、むしろ経時的な変形性関節症の増悪を観察できるチャンスと捉えて、その点を検証することも重要だと思います。
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<参考>
【等級スクリーニング】後遺障害認定と対策を精査|医療鑑定
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<参考>
交通事故の医師意見書が後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
画像鑑定報告書
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<参考>
【画像鑑定】交通事故の後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
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まとめ
関節内骨折は後遺症を残しやすい傷病です。しかし診断を含めた後遺障害等級認定のポイントは、個々の事案によって全く異なります。
このため、関節内骨折の後遺障害が適正に等級認定されるためには、整形外科専門医の助けが必要でしょう。
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