交通事故後に、高次脳機能障害の可能性を指摘されたものの、MRI検査で「異常なし」と診断された場合、どのように受け止めるべきでしょうか。
高次脳機能障害は、脳の微細な損傷や神経系の異常によって引き起こされますが、MRI検査だけでは診断が難しいケースも少なくありません。
本記事では、MRI検査で異常なしでも高次脳機能障害が疑われる状況について解説しています。
さらに、他にどのような診断方法があるのかや、後遺障害認定のポイントについても詳しく紹介しています。
最終更新日: 2025/1/27
Table of Contents
高次脳機能障害のMRIで「異常なし」は存在する
びまん性軸索損傷ではMRIで異常なしも珍しくない
びまん性軸索損傷(Diffuse axonal injury; DAI)は、強い外力によって脳が回転して、軸索と呼ばれる神経線維が広範囲に損傷する状態です。
この損傷は微細であるため、通常のMRI検査では異常が検出されないことが珍しくありません。
特に、T2*画像や拡散強調画像などの特殊な撮像方法を用いない限り、微小な出血や損傷を見逃す可能性があります。
そのため、びまん性軸索損傷の診断には、画像検査だけでなく、臨床症状や神経学的評価を総合的に考慮することが重要です。
<参考>
びまん性軸索損傷におけるMRIの有効性|交通事故の医療鑑定
びまん性軸索損傷は高次脳機能障害を併発する可能性が高い
びまん性軸索損傷は、高次脳機能障害を引き起こす主な原因の1つとされており、 認知機能や情動の障害、運動麻痺などの後遺症が生じることがあります。
びまん性軸索損傷は軸索の広範な損傷は神経伝達の障害をもたらすため、高次脳機能障害を併発する可能性が高いと考えられています。
そのため、びまん性軸索損傷を受傷した場合、早期からのリハビリテーションや適切な医療介入が重要となります。
<参考>
びまん性軸索損傷の後遺症と後遺障害認定ポイント|交通事故の医療鑑定
高次脳機能障害診断におけるMRIの限界
MRI異常なしの場合の次のステップ
高次脳機能障害の診断において、MRI検査で異常が見られない場合、他の検査や評価方法を検討することが重要です。
SPECT(単一光子放射断層撮影)やPET(陽電子放射断層撮影)などの核医学的検査は、脳の血流や代謝状態を評価して、微細な損傷を検出するのに有効です。
また、神経心理学的検査を実施して、認知機能や記憶、注意力などの評価を行うことで、MRI検査では捉えきれない高次脳機能障害の兆候を明らかにできます。
これらの検査結果を総合的に判断して、適切な診断と治療方針を決定することが求められます。
症状固定時期の脳萎縮を確認する
高次脳機能障害の診断や後遺障害認定において、「症状固定」の時期に脳萎縮の有無を確認することが重要です。症状固定とは、治療を続けても症状の改善が見込めない状態を指します。
この時期にMRI検査を再度施行して、脳の萎縮や脳室の拡大などの変化を確認することで、脳損傷の程度や後遺症の評価に役立ちます。
特に、びまん性軸索損傷などでは、初期のMRI検査で異常が見られなくても、時間の経過とともに脳萎縮が進行する場合があります。
したがって、症状固定時における詳細な画像評価は、高次脳機能障害の適切な後遺障害等級の認定に不可欠です。
高次脳機能障害における他の診断方法
神経心理学的検査の重要性
高次脳機能障害の診断において、神経心理学的検査は極めて重要な役割を果たします。これらの検査は、記憶、注意、言語、遂行機能などの認知機能を客観的に評価し、障害の有無や程度を明らかにします。
具体的な検査として、ウェクスラー成人知能検査 (WAIS-Ⅳ)やリバーミード行動記憶検査 (RBMT)などがあり、これらを組み合わせて実施することで、評価の精度が高まります。
<参考>
神経心理学的検査は後遺障害認定で必須
後遺障害等級の認定において、神経心理学的検査の結果は必須とされています。これらの検査により、障害の程度を数値化・客観化することで、等級判断の基準となります。
ただし、被検者が意図的に低い成績を出すことも可能であるため、検査結果の信用性には注意が必要です。
<参考>
【日経メディカル】定量化が難しい交通事故による高次脳機能障害
高次脳機能障害と後遺障害認定基準
高次脳機能障害は、交通事故などによる脳の損傷が原因で発生し、記憶障害や注意障害、言語障害など多岐にわたる症状が現れます。
これらの症状が後遺障害として認定されるためには、一定の基準を満たす必要があります。
後遺障害等級は、労働能力の喪失度合いに応じて1級から14級までの等級に分類され、等級が高いほど重度の障害と認定されます。
等級 |
認定基準 |
具体例 |
1級1号 |
高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの |
|
2級1号 |
高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわりの処理の動作について、随時介護を要するもの |
|
3級3号 |
生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高次脳機能障害のため、労務に服することができないもの |
|
5級2号 |
高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの |
|
7級4号 |
高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないもの |
|
9級10号 |
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの |
|
12級13号 |
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、多少の障害を残すもの |
|
14級9号 |
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、軽微な障害を残すもの |
|
1級1号
高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの
- 重篤な高次脳機能障害のため、食事・入浴・用便・更衣等に常時介護を要するもの
- 高次脳機能障害による高度の認知症や情意の荒廃があるため、常時監視を要するもの
1級1号の障害程度と症状の目安
高次脳機能障害の1級は、神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、常に介護を要する状態です。高度の認知機能障害があり、生活維持に必要な身の回り動作に全面的な介護が必要です。
2級1号
高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわりの処理の動作について、随時介護を要するもの
- 重篤な高次脳機能障害のため、食事・入浴・用便・更衣等に随時介護を要するもの
- 高次脳機能障害による認知症、情意の障害、幻覚、妄想、頻回の発作性意識障害等のため随時他人による監視を必要とするもの
- 重篤な高次脳機能障害のため自宅内の日常生活動作は一応できるが、1人で外出することなどが困難であり、外出の際には他人の介護を必要とするため、随時他人の介護を必要とするもの
2級1号の障害程度と症状の目安
2級は、神経系統の機能または精神に著しい障害を残しているため、随時介護を要する状態です。判断力の低下や情動の不安定があり、一人で外出することができず、日常生活は自宅内に限定されます。
3級3号
生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高次脳機能障害のため、労務に服することができないもの
- 4能力のいずれか1つ以上の能力が全部失われているもの
- 4能力のいずれか2つ以上の能力の大部分が失われているもの
3級3号の障害程度と症状の目安
3級は、神経系統の機能または精神に著しい障害を残しているため、終身労務に服することができない状態です。記憶や注意力、新しいことを学習する能力に著しい障害があり、一般就労が困難です。
<参考>
高次脳機能障害3級の後遺障害認定ポイント|交通事故の医療鑑定
5級2号
高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの
- 4能力のいずれか1つの能力の大部分が失われているもの
- 4能力のいずれか2つ以上の能力の半分程度が失われているもの
5級2号の障害程度と症状の目安
5級は、神経系統の機能または精神に著しい障害を残しているためし特に軽易な労務以外の労務に服することができない状態です。単純繰り返し作業に限定すれば一般就労も可能ですが、新しい作業を学習することが難しいです。
<参考>
高次脳機能障害5級の後遺障害認定ポイント|交通事故の医療鑑定
7級4号
高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないもの
- 4能力のいずれか1つの能力の半分程度が失われているもの
- 4能力のいずれか2つ以上の能力の相当程度が失われているもの
7級4号の障害程度と症状の目安
7級は、神経系統の機能または精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができない状態です。一般就労を維持できますが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどの問題があります。
<参考>
高次脳機能障害で7級が後遺障害認定されるポイント|交通事故
9級10号
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの
- 高次脳機能障害のため4能力のいずれか1つの能力の相当程度が失われているもの
問題解決能力の相当程度が失われているものの例:1人で手順とおりに作業を行うことに困難を生じることがあり、たまに助言を必要とする
9級10号の障害程度と症状の目安
9級は、神経系統の機能または精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限される状態です。一般就労を維持できますが、問題解決能力や作業効率に問題があります。
<参考>
高次脳機能障害で9級が後遺障害認定されるポイント|交通事故
12級13号
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、多少の障害を残すもの
- 4能力のいずれか1つ以上の能力が多少失われているもの
実務上は、高次脳機能障害として認定される等級の下限は12級13号と言われています。臨床的な症状が無くても、症状固定時のCTやMRIで脳挫傷痕や脳萎縮などの所見を認めれば、12級13号が認定されます。
12級13号の障害程度と症状の目安
