認知症の親が遺言を残したら、本当にその遺言書が法的に有効かどうかを、確認することが非常に重要です。
特に、親の認知症が進行していると、遺言書の有効性をめぐって、相続人間のトラブルになるケースが後を絶ちません。
本記事では、認知症の親が遺言書を作成する際の注意点や、法律的な要件について詳しく解説しています。
最終更新日: 2024/12/15
Table of Contents
認知症と遺言書の基礎知識
認知症とは?その症状の概要
認知症とは、脳の神経細胞が死滅したり、働きが低下することで、記憶や判断力などの認知機能が低下して、日常生活に支障をきたす状態です。
認知症の主な原因として、アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症などが挙げられます。
認知症の症状は、物忘れや見当識障害、判断力の低下などです。認知症が進行すると、日常生活に大きな影響を与えます。
遺言書の法的要件とは
遺言書が法的に有効となるためには、以下の要件をすべて満たす必要があります。これらの要件を満たしていない遺言書は、相続争いの原因となり得ます。
1. 遺言者の遺言能力
遺言者が遺言内容を理解して、その結果を認識できる遺言能力が必要です。認知症などで遺言能力が低下していると、遺言書が無効とされる可能性があります。
2. 形式要件の遵守
遺言書は法定の形式に従って作成されなければなりません。具体的には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があり、それぞれに決まった作成方法があります。
自筆証書遺言
全文を遺言者が自筆して、日付と署名を添える必要があります。
公正証書遺言
公証人が作成して、2人以上の証人の立会いが必要です。遺言者の意思や内容が公証人によって確認されるため、無効になるリスクが低いです。
秘密証書遺言
遺言書の内容を遺言者が秘密にできます。公証人と2人の証人の前で封をして署名する形式です。
3. 内容の明確性
遺言書の内容が明確で、具体的に記載されている必要があります。曖昧な表現や不明確な記載があると、法的効力が認められない可能性があります。
4. 法定相続人の権利
遺言書の内容が法定相続人の遺留分を侵害していないことも重要です。遺留分とは、法定相続人が最低限受け取ることが保証されている遺産の割合のことです。
認知症と遺言のトラブルは非常に多い
認知症の親が作成した遺言書は、その有効性が問題になりやすいです。認知症の進行のため遺言能力が疑われることが多く、遺言書の内容が法的に認められない可能性があります。
特に、遺言書の内容が複雑であったり、合理性が欠けている場合は、遺言無効確認訴訟が提起されることもあります。
認知症の親が書いた遺言を無効にできる?
遺言能力の判断基準
遺言能力の判断基準は、遺言者の精神状態や遺言内容の複雑性など、複数の要素を総合的に考慮して判断されます。
具体的には、遺言者の精神医学的な評価、遺言内容の複雑性、遺言者と相続人の関係、遺言内容の合理性などが考慮されます。
1. 長谷川式認知症スケールの点数
遺言能力の判断基準の代表的なものに、長谷川式認知症スケール(HDS-R)があります。長谷川式認知症スケールは、認知症の診断に用いられる評価尺度です。
30点満点中20点以下で認知症の疑いがあるとされています。遺言能力の判断においても、長谷川式認知症スケールの点数が重要な指標となります。
2. カルテや介護記録の記載内容
遺言者のカルテや介護記録は、遺言能力の判断において重要な資料となります。これらの記録には、遺言者の精神状態や日常生活の状況が詳細に記載されており、遺言能力の有無を判断するための重要な証拠となります。
3. 遺言の内容が複雑か否か
遺言内容が簡単であれば、遺言能力が認められやすくなります。逆に、遺言内容が複雑であれば、その内容を理解し判断する能力が必要となり、遺言能力が否定される可能性が高くなります。
4. 遺言内容の合理性
遺言内容が合理的であるかどうかも、遺言能力の判断に影響を与えます。遺言内容が不合理であれば、遺言能力が疑われる可能性があります。
<参考>
遺言能力の判断基準4つのポイント|認知症の遺言能力鑑定
遺言無効確認手続の流れ
遺言無効確認手続は、まず家庭裁判所に調停を申し立て、その後、調停が不成立の場合に訴訟を提起する流れとなります。
調停では、裁判官と調停委員が間に入って話し合いを行い、合意が得られなければ訴訟に移行します。
遺言無効確認訴訟で必要な資料
遺言無効確認訴訟では、遺言者のカルテや介護記録、筆跡鑑定の結果、遺言作成時の医師の診断書などが重要な証拠となります。これらの資料をもとに、遺言能力の有無を立証することが求められます。
