高次脳機能障害は、交通事故や脳の病気などによって引き起こされる可能性がある障害の1つです。
記憶力の低下や注意力の散漫、日常生活における判断力の不足など、その症状は多岐にわたり、本人だけでなく周囲の人々にも影響を及ぼします。
しかし、高次脳機能障害は症状が目立ちにくく、診断や治療が遅れるケースも珍しくありません。
本記事では、専門医による診断を受ける前に、自分や身近な人の状態を、簡易的にチェックできる方法を解説しています。
高次脳機能障害のセルフチェックを通じて、早期発見や適切な対応への第一歩を踏み出してみませんか?
最終更新日: 2025/1/23
Table of Contents
高次脳機能障害とは
高次脳機能障害の概要
高次脳機能障害とは、脳梗塞や脳出血、交通事故などによる脳外傷、脳炎、低酸素脳症など、脳が損傷を受けて生じる認知機能の障害です。
具体的には、注意力や記憶力、言語能力、感情のコントロールなどがうまく働かなくなり、日常生活や社会生活に支障をきたします。
外見からは分かりにくいため、「見えない障害」とも呼ばれ、本人や家族が周囲から理解されにくい状況に陥るケースも少なくありません。
高次脳機能障害の主な症状(4大症状)
高次脳機能障害には、さまざまな症状があります。その中でも有名なのは、以下に挙げる4つの症状です。
記憶障害
新しい情報を覚えられない、過去の出来事を思い出せない、同じ質問を繰り返すなどの症状が見られます。
注意障害
集中力が続かず、気が散りやすい、複数のことを同時に行えない、ミスが増えるといった特徴があります。
遂行機能障害
計画を立てて物事を進めることが難しくなり、段取りができない、臨機応変な対応が困難になるなどの問題が生じます。
社会的行動障害
感情のコントロールが難しくなり、衝動的な行動や適切でない社会的行動をとることがあります。
これらの症状は、個人によって程度や現れ方が異なり、複数の症状が同時に見られることもあります。適切な診断とリハビリテーション、周囲の理解とサポートが重要です。
高次脳機能障害のセルフチェック・リスト
高次脳機能障害のセルフチェックリストは、以下の4つの主要な症状に焦点を当てています。各項目について、該当するかどうかを確認することで、自己評価が可能です。
1. 記憶障害
- 最近の出来事を忘れやすい:数時間前や数日前の出来事を思い出せない
- 同じ話を繰り返す:同じ質問や話題を何度も繰り返す
- 物の置き場所を忘れる:鍵や財布など、日常的に使用する物の場所を思い出せない
2. 注意障害
- 集中力が続かない:一つの作業を継続することが難しい
- 複数の指示に混乱する:同時に複数の指示を受けると混乱する
- 周囲の音や動きに気を取られる:外部の刺激により注意が散漫になる
3. 遂行機能障害
- 計画を立てられない:日常生活や仕事での段取りがうまくできない
- 予期せぬ事態に対応できない:予定外の出来事に柔軟に対処できない
- 物事の優先順位をつけられない:重要なタスクとそうでないタスクの区別が難しい
4. 社会的行動障害
- 感情のコントロールが難しい:些細なことで怒ったり泣いたりする
- 衝動的な行動をとる:思いつきで行動し、後先を考えない
- 対人関係で問題が生じる:相手の気持ちを考えずに発言や行動をする
高次脳機能障害の診断基準と認定基準
高次脳機能障害の診断基準と認定基準は、それぞれ目的が異なります。このため、具体的な評価方法にも違いがあります。
高次脳機能障害の診断基準
診断基準は、医療や福祉の現場で適切な治療やリハビリテーションを提供するために設けられています。
診断基準では、脳の器質的な損傷が確認されていることが前提で、記憶障害や注意障害、遂行機能障害といった認知機能の低下が日常生活にどのような影響を及ぼしているかを評価します。
<参考>
高次脳機能障害の診断基準とは?後遺障害認定基準との違い|交通事故
高次脳機能障害の認定基準
認定基準は、自賠責保険や労災補償などの制度に基づいて、障害の程度を評価し、補償や賠償を公平に実施するためのものです。
認定基準では、補償や賠償の観点から、障害の客観的な評価が求められます。脳出血や脳細胞の損傷、脳室拡大、脳萎縮などの画像所見が確認されることが必要です。
さらに、障害が日常生活に及ぼす影響度合いも評価の対象となります。これらの情報を基に、書類審査を通じて後遺障害等級が決定されます。
このように、診断基準は主に医療的支援を目的としており、認定基準は補償や賠償の公平性を担保するためのものです。そのため、同じ症状を持つ場合でも、診断と認定で評価結果が異なるケースがあります。
<参考>
高次脳機能障害の後遺障害認定基準
高次脳機能障害については、意思疎通能力、問題解決能力、作業負荷に対する持続力・持久力、及び、社会行動能力の4つの能力の各々の喪失の程度に着目し、評価を行います。
等級 |
認定基準 |
具体例 |
