交通事故に遭ったために、持病が悪化した人は珍しくありません。しかし、交通事故前から持病があると、示談の際に保険会社との交渉で問題を生じる可能性があります。
保険会社から、もともとあった持病なので交通事故とは関係ないと言われたり、持病で後遺症が重くなったとして、素因減額を主張されるケースがあります。
本記事は、交通事故で持病が悪化した場合の、損害賠償額への影響を理解するヒントとなるように作成しています。
最終更新日: 2024/9/22
Table of Contents
交通事故による持病悪化とは
交通事故で悪化する可能性のある持病
交通事故に遭うと悪化しがちな持病として、以下が挙げられます。
交通事故時に持病があって、その影響でケガの治療が長引くと、すべての損害を加害者が負担するのは不公平です。
このため持病があると、賠償金が減額される可能性があります。持病のために賠償額が減額されることを「素因減額」と呼びます。
<参考>
【日経メディカル】「いつの間にか骨折」悪化と判断され慰謝料が減額?!
交通事故の衝撃が持病に与える影響
背骨にヘルニアがあったり余分な骨ができていると、交通事故の衝撃で、通常よりも神経が損傷する可能性があります。
また、交通事故で感じた強い恐怖が、一時的ではなく長く続くと、心に深い傷(トラウマ)が残るケースがあります。
後遺障害認定には因果関係が重要
例えば、交通事故で頚椎や腰椎のヘルニアが悪化したら、後遺障害に認定されるためには、交通事故と後遺症の因果関係が重要です。
そのためには、交通事故が直接または間接的にヘルニアの悪化に影響したことを証明する必要があります。
しかし、交通事故に遭う前からヘルニアの治療をしていたら、加害者側の保険会社が症状と事故との因果関係を否定して争うケースがあります。
こうしたトラブルを避けるためにも、交通事故後はすぐに病院を受診し、事故前より症状が悪化したことを医師に伝えましょう。
交通事故の素因減額とは
素因減額とは、交通事故が原因で悪化した後遺症のうち、もともと持っていた病気や体の状態が影響した部分の賠償額を減らすことです。
素因には、体に関わる「身体的要因」と、心に関わる「心因的要因」の2種類があります。
身体的要因
既往症がある場合でも、必ず素因減額が適用されるわけではありません。被害者の体の特徴や既往症が、事故による損害を大きくしたという明確な証拠がある場合にのみ減額されます。
特に、病気といえる程度の特徴があるかがポイントです。加齢による変化は通常「病気」とはみなされず、素因減額の対象にはなりません。
<参考>
【医師が解説】素因減額と既往症や加齢による変性所見|医療鑑定
心因的要因
交通事故の被害者の性格や精神的な適応力が、後遺症を重くすることがあります。この場合、素因減額が適用されることがあります。
ただし、単に精神的に弱いからという理由だけではなく、心の問題が後遺症を悪化させたという証拠が必要です。
例えば、うつ病の既往症があったり、軽い事故なのに長期間治療が必要な場合などが該当します。
既往症は素因減額を主張されやすい
保険会社は、賠償額を減らすために、積極的に素因減額を主張する傾向にあります。
特に、後遺障害診断書などで既往症が記載されていると、標的にされやすく争いに発展するケースが多いです。
また、高齢の被害者に対しては、加齢による体力の衰えを理由に素因減額を主張する可能性があります。
素因減額を立証するのは加害者側
素因減額を立証する責任は、加害者側にあります。これは、素因減額で加害者が利益を得るためです。
素因減額で立証する内容
加害者が素因減額を主張するためには、以下の点を医学的根拠に基づいて立証する必要があります。
- 身体的・精神的特徴が病気とみなせる
- 交通事故だけでなく、持病によっても悪化している
- 公平性を保つために賠償額を調整する必要がある
- 素因減額の割合を決定する医学的評価
素因減額を医学的に評価することが、加害者側に求められる重要なポイントです。
【弁護士必見】持病悪化で保険会社と交渉するポイント
素因減額の判断基準
交通事故の持病悪化が示談交渉で解決せず、訴訟で素因減額が争われる際には、以下の点が考慮されます。
- 事故の状況や車両の損傷具合
- 既往歴の有無とその内容
- 治療にかかる平均期間
事故規模が大きい場合や車両の損傷が激しいと、交通事故による被害が大きく、被害者の素因による影響は小さいと見なされやすいです。
一方、被害者に後遺症と関係する持病があり、その症状が重い場合は、損害拡大に既往症が影響していると判断される可能性があります。
また、ケガの治療期間が通常より大幅に長引いていると、被害者の素因が影響していると判断されやすくなります。
素因減額への対応法
既往症=素因減額ではありません。このため、既往症よりも交通事故の影響の方が遥かに大きいことを証明する必要があります。
このような事案では、既往症が後遺症を重くしたという医学的根拠が存在するのかがポイントになります。この点は各科の専門医でなければ正確に判断できないのが実情です。
特に訴訟では、後遺障害に対する既往症の寄与度が争点になります。しかし、具体的な割合を医学的に示すのは、必ずしも容易ではありません。弊社では若杉判定基準で寄与度を算出しています。
<参考>
【医師が解説】素因減額(既往症の寄与度)算出に便利な若杉判定基準