遺言能力鑑定という選択肢
遺言能力鑑定では、診療録、画像検査、各種の神経心理学的検査、介護保険の認定調査票などを認知症専門医が精査して、遺言者の遺言能力を評価します。
遺言書の有効性に疑問がある場合、遺言能力鑑定を実施して、その結果を基に遺言書の無効を主張することができます。
遺言能力鑑定の報告書は、裁判所での証拠として用いられ、遺言書の有効性を判断する重要な材料となります。
遺言能力鑑定は費用がかかりますが、訴訟における有力な資料となります。また、遺言書作成時に取得しておくと、遺言能力の証明になるでしょう。
<参考>
【遺言能力鑑定】意思能力の有無を専門医が証明|相続争い
トラブルを回避!認知症患者による遺言書作成のポイント
遺言能力があるうちに遺言書作成を
遺言書は、遺言能力があるうちに作成することが重要です。遺言能力とは、遺言の内容を理解し、その結果を認識できる能力のことです。
認知症が進行すると、遺言能力が低下して、遺言書が無効とされる可能性があります。
したがって、遺言者がまだ遺言能力を保っている段階で、早めに遺言書を作成することが推奨されます。
公正証書遺言を利用する
公正証書遺言は、公証人が作成する遺言書なので、法的に最も確実な方法とされています。
公証人が遺言者の意思を確認して遺言書を作成するため、無効になるリスクが少なく、信頼性が高いです。
また、遺言書の内容が明確に記録されるため、相続人間のトラブルを防ぐ効果もあります。
遺言執行者の選定と役割
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う人です。
遺言執行者を選定することで、遺言内容の実現が確実に行われ、相続手続きがスムーズに進みます。
遺言執行者には、相続財産の管理や相続人への通知、財産目録の作成などの役割があります。
医師による診断書の重要性
医師の診断書は、遺言者が遺言能力を有していることを証明する重要な医証です。診断書があれば、遺言書の有効性を主張できます。
診断書には、遺言者の認知機能や精神状態が記載してもらう必要があります。特に認知症の疑いがある場合は、認知症専門医による診断書の取得が不可欠です。
生前遺言能力鑑定の検討を
遺言能力を証明するためには、生前遺言能力鑑定が有効です。生前遺言能力鑑定は、認知症専門医によって行われ、遺言者の遺言能力を評価します。
生前遺言能力鑑定を実施することで、遺言書の効力を担保して、将来的な紛争を防ぐことができます。
<参考>
【生前遺言能力鑑定】認知症になる前に遺言するメリットとポイント
認知症の遺言トラブルでよくある質問
認知症の疑いがある人が遺言をしたらどうなるのか?
認知症の疑いがある人が遺言を作成した場合、その遺言の有効性は、遺言者の遺言能力に依存します。
認知症であっても、遺言者が遺言内容を理解しており、その効果を認識できる状態であれば、遺言書は有効とされます。
ただし、遺言者の遺言能力が疑われる場合には、遺言無効確認訴訟が提起される可能性もあります。
認知症の人が相続した土地を放置してもいいですか?
相続人が認知症の場合、遺産分割協議が難航することが多く、土地の管理や処分が適切に行われない可能性があります。しかし、認知症の人が相続した土地を放置することは推奨されません。
成年後見制度を利用して、後見人が土地の管理や処分を行うことが一般的です。放置すると、土地の価値が下がるだけでなく、法的なトラブルが発生する可能性もあります。
認知症の人が遺言書を偽造したらどうなる?
認知症の人が遺言書を偽造した場合、その遺言書は無効となります。さらに、偽造行為は刑事罰の対象となり、私文書偽造罪や偽造有印私文書行使罪に問われる可能性があります。
まとめ
遺言書が法的に有効となるためには、遺言者が遺言内容を理解できる能力(遺言能力)が必要です。
遺言書は自筆証書、公正証書、秘密証書の3種類があり、それぞれ特定の形式で作成する必要があります。内容が明確であり、法定相続人の遺留分を侵害していないことも重要です。
認知症と遺言のトラブルは多く、内容が複雑であったり合理性に欠ける場合、遺言無効確認訴訟が提起されることもあります。
遺言能力の判断基準には、認知症スケールの点数やカルテの記載内容などがあります。遺言が無効とされる場合は、家庭裁判所での調停や訴訟が必要です。
遺言書の有効性を保つためには、生前に公正証書遺言を作成し、医師の診断書を取得しておくことが推奨されます。
認知症の親が作成した遺言トラブルでお困りの事案があれば、遺言能力鑑定が有効になる可能性があります。お問合せフォームから気軽にご連絡下さい。
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