腰椎圧迫骨折や胸椎圧迫骨折で脊柱の変形障害(後弯変形)が残ると、後遺障害8級に認定される可能性があります。
しかし、一般的には腰椎や胸椎の圧迫骨折で8級に認定されるハードルは高いと言わざるを得ません。
本記事は、圧迫骨折で後遺障害8級に認定された事案の画像を提示して、後遺障害に認定されるヒントとなるように作成しています。
最終更新日: 2024/5/11
Table of Contents
多発性胸椎圧迫骨折で8級の画像
事案サマリー
- 被害者:35歳
- 初回申請:11級7号
- 異議申立て:8級2号(脊柱に中程度の変形を残すもの)
自動車乗車中にトラックと正面衝突して受傷しました。初回申請では第12胸椎圧迫骨折(青矢印)に対して、後遺障害11級7号が認定されました。
弊社の取り組み
弊社にて画像所見を精査すると、受傷時のMRI検査で第3.4.5胸椎圧迫骨折(赤矢印)も併発していました。CT検査を追加実施して、圧迫骨折を受傷した全ての椎体高を計測しました。異議申し立てしたところ、後遺障害8級2号が認定されました。
第6胸椎圧迫骨折のみで8級の画像
事案サマリー
- 被害者:30歳
- 初回申請:8級2号(脊柱に中程度の変形を残すもの)
横断歩道を歩行中に、右折してきた自動車と衝突して受傷しました。初回申請では第6胸椎圧迫骨折のみで8級2号が認定されました。
労働能力喪失率と労働能力喪失期間について保険会社と争いになったため、弊社に訴訟用の医師意見書作成依頼がありました。
弊社の取り組み
医師意見書において、以下の点を主張したところ、被害者側の主張が認められました。
- 脊柱のアライメント異常と労働能力低下に関する医学論文
- 骨折部周囲の軟部組織損傷による機能障害の存在
- 脊柱のアライメント異常は一生涯残存する
- 背部痛や易疲労性は背筋力低下とともに増悪する
<参考>
【日経メディカル】圧迫骨折の「後遺障害」はあるのに「後遺症」はない?
圧迫骨折の後遺障害
圧迫骨折の後遺障害には、以下のような5つの障害があります。
- 脊柱の変形障害(6級、8級、11級)
- 脊柱の運動障害(6級、8級)
- 脊柱の荷重機能障害(6級、8級)
- 局部の神経障害(12級、14級)
- 脊髄損傷の後遺障害
このうち、圧迫骨折で後遺障害に認定される事案数が最も多いのは脊柱の変形障害です。脊柱の変形障害では、椎体の圧壊程度によって、6級、8級、11級に認定されます。
<参考>
【医師が解説】脊柱の変形障害、運動障害が認定されるコツ|交通事故
圧迫骨折による脊柱の変形障害
6級5号:脊柱に著しい変形を残すもの
2個以上の椎体の前方椎体高の高さの合計が、後方椎体の高さの合計よりも、1個の椎体分以上低くなっているものです。簡単に言うと、椎体1個以上の椎体前方高の減少したものです。
この場合の1個の椎体分とは、骨折した椎体の後方椎体高の平均値です。
8級2号:脊柱に中程度の変形を残すもの
1個以上の椎体の前方椎体高の高さの合計が、後方椎体の高さの合計よりも、1/2個の椎体分以上低くなっているものです。端的に言うと、椎体の1/2以上の椎体前方高の減少したものです。
11級7号:脊柱に変形を残すもの
以下の2つのいずれかに該当すれば認定されます。
- 脊椎固定術が行われたもの
- 3個以上の脊椎について、椎弓切除術などの椎弓形成術を受けたもの
【弁護士必見】圧迫骨折の後遺障害認定ポイント
圧迫骨折で最も多いのは後遺障害等級の考え方
腰椎や胸椎の圧迫骨折では、5つの後遺障害に認定される可能性がありますが、被害者の後遺症として頻度が高いのは以下3つです。
- 腰痛や背部痛
- 背中が曲がる
- 身体が固くなる
このうち、最も後遺障害に認定されやすい後遺症は「背中が曲がる」です。自賠責保険では、脊柱の変形障害に該当します。
一方、背中が曲がることは、医学用語で「脊柱アライメント異常」と言います。脊柱アライメント異常には、前弯、後弯、側弯の3種類があります。圧迫骨折でよくみかける背中が曲がった状態は後弯です。
脊柱の後弯の程度によって、脊柱の変形障害6級5号、8級2号、11級7号のいずれかに該当します。実務的には椎体が潰れた程度で、各等級が判定されます。
<参考>
【医師が解説】圧迫骨折が後遺症認定されるポイント|交通事故
脊柱の変形障害の大雑把な理解法
脊柱の変形障害には、変形程度に応じて下記3つがあります。
- 脊柱に著しい変形を残すもの(6級5号)
- 脊柱に中程度の変形を残すもの(8級2号)
- 脊柱に変形を残すもの(11級7号)
実臨床で圧迫骨折の後遺障害として最も問題になるのは、脊柱アライメントの後弯変形です。後弯変形とは、いわゆる背中が曲がった状態です。
脊柱の後弯変形が問題になる理由は、背部痛、隣接椎体障害、隣接椎体骨折などの後遺症や合併症を併発しやすくなるからです。後弯変形が高度なほど、後遺症や合併症を発症しやすくなります。
自賠責認定基準の後遺障害認定基準には側弯変形もありますが、実臨床では脊椎骨折で側弯変形をきたすことはほぼありません。
したがって、実質的には脊柱の変形障害は後弯変形のみです。脊柱の後弯変形では、椎体高の減少程度によって、以下の3つに分けられます。
- 6級は椎体1個以上の椎体前方高の減少
- 8級は椎体の1/2以上の椎体前方高の減少
- 11級は椎体の1/2に満たない椎体前方高の減少
正書やインターネットではいろいろ複雑なことが記載されていますが、実は脊柱変形の定義は非常にシンプルなのです。
魚椎や扁平椎は脊柱の変形障害に該当するのか?
