交通事故が原因で高次脳機能障害を発症したら、自賠責保険の後遺障害認定がどのように行われ、どのような補償が受けられるのかは、被害者やその家族にとって大きな関心事です。
しかし、高次脳機能障害の後遺障害認定基準は複雑で、初めての手続きに戸惑うことも少なくありません。
本コラムでは、交通事故で高次脳機能障害を負った方が、自賠責保険の後遺障害認定をスムーズに進めるために知っておくべきポイントを、基準や等級認定のプロセス、必要な書類に至るまで分かりやすく解説します。
この記事を通じて、後遺障害認定基準や補償範囲への理解が深まり、適切な補償を受けるための第一歩を踏み出していただければ幸いです。
最終更新日: 2025/1/29
Table of Contents
高次脳機能障害が自賠責で後遺障害認定される条件
受傷時の意識障害
交通事故などで脳に外傷を負うと、受傷直後に意識障害が生じることがあります。この意識障害の有無やその持続時間は、高次脳機能障害の認定において重要な指標となります。
具体的には、意識喪失や昏迷状態の有無、持続時間、深度などが評価の対象となります。これらの情報は、頭部外傷後の意識障害についての所見という医証が重要な役割を果たしています。
また、事故直後の医療記録や救急搬送時の記録なども、補足的に用いられるケースもあります。
<参考>
頭部外傷後の意識障害についての所見|高次脳機能障害の後遺障害
画像検査で脳実質の異常所見
CT検査やMRI検査などの画像検査で、脳の実質に異常が認められることも、後遺障害認定の重要な要素です。
脳挫傷、脳出血、びまん性軸索損傷などの所見が確認されると、高次脳機能障害の存在が裏付けられます。
ただし、急性期の画像上の異常が見られない場合でも、症状固定時の画像所見(脳萎縮)や、症状や他の検査結果から認定が行われることもあります。
<参考>
高次脳機能障害のMRIで異常なしはある?|交通事故の後遺障害
後遺障害診断書で高次脳機能障害の記載
後遺障害等級の認定には、医師が作成する後遺障害診断書が必要です。この診断書には、高次脳機能障害の具体的な症状やその程度、日常生活への影響などが詳細に記載されます。
特に、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの有無や程度が重要な情報となります。診断書の作成には、神経心理学的検査の結果が参考にされます。
<参考>
高次脳機能障害の診断書を医師に頼むには?後遺障害のポイントも解説
自賠責における高次脳機能障害の等級認定基準
神経心理学的検査
高次脳機能障害の評価には、神経心理学的検査が不可欠です。具体的には、知能検査(WAIS-III、WISC-III)、記憶検査(WMS-R)、遂行機能検査(WCST、BADS)などが用いられます。
これらの検査により、記憶力、注意力、問題解決能力、社会的行動能力などの認知機能の障害程度を客観的に評価します。
<参考>
神経心理学的検査は高次脳機能障害の等級認定ポイント|後遺障害
神経系統の障害に関する医学的意見
高次脳機能障害の後遺障害等級認定において、神経系統の障害に関する医学的意見は重要な書類の1つです。
医師が、被害者の認知障害や人格変化、行動上の問題などを、医学的観点から詳細に記載します。後遺障害の有無や程度を判断する際の重要な資料となります。
この書類の作成にあたっては、医師と被害者の家族や介護者との密接な連携が不可欠です。
医師は診療時間内で被害者の全ての症状を把握することが難しいため、日常生活での具体的な状況や行動の変化について、家族からの情報提供が重要となります。
<参考>
神経系統の障害に関する医学的意見|高次脳機能障害の後遺障害
日常生活状況報告
高次脳機能障害は外見からは分かりにくいため、日常生活での具体的な支障を明らかにすることが重要です。
家族や介護者が作成する日常生活状況報告という書類では、被害者の日常生活における行動や支援の必要性、社会生活への適応状況などを詳細に記載します。
<参考>
日常生活状況報告の書き方とポイント|高次脳機能障害の後遺障害
高次脳機能障害と自賠責保険の関係
自賠責保険の基本的な仕組み
自賠責保険(正式名称:自動車損害賠償責任保険)は、すべての自動車および原動機付自転車に加入が義務付けられている強制保険です。
この保険は、交通事故の被害者に対する最低限の補償を目的としており、人身事故による損害(死亡や傷害)に対して保険金が支払われます。
ただし、物損事故や加害者自身の怪我、単独事故による自身の怪我などは補償の対象外となります。
交通事故による後遺障害等級認定の流れ
交通事故で負傷して、治療後も症状が残る場合、後遺障害等級の認定を受けることができます。この認定は、被害者の損害賠償額を決定する際の重要な基準となります。
認定手続きには主に「事前認定」と「被害者請求」の2つの方法があります。事前認定は、加害者側の任意保険会社が手続きを代行する方法で、被害者の手間が少ない反面、情報が十分に伝わらない可能性があります。
一方、被害者請求は、被害者自身が必要書類を揃えて直接自賠責保険会社に請求する方法で、手間はかかりますが、納得のいく認定を受けやすいとされています。
高次脳機能障害が疑われる場合、適切な後遺障害等級の認定を受けるためには、専門医の診断や神経心理学的検査の結果、日常生活状況報告書などの詳細な資料を準備することが重要です。
自賠責における高次脳機能障害の後遺障害等級
高次脳機能障害は、意思疎通能力、問題解決能力、作業の持続力や持久力、さらには社会行動能力の低下度合いによって評価されます。この評価結果に基づき、後遺障害等級は1級から14級までに分類されます。
