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【医師が解説】ダッシュボード損傷の種類と後遺症|交通事故

交通事故では、運転席または助手席のダッシュボードに膝を強く打ち付けることで、骨折や靱帯損傷を受傷することがあります。このような外傷は、ダッシュボード損傷(dashboard injury)と呼ばれています。

 

ダッシュボード損傷は単一の外傷ではなく、いくつかの種類があります。本記事は、ダッシュボード損傷の後遺症が後遺障害認定されるヒントとなるように作成しています。

 

 

最終更新日:2024/4/20

 

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ダッシュボード損傷(dashboard injury)とは

 

ダッシュボード損傷とは、自動車の正面衝突などの際に、運転席や助手席の人が膝をダッシュボードにぶつけてしまい、その結果生じる外傷です。

 

 

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ダッシュボード損傷の種類

 

ダッシュボード損傷(dashboard injury)では、以下のような骨折や靭帯損傷が発生する可能性があります。

 

  • 股関節脱臼、股関節脱臼骨折
  • 大腿骨骨折
  • 膝蓋骨骨折
  • 後十字靭帯損傷(PCL損傷)
  • 足関節脱臼骨折(足首骨折)
  • 足骨折
  • 脂肪塞栓症

 

 

一般的には、股関節脱臼骨折、膝関節骨折、後十字靭帯損傷が有名ですが、意外にも足関節や足部の骨折も多数報告されています。

 

また、臨床的に注意するべきなのは、ダッシュボード損傷で脂肪塞栓症を併発するケースです。脂肪塞栓症は脳梗塞を併発しやすいので、重度の後遺症を残す可能性があります。

 

 

股関節脱臼、股関節脱臼骨折

膝を曲げた状態で自動車に乗っている際、前方から強い衝撃があると、膝がダッシュボードに激しくぶつかります。その力は、大腿骨を介して股関節に伝わり、大腿骨頭が後ろに押し出されて股関節後方脱臼が発生します。

 

大腿骨頭が脱臼する際に、骨盤側(寛骨臼)の後壁に骨折を併発するケースもあります。股関節が脱臼すると極度の痛みのため自力で動くことが困難になります。

 

また、早期に股関節脱臼を整復しなければ、外傷性大腿骨頭壊死症を併発する危険性が高まります。股関節脱臼の整復は全身麻酔下に実施するケースが多いです。

 

 

<参考>
【医師が解説】骨盤骨折の後遺症が等級認定されるポイント|交通事故
【医師が解説】股関節骨折が後遺症認定されるポイント|交通事故

 

 

大腿骨骨折

膝を曲げた状態で自動車に乗っている際、前方から強い衝撃があると、膝がダッシュボードに激しくぶつかります。その力は、大腿骨に伝わるため、大腿骨骨折を受傷します。

 

ダッシュボード損傷で受傷する可能性のある大腿骨骨折は、以下のように多岐に及びます。

 

  • 大腿骨骨頭骨折
  • 大腿骨頚部骨折
  • 大腿骨転子部骨折
  • 大腿骨転子下骨折
  • 大腿骨骨幹部骨折
  • 大腿骨顆上骨折
  • 大腿骨顆部骨折

 

 

<参考>
【医師が解説】大腿骨骨折が後遺症認定されるポイント|交通事故

 

 

膝蓋骨骨折

膝を曲げた状態で自動車に乗っている際、前方から強い衝撃があると、膝がダッシュボードに激しくぶつかります。その力は、膝関節の前面にある膝蓋骨に伝わるため、膝蓋骨骨折を受傷します。

 

 

<参考>
【医師が解説】膝蓋骨骨折の後遺症が等級認定されるヒント|交通事故

 

 

後十字靭帯損傷(PCL損傷)

膝を曲げた状態で自動車に乗っている際、前方から強い衝撃があると、膝がダッシュボードに激しくぶつかります。その力は、膝関節の前面にある膝蓋骨に伝わるため、膝蓋骨骨折を受傷します。

 

