高次脳機能障害とは、病気やけがによって脳に損傷を負うことで、知覚や運動などの高いレベルの機能に障害が出る状態です。
高次脳機能障害は、日常生活や社会生活に大きな影響を与えるため、適切な補償や支援が必要です。
本記事では、高次脳機能障害の後遺障害認定基準と、等級が認定されるポイントについて詳しく解説しています。
最終更新日: 2024/11/9
Table of Contents
高次脳機能障害の等級認定基準
高次脳機能障害の後遺障害は、障害の程度に応じて1級から14級までの等級が設けられています。等級認定基準は、脳の損傷の程度や症状の重さに基づいて決定されます。
具体的には、意思疎通能力、問題解決能力、作業負荷に対する持続力・持久力、社会行動能力の4つの能力の喪失程度によって、以下のような等級に評価されます。
等級 |
認定基準 |
具体例 |
1級1号 |
高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの |
|
2級1号 |
高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわりの処理の動作について、随時介護を要するもの |
|
3級3号 |
生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高次脳機能障害のため、労務に服することができないもの |
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5級2号 |
高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの |
|
7級4号 |
高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないもの |
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9級10号 |
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの |
|
12級13号 |
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、多少の障害を残すもの |
|
14級9号 |
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、軽微な障害を残すもの |
|
1級1号
高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの
- 重篤な高次脳機能障害のため、食事・入浴・用便・更衣等に常時介護を要するもの
- 高次脳機能障害による高度の認知症や情意の荒廃があるため、常時監視を要するもの
1級1号の障害程度と症状の目安
高次脳機能障害の1級は、神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、常に介護を要する状態です。高度の認知機能障害があり、生活維持に必要な身の回り動作に全面的な介護が必要です。
2級1号
高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわりの処理の動作について、随時介護を要するもの
- 重篤な高次脳機能障害のため、食事・入浴・用便・更衣等に随時介護を要するもの
- 高次脳機能障害による認知症、情意の障害、幻覚、妄想、頻回の発作性意識障害等のため随時他人による監視を必要とするもの
- 重篤な高次脳機能障害のため自宅内の日常生活動作は一応できるが、1人で外出することなどが困難であり、外出の際には他人の介護を必要とするため、随時他人の介護を必要とするもの
2級1号の障害程度と症状の目安
2級は、神経系統の機能または精神に著しい障害を残しているため、随時介護を要する状態です。判断力の低下や情動の不安定があり、一人で外出することができず、日常生活は自宅内に限定されます。
3級3号
生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高次脳機能障害のため、労務に服することができないもの
- 4能力のいずれか1つ以上の能力が全部失われているもの
- 4能力のいずれか2つ以上の能力の大部分が失われているもの
3級3号の障害程度と症状の目安
3級は、神経系統の機能または精神に著しい障害を残しているため、終身労務に服することができない状態です。記憶や注意力、新しいことを学習する能力に著しい障害があり、一般就労が困難です。
5級2号
高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの
- 4能力のいずれか1つの能力の大部分が失われているもの
