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【医師が解説】骨折が治りにくい部位は?|交通事故の後遺障害

人の身体には約206個の骨がありますが、その中には骨折が治りにくい部位があります。治りにくい部位を骨折してしまった場合には、治療に注意が必要です。

 

本記事は、骨折が治りにくい部位を理解するヒントとなるように作成しています。

 

 

最終更新日: 2024/5/13

 

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治りにくい部位の骨折

 

骨折が治りにくい部位として、以下のようなものが挙げられます。

 

  • 大腿骨頚部骨折
  • 脛骨骨折(遠位1/3)
  • 舟状骨
  • 距骨

 

 

いずれも、骨を栄養する血流や軟部組織が乏しい部位の骨折です。骨折が治るためには栄養分が必要です。栄養分を運ぶのは血流なので、血流が乏しい部位の骨は治りにくくなります。

 

 

大腿骨頚部骨折

大腿骨頚部骨折が治りにくい理由

大腿骨頚部骨折は、足の付け根の骨折です。加齢によって骨が弱くなると、転倒などで骨折しやすくなります。

 

大腿骨頚部には、成人では血管が1本しか無い人が多いです。このため、大腿骨頚部を骨折すると大腿骨頭という体重を受ける部分の骨が壊死を起こす可能性が高いです。

 

 

femoral neck fracture

 

 

大腿骨頚部骨折の治療

大腿骨頚部骨折は、基本的に手術療法が必要です。手術療法には、骨を繋げるスクリュー固定やピン固定と、人工骨頭置換術に大別されます。

 

骨のズレ(転位)が小さければ、大腿骨頭という体重を受ける部分の骨が壊死せずに骨癒合する可能性があります。このため、骨を繋げるスクリュー固定やピン固定を選択します。

 

一方、骨のズレが大きいために骨を栄養する血管が断裂しているケースでは、大腿骨頭が壊死する可能性が高いです。このため、人工骨頭置換術を行います。

 

 

<参考>
【医師が解説】大腿骨骨折が後遺症認定されるポイント|交通事故

 

 

FHR

 

 

脛骨骨折(遠位1/3)

脛骨骨折(遠位1/3)が治りにくい理由

脛骨骨折(遠位1/3)は、下腿(膝下のすね)の骨折です。下腿は、いわゆる「弁慶の泣き所」です。

 

下腿の足首に近い部分は、皮膚のすぐ下に骨があります。特に下腿の前面は、骨の周りにほとんど筋肉が無いので血流が乏しいです。

 

このため、下腿の足首に近い部分を骨折すると、骨折が治りにくいです。また感染が起こりやすいことでも有名です。

 

 

tibia fracture

 

 

脛骨骨折(遠位1/3)の治療

脛骨骨折(遠位1/3)は、基本的に手術療法が必要です。手術療法には、骨を繋げるプレート固定や髄内釘による固定があります。

 

小児の脛骨骨折では、ギプスによる保存療法が選択されます。

 

 

<参考>
【医師が解説】脛骨骨折が後遺障害認定されるポイント|交通事故

 

 

舟状骨骨折

舟状骨骨折が治りにくい理由

舟状骨は、手関節にある船のような形をした小さな骨です。親指の付け根にあり、8つの手根骨の中でも重要な骨の1つです。

 

舟状骨を栄養する血管が少ないため、しっかり治療しないと偽関節になりやすいです。

 

 

scaphoid fracture

 

 

舟状骨骨折の治療

手の舟状骨骨折の治療は、骨折のズレ(転位)の大きさで変わります。ズレがほとんど無い場合には、ギプス固定が選択されます。

 

一方、ほんの少しでもズレがある場合には手術療法が必要です。手術療法は、特殊なスクリューによる内固定手術が行われています。

 

 

<参考>
【医師が解説】舟状骨骨折の後遺症が等級認定されるヒント|交通事故

 

 

距骨骨折

距骨骨折が治りにくい理由

距骨は、足首にある船のような形をした骨です。足関節を構成する3つの骨のひとつです。

 

距骨は表面の60%が関節軟骨に覆われているため、距骨を栄養する血管が少ないです。このため、距骨骨折は骨壊死を併発しやすいです。

 

 

talar neck fracture

 

 

距骨骨折の治療

距骨骨折の治療は、骨折のズレ(転位)の大きさで変わります。ズレがほとんど無い場合には、ギプス固定が選択されます。

 

一方、ほんの少しでもズレがある場合には手術療法が必要です。手術療法は、特殊なスクリューによる内固定手術が行われています。

 

 

<参考>
【医師が解説】距骨骨折の後遺症が等級認定されるポイント|交通事故

 

 

 

nikkei medical

 

 

大腿骨頚部骨折で考えられる後遺障害

機能障害(股関節の可動域制限)

8級7号:1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの

 

