家族や身の周りの人が、認知症かもしれないと感じた時に、どのような検査を受けるのかは気になるでしょう。認知症の疑いがある場合は、早めの検査が重要です。
本記事は、認知症の各種検査の種類や評価法を知るヒントとなるように作成しています。
最終更新日: 2024/5/13
Table of Contents
認知症の検査を受けるべき理由
認知症かもしれないと思った時には、できるだけ早く検査を受ける必要があります。その理由は、早く発見することで治療できる認知症があるからです。
認知症を発症する主な疾患
認知症の症状をきたす疾患には、以下のようにさまざまな種類があります。最も多いものはアルツハイマー型認知症です。
- アルツハイマー型認知症
- 血管性認知症
- レビー小体型認知症
- 特発性正常圧水頭症
- 慢性硬膜下血腫
- 脳腫瘍
- 大脳皮質基底核変性症
- 進行性核上性麻痺
- クロイツフェルト・ヤコブ病
認知症は何科を受診する?
まずは内科などの近所のかかりつけ医を受診して相談しましょう。もし、かかりつけ医が居ない場合には、以下の科を受診することをお勧めします。
- 脳神経内科
- 脳神経外科
- 精神科
- 心療内科
認知症の検査の種類
認知症の検査には、以下の3種類があります。
- 身体検査
- 神経心理学検査
- 画像検査
身体検査
内科的な疾患でも、認知症の症状をきたします。内科的疾患を除外するために、血液生化学検査、感染症検査、心電図検査、レントゲン検査などを行います。
神経心理学検査
神経心理学検査は、質問への回答や作業を観察して、認知機能を定量的・客観的に評価する検査です。神経心理学検査が一定の数値を下回ると、認知症の疑いがあります。
認知書を診断するための神経心理学検査には、たくさんの種類があります。主な神経心理学検査は、長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)とミニメンタルステート検査 (MMSE)です。
長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)
長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)は、簡単な計算や日付、場所などの記憶力を調べる検査です。30点中の20点以下で、認知症の疑いがあります。
<参考>
【医師が解説】長谷川式認知症スケールの解釈|遺言能力鑑定
【医師が解説】MMSEと長谷川式認知症スケールの違い|遺言能力鑑定
ミニメンタルステート検査 (MMSE)
ミニメンタルステート検査 (MMSE)は、単純作業や計算で認知機能を評価します。30点中21点以下で認知症の疑いがあります。
<参考>
【医師が解説】MMSEの認知症でのカットオフ値は?|遺言能力鑑定
【医師が解説】MMSEと長谷川式認知症スケールの違い|遺言能力鑑定
神経心理学検査は高次脳機能障害でも実施される
神経心理学検査は、認知症だけではなく脳卒中や外傷後の高次脳機能障害でも実施されます。長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)とミニメンタルステート検査 (MMSE)以外にも、さまざまな種類の神経心理学検査があります。
<参考>
【医師が解説】神経心理学的検査は高次脳機能障害の等級認定ポイント
【医師が解説】高次脳機能障害の診断テストと評価バッテリー|交通事故
画像検査
認知症では、脳の病変の有無や形態異常を調べるために、以下のような画像検査が行われます。
- CT検査
- MRI検査(VSRAD)
- SPECT検査
- PET検査
CT検査
認知症では、形態学的変化が現れやすいです。最もよく認められる画像所見は、前頭葉、側頭葉、頭頂葉の脳萎縮です。
脳萎縮を反映して、脳室やシルビウス裂の拡大が特徴的です。以下のCT検査では、両側のシルビウス裂が拡大しています(赤矢印)。
MRI検査
MRI検査はCT検査ほど鋭敏ではないですが、脳萎縮などの形態異常を検出できます。認知症では、海馬を含む側頭葉内側の脳萎縮と、脳萎縮を反映した側脳室の拡大が特徴的です。
一方、後頭葉と小脳には脳萎縮がないことが多いです。MRI検査では、血管性認知症の原因となる陳旧性脳梗塞なども検出できます。以下のMRI検査では、側脳室の拡大を認めます。
早期アルツハイマー型痴呆診断支援システム(VSRAD)
早期アルツハイマー型痴呆診断支援システム(VSRAD、ブイエスラド)は、MRI画像を使って脳の萎縮度を客観的に評価する検査です。
海馬傍回(かいばぼうかい) 、海馬、扁桃などの記憶に関わる部位の萎縮度を評価して、認知症を発症している可能性を数値化します。
<参考>
ブイエスラド | 製品情報 | エーザイ
SPECT検査
SPECT検査とは、脳の血流を計測することで脳機能を評価するための検査です。具体的には、微量の放射性同位元素を静脈内注射して、放射性同位元素から放出される微量の放射線を計測します。
初期の認知症では、側頭葉と頭頂葉の集積が低下します。認知症が進行すると、前頭葉の血流低下が進むため、同部位の集積が低下します。
PET検査
PETはSPECTと似た検査で、脳機能を評価する検査です。SPECTは脳血流を測定できるのに対して、PETは脳血流だけではなく、糖代謝の測定や、アミロイド蓄積の有無も評価できます。
初期の認知症では、糖代謝の低下を反映して側頭葉と頭頂葉の集積が低下するケースが多いです。
<参考>
【医師が解説】認知症の画像所見とは?|遺言能力鑑定
認知症検査の価格
認知症の検査の費用は気になるところですね。神経心理学検査や画像検査の種類によって大きく異なりますが、おおむね1~3万円程度と考えてよいでしょう。
認知症で遺言能力が争いになると?