- 4能力のいずれか2つ以上の能力の半分程度が失われているもの
5級2号の障害程度と症状の目安
5級は、神経系統の機能または精神に著しい障害を残しているためし特に軽易な労務以外の労務に服することができない状態です。単純繰り返し作業に限定すれば一般就労も可能ですが、新しい作業を学習することが難しいです。
7級4号
高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないもの
- 4能力のいずれか1つの能力の半分程度が失われているもの
- 4能力のいずれか2つ以上の能力の相当程度が失われているもの
7級4号の障害程度と症状の目安
7級は、神経系統の機能または精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができない状態です。一般就労を維持できますが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどの問題があります。
9級10号
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの
- 高次脳機能障害のため4能力のいずれか1つの能力の相当程度が失われているもの
問題解決能力の相当程度が失われているものの例:1人で手順とおりに作業を行うことに困難を生じることがあり、たまに助言を必要とする
9級10号の障害程度と症状の目安
9級は、神経系統の機能または精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限される状態です。一般就労を維持できますが、問題解決能力や作業効率に問題があります。
12級13号
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、多少の障害を残すもの
- 4能力のいずれか1つ以上の能力が多少失われているもの
実務上は、高次脳機能障害として認定される等級の下限は12級13号と言われています。臨床的な症状が無くても、症状固定時のCTやMRIで脳挫傷痕や脳萎縮などの所見を認めれば、12級13号が認定されます。
12級13号の障害程度と症状の目安
12級は、神経系統の機能または精神に軽度の障害を残し、日常生活や労働に支障がある状態です。具体的な症状としては、軽度の記憶障害や注意力の低下が見られます。
14級9号
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、軽微な障害を残すもの
- MRI、CT等による他覚的所見は認められないものの、脳損傷のあることが医学的にみて合理的に推測でき、高次脳機能障害のためわずかな能力喪失が認められるもの
14級9号の障害程度と症状の目安
14級は、神経系統の機能または精神にごく軽度の障害を残し、日常生活や労働に軽微な支障がある状態です。軽微な記憶障害や注意力の低下が見られますが、日常生活には大きな影響はありません。
高次脳機能障害の等級制度について
高次脳機能障害の症状固定時期
高次脳機能障害の症状固定時期は、一般的に事故から1〜2年後とされています。これは、脳の損傷が進行し、リハビリによる機能回復が見込めなくなる時期を指します。症状固定の判断は主治医が行い、個々の状況により異なります。
高次脳機能障害の後遺障害認定申請の流れ
高次脳機能障害の後遺障害認定申請は、まず主治医による後遺障害診断書の作成から始まります。
その後、日常生活状況報告書や画像診断結果を添付し、損害保険料率算出機構に提出します。審査は専門部会で行われ、等級が決定されます。
高次脳機能障害で適切な等級が認定されるポイント
高次脳機能障害に認定されることが第一関門
高次脳機能障害は、交通事故などによる脳損傷が原因で発生することが多いです。後遺障害認定のためには、まず脳損傷の存在がCT検査やMRI検査で確認されることが必要です。
また、事故後に意識障害があり、その症状が一定期間持続していることも重要な要件です。意識障害の推移に関しては、頭部外傷後の意識障害についての所見という医証が重要な役割を果たしています。
画像所見や意識障害に加えて、さらに認知障害、行動障害、人格変化などの症状が確認されることも求められます。
<参考>
適切な等級が認定されるには?
等級認定の基準は、労災保険や自賠責保険の基準に準じており、1級から14級までの等級があります。
1級は常に介護が必要な状態で、2級は随時介護が必要な状態です。等級が下がるにつれて、必要な介護の頻度や障害の程度が軽減されます。
高次脳機能障害の等級認定においては、神経系統の障害に関する医学的意見、神経心理学的検査、日常生活状況報告などの資料が重要な役割を果たします。