  • 股関節がほとんと動かない状態(関節可動域が10%以下)
  • 人工関節を挿入して、関節可動域が2分の1以下に制限された状態

 

 

10級11号:1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの

 

  • 関節可動域が2分の1以下に制限された状態

 

 

12級7号:1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの

 

  • 関節可動域が4分の3以下に制限された状態

 

 

神経障害(股関節の痛み)

12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの

 

  • 画像所見などで痛みの原因を証明できるもの

 

 

14級9号:局部に神経症状を残すもの

 

  • 画像所見で痛みの原因を証明できないものの、治療内容などから痛みの存在を類推できるもの

 

 

変形障害(骨が治癒しなかった)

12級8号:長管骨に変形を残すもの

 

  • 大腿骨または脛骨の骨端部に癒合不全を残すもの

 

大腿骨頚部骨折の保存療法では、高い確率で偽関節になります。

 

 

短縮障害(下肢が短くなった)

8級5号:1下肢を5センチメートル以上短縮したもの

10級8号:1下肢を3センチメートル以上短縮したもの

13級8号:1下肢を1センチメートル以上短縮したもの

 

いずれも下肢の長さはSMDで計測します。SMD(Spina Malleollar Distance:棘果長)は、下肢の長さの計測法のひとつです。骨盤にある上前腸骨棘から足関節の内果(内くるぶし)までの距離をメジャーを用いて計測します。

 

何らかの原因で通常の手術を施行できず、切除関節形成術(ガードルストーン手術)となった場合には3~5cm以上の短縮もありえます。

 

 

<参考>
【医師が解説】脚長差(短縮障害)の評価はSMDが妥当?|交通事故

 

 

inquiry

 

Traffic accident patient

 

 

脛骨骨折(遠位1/3)で考えられる後遺障害

 

可動域制限による機能障害、変形障害、偽関節による障害、切断による障害、壊死や欠損による醜状障害などがありえます。

 

 

機能障害

8級7号:1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの

 

足関節の可動域制限を残す場合がありえます。強直あるいは完全弛緩性麻痺かそれに近いものをいいます。

 

 

10級11号:1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの

 

関節の可動域が健側の可動域の1/2以下に制限されているものです。開放骨折では周囲の筋肉・腱の癒着を伴い、可動域制限がより出現します。

 

 

12級7号:1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの

 

関節の可動域が健側の可動域の3/4以下に制限されているものです。

 

 

変形障害

7級10号:1下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの

 

要件として、「著しい運動障害を残すもの」とは常に硬性補装具を必要とするものを言います。脛骨骨折は、全身の骨の中でも偽関節を残しやすい骨折として有名です。

 

 

8級9号:1下肢に偽関節を残すもの

 

脛骨骨折に偽関節を残した症例で、常に硬性補装具を必要としないものが該当します。実臨床では、偽関節に至った症例でもっとも多いのはこのタイプの後遺障害です。

 

ロッキングプレートや髄内釘のおかげで硬性補装具無しで歩行可能なものの、骨癒合していない症例は稀ではありません。

 

 

12級8号:長管骨に変形を残すもの

 

15度以上の変形を残して癒合したものや脛骨の直径が2/3以下に減少したものをいいます。なお、腓骨のみの変形であっても、その程度が著しい場合はこれに該当します。

 

偽関節以上に多いのがこのタイプの後遺障害です。特に直径が2/3以下に減少している事案は多い印象を受けます。

 

主治医は自賠責認定基準を知らず、また弁護士は骨折部の立体的なイメージができないため、気付かれないケースが多いので注意が必要です。

 

 

短縮障害

脛骨の骨癒合不全のために短縮の後遺障害が残ることがあります。

 

8級5号:1下肢を5センチメートル以上短縮したもの

10級8号:1下肢を3センチメートル以上短縮したもの

13級8号:1下肢を1センチメートル以上短縮したもの

 

下肢の短縮の評価は、上前腸骨棘と下腿内果下端間の長さを健側と比較することによって行います。

 

 

欠損障害

下腿慢性骨髄炎を発症して治癒せずに、やむをえずに下腿切断となる場合があります。

 

4級5号:1下肢を膝関節以上で失ったもの

5級3号:1下肢を足関節以上で失ったもの

 

 

神経障害

12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの

 

骨折においては、局所の神経損傷を伴っていることが多く経験します。その際は、tinel徴候(損傷部位を軽く叩打すると、その遠位部にチクチクと響く症状)を確認します。

 

例えば、脛骨骨幹部骨折で髄内釘を施行した事案では、高率に伏在神経膝蓋下枝損傷を併発します。

 

 

14級9号:局部に神経症状を残すもの

 

骨折後に残った痛みで最も認定されやすいのは14級9号です。脛骨骨幹部骨折などでしっかり骨癒合している事案では、客観的な痛みの原因を証明することは難しいケースが多いです。

 

