交通事故などによって頭部に強い衝撃を受けると、高次脳機能障害などの重篤な後遺症が残る可能性があります。
高次脳機能障害は、外見から分かりにくいですが、社会生活を送る上で著しい障害が残るため、後遺障害に認定されて補償を得る必要があります。
一方、高次脳機能障害に後遺障害認定されるには、発症時の意識障害の有無や、医学的な証拠が重要な判断材料になります。
本記事では、意識障害と高次脳機能障害の関係性をはじめ、症状や原因、診断方法、検査、治療法のポイントまで、幅広く詳しく解説しています。
最終更新日: 2025/5/4
Table of Contents
高次脳機能障害が後遺障害に認定される3条件
受傷時の意識障害
交通事故で頭部外傷を負った際、受傷直後の意識障害の有無は、高次脳機能障害の後遺障害認定において重要な要素です。
意識障害の程度や持続時間は、脳損傷の重症度を示す指標となり、後遺障害等級の判断に影響を与えます。
適切な評価のためには、受傷直後の意識状態を詳細に記録して、ジャパン・コーマ・スケール(JCS)やグラスゴー・コーマ・スケール(GCS)などの評価尺度を用いられます。
症状固定期の画像所見
高次脳機能障害の後遺障害認定には、症状固定時期における画像診断の所見が重要です。MRI検査やCT検査などの画像検査により、脳損傷の部位や程度を客観的に確認することが求められます。
特に、局所的な脳挫傷痕や脳萎縮が確認されると、その頭部外傷と交通事故と高次脳機能障害との因果関係が明確になるため、後遺障害に認定される可能性が高まります。
脳損傷の傷病名(後遺障害診断書)
後遺障害の認定を受けるためには、医師が作成する後遺障害診断書において、具体的な脳損傷の傷病名が明記されていることが必要です。
例えば、「びまん性軸索損傷」や「脳挫傷」などの診断名が記載されていることで、後遺障害の存在が医学的に裏付けられます。
<参考>
高次脳機能障害の認定基準は2ステップが分かりやすい|交通事故の医療鑑定
意識障害は高次脳機能障害の認定に重要
意識障害の評価方法
高次脳機能障害の認定において、受傷直後の意識障害の有無とその程度は極めて重要です。
意識レベルの評価には、ジャパン・コーマ・スケール(JCS)やグラスゴー・コーマ・スケール(GCS)などの評価法が用いられます。
1. ジャパン・コーマ・スケール(Japan Coma Scale)
JCSは、日本国内で広く使用されている意識障害の評価スケールです。0から300の数値で意識レベルを表して、数値が大きくなるほど重度の意識障害を示します。
具体的には、1桁(1〜3)は刺激に対して容易に反応する状態、2桁(10〜30)は刺激に対して反応が鈍い状態、3桁(100〜300)は刺激に対して反応がない状態を示します。
2. グラスゴー・コーマ・スケール(Glasgow Coma Scale)
GCSは、国際的に広く使用されている意識障害の評価スケールで、開眼反応、言語反応、運動反応の3つの項目を評価します。
各項目に点数を付け、合計点(最高15点、最低3点)で意識レベルを判断します。点数が低いほど重度の意識障害を示し、特に8点以下は重度の意識障害とされます。
GCSは、意識障害の程度を定量的に評価するため、診断や治療方針の決定に役立ちます。
<参考>
JCSとGCSは高次脳機能障害のポイント|交通事故の後遺障害
「頭部外傷後の意識障害についての所見」という診断書が重要
高次脳機能障害の後遺障害認定においては、医師が作成する「頭部外傷後の意識障害についての所見」という診断書が重要な役割を果たします。
この診断書には、受傷直後の意識状態やその経過、評価スケールの結果などが詳細に記載されます。
受傷時の意識障害の有無や程度が客観的に示されており、後遺障害の有無や等級の判断において重要な証拠となります。
<参考>
頭部外傷後の意識障害についての所見|高次脳機能障害の後遺障害
高次脳機能障害の等級が決まる資料
神経系統の障害に関する医学的意見(診断書)
この診断書は、医師が作成するもので、脳の画像検査結果や神経心理学的検査の結果、運動機能や日常生活動作能力、てんかん発作の有無などが詳細に記載されます。
高次脳機能障害の病状を客観的に評価するための重要な書類であり、後遺障害等級の認定において欠かせない資料です。
<参考>
神経系統の障害に関する医学的意見|高次脳機能障害の後遺障害
神経心理学的検査と評価バッテリー
高次脳機能障害の評価には、神経心理学的検査が用いられます。全般的認知機能検査としてWAIS-Ⅳ、記憶機能検査としてWMS-RやRBMT、注意機能検査としてTMTなどが含まれます。
これらの検査により、認知機能の低下や注意障害、記憶障害などの具体的な症状を数値化して、等級認定の判断材料とします。
<参考>
日常生活状況報告(家族が作成)
日常生活状況報告は、被害者の家族や近親者が作成する書類で、事故前後の生活状況の変化や現在の日常生活での支障を詳細に記載します。
特に、高次脳機能障害の4大症状(記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害)について、具体的なエピソードを交えて記述することが重要です。
この報告書は、医師の診断書や検査結果と同等に重視されて、後遺障害等級の認定に大きな影響を与えます。
<参考>
日常生活状況報告の書き方とポイント|高次脳機能障害の後遺障害
高次脳機能障害を知ろう!