 

<参考>
【医師が解説】後十字靭帯損傷(PCL損傷)の後遺症|交通事故

 

 

足関節脱臼骨折(足首骨折)

スピードの出し過ぎによる正面衝突事故では、運転手は衝突の衝撃を少しでもやわらげようと両足を強く踏み込みます。衝突時にペダルやフットレストから足部に強い外力がかかるため、足関節脱臼骨折を生じます。

 

 

<参考>
【医師が解説】足首骨折(足関節脱臼骨折)の後遺症|交通事故

 

 

足骨折

スピードの出し過ぎによる正面衝突事故では、運転手は衝突の衝撃を少しでもやわらげようと両足を強く踏み込みます。衝突時にペダルやフットレストから足部に強い外力がかかるため、足関節脱臼骨折と同様に足骨折を生じます。

 

 

<参考>
【医師が解説】足骨折やリスフラン靭帯損傷の後遺症|交通事故

 

 

脂肪塞栓症

ダッシュボード損傷では、脂肪塞栓症を併発するケースがあります。脂肪塞栓症は脳梗塞を併発しやすいので、重度の後遺症を残す可能性があります。

 

 

<参考>
【医師が解説】骨折と塞栓症(脳梗塞、脂肪塞栓、肺塞栓)の因果関係
【医師が解説】外傷性脳梗塞は交通事故との因果関係が問題になる
【医師が解説】脳梗塞と交通事故の因果関係|高次脳機能障害

 

 

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ダッシュボード損傷で考えられる後遺障害

 

ダッシュボード損傷で考えられる後遺障害は、主に関節機能障害(股関節脱臼骨折、後十字靭帯損傷)、神経障害(股関節脱臼骨折)、変形障害(大腿骨骨折)、高次脳機能障害(脂肪塞栓症)が考えられます。

 

 

機能障害

8級7号:下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの

 

下記のいずれかの条件を満たすと、8級7号に該当することになります。

  • 関節が強直したもの
  • 関節の完全弛緩性麻痺又はこれに近い状態にあるもの
  • 人工関節・人工骨頭をそう入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの

 

 

10級11号:1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの

 

関節の可動域が健側の可動域の1/2以下に制限されているものです。
 

 

12級7号:1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの

 

関節の可動域が健側の可動域の3/4以下に制限されているものです。

 

 

神経障害

12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの

 

寛骨臼骨折後の股関節部痛や坐骨神経損傷による麻痺症状を、画像検査や神経伝導速度検査で他覚的所見に証明できる事案が該当します。

 

 

14級9号:局部に神経症状を残すもの

 

画像検査で変形性股関節症の所見や、神経伝導速度検査で坐骨神経損傷の所見を認めないものの、治療経過から神経症状の存在が推認される事案が該当します。

 

 

変形障害(骨が治癒しなかった)

12級8号:長管骨に変形を残すもの

 

  • 大腿骨または脛骨の直径が2/3以下に減少したもの
  • 大腿骨が外旋45度または内旋30度以上回旋変形癒合しているもの

 

大腿骨の変形障害は、骨折のCTを撮像することで判定します。

 

 

短縮障害(下肢が短くなった)

8級5号:1下肢を5センチメートル以上短縮したもの

10級8号:1下肢を3センチメートル以上短縮したもの

13級8号:1下肢を1センチメートル以上短縮したもの

 

高齢者の骨折では、3cm程度の下肢短縮は珍しくありません。いずれも下肢の長さはSMDで計測します。

 

SMD(Spina Malleollar Distance:棘果長)は、下肢の長さの計測法のひとつです。骨盤にある上前腸骨棘から足関節の内果(内くるぶし)までの距離をメジャーを用いて計測します。

 

 

<参考>
【医師が解説】脚長差(短縮障害)の評価はSMDが妥当?|交通事故

 

 

