高次脳機能障害は、交通事故などによる脳の損傷で引き起こされ、日常生活や仕事に大きな影響を及ぼす障害です。
軽度の支障があっても生活や仕事に支障をきたす場合は、後遺障害9級に認定される可能性があります。
本記事では、高次脳機能障害が後遺障害9級に認定される基準、具体的な症状、そして認定を受けるポイントについて詳しく解説しています。
最終更新日: 2024/11/20
Table of Contents
高次脳機能障害とは何か
高次脳機能障害の概要
高次脳機能障害とは、病気や事故などによって脳が損傷を受けた結果、言語や記憶、思考、学習、注意などの脳機能に障害が起こった状態を指します。
顔や手足の麻痺症状がない場合でも、日常生活や仕事に大きな支障をきたすケースが多いです。
高次脳機能障害の主な症状
高次脳機能障害の主な症状には、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害があります。
記憶障害は新しいことを覚えるのが難しく、注意障害は集中力が続かないことが特徴です。
遂行機能障害は計画的な行動ができず、社会的行動障害は感情のコントロールが難しくなります。
高次脳機能障害の原因と発生メカニズム
高次脳機能障害の主な原因には、交通事故や転落による脳損傷、脳出血やくも膜下出血といった脳血管障害、心肺停止による低酸素脳症などがあります。
これらの損傷や病気により、脳の特定の部位が損傷されることで、様々な認知障害や行動障害が発生します。
高次脳機能障害の診断方法
高次脳機能障害の診断には、MRIなどの脳画像検査で脳の損傷を確認し、神経心理学的検査で認知機能の低下を評価します。
具体的には、記憶力、注意力、実行機能、言語能力などを評価するテストが行われます。
<参考>
高次脳機能障害の診断基準とは?後遺障害認定基準との違い|交通事故
高次脳機能障害9級認定の基準とは
高次脳機能障害の等級とは
高次脳機能障害の後遺障害は、障害の程度に応じて1級から14級までの等級が設けられています。等級認定基準は、脳の損傷の程度や症状の重さに基づいて決定されます。
具体的には、意思疎通能力、問題解決能力、作業負荷に対する持続力・持久力、社会行動能力の4つの能力の喪失程度によって、以下のような等級に評価されます。
等級 |
認定基準 |
具体例 |
1級1号 |
高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの |
|
2級1号 |
高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわりの処理の動作について、随時介護を要するもの |
|
3級3号 |
生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高次脳機能障害のため、労務に服することができないもの |
|
5級2号 |
高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの |
|
7級4号 |
高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないもの |
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9級10号 |
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの |
|
12級13号 |
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、多少の障害を残すもの |
|
14級9号 |
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、軽微な障害を残すもの |
|
9級の後遺障害認定基準
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの
- 高次脳機能障害のため4能力のいずれか1つの能力の相当程度が失われているもの
【問題解決能力の相当程度が失われているものの例】
1人で手順とおりに作業を行うことに困難を生じることがあり、たまに助言を必要とする.
9級に該当する具体的な症状
9級は、7級よりも軽度な症状で、日常生活や社会生活に軽度の支障がある状態を指します。具体的には以下のような症状が見られます。
記憶障害
- 時々新しい情報を覚えるのに苦労する
- 約束や予定を忘れることがあるが、メモなどの補助手段で対応可能
注意障害
- 集中力が低下しているが、短時間なら維持できる
- 気が散りやすいが、自覚して対処できる
遂行機能障害
- 感情の変化が以前より大きいが、極端な行動には至らない
- 対人関係に若干の困難を感じるが、大きな問題は生じない
9級と7級との違い
9級と7級の主な違いは、症状の程度と日常生活への影響の大きさです。7級では中等度の支障があり、日常生活や仕事に明らかな困難が生じます。