体の特徴は病気に該当するかが重要
被害者の体の特徴が「病気」と認められるかどうかが、素因減額が適用されるか否かの判断基準となります。
つまり、被害者の体の特徴が病気といえる状態なら素因減額の対象になりますが、そうでなければ対象外です。
例えば、肥満が後遺症を悪化させた場合でも、肥満度が病的でなければ素因減額は適用されませんが、病的肥満なら減額される可能性があります。
加齢による影響
加齢に伴う体の変化についても、通常の範囲内であれば「病気」とみなされず、素因減額は適用されません。
しかし、高齢者で変形性頚椎症などの加齢による変化が他の同年代の人と比べて大きい場合には、素因減額が主張される可能性があります。
同年代の平均と比べてどうなのかを判断するには、専門医でなければ難しいケースが多いです。素因減額でお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
交通事故の持病悪化で弊社ができること
弁護士の方へ
弊社では、交通事故による持病悪化の後遺障害認定や逸失利益を主張するために、さまざまなサービスを提供しております。
等級スクリーニング
現在の状況で、後遺障害に認定されるために足りない要素を、後遺障害認定基準および医学的観点から、レポート形式でご報告するサービスです。
等級スクリーニングは、年間1000事案の圧倒的なデータ量をベースにしています。また、整形外科や脳神経外科以外のマイナー科も実施可能です。
等級スクリーニングの有用性を実感いただくために、初回事務所様は、無料で等級スクリーニングを承っております。こちらからお気軽にご相談下さい。
<参考>
【等級スクリーニング】後遺障害認定と対策を精査|医療鑑定
医師意見書
医師意見書では、診療録、画像検査、各種検査、後遺障害診断書などの事故関連資料をベースにして、総合的に後遺障害の蓋然性を主張します。
医師意見書は、後遺障害認定基準に精通した各科の専門医が作成します。医学意見書を作成する前に検討項目を共有して、クライアントと医学意見書の内容を擦り合わせます。
医学意見書では、必要に応じて医学文献を添付して、論理構成を補強します。弊社では、2名以上の専門医によるダブルチェックを行うことで、医学意見書の質を担保しています。
弊社は1000例を優に超える医師意見書を作成しており、多数の後遺障害認定事例を獲得しています。是非、弊社が作成した医師意見書の品質をお確かめください。
<参考>
交通事故の医師意見書が後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
画像鑑定報告書
交通事故で残った後遺症が、後遺障害で非該当になったら異議申し立てせざるを得ません。その際に強い味方になるのが画像鑑定報告書です。
画像鑑定報告書では、レントゲン、CT、MRIなどの各種画像検査や資料を精査したうえで、後遺障害診断書に記載されている症状との関連性を報告します。
画像鑑定報告書は、画像所見の有無が後遺障害認定に直結する事案では、大きな効果を発揮します。
弊社では事案の分析から医師意見書の作成、画像鑑定にいたるまで、社内の管理医師が一貫して取り組むことで、クライアント利益の最大化を図っています。
<参考>
【画像鑑定】交通事故の後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
交通事故による持病悪化でお悩みの被害者の方へ
弊社サービスのご利用をご希望であれば、現在ご担当いただいている弁護士を通してご依頼いただけますと幸いです。
また、弊社では交通事故業務に精通している全国の弁護士を紹介することができます。
もし、後遺障害で弁護士紹介を希望される被害者の方がいらっしゃれば、こちらのリンク先からお問い合わせください。
尚、弁護士紹介サービスは、あくまでもボランティアで行っています。このため、電話での弊社への問い合わせは、固くお断りしております。
交通事故の持病悪化でも賠償金を確保した事例
素因減額20%での和解成立した後縦靭帯骨化症の事例
事案詳細
- 被害者:70歳
- 等級認定:2級1号
- 加害者側保険会社が素因減額50%を主張
- 素因減額20%で和解成立
弊社の取り組み
歩行中に自動車にはねられ、ほぼ寝たきりの状態になりました。自賠責保険では2級1号の後遺障害等級が認定されましたが、加害者側の保険会社は、被害者にOPLL(後縦靭帯骨化症)の既往があることを理由に、損害賠償を50%減額すべきだと主張しました。
しかし、脊椎脊髄外科の専門医が、OPLLの脊柱管内での影響や自然経過、ガイドラインを根拠に、素因減額は16%であるとの意見書を提出。その結果、素因減額20%で和解が成立しました。
まとめ
交通事故で持病が悪化した場合、加害者から受け取れる賠償金が減額される可能性があります。これを「素因減額」といいます。素因減額が適用されるのは、以下のケースです。
- 持病が、交通事故による損害を大きくしたと認められる
- 被害者の性格や精神的な状態が、損害を大きくしたと認められる
保険会社は、賠償金を減らすために素因減額を主張する傾向にあります。保険会社に素因減額を主張されたら、こちらからお問い合わせください。
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