これらの資料を基に、認知機能や社会的行動能力の喪失度合いが評価されて等級が決定されます。特にチェックするべき資料は、神経系統の障害に関する医学的意見と日常生活状況報告です。
これらの資料に記載されている内容が、実際の被害者の状況に合致しているのかと、後遺障害認定基準を満たしているのかを慎重に検討する必要があります。
高次脳機能障害が後遺障害に認定されるポイントを詳しく知りたい方は、こちらのコラム記事を参照いただければ幸いです。
<参考>
- 【医師が解説】高次脳機能障害の後遺症と後遺障害認定ポイント|医療鑑定
- 【高次脳機能障害】神経系統の障害に関する医学的意見|医療鑑定
- 【医師が解説】神経心理学的検査は高次脳機能障害の等級認定ポイント
- 【高次脳機能障害】日常生活状況報告の書き方とポイント|医療鑑定
高次脳機能障害の等級認定で弊社ができること
弁護士の方へ
弊社では、交通事故で残った高次脳機能障害が後遺障害に等級認定されるために、さまざまなサービスを提供しております。
等級スクリーニング
現在の状況で、後遺障害に認定されるために足りない要素を、後遺障害認定基準および医学的観点から、レポート形式でご報告するサービスです。
等級スクリーニングは、年間1000事案の圧倒的なデータ量をベースにしています。また、整形外科や脳神経外科以外のマイナー科も実施可能です。
等級スクリーニングの有用性を実感いただくために、初回事務所様は、無料で等級スクリーニングを承っております。こちらからお気軽にご相談下さい。
<参考>
【等級スクリーニング】後遺障害認定と対策を精査|医療鑑定
医師意見書
医師意見書では、診療録、画像検査、各種検査、後遺障害診断書などの事故関連資料をベースにして、総合的に後遺障害の蓋然性を主張します。
医師意見書は、後遺障害認定基準に精通した各科の専門医が作成します。医学意見書を作成する前に検討項目を共有して、クライアントと医学意見書の内容を擦り合わせます。
医学意見書では、必要に応じて医学文献を添付して、論理構成を補強します。弊社では、2名以上の専門医によるダブルチェックを行うことで、医学意見書の質を担保しています。
弊社は1000例を優に超える医師意見書を作成しており、多数の後遺障害認定事例を獲得しています。是非、弊社が作成した医師意見書の品質をお確かめください。
<参考>
交通事故の医師意見書が後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
画像鑑定報告書
交通事故で残った後遺症が、後遺障害で非該当になったら異議申し立てせざるを得ません。その際に強い味方になるのが画像鑑定報告書です。
画像鑑定報告書では、レントゲン、CT、MRIなどの各種画像検査や資料を精査したうえで、後遺障害診断書に記載されている症状との関連性を報告します。
画像鑑定報告書は、画像所見の有無が後遺障害認定に直結する事案では、大きな効果を発揮します。
弊社では事案の分析から医師意見書の作成、画像鑑定にいたるまで、社内の管理医師が一貫して取り組むことで、クライアント利益の最大化を図っています。
<参考>
【画像鑑定】交通事故の後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
高次脳機能障害の等級認定でお悩みの被害者の方へ
弊社サービスのご利用をご希望であれば、現在ご担当いただいている弁護士を通してご依頼いただけますと幸いです。
また、弊社では交通事故業務に精通している全国の弁護士を紹介することができます。
もし、後遺障害認定で弁護士紹介を希望される被害者の方がいらっしゃれば、こちらのリンク先からお問い合わせください。
尚、弁護士紹介サービスは、あくまでもボランティアで行っています。このため、電話での弊社への問い合わせは、固くお断りしております。
弊社は、電話代行サービスを利用しているため、お電話いただいても弁護士紹介サービスをご提供できません。ご理解いただけますよう宜しくお願い申し上げます。
高次脳機能障害が等級認定されると損害賠償金を請求できる
高次脳機能障害で後遺障害に認定されると、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益を請求できます。
高次脳機能障害の後遺障害慰謝料とは
交通事故で高次脳機能障害が残ってしまった精神的苦痛に対する補償金です。後遺障害慰謝料は、下の表のように後遺障害等級によって異なります。
後遺障害等級 | 後遺障害慰謝料 |
1級 | 2800万円 |
2級 | 2370万円 |
3級 | 1990万円 |
4級 | 1670万円 |
5級 | 1400万円 |
6級 | 1180万円 |
7級 | 1000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
高次脳機能障害の後遺障害慰謝料の相場は?