高次脳機能障害の原因
脳血管障害
高次脳機能障害の最も一般的な原因は、脳血管障害です。脳血管障害には、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などが含まれます。
脳血管障害は、脳の血管が詰まったり破れたりすることで脳組織が損傷して、認知機能に影響を及ぼします。脳血管障害は、高次脳機能障害の原因の半数以上を占めるとされています。
外傷性脳損傷
交通事故や高所からの転落などによる頭部外傷も、高次脳機能障害の原因となります。
脳挫傷やびまん性軸索損傷などが生じて、認知機能に障害が現れる可能性があります。外傷性脳損傷は、特に若年層に多く見られます。
低酸素脳症
心停止や窒息、重度の低血圧などにより脳への酸素供給が不足すると、低酸素脳症が発生します。
低酸素脳症により、脳の広範囲にわたる損傷が生じて、高次脳機能障害を引き起こす可能性があります。
脳腫瘍や感染症
脳腫瘍や脳炎(例:ヘルペス脳炎)などの疾患も、高次脳機能障害の原因となります。これらの疾患は、脳の特定の部位に損傷を与えて、認知機能に影響を及ぼします。
その他の要因
ビタミンB1欠乏症(ウェルニッケ脳症)や自己免疫性疾患、中毒性物質の影響なども、高次脳機能障害を引き起こすことがあります。これらの要因は比較的稀ですが、適切な診断と治療が必要です。
高次脳機能障害の症状
高次脳機能障害は、脳の損傷により記憶障害、注意障害、失語症、遂行機能障害など多様な症状を引き起こします。
これらの症状は日常生活や社会活動に大きな影響を及ぼし、個々の症状に応じた適切な対応が求められます。
高次脳機能障害の治療
高次脳機能障害の治療は、リハビリテーションが中心となります。患者の具体的な症状とニーズに合わせて、記憶訓練や注意力向上のためのトレーニング、日常生活動作の練習などが行われます。
症状によっては、薬物療法を併用することもありますが、確立された薬物治療法はなく、個々の症状に応じた対応が必要です。
高次脳機能障害の後遺障害等級の認定基準
高次脳機能障害の重さは、言葉を理解したり考えたりする力、集中する力、疲れやすさ、人との関わり方といった機能の低下具合で決まり、1級から14級に分けられています。
高次脳機能障害の後遺障害認定基準を詳細に知りたい方は、以下のコラムにまとめています。
<参考>
高次脳機能障害の後遺症と後遺障害認定ポイント|交通事故の医療鑑定
高次脳機能障害の後遺障害認定ポイント【弁護士必見】
交通事故による高次脳機能障害は、意識がなくなった時間やCT検査やMRI検査などの画像検査で、後遺症との因果関係が認められれば、後遺障害に認定される可能性があります。
特に、脳の一部が損傷した場合は、どこが傷ついたかとどんな症状が出ているかが、認定の重要なポイントになります。
高次脳機能障害に認定されると、神経心理学的検査、医学的意見、日常生活状況報告の結果を総合的に評価して、後遺障害等級が決まります。
最近は、意識を失っていた時間が短くても、残っている後遺症と社会生活の支障程度を総合的に判断して、後遺障害を審査する流れになっています。
賠償実務では、神経心理学的検査の結果が重要な争点となる事案が多いです。しかし、解釈が難しいため、脳神経科医師の協力が必要なケースも珍しくありません。
さらに高次脳機能障害が後遺障害認定されるポイントを詳しく知りたい方は、以下のコラム記事にまとめています。ご参考にしていただければ幸いです。
<参考>
高次脳機能障害の後遺症と後遺障害認定ポイント|交通事故の医療鑑定
交通事故で発症した高次脳機能障害の後遺障害認定でお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
高次脳機能障害の後遺障害認定で弊社ができること
弁護士の方へ
弊社では、交通事故で発症した高次脳機能障害が、後遺障害に等級認定されるために、さまざまなサービスを提供しております。
等級スクリーニング®
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等級スクリーニング®は、年間1000事案の圧倒的なデータ量をベースにしています。また、整形外科や脳神経外科以外のマイナー科も実施可能です。
等級スクリーニング®の有用性を実感いただくために、初回事務所様は、無料で等級スクリーニング®を承っております。こちらからお気軽にご相談下さい。
