あなたやご家族は認知症とは無縁だと思っていませんか? 認知症の家族がいると、相続対策ができなくなったり無効になる可能性があります。
現在、約439万人が認知症を患い、約380万人が軽度認知障害(MCI)です。つまり、65歳以上の高齢者2900万人のうち約1/4が認知症やその予備軍なのです。
認知症になると、本人はもちろん家族は多くの問題に直面します。特に、資産を持つ家庭では相続対策が困難になります。
本記事は、認知症になると相続対策がなぜできないのかと、どのような対策を取ればよいのかをを知るヒントとなるように作成しています。
最終更新日: 2024/9/18
Table of Contents
親が認知症だと相続対策できない
意思能力と遺言能力
意思能力とは、権利や義務、結果を総合的に判断して実行できる力のことです。例えば、生命保険のプランを理解して選ぶ能力です。
一方、遺言能力は意思能力の中でも、より高いレベルの能力です。遺言内容やその法律効果を理解して判断できます。
認知症になると遺言能力が低下する
認知症になると、物忘れなどの記憶障害だけではなく、理解力や判断力も低下します。このため高度の認知症の人には遺言能力が無いです。
遺言能力が無いと遺言は無効になる
認知症の人が書いた遺言書は、自動的に無効になるわけではありません。遺言書の有効性は、遺言能力の有無で決まります。
認知症が進行して遺言能力を無くした人が作成した遺言書は、無効になるので注意が必要です。
<参考>
【遺言能力鑑定】認知症の人が書いた遺言書は有効か?
遺言能力の有無はどう判断するの?
遺言能力の判断基準について、「総合的に見て、遺言の時点で遺言事項を判断する能力があったか否かによって判断すべき」という判例(東京地裁、平成16年7月7日)があります。この「総合的に見て」という表現は抽象的ですが、具体的には以下の4つの基準で判断されます。
- 精神医学的な評価
- 遺言内容
- 遺言者と相続人との人間関係
- 遺言と同じ内容の別資料
精神医学的な評価
遺言者の年齢や健康状態が影響します。高齢や健康状態が悪いと遺言能力は低下しやすいです。末期癌、腎不全、肝硬変、大腿骨骨折などで体力が消耗すると遺言能力が低下することがあります。
遺言内容
遺言者の年齢や普段の生活能力と比べて遺言の内容が難しすぎる場合は、本人が作成したのか疑われます。
遺言者と相続人との人間関係
遺言者と深い関係のない知人に財産を贈与するのは稀です。不合理な遺言は、遺言能力が無かったと判断されやすいです。
遺言と同じ内容の別資料
日記などに同じ内容が記載されている場合、遺言内容を理解していた可能性が高く、遺言能力が充分だったと判断されやすいです。
<参考>
【遺言能力鑑定】遺言能力の判断基準4つのポイント|認知症
遺言能力の有無は4基準の総合判断
遺言者に遺言能力が有るか否かは、これまで説明してきた4つの基準を総合的に精査して判断します。
一般的に最も重視されるのは精神医学的な評価ですが、遺言内容、遺言者と相続人との関係、遺言と同じ内容の別資料も考慮されます。
精神医学的な評価で最も一般的なのは、長谷川式認知症スケールという認知機能テストです。このテストは簡単に実施できるため、日本中の医療機関や介護施設で広く使われています。
長谷川式認知症スケールが10点以下の場合、高度な認知症とみなされ、遺言が無効と判断されやすいです。
<参考>
【医師が解説】長谷川式認知症スケールの解釈|遺言能力鑑定
【医師が解説】認知症ステージ分類のFASTとは|遺言能力鑑定
【医師が解説】MMSEの認知症でのカットオフ値は?|遺言能力鑑定
【医師が解説】MMSEと長谷川式認知症スケールの違い|遺言能力鑑定
