自賠責保険では、後遺障害の等級を1級~14級に分けています。14級は最も軽い等級ですが、後遺障害14級の認定率は約3.2%と極めて狭き門と言えます。
本記事は、後遺障害が14級に等級認定されるヒントとなるように作成しています。
最終更新日: 2024/9/29
Table of Contents
交通事故の後遺症と後遺障害
後遺症とは
後遺症とは、ケガの治療をしたにもかかわらず、残ってしまった痛みや関節の動きの悪さなどの症状です。
顔面や手足に残ったキズや、手足の切断や耳たぶの欠損した場合も後遺症になります。
後遺障害とは
後遺障害とは、後遺症の中でも法律(※)によって定められた障害です。つまり、交通事故の後遺障害とは、後遺障害等級の認定を受けた後遺症を指します。
後遺症が後遺障害等級に認定されると補償の対象となり、後遺障害慰謝料や逸失利益などの損害賠償金を請求できます。
(※)自動車損害賠償保障法施行令第2条第2項
後遺障害1~14級の認定率は約5.5%
損害保険料率算出機構は、自動車保険の概況という統計資料を公表しています。
自賠責保険が2021年度版(2020年度統計)で賠償金を支払った件数は89万8407件です。このうち後遺障害1~14級に認定された件数は4万9267件で、全体の約5.5%に過ぎませんでした。
後遺症が残った交通事故被害者の中でも、たった5.5%しかない後遺障害に認定されないのです。ほとんどの後遺症は、交通事故の賠償の対象になりません。
このため、後遺障害に認定されるためには、自賠責認定基準を考慮した対策を行う必要があります。
後遺障害14級の認定率はたった3.2%!
後遺障害14級の認定件数は2万8593件で、交通事故全体の約3.2%した。一方、1~14級の後遺障害に認定された事案の中では、約58%を占めています。
<参考>
後遺障害に認定されると損害賠償金を請求できる
後遺障害に認定されると、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益を請求できます。
後遺障害慰謝料とは
後遺障害慰謝料とは、交通事故で後遺障害が残ってしまった精神的苦痛に対する補償金です。後遺障害慰謝料は、下の表のように後遺障害等級によって異なります。
後遺障害等級 | 後遺障害慰謝料 |
1級 | 2800万円 |
2級 | 2370万円 |
3級 | 1990万円 |
4級 | 1670万円 |
5級 | 1400万円 |
6級 | 1180万円 |
7級 | 1000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
後遺障害逸失利益とは
後遺障害が残ると、労働能力が低下してしまいます。労働能力が低下したために失うであろう収入の不足分に対する補償金です。
後遺障害逸失利益は、交通事故被害者の年収、年齢をベースにして、後遺障害等級に応じた労働能力喪失率と労働能力喪失期間で決まります。
後遺障害逸失利益の計算式
後遺障害逸失利益は、以下の計算式で算出されます。
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数
交通事故の後遺障害14級とは
後遺障害14級では、画像検査ではっきりとした異常所見が存在しなくても、事故規模や通院頻度などの周辺状況を総合的に判断して、後遺障害が認定されます。
自賠責保険の中でも、後遺障害14級は交通事故被害者の救済色の強い、やや特殊な等級と言えます。
交通事故の後遺障害14級には、残った症状によって以下のような1~9号の9つの等級があります。
後遺障害14級1号
1眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの
まぶたの一部に欠損とは、まぶたを閉じた時に黒目は覆うことができるものの、白目の一部が露出する状態です。
後遺障害14級2号
3歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
歯科補綴(ほてつ)を加えたものとは、
- 歯が抜けた状態
- 歯の4分の3以上が欠けたために補綴を加えた状態
のいずれかを指します。
<参考>
【日経メディカル】歯科医の治療方針で慰謝料が大きく変わる?!
【歯科医師が解説】歯牙欠損が後遺障害認定されるヒント|交通事故
後遺障害14級3号
1耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解せないもの
平均純音聴力レベルが、40dB以上70dB未満の状態です。
<参考>
【日経メディカル】むち打ちによる耳鳴りや難聴は後遺障害になる?