12級は、神経系統の機能または精神に軽度の障害を残し、日常生活や労働に支障がある状態です。具体的な症状としては、軽度の記憶障害や注意力の低下が見られます。
<参考>
高次脳機能障害が12級に後遺障害認定されるポイント|交通事故
14級9号
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、軽微な障害を残すもの
- MRI、CT等による他覚的所見は認められないものの、脳損傷のあることが医学的にみて合理的に推測でき、高次脳機能障害のためわずかな能力喪失が認められるもの
14級9号の障害程度と症状の目安
14級は、神経系統の機能または精神にごく軽度の障害を残し、日常生活や労働に軽微な支障がある状態です。軽微な記憶障害や注意力の低下が見られますが、日常生活には大きな影響はありません。
高次脳機能障害の後遺障害認定ポイント
高次脳機能障害が後遺障害として認定されるためには、頭部外傷による脳組織の損傷が原因であることが証明されて、日常生活や社会生活に支障をきたしていることが必要です。
具体的には、記憶障害や注意障害、遂行機能障害などの認知障害が残り、生活に支障をきたしているケースです。被害者家族ができることとしては、日常生活状況報告において、事故前と後の生活状況の変化を具体的に示すことが重要です。
高次脳機能障害が後遺障害に認定されるポイントを詳しく知りたい方は、こちらのコラム記事を参照いただければ幸いです。
<参考>
高次脳機能障害の後遺障害認定で弊社ができること
弁護士の方へ
弊社では、頭部外傷による高次脳機能障害が、後遺障害に等級認定されるために、さまざまなサービスを提供しております。
等級スクリーニング
現在の状況で、後遺障害に認定されるために足りない要素を、後遺障害認定基準および医学的観点から、レポート形式でご報告するサービスです。
等級スクリーニングは、年間1000事案の圧倒的なデータ量をベースにしています。また、整形外科や脳神経外科以外のマイナー科も実施可能です。
等級スクリーニングの有用性を実感いただくために、初回事務所様は、無料で等級スクリーニングを承っております。こちらからお気軽にご相談下さい。
<参考>
【等級スクリーニング】後遺障害認定と対策を精査|医療鑑定
医師意見書
医師意見書では、診療録、画像検査、各種検査、後遺障害診断書などの事故関連資料をベースにして、総合的に後遺障害の蓋然性を主張します。
医師意見書は、後遺障害認定基準に精通した各科の専門医が作成します。医学意見書を作成する前に検討項目を共有して、クライアントと医学意見書の内容を擦り合わせます。
医学意見書では、必要に応じて医学文献を添付して、論理構成を補強します。弊社では、2名以上の専門医によるダブルチェックを行うことで、医学意見書の質を担保しています。
弊社は1000例を優に超える医師意見書を作成しており、多数の後遺障害認定事例を獲得しています。是非、弊社が作成した医師意見書の品質をお確かめください。
<参考>
交通事故の医師意見書が後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
画像鑑定報告書
交通事故で残った後遺症が、後遺障害で非該当になったら異議申し立てせざるを得ません。その際に強い味方になるのが画像鑑定報告書です。
画像鑑定報告書では、レントゲン、CT、MRIなどの各種画像検査や資料を精査したうえで、後遺障害診断書に記載されている症状との関連性を報告します。
画像鑑定報告書は、画像所見の有無が後遺障害認定に直結する事案では、大きな効果を発揮します。
弊社では事案の分析から医師意見書の作成、画像鑑定にいたるまで、社内の管理医師が一貫して取り組むことで、クライアント利益の最大化を図っています。
<参考>
【画像鑑定】交通事故の後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
高次脳機能障害の後遺障害認定でお悩みの被害者家族の方へ
弊社サービスのご利用をご希望であれば、現在ご担当いただいている弁護士を通してご依頼いただけますと幸いです。
また、弊社では交通事故業務に精通している全国の弁護士を紹介することができます。
もし、後遺障害認定で弁護士紹介を希望される被害者の方がいらっしゃれば、こちらのリンク先からお問い合わせください。
尚、弁護士紹介サービスは、あくまでもボランティアで行っています。このため、電話での弊社への問い合わせは、固くお断りしております。
弊社は、電話代行サービスを利用しているため、お電話いただいても弁護士紹介サービスをご提供できません。ご理解いただけますよう宜しくお願い申し上げます。
高次脳機能障害の後遺障害認定で損害賠償金を請求できる
頭部外傷による高次脳機能障害が、後遺障害に認定されると、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益を請求できます。
後遺障害慰謝料とは
交通事故で頭部外傷による高次脳機能障害が残ってしまった精神的苦痛に対する補償金です。後遺障害慰謝料は、下の表のように後遺障害等級によって異なります。
後遺障害等級 | 後遺障害慰謝料 |
1級 | 2800万円 |
2級 | 2370万円 |
3級 | 1990万円 |
4級 | 1670万円 |
5級 | 1400万円 |
6級 | 1180万円 |
7級 | 1000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
高次脳機能障害の後遺障害慰謝料の相場は?