高次脳機能障害が後遺障害に等級認定される要件を、さらに詳細に知りたい方は、以下のコラムにまとめています。ご参照いただければ幸いです。
<参考>
高次脳機能障害の後遺症と後遺障害認定ポイント|交通事故の医療鑑定
高次脳機能障害の後遺障害認定ポイント
高次脳機能障害では、画像診断により後遺症との関連性が確認できると、後遺障害認定の可能性が高くなります。特に局所脳損傷の場合、損傷部位と症状との一致が重要な判断材料となります。
高次脳機能障害が認定されると、「神経心理学的検査」「医学的意見」「日常生活状況報告」の結果を総合的に評価して、等級審査が行われます。
最近では、意識障害の重要性が低下し、全体的な状況を考慮した総合的な判断が重視されています。高次脳機能障害は身体機能障害と一体として評価されて、就労能力や日常生活への影響度合いに基づき、後遺障害等級が決定されます。
賠償実務では、主観的な要素が強い神経心理学的検査が争点となることが少なくありません。検査結果が時間の経過とともに悪化することはまれですが、その場合にはガイドラインを基に反論が可能です。
さらに高次脳機能障害が後遺障害認定されるポイントを詳しく知りたい方は、以下のコラム記事にまとめています。ご参考にしていただければ幸いです。
<参考>
高次脳機能障害の後遺症と後遺障害認定ポイント|交通事故の医療鑑定
高次脳機能障害の認定基準で弊社ができること
弁護士の方へ
弊社では、交通事故で残った高次脳機能障害が後遺障害に等級認定されるために、さまざまなサービスを提供しております。
等級スクリーニング
現在の状況で、後遺障害に認定されるために足りない要素を、後遺障害認定基準および医学的観点から、レポート形式でご報告するサービスです。
等級スクリーニングは、年間1000事案の圧倒的なデータ量をベースにしています。また、整形外科や脳神経外科以外のマイナー科も実施可能です。
等級スクリーニングの有用性を実感いただくために、初回事務所様は、無料で等級スクリーニングを承っております。こちらからお気軽にご相談下さい。
<参考>
【等級スクリーニング】後遺障害認定と対策を精査|医療鑑定
医師意見書
医師意見書では、診療録、画像検査、各種検査、後遺障害診断書などの事故関連資料をベースにして、総合的に後遺障害の蓋然性を主張します。
医師意見書は、後遺障害認定基準に精通した各科の専門医が作成します。医学意見書を作成する前に検討項目を共有して、クライアントと医学意見書の内容を擦り合わせます。
医学意見書では、必要に応じて医学文献を添付して、論理構成を補強します。弊社では、2名以上の専門医によるダブルチェックを行うことで、医学意見書の質を担保しています。
弊社は1000例を優に超える医師意見書を作成しており、多数の後遺障害認定事例を獲得しています。是非、弊社が作成した医師意見書の品質をお確かめください。
<参考>
交通事故の医師意見書が後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
画像鑑定報告書
交通事故で残った後遺症が、後遺障害で非該当になったら異議申し立てせざるを得ません。その際に強い味方になるのが画像鑑定報告書です。
画像鑑定報告書では、レントゲン、CT、MRIなどの各種画像検査や資料を精査したうえで、後遺障害診断書に記載されている症状との関連性を報告します。
画像鑑定報告書は、画像所見の有無が後遺障害認定に直結する事案では、大きな効果を発揮します。
弊社では事案の分析から医師意見書の作成、画像鑑定にいたるまで、社内の管理医師が一貫して取り組むことで、クライアント利益の最大化を図っています。
<参考>
【画像鑑定】交通事故の後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
高次脳機能障害の認定基準でお悩みの被害者の方へ
弊社サービスのご利用をご希望であれば、現在ご担当いただいている弁護士を通してご依頼いただけますと幸いです。
また、弊社では交通事故業務に精通している全国の弁護士を紹介することができます。
もし、後遺障害認定で弁護士紹介を希望される被害者の方がいらっしゃれば、こちらのリンク先からお問い合わせください。
尚、弁護士紹介サービスは、あくまでもボランティアで行っています。このため、電話での弊社への問い合わせは、固くお断りしております。
弊社は、電話代行サービスを利用しているため、お電話いただいても弁護士紹介サービスをご提供できません。ご理解いただけますよう宜しくお願い申し上げます。
高次脳機能障害が後遺障害認定されると損害賠償金を請求できる
高次脳機能障害で後遺障害に認定されると、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益を請求できます。
高次脳機能障害の後遺障害慰謝料とは
交通事故で高次脳機能障害が残ってしまった精神的苦痛に対する補償金です。後遺障害慰謝料は、下の表のように後遺障害等級によって異なります。
後遺障害等級 | 後遺障害慰謝料 |
1級 | 2800万円 |
2級 | 2370万円 |
3級 | 1990万円 |
4級 | 1670万円 |
5級 | 1400万円 |
6級 | 1180万円 |
7級 | 1000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
高次脳機能障害の後遺障害慰謝料の相場は?