認知症になる前に行うべき相続対策
認知症になる前に遺言を作成する利点は、相続対策に制限がないことです。親が軽度の認知症でも相続対策は難しくなります。
遺言などの本格的な相続対策をすぐに行う予定がなくても、「任意後見制度」や「家族信託」を利用して認知症への備えが可能です。
任意後見制度
任意後見制度は、認知症や障害に備え、ご本人が選んだ任意後見人に代わりにしてもらいたいことを契約で決める制度です。この契約は、公証人が作成する公正証書によって結ばれます。
親が認知症を発症して意思能力を失っても、事前に任意後見契約を結んでいれば相続対策が可能です。
重要なのは、親に意思能力があるうちに契約を結ぶことです。認知症になってからでは任意後見契約はできず、制約の多い法定後見制度しか利用できなくなります。
家族信託
家族信託は、財産を信頼できる家族に託し、特定の目的に従って管理・処分・承継する方法です。認知症で判断能力が低下しても、家族信託により財産を柔軟に活用できます。
家族信託は、親が認知症になった際の資産凍結を防ぐ方法ですが、相続対策としても注目されています。ただし、任意後見契約と同様に、親が認知症になる前に契約する必要があります。
任意後見制度と家族信託の4つの違い
任意後見制度と家族信託は、親が認知症になるリスクがある際に有効な手段ですが、4つの違いがあります。
- 任意後見制度は親が認知症になってから開始する
- 任意後見制度は身上監護権(生活、医療、介護などの契約手続きを代行)がある
- 任意後見制度は裁判所による監督がある
- 任意後見制度は積極的な財産管理ができない
上記をまとめると、任意後見制度よりも家族信託の方が自由度が高いと言えます。その理由は、任意後見制度の目的は財産保全だからです。
現状維持が原則なので、積極的な相続対策は難しいです。相続対策の観点では、家族信託の方が使い勝手が良いでしょう。
任意後見制度や家族信託を利用しない場合の相続対策
遺言能力を証明する資料を収集
任意後見制度や家族信託を利用しない場合には、親が健康なうちに以下の資料を収集しておくことが望ましいです。相続争いが発生した場合、裁判官はこれらの資料をもとに遺言能力を判断します。
- 診断書
- 遺言時の親が記載した文書
- 遺言時の親の動画
- 遺言時の親の日記
これらの資料は、親に遺言能力があったことを証明する可能性があります。
生前遺言能力鑑定の重要性
認知症と診断されなくても、物忘れが増えてきた親の遺言能力を証明するために、生前に遺言能力鑑定を行うことが有力です。認知症専門医が各種資料を精査し、親の遺言能力の有無を鑑定します。
遺言能力鑑定は費用がかかりますが、相続争いを防ぐための重要な資料となります。遺言書作成時に鑑定を受けておくと、遺言能力の証明に役立ちます。
<参考>
【弊社ホームページ】遺言能力鑑定 特設サイト
【生前遺言能力鑑定】認知症になる前に遺言するメリットとポイント
相続対策する前に認知症になったら?
認知症になったら法定後見制度しかない
法定後見制度は、認知症などで判断能力が不十分な人の権利を保護する制度です。判断能力の程度に応じて、後見、保佐、補助の3つの類型があります。
判断能力を常に欠いている人には成年後見人を、著しく不十分な人には保佐人を、不十分な人には補助人を裁判所が選任して支援します。
法定後見制度では遺言できない
法定後見制度は、親が認知症になっても資産管理や契約行為を可能にしますが、財産保護が目的のため、遺産分割や相続税対策はできません。
親が認知症を発症する前に、あらかじめ相続対策を検討しておくことが重要です。
認知症になった被相続人の遺言能力の証明は?