腰椎や胸椎の圧迫骨折には、椎体前方が圧壊する楔状椎以外にも、椎体中央が圧壊する魚椎や、全体的に椎体が圧壊する扁平椎があります。これらの圧迫骨折は、どのように評価するべきなのでしょうか?
基本に戻って、実臨床で問題になるのは脊柱の後弯変形であることを思い出してください。魚椎や扁平椎では、さほど後弯変形をきたしません。このため、後遺障害等級も11級7号になる事案がほとんどです。
<参考>
【医師が解説】脊柱変形障害や運動障害が後遺障害認定されるポイント
【訴訟】圧迫骨折後の労働能力喪失率と喪失期間
腰椎や胸椎の圧迫骨折では、最低でも後遺障害11級7号に認定されます。しかし、自賠責保険の実務で最も問題になるのは、労働能力喪失率と労働能力喪失期間です。
弊社に依頼される圧迫骨折の事案の約半数は、労働能力喪失率と労働能力喪失期間が争いになっています。
労働能力喪失率と労働能力喪失期間とも、脊柱アライメントの変化(背骨が曲がる)と腰痛が、医学的な論点となります。訴訟でよく見かける保険会社側の主張は、以下のようなものです。
- 後弯変形(背骨が曲がる)が軽度なので、疼痛による日常生活の支障は認めない
- 椎体変形が多少残存しても、馴化によって労働能力喪失率は経年的に減少する
後遺障害は、症状固定時の後遺症に対する補償です。したがって、若年者に関しては、保険会社側の主張も一理あるように思えます。
圧迫骨折の労働能力喪失率と労働能力喪失期間に関しては、あまりにも保険会社から訴訟提起される事案が多いので、日経メディカルでも問題提起しました。
<参考>
【日経メディカル】圧迫骨折の「後遺障害」はあるのに「後遺症」はない?
しかし、実際にはレントゲン検査でほとんど椎体の圧壊をみとめない症例であっても、それなりの痛みを残すことが多いです。
圧迫骨折後の脊柱アライメント変化が痛みを誘発することは、医学論文を用いてエビデンスを示す必要があります。
このためには、背筋力が加齢と共に低下することを示した文献等を用いて、医学意見書で主張することになります。このような文献は弊社でそろえているので、お困りの事案があればこちらのお問い合わせから気軽にご相談ください。
椎体変形がほとんど無くて非該当になったら?
MRI検査で明確に骨折しているにもかかわらず、非該当になる例があります。これらの事案に共通しているのは、椎体の圧壊がさほど進行しなかった若年例です。
これらの事案では、レントゲン検査で椎体圧壊が認められないために骨折の存在が否定されて非該当になります。一方、椎体の圧壊がほとんど無い症例でも、慢性的な背部痛は残存することが多いです。
圧迫骨折が存在するにもかかわらず、治療が奏功して椎体圧壊が進行しない場合には、後遺障害等級が非該当になる可能性があります。
そのようなケースでは。適切な医師意見書や画像鑑定報告書を提出することで、本来の等級である11級に認定される可能性があります。
<参考>
圧迫骨折ではなく骨挫傷とされて非該当になったら?
前述の若年者で胸腰椎の椎体変形がほとんど無いケースと類似した事案です。MRI検査が普及した結果、従来であれば発見されなかった骨髄内に出血している骨挫傷の症例が多数報告されるようになりました。
骨挫傷(骨髄内の出血)は骨折の前段階と思われますが、厳密に骨折と骨挫傷を区別することは難しいです。
実臨床では、骨挫傷であっても圧迫骨折として治療するケースが多いです。しかし、自賠責保険では高率に非該当になります。
弊社にも、背骨の骨挫傷で非該当になった事案の相談が多数寄せられています。これらの事案を精査すると、椎体内に化骨形成を確認できる事案が多いです。
仮骨形成を確認できた場合には、骨挫傷ではなく圧迫骨折を主張できるので、後遺障害に認定される可能性があります。
交通事故前からの圧迫骨折(陳旧性圧迫骨折)を指摘されたら?
日常診療では、高齢者になるほどご本人も知らないうちに圧迫骨折を受傷していた症例をよくみかけます(不顕性骨折)。もちろん不顕性骨折ではなく、明らかな圧迫骨折の既往歴のある方もたくさん存在します。
圧迫骨折がひとつも無い高齢者は珍しいと言っても過言ではありません。しかし自賠責保険では、圧迫骨折があると既存障害とみなされます。
このような事案では、今回の事故で受傷した椎体や、既存障害の椎体の圧壊率を再度測定するなどの対応が必要です。
<参考>
【日経メディカル】「いつの間にか骨折」悪化と判断され慰謝料が減額?!
【医師が解説】圧迫骨折が後遺症認定されるポイント|交通事故
まとめ
腰椎圧迫骨折や胸椎圧迫骨折で、後遺障害8級2号(脊柱に中程度の変形を残すもの)に認定されるためには、椎体の1/2以上が潰れている必要があります。
ひとつだけの椎体骨折で椎体の1/2以上が潰れる事案は少ないですが、多椎体にわたる骨折で8級に認定される事案は珍しくありません。
しかし、多椎体にわたる骨折では、一部の骨折が見逃されてしまって11級7号に留まるケースも散見します。圧迫骨折で8級が認定されずにお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
関連ページ
資料・サンプルを無料ダウンロード
以下のフォームに入力完了後、資料ダウンロード用ページに移動します。