【医師が解説】耳鳴り・難聴の後遺障害認定ポイント|交通事故
後遺障害14級4号
上肢の露出面にてのひらの大きさの酷いあとを残すもの
上肢の露出面とは肩関節以遠を指します。一方、労災保険では肘関節以遠となっています。労災保険と自賠責保険の定義は異なるため、注意が必要です。
<参考>
【医師が解説】外貌醜状や醜状障害の後遺障害認定ポイント|交通事故
後遺障害14級5号
下肢の露出面にてのひらの大きさの酷いあとを残すもの
下肢の露出面とは股関節以遠を指します。一方、労災保険では膝関節以遠となっています。自賠責保険の定義と異なるため注意が必要です。
<参考>
【医師が解説】外貌醜状や醜状障害の後遺障害認定ポイント|交通事故
後遺障害14級6号
1手のおや指以外の手指の指骨の一部を失ったもの
指骨の一部を失ったとは、レントゲン検査で1指の骨の一部を失っている(末節骨先端の偽関節も含む)状態です。
<参考>
【医師が解説】手、指の骨折が後遺障害認定されるポイント|交通事故
後遺障害14級7号
1手のおや指以外の手指の用を廃したもの
おや指以外の手指の用を廃したものとは、遠位指節関節(DIP関節)を屈伸することができなくなった状態です。
<参考>
【医師が解説】手、指の骨折が後遺障害認定されるポイント|交通事故
後遺障害14級8号
1足の第3の足指以下の1又は2の足指の用を廃したもの
足指の用を廃したものとは、以下のいずれかの状態を指します。
- 遠位指節間関節(DIP関節)で離断
- 足指の中節骨または基節骨で切断
- 中足指節関節(MTP関節)または近位指節関節(PIP関節)の可動域が健側の2分の1に制限されている
<参考>
【医師が解説】足指骨折が後遺障害認定されるポイント|交通事故
後遺障害14級9号
局部に神経症状を残すもの
後遺障害14級9号は、交通事故で最も認定される可能性が高い後遺障害です。むちうち(頚椎捻挫)の首の痛みや手足の痛みやしびれ、めまい、嘔気なども、後遺障害14級9号に含まれます。
実質的に、交通事故では後遺障害14級認定≒14級9号と言っても過言ではありません。その中でも最も多いのは、むちうち(頚椎捻挫)と腰椎捻挫です。
<参考>
【弁護士必見】後遺障害14級の認定ポイント
後遺障害14級9号とそれ以外に分けて考える
後遺障害14級に認定される事案で最も数が多いのは、むちうち(頚椎捻挫)や腰椎捻挫による神経障害の14級9号です。神経障害14級9号は、後遺障害の中でもボリュームゾーンです。
後遺障害14級9号は、はっきりとした異常所見が無くても認定される救済等級です。このため、自賠責保険も厳格な運用を行っています。
おそらく20項目以上ある非公開の後遺障害認定基準が存在しており、そのほとんどの条件をクリアしなければ、後遺障害14級に認定されるのは困難です。
認定率3.2%と言われている後遺障害14級の狭き門をくぐるためには、
- どの項目が自賠責認定基準をクリアしていないのかを精査
- いかにして不足分を補うのか
というステップを踏む必要があります。
一方、後遺障害14級9号以外の事案では、比較的明確な認定基準が存在します。このため、これらの条件をクリアすれば、後遺障害が認定される傾向にあります。
むちうち後遺障害14級9号の自賠責認定基準の一例
おそらく20項目以上ある非公開の後遺障害認定基準のいくつかを以下にご紹介します。
交通事故の規模が大きい
交通事故の大きさは、むちうちなどの後遺障害14級9号が認定されるための大きな基準です。自動車同士の事故であれば、自動車の躯体にまで損傷が及ぶ事故であれば、事故の規模が大きいと判断されます。
一法、ミラー接触などで首の痛みを訴える人が存在することは事実ですが、後遺症として症状が残存するのは想定し難いです。このため、ミラー接触によるむちうちで後遺障害が認定される可能性はほぼ存在しません。
<参考>
【医師が解説】ミラー接触でむちうち?因果関係の判断は?|交通事故
症状の一貫性
交通事故に遭った時から、一貫して症状が続いていることも重要な基準です。むちうちで非該当になりやすいのは、受傷してから2週間ほど経過してから首の痛みが発症したケースです。
尚、自賠責保険は、醜状障害を除いて書類審査のみです。このため、実際には受傷直後から症状があっても、医師にうまく伝えていなければ症状が無かったものとされてしまう可能性があるので注意が必要です。