高次脳機能障害

ダッシュボード損傷によって長管骨骨折を受傷すると、脂肪塞栓症を併発する可能性があります。脂肪塞栓症は脳梗塞を発症しやすいので、高次脳機能障害が残るケースがあります。高次脳機能障害の後遺障害認定に関しては、高次脳機能障害のリンクを参照してください。

 

 

<参考>
【医師が解説】高次脳機能障害が後遺症認定されるポイント|交通事故
【日経メディカル】交通事故後の高次脳機能障害を見逃すな!把握しにくい2つの理由
【日経メディカル】交通事故における曖昧な高次脳機能障害の定義
【日経メディカル】定量化が難しい交通事故による高次脳機能障害

 

 

 

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【弁護士必見】ダッシュボード損傷の後遺障害認定ポイント

ダッシュボード損傷による後遺障害は種類が多い

ここまで見てきたように、ダッシュボード損傷で受傷する骨折などの外傷は多岐に渡ります。このため、それぞれの外傷に対して適切な後遺障害が認定されているのかを判断する必要があります。

 

 

股関節脱臼骨折では大腿骨頭壊死症の可能性もある

股関節脱臼や股関節脱臼骨折では、外傷性大腿骨頭壊死症を併発する可能性があります。骨癒合しても痛みが続く場合には、MRI検査で大腿骨頭壊死症を併発していないかを確認する必要があります。

 

 

<参考>
【医師が解説】骨盤骨折の後遺症が等級認定されるポイント|交通事故
【医師が解説】股関節骨折が後遺症認定されるポイント|交通事故

 

 

大腿骨転子部骨折や大腿骨転子下骨折の注意点

大腿骨転子部骨折や大腿骨転子下骨折も、どちらかと言えば大腿骨ではなく股関節の外傷と言うべきでしょう。骨折自体が大きいため、股関節の可動域制限を高い確率で併発します。

 

しかし、特に若年者では単純X線像(レントゲン)では転位(ずれ)もほとんど無く骨癒合するケースが多いです。このようなケースでは股関節の可動域制限が残っているにもかかわらず、非該当や14級9号にとどまる事案を散見します。

 

この場合は画像鑑定では対応できないため、股関節外科医による医師意見書を添付して異議申し立てせざるを得ません。

 

 

<参考>
【弊社ホームページ】意見書説明サイト
交通事故の医師意見書が後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て

 

 

股関節脱臼骨折の注意点

股関節脱臼骨折は、高確率に変形性股関節症に移行します。このため、股関節の機能障害に該当するケースが多いです。

 

一方、股関節そのものの症状であれば迷うことはないですが、股関節脱臼骨折では坐骨神経損傷を合併して下肢の麻痺をきたす症例もあります。

 

坐骨神経損傷の証明には神経伝導速度検査が有用ですが、治療に直接結び付かないため実臨床では積極的に実施されているとは言い難い検査です。

 

また整形外科医といっても、寛骨臼骨折では股関節外科医の意見を聞くことが望まれます。実際に寛骨臼骨折の執刀経験のある股関節外科医とそれ以外の整形外科医とでは、病態に対する理解度が全く異なるからです。

 

ダッシュボード損傷でお困りの事案があればこちらからお問い合わせください。

 

 

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ダッシュボード損傷のまとめ

 

ダッシュボード損傷とは、自動車の正面衝突などの際に、運転席や助手席の人が膝をダッシュボードにぶつけてしまい、その結果生じる外傷です。ダッシュボード損傷では、以下のような骨折や靭帯損傷が発生する可能性があります。

 

  • 股関節脱臼、股関節脱臼骨折
  • 大腿骨骨折
  • 膝蓋骨骨折
  • 後十字靭帯損傷(PCL損傷)
  • 足関節脱臼骨折(足首骨折)
  • 足骨折
  • 脂肪塞栓症

 

 

一般的には、股関節脱臼骨折、膝関節骨折、後十字靭帯損傷が有名ですが足関節や足部の骨折も報告されています。ダッシュボード損傷で脂肪塞栓症による脳梗塞を併発すると、高次脳機能障害を残す可能性があります。

 

 

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