高次脳機能障害は、脳組織に損傷を受けたことによって発生する障害で、記憶、注意、言語、思考などの脳の高次機能に影響を与えます。
特に、交通事故などで脳に大きなダメージを受けた場合に発症することが多く、日常生活や労働能力に大きな影響を及ぼします。
本記事では、高次脳機能障害が後遺障害7級に認定される基準、具体的な症状、そして認定を受けるポイントについて詳しく解説しています。
最終更新日: 2024/11/18
Table of Contents
高次脳機能障害とは?
高次脳機能障害の概要
高次脳機能障害は、脳組織の損傷によって引き起こされる認知障害全般を指します。これには、失語、失行、失認、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などが含まれます。
高次脳機能障害の障害は、脳の特定の領域が損傷を受けることで発生して、患者の生活の質に大きな影響を与えます。
高次脳機能障害の一般的な原因
高次脳機能障害の主な原因には、脳卒中、頭部外傷、低酸素血症、脳炎、てんかんなどがあります。
成人では脳卒中が最も多く、小児ではウイルス性疾患や頭部外傷が主な原因とされています。
これらの原因によって脳の特定の領域が損傷を受け、さまざまな認知障害が発生します。
高次脳機能障害の主な症状
高次脳機能障害の症状は多岐にわたります。記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害など4大症状が代表的です。
例えば、記憶障害では新しいことを覚えるのが難しくなり、注意障害では集中力が低下します。
遂行機能障害では計画的な行動ができなくなり、社会的行動障害では感情や行動のコントロールが難しくなります。
高次脳機能障害の診断基準
高次脳機能障害の診断基準では、厚生労働省が作成したものが一般的です。高次脳機能障害の診断基準の詳細は、こちらのコラム記事を参照ください。
診断基準には、脳の器質的病変の存在、日常生活や社会生活に制約があること、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害が含まれます。
MRIやCT、神経心理学的検査の所見も参考にされます。尚、診断基準の目的は行政支援であり、補償が目的の後遺障害認定基準とは異なることに注意が必要です。
<参考>
高次脳機能障害の診断基準とは?後遺障害認定基準との違い|交通事故
高次脳機能障害の7級とは?
高次脳機能障害の後遺障害認定基準
高次脳機能障害の後遺障害は、障害の程度に応じて1級から14級までの等級が設けられています。等級認定基準は、脳の損傷の程度や症状の重さに基づいて決定されます。
具体的には、意思疎通能力、問題解決能力、作業負荷に対する持続力・持久力、社会行動能力の4つの能力の喪失程度によって、以下のような等級に評価されます。
等級 |
認定基準 |
具体例 |
1級1号 |
高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの |
|
2級1号 |
高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわりの処理の動作について、随時介護を要するもの |
|
3級3号 |
生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高次脳機能障害のため、労務に服することができないもの |
|
5級2号 |
高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの |
|
7級4号 |
高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないもの |
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9級10号 |
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの |
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12級13号 |
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、多少の障害を残すもの |
|
14級9号 |
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、軽微な障害を残すもの |
|
7級の後遺障害認定基準
高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないもの
- 4能力のいずれか1つの能力の半分程度が失われているもの
- 4能力のいずれか2つ以上の能力の相当程度が失われているもの
7級4号の障害程度と症状の目安
後遺障害7級の人は、独立して生活できますが、通常の仕事はミスが多く、一般人と同等の作業を行えません。
7級に該当する具体的な症状
症状は個人によって異なりますが、高次脳機能障害7級の具体的な症状としては、以下が考えられます。
記憶障害
- 最近の出来事を思い出せない
- 約束や予定を忘れてしまう
- 物の置き場所を頻繁に忘れる
注意障害
- 集中力が続かない
- 複数のことを同時に行うのが難しい
- 気が散りやすい
遂行機能障害
- 物事の優先順位をつけるのが難しい
- 計画を立てて実行することが困難
- 指示がないと次の行動に移れない
社会的行動障害
- 感情のコントロールが難しい(易怒性など)
- 状況に合わない行動をとることがある
- 他人の気持ちを察することが苦手
7級と5級との違い