1級1号 |
高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの |
|
2級1号 |
高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわりの処理の動作について、随時介護を要するもの |
|
3級3号 |
生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高次脳機能障害のため、労務に服することができないもの |
|
5級2号 |
高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの |
|
7級4号 |
高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないもの |
|
9級10号 |
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの |
|
12級13号 |
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、多少の障害を残すもの |
|
14級9号 |
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、軽微な障害を残すもの |
|
1級1号
高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの
- 重篤な高次脳機能障害のため、食事・入浴・用便・更衣等に常時介護を要するもの
- 高次脳機能障害による高度の認知症や情意の荒廃があるため、常時監視を要するもの
2級1号
高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわりの処理の動作について、随時介護を要するもの
- 重篤な高次脳機能障害のため、食事・入浴・用便・更衣等に随時介護を要するもの
- 高次脳機能障害による認知症、情意の障害、幻覚、妄想、頻回の発作性意識障害等のため随時他人による監視を必要とするもの
- 重篤な高次脳機能障害のため自宅内の日常生活動作は一応できるが、1人で外出することなどが困難であり、外出の際には他人の介護を必要とするため、随時他人の介護を必要とするもの
3級3号
生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高次脳機能障害のため、労務に服することができないもの
- 4能力のいずれか1つ以上の能力が全部失われているもの
- 4能力のいずれか2つ以上の能力の大部分が失われているもの
<参考>
高次脳機能障害3級の後遺障害認定ポイント|交通事故の医療鑑定
5級2号
高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの
- 4能力のいずれか1つの能力の大部分が失われているもの
- 4能力のいずれか2つ以上の能力の半分程度が失われているもの
<参考>
高次脳機能障害5級の後遺障害認定ポイント|交通事故の医療鑑定
7級4号
高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないもの
- 4能力のいずれか1つの能力の半分程度が失われているもの
- 4能力のいずれか2つ以上の能力の相当程度が失われているもの
<参考>
高次脳機能障害で7級が後遺障害認定されるポイント|交通事故
9級10号
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの
- 高次脳機能障害のため4能力のいずれか1つの能力の相当程度が失われているもの
問題解決能力の相当程度が失われているものの例:1人で手順とおりに作業を行うことに困難を生じることがあり、たまに助言を必要とする
<参考>
高次脳機能障害で9級が後遺障害認定されるポイント|交通事故
12級13号
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、多少の障害を残すもの
- 4能力のいずれか1つ以上の能力が多少失われているもの
実務上は、高次脳機能障害として認定される等級の下限は12級13号と言われています。臨床的な症状が無くても、症状固定時のCTやMRIで脳挫傷痕や脳萎縮などの所見を認めれば、12級13号が認定されます。
<参考>
高次脳機能障害が12級に後遺障害認定されるポイント|交通事故
14級9号
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、軽微な障害を残すもの
- MRI、CT等による他覚的所見は認められないものの、脳損傷のあることが医学的にみて合理的に推測でき、高次脳機能障害のためわずかな能力喪失が認められるもの