高次脳機能障害の後遺障害慰謝料は、後遺障害等級によって異なります。例えば、9級の場合は約690万円、7級は約1000万円、5級は約1400万円、3級は約1990万円、2級は約2370万円、1級は約2800万円となります。
また、近親者の慰謝料として数百万円程度が加算されることがあります。さらに、1級や2級の場合には将来の介護費として数千万円から1億円を超える額が認められることがあります。
このように、高次脳機能障害の後遺障害慰謝料は等級によって大きく異なり、適切な後遺障害等級を獲得することが重要です。
高次脳機能障害の後遺障害逸失利益とは
高次脳機能障害が残ると、労働能力が低下してしまいます。労働能力が低下したために失うであろう収入の不足分に対する補償金です。
後遺障害逸失利益は、交通事故被害者の年収、年齢をベースにして、後遺障害等級に応じた労働能力喪失率と労働能力喪失期間で決まります。
後遺障害逸失利益の計算式
後遺障害逸失利益は、以下の計算式で算出されます。
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数
高次脳機能障害の後遺障害逸失利益の相場は?
高次脳機能障害の逸失利益は、後遺障害等級によって異なります。一般的に、後遺障害等級が高いほど逸失利益の金額も高くなります。
例えば、1級の後遺障害の場合、逸失利益は約1億円前後となる可能性があります。一方、9級の場合は約1000万円程度のケースが多いです。
後遺障害逸失利益の金額は、被害者の年収や年齢、労働能力喪失率などによっても大きく変動します。
高次脳機能障害でよくある質問
高次脳機能障害の診断基準と診断方法
高次脳機能障害の診断基準は、脳の器質的病変が確認され、記憶障害や注意障害などの認知障害が日常生活に影響を及ぼしていることが必要です。
診断にはMRIやCTなどの画像診断が用いられ、神経心理学的検査も行われます。高次脳機能障害の診断基準は、自賠責保険の後遺障害認定基準とは大きく異なる点に注意が必要です。
発症の原因とリスク要因
高次脳機能障害の主な原因は、交通事故などによる脳外傷や脳血管障害(脳梗塞、脳出血)です。
交通事故や転倒、脳炎などもリスク要因となります。特に前頭葉や側頭葉の損傷が高次脳機能障害を引き起こしやすいです。
高次脳機能障害の4大症状
高次脳機能障害の代表的な症状は、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害です。
記憶障害では新しい情報を覚えられず、注意障害では集中力が続かないことが特徴です。
遂行機能障害は計画的な行動が難しく、社会的行動障害は感情のコントロールが困難になります
<参考>
【医師が解説】高次脳機能障害の4大症状は?|医療鑑定
高次脳機能障害と認知症の違いは?
高次脳機能障害と認知症は似た症状を持ちますが、発症時期や進行性の有無が異なります。高次脳機能障害は脳損傷後に発症し、進行性ではありません。
一方、認知症は高齢者に多く、進行性であり、発症時期が特定できないことが多いです。
<参考>
高次脳機能障害の治療法は?
高次脳機能障害の治療法には、主にリハビリテーションがあります。リハビリテーションでは、記憶訓練や注意力の向上を目指した訓練が行われます。
日常生活での注意点とサポート
高次脳機能障害の患者は、日常生活での注意点として、環境の整備やサポートが重要です。
記憶障害にはメモやカレンダーの活用が有効で、注意障害には静かな環境での作業が推奨されます。家族や周囲の理解と協力も欠かせません。
高次脳機能障害の等級認定数は?
高次脳機能障害の後遺障害認定率は、交通事故などによる脳損傷後に年間約3000件が後遺障害として等級認定されています。
等級認定には、脳外傷の診断名や画像所見、意識障害の継続期間が重要な要件となります。
まとめ
高次脳機能障害の等級は、1級から14級まであります。等級は、脳の損傷の程度や症状の重さによって決まります。
神経系統の障害に関する医学的意見、神経心理学的検査、日常生活状況報告書、画像診断結果などで、損害保険料率算出機構が審査を行います。
また、症状固定は通常事故から1〜2年後とされ、リハビリによる機能回復が見込めなくなる時期に判断されます。
適切な等級が認定されるためには、神経系統の障害に関する医学的意見、神経心理学的検査、日常生活状況報告が重要です。
交通事故で受傷した高次脳機能障害に関してお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
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