認知症になると遺言能力を喪失するケースが多いです。このため、相続時に親族間での争いに発展することもあります。
裁判所が遺言能力の有無を判定する場合、裁判官は以下の資料で遺言能力の有無を判断します。
- 診断書
- 遺言時の頃に親が記載した文書
- 遺言時の頃に撮影した親の動画
- 遺言時の頃の親に関する日記
- 遺言能力鑑定書
これらの資料の中でも、認知症専門医が作成する遺言能力鑑定書は信用力が高いため、裁判官の判断に大きな影響力を及ぼします。
<参考>
【医師が解説】相続で認知症の程度はどこまで有効?|遺言能力鑑定
【医師が解説】認知症の親の遺言書は有効か?|遺言能力鑑定
遺言能力鑑定
遺言能力鑑定に必要な資料
認知症になった親の没後であっても、以下のような資料があれば遺言能力鑑定は対応可能です。
- 診断書(介護保険の主治医意見書を含む)
- 診療録(カルテ)
- 介護保険の認定調査票
- 画像検査
- 各種の検査結果
- 看護記録
- 介護記録
すべて揃っていることが望ましいですが、足りない資料があっても遺言能力鑑定できる可能性はあります。
これらの資料の受け渡しは、オンラインストレージもしくは郵送となります。安全性や利便性からオンラインストレージの利用を推奨しています。
ご依頼いただいた際に、オンラインストレージの使用方法を簡単にご説明させていただきます。
遺言能力鑑定を作成する流れ
遺言能力鑑定をご依頼後の大まかな流れは、以下の通りです。尚、没後鑑定では事前審査(95,000円+税)が本鑑定(350,000円+税~)とは別途で必須です。
- 弊社による簡易な資料確認結果のご連絡、および事前審査に関する見積書の送付
- お見積りにご承諾いただいた段階で、正式に事前審査を開始
- 事前審査が完了後、ご請求書の送付
- ご入金確認後、事前審査結果のご提出(電子データ)
事前審査の結果を踏まえて遺言能力鑑定(本鑑定)に進む場合には、以下の流れになります。
- 弊社より見積書を送付
- お見積りをご承諾いただいた段階で、正式に遺言能力鑑定を開始
- 遺言能力鑑定案完成後、電子データにてご確認いただき、修正点があれば調整
- 遺言能力鑑定の最終稿が完成した段階で、ご請求書の送付
- ご入金確認後、レターパックにて医師の署名・捺印入り原本の発送
遺言能力鑑定の作成にかかる期間
遺言能力鑑定を作成する期間は、お見積りをご了承いただいた時点から初稿提出まで約4週間です。
遺言能力鑑定の料金
生前鑑定
400,000円+税
没後鑑定
事前審査:95,000円+税
本鑑定 :350,000円+税
- 没後鑑定では、事前審査が本鑑定とは別途で必須です。
- 本鑑定に進まない場合にも、事前審査費用の返金は致しかねます。
遺言能力鑑定の実例
【脳神経内科】公正証書遺言作成時の遺言能力を鑑定
- 80歳台前半
- 男性
平成29年に公正証書遺言書を作成しました。しかし、当時すでに遺言者はアルツハイマー型認知症が進行しており、神経内科で治療中でした。
相続人Cは、公正証書遺言の有効性について提訴して一審勝訴、控訴審係属中に弊社に遺言能力鑑定依頼となりました。
脳神経内科医師が医証を精査したところ、頭部CTでは著明な脳萎縮を認め、脳血流シンチグラフィーでは左頭頂葉と両側後方帯状回に脳血流低下を認めました。
診療録や画像検査から、公正証書遺言の作成時に充分な遺言能力を有していたとは到底言えないことが判明しました。
公正証書遺言を作成した事実は、被相続人が遺言能力を有している証拠にはならないことの一例です。
【消化器内科】癌末期の肝性昏睡患者の遺言能力を鑑定
- 60歳台前半
- 男性
平成27年に下行結腸癌、空腸浸潤に対して左半結腸切除術、空腸合併切除、リンパ節郭清を施行しました。多発性の肝転移を認めたため根治は困難とのことで在宅医療を行っていました。
しかし病状は少しずつ増悪して、食事摂取や体動が困難となり、平成28年に緩和治療目的で入院しました。多量の鎮痛剤で癌性疼痛のコントロールを行いましたが、徐々に全身状態は衰弱しました。
永眠される3日前に、疎遠だった兄弟に財産を贈与するという内容の自筆証書遺言が作成されました。遺言書の内容を不信に思った内縁の妻側の弁護士から、遺言能力鑑定の依頼を受けました。
消化器内科医師が診療録や画像検査を精査したところ、遺言書の作成時に充分な遺言能力を有していたとは到底言えないことが判明しました。
まとめ
認知症の疑いがある場合は、早めの検査が重要です。認知症の検査には、身体検査、神経心理学検査、画像検査があります。
特に、神経心理学検査と画像検査は、認知症の原因究明や治療方針を決定する上で重要です。
認知症検査の費用は、神経心理学検査や画像検査の種類によって大きく異なりますが、おおむね1~3万円程度と考えてよいでしょう。
認知症では遺言能力が争いになるケースがあります。遺言能力の有無を客観的に主張するためには、遺言能力鑑定が有効な手段となり得ます。お困りの事案があれば、お問合せフォームからご連絡下さい。
関連ページ