手足などの体の一部を自分の意のままに動かせない状態を運動障害、もしくは麻痺と呼びます。このうち、手足の動きが少し残っている場合を不全麻痺、まったく動かせない場合は完全麻痺と言います。
交通事故では、頭部、首、腰、手、足などに、不全麻痺が発症します。そして、不全麻痺は適切な治療で改善する可能性もあります。
本記事は、不全麻痺を理解することで、不全麻痺と完全麻痺との違いや、リハビリの必要性について理解するヒントとなるように作成しています。
最終更新日: 2024/5/13
Table of Contents
不全麻痺とは
不全麻痺とは、脳、脊髄、末梢神経の傷害によって麻痺が発生するものの、筋力や感覚機能の一部を残した状態です。
交通事故においても、頭部、首、腰、手、足などに、不全麻痺が発生する可能性があります。交通事故で最も多い不全麻痺は、首に由来するものでしょう。
不全麻痺の症状
手や足などを自分の意のままに動かすことが出来なくなる状態を、運動障害もしくは麻痺と呼びます。手足の動きが少しでも残っていれば、不全麻痺と呼びます。
不全麻痺の種類
片麻痺
片麻痺とは、右側か左側かなど、体のどちらかの半身に麻痺が発生した状態です。脳梗塞が、片麻痺を起こす代表的な傷病です。
<参考>
交叉性麻痺
右側顔面の麻痺と左側片麻痺など、顔面と四肢・体幹の麻痺側が異なる麻痺を交叉性麻痺と言います。脳の中の橋という部分の傷害で発症する可能性があります。
四肢麻痺
両手と両足のすべてが動かない状態を四肢麻痺と呼びます。四肢麻痺の原因として最も多いのは、脊髄損傷(頚髄損傷)です。頻度は高くないですが、脳幹の傷病でも発症することがあります。
<参考>
対麻痺
両下肢のすべてが動かない状態を対麻痺と呼びます。対麻痺の原因として最も多いのは、脊髄損傷(胸髄損傷)です。
<参考>
単麻痺
右腕だけが動かないなど、片側の上肢もしくは下肢だけの麻痺がある状態です。単麻痺は、脳から手足の末梢神経に至るまで、さまざまな部位の傷害で発症します。
<参考>
- 【医師が解説】腕神経叢損傷の後遺症の等級認定ポイント|交通事故
- 【医師が解説】橈骨神経麻痺が後遺症認定されるポイント|交通事故
- 【医師が解説】尺骨神経麻痺が後遺症認定されるポイント|交通事故
- 【医師が解説】腓骨神経麻痺の後遺障害認定ポイント|交通事故
不全麻痺と完全麻痺の違い
完全麻痺
神経損傷の程度によって、麻痺は完全麻痺と不全麻痺に分かれます。 完全麻痺は、損傷した神経が支配している筋肉の機能や感覚が完全に失われた状態です。
たとえば腰の神経を損傷して完全麻痺を発症すると、両足を全く動かすことができません。また、排尿や排便もできなくなります。
不全麻痺
不全麻痺は、損傷した神経が支配している筋肉の機能や感覚が低下しているものの、完全には失われていない状態を指します。
臨床的には、完全麻痺よりも不全麻痺の症例の方が多いです。不全麻痺にも程度があって、残っている筋力は徒手筋力検査で評価されます。
<参考>
【医師が解説】徒手筋力検査は後遺症12級認定のポイント|交通事故
脊髄損傷の不全麻痺はフランケル分類で評価する
脊髄損傷の不全麻痺の程度は、フランケル(Frankel)分類がよく用いられています。脊髄損傷の重症度を、患者さんの日常生活動作で評価する分類です。
フランケルA:Complete(完全麻痺)
損傷高位以下の運動知覚完全麻痺です。
フランケルB:Sensory only(知覚のみ)
運動能力(筋力)は完全麻痺で、知覚のみがある程度ある状態です。
フランケルC:Motor useless(運動不全)
損傷高位以下の筋力は少しあるが、実用性はない状態です。
フランケルD:Motor useful(運動あり)
損傷高位以下の筋力に実用性がある状態です。具体的には補助具(もしくは補助具無し)で歩行可能です。
フランケルE:Recovery(回復)