高次脳機能障害7級は、一人で生活できます。しかし、通常の仕事はミスが多く、一般人と同等の作業を行えません。
一方、高次脳機能障害5級は、一人で生活するのが難しく、また一般的な仕事は困難なケースが多いです。
7級と9級との違い
7級と9級の主な違いは、症状の程度と日常生活への影響の大きさです。7級では中等度の支障があり、日常生活や仕事に明らかな困難が生じます。
一方、9級では軽度の支障にとどまり、適切な対処法や環境調整によって、ある程度の社会生活の維持が可能です。
7級の後遺障害認定に必要なこと
症状固定期の画像検査が必須
高次脳機能障害の後遺障害7級認定には、症状固定期の画像検査が重要です。MRI検査やCT検査で、脳の器質的損傷や異常を証明します。
特に、びまん性軸索損傷では、後遺症が高度であるにもかかわらず、画像所見が乏しいケースが珍しくありません。
このようなケースであっても、症状固定期の画像検査では脳萎縮を認める可能性があります。
<参考>
びまん性軸索損傷の後遺症と後遺障害認定ポイント|交通事故の医療鑑定
最適な神経心理学検査を受ける
高次脳機能障害には多くの症状があるため、ひとつの検査だけではすべてを評価することはできません。
高次脳機能障害を評価するために、複数の神経心理学的検査を組み合わせた評価方法(評価バッテリー)が提案されています。
高次脳機能障害が適正に後遺障害認定されるためには、神経心理学的検査の評価バッテリーが重要です。
<参考>
高次脳機能障害の診断テストと評価バッテリー|交通事故の後遺障害
診断書の記載内容の確認
後遺障害7級の認定では、主治医の診断書が重要です。診断書には、後遺障害診断書、頭部外傷後の意識障害についての所見、神経系統の障害に関する医学的意見があります。
それぞれの診断書には、以下のコラムのようなポイントがあります。これらのポイントを漏れなく押さえているかの確認が重要です。
<参考>
日常生活状況報告書の記載には細心の注意が必要
日常生活状況報告書は、事故の被害者が日常生活でどのような困難を抱えているかを記録するための書類です。
家族や介護者が、事故前と後の被害者の状態を詳しく書きます。これにより、医師や審査機関が被害者の生活状況を理解しやすくなり、後遺障害の認定に役立ちます。
日常生活状況報告書の記載内容は、後遺障害7級認定のポイントを押さえる必要があります。詳細に関しては、こちらのコラム記事を参照してください。
<参考>
日常生活状況報告の書き方とポイント|高次脳機能障害の後遺障害
後遺障害7級認定のポイント【弁護士必見】
申請前に各種医証の確認が必要
高次脳機能障害で後遺障害5級の認定を受けるためには、しっかりとした準備が必要です。まず、交通事故後の治療記録や診断書を揃えて、医師に後遺障害診断書を作成してもらうことが重要です。
後遺障害認定基準を考慮して、後遺障害診断書や神経系統の障害に関する医学的意見に漏れがないか確認することが望ましいです。
高次脳機能障害の後遺障害認定は書面審査であるため、診断書の内容が等級判定に大きな影響を与えます。
一般就労の継続が難しいと7級認定可能性がある
高次脳機能障害により、通常の仕事でミスが多く、一般人と同等の作業を行えない場合は、後遺障害7級に認定される可能性があります。
このような状況であれば、高次脳機能障害事案と後遺障害認定基準の両方に精通した専門医に相談する必要があります。
高次脳機能障害は、被害者請求の段階で一発で認定されることを目指す必要があります。それには弁護士と専門医の連携が不可欠なのです。
7級に不足する資料を集めて異議申し立て
事前認定や被害者請求で後遺障害5級に認定されなかった場合には、まず非該当通知書の記載内容を精査します。
そして、後遺障害認定基準も勘案して、7級認定に不足する資料を集めて異議申し立てしましょう。
尚、高次脳機能障害の後遺障害認定ポイントやピット―フォールへの対応法は、こちらのコラムで詳述しています。興味のある方は参照してください。
<参考>
高次脳機能障害の後遺症と後遺障害認定ポイント|交通事故の医療鑑定
高次脳機能障害7級の後遺障害認定事例
事案サマリー
- 被害者:30代男性
- 初回申請:12級13号
- 異議申し立て:7級4号(軽易な労務以外の労務に服することが出来ないもの)
弊社の取り組み
被害者はバイク走行中に普通自動車に追突され転倒し、頭部を強く打ち、外傷性くも膜下出血、急性硬膜下血腫、脳挫傷を負いました。
受傷から1年以上経過し症状が固定した後も、社会行動能力が著明に低下、以前行なっていた営業職に戻ることが出来ず職場での配置転換を余儀なくされました。
保険会社は受傷後に軽度の意識障害が1時間しか継続していないことを理由に、頭痛やめまい感だけが後遺症として残っており後遺障害等級は12級13号を主張しました。
しかし、弊社意見書により、「脳挫傷後に脳萎縮が経時的変化として捉えられていること」、「受傷直後の意識障害の程度は高次脳機能障害の有無を検討する判断材料として必須ではないこと」、「社会行動能力が半分程度喪失しており高次脳機能障害の後遺障害等級7級4号が妥当であること」を主張し、これらの主張が全面的に認められました。
T2*強調画像にて、右前頭葉、右中脳、両側頭頂葉などにびまん性脳損傷を認めます。
高次脳機能障害7級の後遺障害認定で弊社ができること
弁護士の方へ
弊社では、交通事故で残った高次脳機能障害が後遺障害に等級認定されるために、さまざまなサービスを提供しております。
等級スクリーニング
現在の状況で、後遺障害に認定されるために足りない要素を、後遺障害認定基準および医学的観点から、レポート形式でご報告するサービスです。
等級スクリーニングは、年間1000事案の圧倒的なデータ量をベースにしています。また、整形外科や脳神経外科以外のマイナー科も実施可能です。