高次脳機能障害の後遺障害慰謝料は、後遺障害等級によって異なります。例えば、9級の場合は約690万円、7級は約1000万円、5級は約1400万円、3級は約1990万円、2級は約2370万円、1級は約2800万円となります。
また、近親者の慰謝料として数百万円程度が加算されることがあります。さらに、1級や2級の場合には将来の介護費として数千万円から1億円を超える額が認められることがあります。
このように、高次脳機能障害の後遺障害慰謝料は等級によって大きく異なり、適切な後遺障害等級を獲得することが重要です。
高次脳機能障害の後遺障害逸失利益とは
高次脳機能障害が残ると、労働能力が低下してしまいます。労働能力が低下したために失うであろう収入の不足分に対する補償金です。
後遺障害逸失利益は、交通事故被害者の年収、年齢をベースにして、後遺障害等級に応じた労働能力喪失率と労働能力喪失期間で決まります。後遺障害逸失利益は、以下の計算式で算出されます。
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数
高次脳機能障害の後遺障害逸失利益の相場は?
高次脳機能障害の逸失利益は、後遺障害等級によって異なります。一般的に、後遺障害等級が高いほど逸失利益の金額も高くなります。
例えば、1級の後遺障害の場合、逸失利益は約1億円前後となる可能性があります。一方、9級の場合は約1000万円程度のケースが多いです。
後遺障害逸失利益の金額は、被害者の年収や年齢、労働能力喪失率などによっても大きく変動します。
自賠責保険における高次脳機能障害でよくある質問
高次脳機能障害の自賠責保険の必要書類と資料は?
高次脳機能障害で後遺障害等級認定を受けるためには、以下の書類が必要です。
後遺障害診断書
主治医が作成し、症状の詳細を記載します。
神経心理学的検査
記憶力や注意力などの認知機能を評価した検査結果です。
画像検査
MRI検査やCT検査などの脳の画像検査結果で、脳の損傷を確認します。
神経系統の障害に関する医学的意見
専門医が神経障害の診断や後遺症の程度を評価して、医学的見解を記載した診断書です。
頭部外傷後の意識障害についての所見
頭部外傷後の意識障害は、脳損傷による覚醒状況を記載した診断書です。
日常生活状況報告書
家族や介護者が作成し、被害者の日常生活での支障や行動の変化を詳細に記録します。
高次脳機能障害は障害者何級に該当しますか?
高次脳機能障害の障害等級は、障害の程度や日常生活への影響度合いによって異なります。
具体的な等級は、専門医の診断や各種検査結果、日常生活状況報告などを基に総合的に判断されます。
そのため、個々の状況に応じて等級が決定され、一概に何級に該当するかを示すことは難しいです。
高次脳機能障害は何級に認定されますか?
高次脳機能障害の後遺障害等級は、1級から14級までの範囲で認定されます。具体的な等級は、以下の要素を基に評価されます。
- 意思疎通能力:記憶力や言語能力などの評価
- 問題解決能力:理解力や判断力の評価
- 作業の持続力・持久力:作業を継続する能力の評価
- 社会行動能力:協調性や社会的適応能力の評価
これらの能力の喪失度合いに応じて、等級が決定されます。詳細な等級の判断には、専門医の診断や各種検査結果が重要な役割を果たします。。
まとめ
高次脳機能障害が自賠責で後遺障害認定されるためには、いくつかの条件があります。まず、受傷時に意識障害があることが重要です。意識喪失や昏迷状態の有無、持続時間などが評価対象となります。
次に、CT検査やMRI検査などの画像検査で脳に異常所見があることが必要です。また、医師による後遺障害診断書が必要で、具体的な症状や日常生活への影響が記載されます。
さらに、神経心理学的検査や「日常生活状況報告書」など、専門的な資料も重要です。後遺障害等級は、認知機能や社会行動能力の低下度合いに基づき、1級から14級に認定されます。
高次脳機能障害の後遺障害認定でお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
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