高次脳機能障害の後遺障害認定ポイント
高次脳機能障害が後遺障害として認定されるには、脳外傷が原因で脳組織に損傷が生じ、その結果として日常生活や社会生活に重大な影響が出ていることを証明する必要があります。
具体的には、記憶障害、注意障害、遂行機能障害などの認知機能の低下が見られ、これらが生活の質や活動に支障を与えているケースが該当します。
例えば、簡単な作業がこなせなくなったり、予定を立てる能力が失われたりすることが典型例です。
被害者家族ができることとしては、日常生活状況報告において、事故前と後の生活状況の変化を具体的に示すことが重要です。
高次脳機能障害が後遺障害に認定されるポイントを詳しく知りたい方は、こちらのコラム記事を参照いただければ幸いです。
<参考>
高次脳機能障害の後遺障害認定で弊社ができること
弁護士の方へ
弊社では、交通事故で残った高次脳機能障害が後遺障害に等級認定されるために、さまざまなサービスを提供しております。
等級スクリーニング
現在の状況で、後遺障害に認定されるために足りない要素を、後遺障害認定基準および医学的観点から、レポート形式でご報告するサービスです。
等級スクリーニングは、年間1000事案の圧倒的なデータ量をベースにしています。また、整形外科や脳神経外科以外のマイナー科も実施可能です。
等級スクリーニングの有用性を実感いただくために、初回事務所様は、無料で等級スクリーニングを承っております。こちらからお気軽にご相談下さい。
<参考>
【等級スクリーニング】後遺障害認定と対策を精査|医療鑑定
医師意見書
医師意見書では、診療録、画像検査、各種検査、後遺障害診断書などの事故関連資料をベースにして、総合的に後遺障害の蓋然性を主張します。
医師意見書は、後遺障害認定基準に精通した各科の専門医が作成します。医学意見書を作成する前に検討項目を共有して、クライアントと医学意見書の内容を擦り合わせます。
医学意見書では、必要に応じて医学文献を添付して、論理構成を補強します。弊社では、2名以上の専門医によるダブルチェックを行うことで、医学意見書の質を担保しています。
弊社は1000例を優に超える医師意見書を作成しており、多数の後遺障害認定事例を獲得しています。是非、弊社が作成した医師意見書の品質をお確かめください。
<参考>
交通事故の医師意見書が後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
画像鑑定報告書
交通事故で残った後遺症が、後遺障害で非該当になったら異議申し立てせざるを得ません。その際に強い味方になるのが画像鑑定報告書です。
画像鑑定報告書では、レントゲン、CT、MRIなどの各種画像検査や資料を精査したうえで、後遺障害診断書に記載されている症状との関連性を報告します。
画像鑑定報告書は、画像所見の有無が後遺障害認定に直結する事案では、大きな効果を発揮します。
弊社では事案の分析から医師意見書の作成、画像鑑定にいたるまで、社内の管理医師が一貫して取り組むことで、クライアント利益の最大化を図っています。
<参考>
【画像鑑定】交通事故の後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
高次脳機能障害の後遺障害認定でお悩みの被害者の方へ
弊社サービスのご利用をご希望であれば、現在ご担当いただいている弁護士を通してご依頼いただけますと幸いです。
また、弊社では交通事故業務に精通している全国の弁護士を紹介することができます。
もし、後遺障害認定で弁護士紹介を希望される被害者の方がいらっしゃれば、こちらのリンク先からお問い合わせください。
尚、弁護士紹介サービスは、あくまでもボランティアで行っています。このため、電話での弊社への問い合わせは、固くお断りしております。
弊社は、電話代行サービスを利用しているため、お電話いただいても弁護士紹介サービスをご提供できません。ご理解いただけますよう宜しくお願い申し上げます。
高次脳機能障害で請求できる損害賠償金
高次脳機能障害で後遺障害に認定されると、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益を請求できます。
高次脳機能障害の後遺障害慰謝料とは
交通事故で高次脳機能障害が残ってしまった精神的苦痛に対する補償金です。後遺障害慰謝料は、下の表のように後遺障害等級によって異なります。
後遺障害等級 | 後遺障害慰謝料 |
1級 | 2800万円 |
2級 | 2370万円 |
3級 | 1990万円 |
4級 | 1670万円 |
5級 | 1400万円 |
6級 | 1180万円 |
7級 | 1000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
高次脳機能障害の後遺障害慰謝料の相場は?