症状が無い状態です。深部腱反射の異常が存在するケースはあります。
<参考>
【医師が解説】深部腱反射は12級の後遺症認定のポイント|交通事故
不全麻痺のリハビリ
麻痺をきたす可能性のある傷病に、脳、脊髄、末梢神経の傷病が挙げられます。いずれも、リハビリテーションで一定の効果を得られる可能性があります。
可動域訓練
脳や脊髄を損傷すると、麻痺している筋肉と正常な筋肉が混在するため、筋力のバランスが崩れて関節拘縮を併発します。関節拘縮を予防するため、麻痺が発生した早期から関節の可動域訓練を行います。
関節が拘縮すると、座る、起き上がり、寝返り、移乗などの際に大きな支障が出ます。ADL維持のためにも関節可動域訓練が必要なのです。
筋力トレーニング
残っている筋肉の機能を最大限利用して日常生活を送ることを目的として、筋肉トレーニングを行います。筋力トレーニングは手足の筋肉だけではなく、呼吸する筋肉を鍛えるケースもあります。
例えば、脊髄損傷ではバルサルバ手技という呼吸筋を鍛える筋力トレーニングがあります。バルサルバ手技では、30秒ほど呼吸を止めてお腹に力を入れることで呼吸筋を鍛えます。
歩行訓練
脳や脊髄を損傷した症例では、歩行訓練が必要なケースもあります。早期から歩行訓練を実施すると、歩行能力の向上や身体能力も高まります。
不全麻痺が治る可能性
中枢神経は受傷後6ヵ月まで回復する可能性がある
不全麻痺が治るか否かは、脳や脊髄などの中枢神経と、手足の末梢神経に分けて考える必要があります。
頭部外傷や脊髄損傷によって中枢神経の麻痺が発症した場合、一般的には受傷後6ヵ月程度までは回復する見込みがあります。
ただ、実際には損傷した神経組織が再生するのではなく、一時的に機能を停止していた神経組織が活動を再開するというイメージです。
一方、脊髄損傷に対する間葉系幹細胞を用いた再生医療が先進医療に適応されました。まだ十分な効果があるとは言えない治療ですが、脊髄損傷の患者さんに一縷の希望が出現したと言えるでしょう。
末梢神経は完全に治る可能性がある
一方、手足の末梢神経に関しては、完全に治るケースがあります。特に体幹から遠い場所の末梢神経損傷ほど、治る可能性が高まります。
<参考>
【弁護士必見】不全麻痺の後遺障害認定ポイント
画像所見と身体所見の不一致が問題になる
交通事故の後遺障害において不全麻痺が問題になるのは、画像所見と身体所見の不一致です。後遺障害診断書で記載されている麻痺程度と画像所見が乖離している事案では、後遺障害が認定されない可能性が高いです。
特に、脊髄損傷や腕神経叢損傷で不全麻痺をきたしている事案では争いになりやすい印象があります。
<参考>
経時的に悪化する不全麻痺は後遺障害に認定されにくい
むちうちや中心性脊髄損傷では、経時的に悪化する事案を散見します。しかし、経時的に悪化する不全麻痺は後遺障害に認定されにくいです。
一般的に、麻痺は受傷時が最も高度で、時間の経過とともに回復していくことが理由です。経時的に悪化する不全麻痺は、私病である可能性があるため慎重な精査が必要です。
不全麻痺でお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
まとめ
不全麻痺とは、脳、脊髄、末梢神経の傷害によって麻痺を発症したものの、筋力や感覚機能の一部を残した状態です。
不全麻痺と完全麻痺の違いは、完全麻痺は手足を全く動かせないことに対して、不全麻痺は少し動かせることです。
脊髄損傷の不全麻痺の程度は、患者さんの日常生活動作で評価するフランケル(Frankel)分類がよく用いられています。
中枢神経は受傷後6ヵ月まで回復する可能性がありますが、完全に治ることはありません。一方、末梢神経は完全に治るケースがあります。
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