このような事案では、12級13号が認定される可能性は非常に低いですが、14級9号が認定される可能性は十分にあります。

 

 

醜状障害

下腿の醜状に関しては、下記に詳しくまとめていますのでご参照ください。

 

 

<参考>
【医師が解説】醜状が後遺症認定されるポイント|交通事故

 

 

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舟状骨骨折で考えられる後遺障害

機能障害(関節の可動域制限)

8級6号:手関節が強直したもの

 

手関節の可動域が健側の10%程度以下に制限されたものです。舟状骨骨折が偽関節化したまま放置すると、高度の関節可動域制限が残る可能性があります。

 

 

10級10号:1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの

 

手関節の可動域が健側の可動域の1/2以下に制限されているものです。同じく、舟状骨骨折が偽関節化したまま放置すると、高度の関節可動域制限が残る可能性があります。

 

 

12級6号:1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの

 

手関節の可動域が健側の可動域の3/4以下に制限されているものです。順調に骨癒合しても手関節の可動域制限を併発する可能性が高いです。

 

 

神経障害

12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの

 

舟状骨骨折が偽関節になると痛みが続くため、12級13号に認定される可能性が高いです。

 

偽関節以外でも手関節の痛みの原因を他覚的に示すことができる(画像所見において骨折部の変形や段差、関節の異常な摩耗が確認できる)場合には、12級13号に該当する可能性があります。

 

 

14級9号:局部に神経症状を残すもの

 

舟状骨骨折が骨癒合したものの、手術の有無や治療経過、通院頻度などの要素を総合的に判断した結果、痛みの原因が医学的に説明可能な場合には14級9号に該当する可能性があります。

 

 

距骨骨折の後遺障害

 

距骨骨折では、骨壊死を併発するか否かが大きなポイントです。骨壊死を併発した場合には、機能障害(関節の可動域制限)と神経障害(痛み)を残す可能性があります。

 

 

機能障害

距骨骨折により変形が残存した場合や、骨折に対する保存療法によって長期の外固定を要した場合では、足関節の可動域制限が残存することがあります。

 

可動域制限の程度により、以下の通り後遺障害等級が認められる可能性があります。可動域制限の評価には、【背屈+底屈の合計他動可動域】の数値がもちいられることに注意しましょう。

 

 

8級7号:足関節が強直したもの

 

足関節の可動域が健側の10%程度以下に制限されたものです。距骨頚部骨折や距骨体部骨折で骨壊死を併発した症例では、高度の関節可動域制限が残る可能性があります。

 

 

10級11号:足関節の関節可動域が、健側の1/2以下に制限されたもの

 

骨壊死を併発しない距骨骨折であっても、可動域が健側の半分以下になるケースもあります。

 

 

12級7号:足関節の関節可動域が、健側の3/4以下に制限されたもの

 

足関節は荷重関節にもかかわらず、股関節や膝関節ほど関節の面積が大きくないので、外傷性変形性関節症が進行しやすいです。このため、ほとんどずれ(転位)の無い距骨骨折であっても可動域制限が残るケースもあります。

 

 

神経障害

距骨骨折の治療後に関節面の変形や段差が残存すると、痛みの原因となることがあります。

 

 

12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの

 

距骨骨折では、疼痛の原因を他覚的に示すことができる(画像所見において骨折部の変形や段差、関節の異常な摩耗が確認できる)場合に、12級13号に該当する可能性があります。

 

 

14級9号:局部に神経症状を残すもの

 

手術の有無や治療経過、通院頻度などの要素を総合的に判断した結果、疼痛の原因が医学的に説明可能な場合には14級9号に該当する可能性があります。

 

 

 

nikkei medical

 

 

【弁護士必見】治りにくい骨折の後遺障害認定ポイント

 

交通事故診療で見かける事案の中でも、大腿骨頚部骨折、脛骨骨折、舟状骨骨折は後遺症が残りやすい骨折です。特に、遷延癒合や偽関節になった事案では、上位の後遺障害に認定される可能性が高いです。

 

しかし自賠責保険では、臨床的に偽関節になっているからと言って、必ずしも後遺障害に認定されるわけではありません。このようなケースでは、追加検査や後遺障害認定に精通した医師による評価が必要となります。

 

<参考>
【医師が解説】偽関節の後遺症が等級認定されるポイント|交通事故

 

 

偽関節にもかかわらず後遺障害に認定されずにお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。

 

 

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Traffic accident patient

 

 

まとめ

 

骨折が治りにくい部位として、以下のようなものが挙げられます。

 

  • 大腿骨頚部骨折
  • 脛骨骨折(遠位1/3)
  • 舟状骨
  • 距骨

 

 

いずれも、骨を栄養する血流や軟部組織が乏しい部位の骨折です。骨折が治るためには栄養分が必要です。栄養分を運ぶのは血流なので、血流が乏しい部位の骨は治りにくくなります。

 

 

 

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