一方、9級では軽度の支障にとどまり、適切な対処法や環境調整によって、ある程度の社会生活の維持が可能です。
9級と12級との違い
高次脳機能障害9級は、一般的な生活は可能ですが、仕事には多少の支障があります。ある程度の社会生活は可能です。
一方、12級はこれらの症状がより軽度で、日常生活においても少しの支援があれば自立できる状態です。
9級の後遺障害認定に必要なこと
症状固定期の画像検査
後遺障害9級の認定には、症状が固定する時期の画像検査が大切です。MRIやCTで脳の損傷を確認します。
特に、びまん性軸索損傷は、重い後遺症があっても画像に異常を認めないことがありますが、この時期の検査で脳の萎縮が見られる場合があります。
<参考>
びまん性軸索損傷の後遺症と後遺障害認定ポイント|交通事故の医療鑑定
最適な神経心理学検査の評価バッテリー
高次脳機能障害は多くの症状があるため、複数の神経心理学検査を組み合わせて評価します(評価バッテリー)。
適切な後遺障害認定には、神経心理学検査の評価バッテリーが重要です。
<参考>
高次脳機能障害の診断テストと評価バッテリー|交通事故の後遺障害
診断書の記載内容の確認
後遺障害9級の認定では、主治医の診断書が重要です。診断書には、後遺障害診断書、頭部外傷後の意識障害についての所見、神経系統の障害に関する医学的意見があります。
それぞれの診断書には、以下のコラムのようなポイントがあります。これらのポイントを漏れなく押さえているかの確認が重要です。
<参考>
日常日常生活状況報告書の記載には細心の注意が必要
日常生活状況報告書は、家族や介護者が、事故前と後の被害者の状態を詳しく書きます。
これにより、医師や審査機関が被害者の生活状況を理解しやすくなり、後遺障害の認定に役立ちます。
日常生活状況報告書の記載内容は、後遺障害9級認定のポイントを押さえる必要があります。詳細に関しては、こちらのコラム記事を参照してください。
<参考>
日常生活状況報告の書き方とポイント|高次脳機能障害の後遺障害
高次脳機能障害が9級に認定されるポイント【弁護士必見】
申請前に各種医証の確認が必要
高次脳機能障害で後遺障害9級の認定を受けるためには、しっかりとした準備が必要です。まず、交通事故後の治療記録や診断書を揃えて、医師に後遺障害診断書を作成してもらうことが重要です。
後遺障害認定基準を考慮して、後遺障害診断書や神経系統の障害に関する医学的意見に漏れがないか確認することが望ましいです。
高次脳機能障害の後遺障害認定は書面審査であるため、診断書の内容が等級判定に大きな影響を与えます。
軽度でも仕事上の支障があれば9級認定可能性がある
日常生活や社会生活に軽度の支障しかない場合であっても、後遺障害9級に認定される可能性があります。
さほど支障が無い状況であっても、受傷前と比べて明らかに異なる状況であれば、主治医に相談する必要があります。
主治医から高次脳機能障害の可能性を指摘された場合には、自賠責保険に被害者請求する必要があります。
9級に不足する資料を集めて異議申し立て
事前認定や被害者請求で後遺障害9級に認定されなかった場合には、まず非該当通知書の記載内容を精査します。
そして、後遺障害認定基準も勘案して、9級認定に不足する資料を集めて異議申し立てしましょう。
尚、高次脳機能障害の後遺障害認定ポイントやピット―フォールへの対応法は、こちらのコラムで詳述しています。興味のある方は参照してください。
<参考>
高次脳機能障害の後遺症と後遺障害認定ポイント|交通事故の医療鑑定
高次脳機能障害9級の後遺障害認定で弊社ができること
弁護士の方へ
弊社では、交通事故で残った高次脳機能障害が後遺障害に等級認定されるために、さまざまなサービスを提供しております。
等級スクリーニング
現在の状況で、後遺障害に認定されるために足りない要素を、後遺障害認定基準および医学的観点から、レポート形式でご報告するサービスです。
等級スクリーニングは、年間1000事案の圧倒的なデータ量をベースにしています。また、整形外科や脳神経外科以外のマイナー科も実施可能です。
等級スクリーニングの有用性を実感いただくために、初回事務所様は、無料で等級スクリーニングを承っております。こちらからお気軽にご相談下さい。
<参考>
【等級スクリーニング】後遺障害認定と対策を精査|医療鑑定
医師意見書
医師意見書では、診療録、画像検査、各種検査、後遺障害診断書などの事故関連資料をベースにして、総合的に後遺障害の蓋然性を主張します。
医師意見書は、後遺障害認定基準に精通した各科の専門医が作成します。医学意見書を作成する前に検討項目を共有して、クライアントと医学意見書の内容を擦り合わせます。
医学意見書では、必要に応じて医学文献を添付して、論理構成を補強します。弊社では、2名以上の専門医によるダブルチェックを行うことで、医学意見書の質を担保しています。