<参考>
【医師が解説】頚椎捻挫・腰椎捻挫の症状の推移について|交通事故
【医師が解説】むちうち症状の伝え方3つのポイント|交通事故
症状の常時性
自賠責保険では、症状の常時性も重視しています。例えば「雨の日に痛む」「寒いと痛い」などは、症状が持続しているとみなされないため後遺障害14級に認定されません。
どの項目が自賠責認定基準をクリアしていないのか
上記で挙げた3つの例は、20項目以上ある非公開の後遺障害認定基準を構成する項目の一部に過ぎません。
弊社の感覚では、年間数百件レベルの事案数をこなしていない限り、すべての自賠責認定基準を把握することは困難と思われます。その理由は、自賠責認定基準のマイナーチェンジの存在です。
自賠責認定基準は少しずつアップデートされていくので、取り組み事案数が少ないと自賠責認定基準の理解の精度が落ちます。
後遺障害14級認定では、微妙な条件の違いが認定結果を左右するケースが多いだけに重要なポイントです。
弊社では、年間1000事案の圧倒的取り組み事案数に裏付けされた等級スクリーニングというサービスを実施しています。
後遺障害14級認定を目指すお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
いかにして不足分を補うのか
仮に自賠責認定基準を正確に理解しているとしても、目の前の事案と後遺障害14級9号認定の間には、大きなギャップが存在するケースがほとんどです。
実臨床と自賠責認定基準が全く別物です。したがって、真っ当な治療を行っているだけでは、後遺障害14級9号に認定される可能性は極めて低いです。
自賠責認定基準の高い壁をクリアするためには、不足している部分を補う新たな医証を収集する必要があります。医証にはいくつか種類がありますが、第三者医師による医師意見書と画像鑑定報告書があります。
<参考>
【医師が解説】後遺障害の異議申し立て成功のポイント|交通事故
自賠責認定基準を熟知している医師が作成した医師意見書や画像鑑定報告書は、不足分を補う有力なツールとなります。
弊社では、年間1000事案の圧倒的取り組み事案数に裏付けされた医師意見書と画像鑑定報告書を提供しています。
<参考>
【後遺障害14級9号】むちうちの認定事例
事案サマリー
- 被害者:60歳
- 初回申請:非該当
- 異議申立て:後遺障害14級9号(局部に神経症状を残すもの)
交通事故後に頚部痛と両手のしびれを自覚されていました。受傷から半年間通院されましたが、頚部痛と両手のしびれは改善せず、後遺障害診断書が作成されましたが、非該当と判定されたため、弊社に相談がきました。
弊社の取り組み
MRIを脊椎脊髄外科専門医が読影したところ、頚椎後縦靭帯骨化症が存在していることが明らかになりました。診療録を確認すると、受傷当日から首の痛みと両手のしびれが記載されていました。
身体所見、画像所見および診療経過について、医師意見書を作成して異議申立てを行ったところ14級9号が認定されました。
【後遺障害14級9号】腰椎捻挫の認定事例
事案サマリー
- 被害者:39歳
- 初回申請:非該当
- 異議申立て:後遺障害14級9号(局部に神経症状を残すもの)
交通事故後に腰痛を自覚されていました。受傷から8ヵ月通院されましたが、頑固な腰痛は改善せず、後遺障害診断書が作成されましたが、非該当と判定されたため、弊社に相談がきました。
弊社の取り組み
画像を脊椎外科専門医が詳細に読影したところ、事故の後から、L4/5椎間板高の減少(椎間板がすり減って、高さが低くなる現象)が進行していることが明らかになりました。
これらの所見について、医師意見書を作成して異議申立てを行ったところ14級9号が認定されました。
まとめ
後遺障害14級認定事案で最も数が多いのは、むちうち(頚椎捻挫)や腰椎捻挫による神経障害の14級9号です。
これらの事案では非公開の後遺障害認定基準が存在しており、そのほとんどの条件をクリアしなければ後遺障害等級認定は困難です。
一方、後遺障害14級9号以外の事案では、比較的容易に後遺障害等級認定される傾向にあります。
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