<参考>
【等級スクリーニング®】後遺障害認定と対策を精査|医療鑑定
医師意見書
医師意見書では、診療録、画像検査、各種検査、後遺障害診断書などの事故関連資料をベースにして、総合的に後遺障害の蓋然性を主張します。
医師意見書は、後遺障害認定基準に精通した各科の専門医が作成します。医学意見書を作成する前に検討項目を共有して、クライアントと医学意見書の内容を擦り合わせます。
医学意見書では、必要に応じて医学文献を添付して、論理構成を補強します。弊社では、2名以上の専門医によるダブルチェックを行うことで、医学意見書の質を担保しています。
弊社は1000例を優に超える医師意見書を作成しており、多数の後遺障害認定事例を獲得しています。是非、弊社が作成した医師意見書の品質をお確かめください。
<参考>
交通事故の医師意見書が後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
画像鑑定報告書
交通事故で残った後遺症が、後遺障害で非該当になったら異議申し立てせざるを得ません。その際に強い味方になるのが画像鑑定報告書です。
画像鑑定報告書では、レントゲン、CT、MRIなどの各種画像検査や資料を精査したうえで、後遺障害診断書に記載されている症状との関連性を報告します。
画像鑑定報告書は、画像所見の有無が後遺障害認定に直結する事案では、大きな効果を発揮します。
弊社では事案の分析から医師意見書の作成、画像鑑定にいたるまで、社内の管理医師が一貫して取り組むことで、クライアント利益の最大化を図っています。
<参考>
【画像鑑定】交通事故の後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
高次脳機能障害の後遺障害認定でお悩みの被害者の方へ
弊社サービスのご利用をご希望であれば、現在ご担当いただいている弁護士を通してご依頼いただけますと幸いです。
また、弊社では交通事故業務に精通している全国の弁護士を紹介することができます。
もし、後遺障害認定で弁護士紹介を希望される被害者の方がいらっしゃれば、こちらのリンク先からお問い合わせください。
尚、弁護士紹介サービスは、あくまでもボランティアで行っています。このため、電話での弊社への問い合わせは、固くお断りしております。
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意識障害と高次脳機能障害でよくある質問
意識障害は脳のどこが障害されますか?
意識障害は、脳幹部の網様体賦活系(ARAS)や大脳皮質の広範な損傷によって引き起こされます。
ARASは覚醒状態を維持する役割を担っており、この領域の損傷により意識レベルが低下します。また、大脳皮質の広範な損傷も意識障害の原因となります。
高次脳機能障害に最も多く認められる症状は?
高次脳機能障害の症状としては、失語症が最も多いです。また、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの症状も認められます。
これらの症状は単独で現れることもありますが、複数が同時に現れることも多く、日常生活や社会生活に大きな影響を及ぼします。
高次脳機能障害は進行性ですか?
高次脳機能障害は、脳の損傷によって引き起こされる後天的な障害であり、進行性の疾患ではありません。
ただし、症状の改善には時間がかかるため、長期的なリハビリテーションや支援が重要です。
高次脳機能障害は後天的ですか?
高次脳機能障害は後天的な障害です。交通事故や脳血管障害、脳腫瘍、脳炎などによる脳の損傷が原因で発症します。
まとめ
高次脳機能障害が、交通事故などで後遺障害と認定されるには、以下の3条件が必要です。
- 受傷直後の意識障害の有無とその程度
- 脳の損傷を示す画像検査
- 後遺障害診断書の傷病名記載
等級認定には、神経心理学的検査、家族による日常生活状況報告も重要で、記憶障害や注意障害などの具体的症状が確認されることが求められます。
交通事故で受傷した高次脳機能障害の後遺障害認定でお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
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