弊社は1000例を優に超える医師意見書を作成しており、多数の後遺障害認定事例を獲得しています。是非、弊社が作成した医師意見書の品質をお確かめください。
<参考>
交通事故の医師意見書が後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
画像鑑定報告書
交通事故で残った後遺症が、後遺障害で非該当になったら異議申し立てせざるを得ません。その際に強い味方になるのが画像鑑定報告書です。
画像鑑定報告書では、レントゲン、CT、MRIなどの各種画像検査や資料を精査したうえで、後遺障害診断書に記載されている症状との関連性を報告します。
画像鑑定報告書は、画像所見の有無が後遺障害認定に直結する事案では、大きな効果を発揮します。
弊社では事案の分析から医師意見書の作成、画像鑑定にいたるまで、社内の管理医師が一貫して取り組むことで、クライアント利益の最大化を図っています。
<参考>
【画像鑑定】交通事故の後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
高次脳機能障害9級の後遺障害認定でお悩みの被害者の方へ
弊社サービスのご利用をご希望であれば、現在ご担当いただいている弁護士を通してご依頼いただけますと幸いです。
また、弊社では交通事故業務に精通している全国の弁護士を紹介することができます。
もし、後遺障害認定で弁護士紹介を希望される被害者の方がいらっしゃれば、こちらのリンク先からお問い合わせください。
尚、弁護士紹介サービスは、あくまでもボランティアで行っています。このため、電話での弊社への問い合わせは、固くお断りしております。
弊社は、電話代行サービスを利用しているため、お電話いただいても弁護士紹介サービスをご提供できません。ご理解いただけますよう宜しくお願い申し上げます。
高次脳機能障害9級の慰謝料相場
高次脳機能障害9級の慰謝料相場は、弁護士基準で約690万円です。この金額は、交通事故などで高次脳機能障害が認定された場合に請求できる後遺障害慰謝料の一例です。
慰謝料の金額は、被害者の症状や生活への影響度合いによって異なる場合があります。また、保険会社との交渉や裁判所の判断によっても変動することがあります。
高次脳機能障害でよくある質問
高次脳機能障害はよくなるのですか?
高次脳機能障害は完全に元通りに治ることは難しいとされていますが、リハビリや治療を通じて症状を軽減し、生活の質を向上させることは可能です。
適切なリハビリテーションを受けることで、認知機能や日常生活の自立度が改善されることがあります。
高次脳機能障害と発達障害や認知症の違いは?
高次脳機能障害は脳の損傷によって引き起こされる後天的な障害であり、発達障害や認知症とは異なります。
発達障害は生まれつきの脳の機能障害であり、認知症は進行性の脳疾患です。
高次脳機能障害は急性発症であり、治療やリハビリによって改善が期待されますが、認知症は進行性であり、完全に治ることはありません。
高次脳機能障害の患者は自分の障害に気付いているのでしょうか?
高次脳機能障害の患者は、自分の障害に気付いていないことが多いです。これは、自己認識の障害があるためです。
患者は自分の行動や記憶の問題に気付かず、周囲の人々がその変化に気付くことが多いです。
高次脳機能障害の治療とリハビリテーション
高次脳機能障害の治療には、認知機能訓練や認知行動療法などのリハビリテーションが含まれます。
リハビリテーションの目的は、失われた機能の回復だけでなく、残存する能力を最大限に活用し、日常生活や社会生活への適応を図ることです。
具体的なリハビリ方法としては、注意手順訓練や記憶補助手帳の使用などがあります。
高次脳機能障害での日常生活への影響
高次脳機能障害は、記憶障害や注意障害、遂行機能障害などの症状を引き起こし、日常生活に大きな影響を与えます。
例えば、新しい情報を覚えることが難しくなったり、集中力が持続しにくくなったりします。これにより、仕事や家事、社会生活に支障をきたすことがあります。
まとめ
高次脳機能障害は、病気や事故で脳が損傷し、言語、記憶、思考、学習、注意などの機能が障害される状態です。症状には記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などがあり、日常生活や仕事に支障をきたします。
9級の後遺障害は軽度の支障があり、社会通念上就労可能な職種の範囲が制限される状態です。認定には症状固定期の画像検査や適切な検査バッテリー、詳細な診断書の作成が必要です。
日常生活状況報告書も重要で、詳細な記載が求められます。軽度でも仕事に支障があれば9級認定の可能性があります。
交通事故で受傷した高次脳機能障害に関してお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
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