高次脳機能障害の後遺障害慰謝料は、後遺障害等級によって異なります。例えば、9級の場合は約690万円、7級は約1000万円、5級は約1400万円、3級は約1990万円、2級は約2370万円、1級は約2800万円となります。
また、近親者の慰謝料として数百万円程度が加算されることがあります。さらに、1級や2級の場合には将来の介護費として数千万円から1億円を超える額が認められることがあります。
このように、高次脳機能障害の後遺障害慰謝料は等級によって大きく異なり、適切な後遺障害等級を獲得することが重要です。
後遺障害逸失利益とは
高次脳機能障害が残ると、労働能力が低下してしまいます。労働能力が低下したために失うであろう収入の不足分に対する補償金です。
後遺障害逸失利益は、交通事故被害者の年収、年齢をベースにして、後遺障害等級に応じた労働能力喪失率と労働能力喪失期間で決まります。後遺障害逸失利益は、以下の計算式で算出されます。
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数
高次脳機能障害の後遺障害逸失利益の相場は?
高次脳機能障害の逸失利益は、後遺障害等級によって異なります。一般的に、後遺障害等級が高いほど逸失利益の金額も高くなります。
例えば、1級の後遺障害の場合、逸失利益は約1億円前後となる可能性があります。一方、9級の場合は約1000万円程度のケースが多いです。
後遺障害逸失利益の金額は、被害者の年収や年齢、労働能力喪失率などによっても大きく変動します。
高次脳機能障害のMRI異常なしでよくある質問
高次脳機能障害に該当するかどうかは、どうやってわかりますか?
高次脳機能障害は、脳の損傷によって記憶や注意、判断力などの認知機能に障害が生じる状態です。診断には、神経心理学的検査や画像検査、臨床症状の評価が組み合わされます。
MRIで脳の萎縮はわかりますか?
MRI検査では、脳の構造的な異常や萎縮の有無を確認できます。特に、T1強調画像やT2強調画像を用いることで、脳の萎縮や損傷部位を詳細に観察することが可能です。
ただし、微細な損傷や機能的な異常は検出が難しい場合があるので、脳萎縮を評価するためにはCT検査の方が望ましいです。
脳MRIで異常がなくても認知症はありえますか?
MRI検査で異常が見られない場合でも、認知症を発症する可能性はあります。特に、初期段階の認知症や微細な脳損傷では、MRIで明確な異常が検出されないことがあります。
まとめ
高次脳機能障害は、交通事故などで脳に損傷を受けた際に発症しますが、MRI検査で異常が見つからないケースもあります。
特に、びまん性軸索損傷ではMRI検査で分からないことも珍しくありません。このような場合には、特殊な画像検査や神経心理学的検査が重要です。
また、受傷から時間が経過すると脳萎縮が確認できる場合もあります。MRI検査で異常がなくても、複数の方法で慎重に評価することが大切です。
高次脳機能障害の後遺障害認定でお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
関連ページ
資料・サンプルを無料ダウンロード
以下のフォームに入力完了後、資料ダウンロード用ページに移動します。