等級スクリーニングの有用性を実感いただくために、初回事務所様は、無料で等級スクリーニングを承っております。こちらからお気軽にご相談下さい。
<参考>
【等級スクリーニング】後遺障害認定と対策を精査|医療鑑定
医師意見書
医師意見書では、診療録、画像検査、各種検査、後遺障害診断書などの事故関連資料をベースにして、総合的に後遺障害の蓋然性を主張します。
医師意見書は、後遺障害認定基準に精通した各科の専門医が作成します。医学意見書を作成する前に検討項目を共有して、クライアントと医学意見書の内容を擦り合わせます。
医学意見書では、必要に応じて医学文献を添付して、論理構成を補強します。弊社では、2名以上の専門医によるダブルチェックを行うことで、医学意見書の質を担保しています。
弊社は1000例を優に超える医師意見書を作成しており、多数の後遺障害認定事例を獲得しています。是非、弊社が作成した医師意見書の品質をお確かめください。
<参考>
交通事故の医師意見書が後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
画像鑑定報告書
交通事故で残った後遺症が、後遺障害で非該当になったら異議申し立てせざるを得ません。その際に強い味方になるのが画像鑑定報告書です。
画像鑑定報告書では、レントゲン、CT、MRIなどの各種画像検査や資料を精査したうえで、後遺障害診断書に記載されている症状との関連性を報告します。
画像鑑定報告書は、画像所見の有無が後遺障害認定に直結する事案では、大きな効果を発揮します。
弊社では事案の分析から医師意見書の作成、画像鑑定にいたるまで、社内の管理医師が一貫して取り組むことで、クライアント利益の最大化を図っています。
<参考>
【画像鑑定】交通事故の後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
高次脳機能障害7級の後遺障害認定でお悩みの被害者の方へ
弊社サービスのご利用をご希望であれば、現在ご担当いただいている弁護士を通してご依頼いただけますと幸いです。
また、弊社では交通事故業務に精通している全国の弁護士を紹介することができます。
もし、後遺障害認定で弁護士紹介を希望される被害者の方がいらっしゃれば、こちらのリンク先からお問い合わせください。
尚、弁護士紹介サービスは、あくまでもボランティアで行っています。このため、電話での弊社への問い合わせは、固くお断りしております。
弊社は、電話代行サービスを利用しているため、お電話いただいても弁護士紹介サービスをご提供できません。ご理解いただけますよう宜しくお願い申し上げます。
高次脳機能障害7級の慰謝料相場
高次脳機能障害7級の慰謝料相場は、弁護士基準で約1,000万円、自賠責基準で約419万円です。また、逸失利益や介護費用なども含めると、総額はさらに高くなる可能性があります。
高次脳機能障害でよくある質問
高次脳機能障害はよくなるのですか?
高次脳機能障害は、リハビリテーションや適切な治療を受けることで改善する可能性があります。
特に、早期のリハビリが効果的であり、記憶障害や注意障害、遂行機能障害などの症状に対して個別の訓練が行われます。
ただし、すべての患者に同じ効果があるわけではなく、症状の程度や原因によって異なります。
高次脳機能障害は発達障害や認知症とはどのように違うのですか?
高次脳機能障害は、脳に損傷を受けたことによって発生する障害で、記憶、注意、言語、思考などの脳の高次機能に影響を与える状態です。
発達障害は、生まれつきや幼少期に発症する神経発達の問題であり、注意欠陥・多動性障害(ADHD)や自閉症スペクトラム障害(ASD)などが含まれます。
これらは遺伝的要因や環境要因が影響し、幼少期から見られる症状が一生続くことが多いです。
一方、認知症はアルツハイマー病や脳血管障害などの進行性の脳の病気によって引き起こされ、記憶障害や判断力の低下などの症状が徐々に進行します。
高齢者に多く見られる病気で、時間とともに悪化し、日常生活の自立が難しくなります。
これら3つの障害は、それぞれ異なる原因や症状、影響を持つため、適切な対応やサポートが重要です。
高次脳機能障害の患者は自分の障害に気がついているのでしょうか?
高次脳機能障害の患者は、自分の障害に気づかないことが多いです。これは「病識欠如」と呼ばれています。
患者自身が障害を認識できないため、周囲の人々が理解し、適切に対応することが重要です。外見上は問題がないように見えることもあり、誤解されやすいです。
高次脳機能障害の患者とどのように接したらよいですか?
高次脳機能障害の患者と接する際は、患者の症状に応じた対応が必要です。記憶障害にはメモや手帳を活用し、注意障害には静かな環境を整えることが有効です。
また、患者の行動を理解し、無理に矯正しようとせず、落ち着いた対応を心がけることが大切です。
まとめ
高次脳機能障害の7級認定基準は、軽い仕事しかできない状態です。記憶や注意、遂行機能、社会的行動の4つの能力の一部が大きく損なわれる場合に該当します。
具体的な症状には、記憶力の低下や集中力の欠如、計画を立てて実行する能力の低下、感情のコントロールが難しいことなどがあります。
独立して生活はできるものの、通常の仕事では多くのミスが発生します。認定には症状固定期の画像検査や神経心理学的検査が必要で、診断書や日常生活状況報告書も重要です。
交通事故で受傷した高次脳機能障害に関してお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
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