高次脳機能障害の後遺障害慰謝料は、後遺障害等級によって異なります。例えば、9級の場合は約690万円、7級は約1000万円、5級は約1400万円、3級は約1990万円、2級は約2370万円、1級は約2800万円となります。
また、近親者の慰謝料として数百万円程度が加算されることがあります。さらに、1級や2級の場合には将来の介護費として数千万円から1億円を超える額が認められることがあります。
このように、高次脳機能障害の後遺障害慰謝料は等級によって大きく異なり、適切な後遺障害等級を獲得することが重要です。
高次脳機能障害の後遺障害逸失利益とは
高次脳機能障害が残ると、労働能力が低下してしまいます。労働能力が低下したために失うであろう収入の不足分に対する補償金です。
後遺障害逸失利益は、交通事故被害者の年収、年齢をベースにして、後遺障害等級に応じた労働能力喪失率と労働能力喪失期間で決まります。後遺障害逸失利益は、以下の計算式で算出されます。
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数
高次脳機能障害の後遺障害逸失利益の相場は?
高次脳機能障害の逸失利益は、後遺障害等級によって異なります。一般的に、後遺障害等級が高いほど逸失利益の金額も高くなります。
例えば、1級の後遺障害の場合、逸失利益は約1億円前後となる可能性があります。一方、9級の場合は約1000万円程度のケースが多いです。
後遺障害逸失利益の金額は、被害者の年収や年齢、労働能力喪失率などによっても大きく変動します。
高次脳機能障害のセルフチェックでよくある質問
高次脳機能障害の確かめ方は?
高次脳機能障害を確認するためには、専門的な医療機関での評価が必要です。具体的には、神経心理学的検査や画像診断(CT検査やMRI検査)を組み合わせて診断が行われます。
また、日常生活での行動や症状を把握するために、家族や周囲の人からの情報も重要です。セルフチェックリストを活用して、該当する症状が多い場合は、専門医の受診を検討してください。
高次脳機能障害はCTでわかりますか?
CT検査では、脳の構造的な異常や損傷を確認することができますが、高次脳機能障害の全てを明確に診断することは難しいケースがあります。
より詳細な情報を得るためには、MRI検査や神経心理学的検査が併用されることが一般的です。これらの検査結果と臨床症状を総合的に評価して診断が行われます。
高次脳機能障害になると嘘をつくようになりますか?
高次脳機能障害の症状として、記憶障害や注意障害、遂行機能障害などがあり、これらが原因で事実と異なる発言をすることがあります。
しかし、これは意図的な嘘ではなく、認知機能の低下によるものです。周囲の理解と適切な対応が重要です。
高次脳機能障害は寝てばかりですか?
高次脳機能障害の症状は多岐にわたり、過度の眠気や睡眠障害が見られる場合もあります。しかし、全ての患者に当てはまるわけではありません。
まとめ
高次脳機能障害は、脳梗塞や交通事故などで脳が損傷を受けることで生じる障害です。
高次脳機能障害は外見からは分かりにくく、注意力や記憶力、感情のコントロールなどがうまく働かなくなり、日常生活や仕事に大きな影響を与えます。
例えば、新しい情報を覚えられなかったり、集中力が続かずミスが増えたり、計画を立てて行動することが難しくなる場合があります。また、感情を制御できず衝動的な行動をとることもあります。
障害の程度によっては、後遺障害が認定されて賠償や補償を受けられます。高次脳機能障害の後遺障害認定で、お困りの事案があればこちらからお問い合わせください。
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