遺言能力鑑定に必要な資料
認知症になった親の没後であっても、以下のような資料があれば遺言能力鑑定は対応可能です。
- 診断書(介護保険の主治医意見書を含む)
- 診療録(カルテ)
- 介護保険の認定調査票
- 画像検査
- 各種の検査結果
- 看護記録
- 介護記録
すべて揃っていることが望ましいですが、足りない資料があっても遺言能力鑑定できる可能性はあります。
これらの資料の受け渡しは、オンラインストレージもしくは郵送となります。安全性や利便性からオンラインストレージの利用を推奨しています。
ご依頼いただいた際に、オンラインストレージの使用方法を簡単にご説明させていただきます。
遺言能力鑑定を作成する流れ
事前審査が必須
まず、事前審査(生前:36,000円+税、没後:95,000円+税)を実施した上で、本鑑定に進むか否かを検討していただきます。
- 弊社による簡易な資料確認結果のご連絡、および事前審査に関する見積書の送付
- お見積りにご承諾いただいた段階で、正式に事前審査を開始
- 事前審査が完了後、ご請求書の送付
- ご入金確認後、事前審査結果のご提出(電子データ)
事前審査を必須とする理由は、おおまかな遺言能力の有無を確認したうえで本鑑定に進む方が、クライアントの利益に適うからです。
本鑑定(遺言能力鑑定)
事前審査の結果を踏まえて遺言能力鑑定(本鑑定)に進む場合には、以下の流れになります。
- 弊社より見積書を送付
- お見積りをご承諾いただいた段階で、正式に遺言能力鑑定を開始
- 遺言能力鑑定案完成後、電子データにてご確認いただき、修正点があれば調整
- 遺言能力鑑定の最終稿が完成した段階で、ご請求書の送付
- ご入金確認後、レターパックにて医師の署名・捺印入り原本の発送
遺言能力鑑定の作成にかかる期間
遺言能力鑑定を作成する期間は、お見積りをご了承いただいた時点から初稿提出まで約4週間です。
遺言能力鑑定の料金
生前鑑定
事前審査:36,000円+税
本鑑定 :400,000円+税
没後鑑定
事前審査:95,000円+税
本鑑定 :350,000円+税
- 本鑑定とは別途で、事前審査(生前:36,000円+税、没後:95,000円+税)が必須です。
- 本鑑定に進まない場合にも、事前審査費用の返金は致しかねます。
遺言能力鑑定の実例
【脳神経内科】公正証書遺言作成時の遺言能力を鑑定
- 80歳台前半
- 男性
平成29年に公正証書遺言書を作成しました。しかし、当時すでに遺言者はアルツハイマー型認知症が進行しており、神経内科で治療中でした。
相続人Cは、公正証書遺言の有効性について提訴して一審勝訴、控訴審係属中に弊社に遺言能力鑑定依頼となりました。
脳神経内科医師が医証を精査したところ、頭部CTでは著明な脳萎縮を認め、脳血流シンチグラフィーでは左頭頂葉と両側後方帯状回に脳血流低下を認めました。
診療録や画像検査から、公正証書遺言の作成時に充分な遺言能力を有していたとは到底言えないことが判明しました。
公正証書遺言を作成した事実は、被相続人が遺言能力を有している証拠にはならないことの一例です。
【消化器内科】癌末期の肝性昏睡患者の遺言能力を鑑定
- 60歳台前半
- 男性
平成27年に下行結腸癌、空腸浸潤に対して左半結腸切除術、空腸合併切除、リンパ節郭清を施行しました。多発性の肝転移を認めたため根治は困難とのことで在宅医療を行っていました。
しかし病状は少しずつ増悪して、食事摂取や体動が困難となり、平成28年に緩和治療目的で入院しました。多量の鎮痛剤で癌性疼痛のコントロールを行いましたが、徐々に全身状態は衰弱しました。
永眠される3日前に、疎遠だった兄弟に財産を贈与するという内容の自筆証書遺言が作成されました。遺言書の内容を不信に思った内縁の妻側の弁護士から、遺言能力鑑定の依頼を受けました。
消化器内科医師が診療録や画像検査を精査したところ、遺言書の作成時に充分な遺言能力を有していたとは到底言えないことが判明しました。
まとめ
認知症になると遺言能力が低下するため、遺言が無効になる可能性があります。遺言能力の判断基準については以下の4つの基準で総合的に判断します。
- 精神医学的な評価
- 遺言内容
- 遺言者と相続人との人間関係
- 遺言と同じ内容の別資料
認知症になる前に行う相続対策として、「任意後見制度」と「家族信託」があります。「任意後見制度」や「家族信託」を利用しない場合には、親が健康なうちに、以下の資料を収集しておくことが望ましいです。
- 診断書
- 遺言時の親が記載した文書
- 遺言時の親の動画
- 遺言時の親の日記
これらに加えて、遺言能力鑑定が遺言能力の証明に有効な手段となり得ます。ご興味があれば、お問合せフォームからご連絡下さい。
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