交通事故の後遺症のひとつに、指が曲がらない症状があります。指が曲がらない原因として、骨折、腱断裂、関節拘縮、神経麻痺があります。
本記事は、指が曲がらない後遺症が、自賠責保険や労災保険で後遺障害に認定されるヒントとなるように作成しています。
最終更新日: 2024/7/18
Table of Contents
指が曲がらない原因を知るには指や手の解剖が重要
指や手の骨には何がある?
外から見ているだけではわかりませんが、指や手の甲にはたくさんの小さな骨があります。指や手の甲を構成する骨は、以下のごとくです。
- 末節骨(第1~5末節骨)
- 中節骨(第2~5中節骨)
- 基節骨(第1~5基節骨)
- 中手骨(第1~5中手骨)
- 手根骨(豆状骨、三角骨、月状骨、舟状骨、大菱形骨、小菱形骨、有頭骨、有鈎骨)
Wikipediaから転載
腱には屈筋腱と伸筋腱がある
指が曲がらない原因のひとつに、腱断裂や腱の癒着があります。腱とは、骨に付着している繊維性のひも状組織で、筋肉の収縮を伝える役割を果たしています。手のひら側の腱を屈筋腱、手の甲側の腱を伸筋腱と呼びます。
屈筋腱は強靭な腱で、分厚い皮下組織の中にあるので切れてしまうことは少ないですが、周囲の組織と癒着しやすいです。一方、伸筋腱はペラペラで、しかも手の甲は皮膚の直下に伸筋腱が走行しているので切れやすいです。
屈筋腱や伸筋腱が切れてしまうと、筋肉の力が骨に伝わらなくなります。その結果、手や指を動かせなくなります。
ネッター解剖学アトラス第3版より転載
指が曲がらなくなる傷病とは
指の骨折(指節骨骨折)
指の骨折には、末節骨骨折、中節骨骨折、基節骨骨折があります。これらの骨折が、DIP関節、PIP関節、MP関節などの関節内に及ぶと、痛みや可動域制限を残す可能性があります。
一方、指節骨の骨幹部で骨折すると、骨折部で腱が癒着するため、隣接する関節の可動域制限を併発する可能性が高いです。
特にPIP関節とMP関節は関節の可動域制限を残す可能性が高いため、積極的なリハビリテーションが必要です。
<参考>
【医師が解説】手、指の骨折が後遺障害認定されるポイント|交通事故
手の甲の骨折(中手骨骨折)
中手骨骨折には、中手骨骨幹部骨折や中手骨頚部骨折(ボクサー骨折)があります。
中手骨骨幹部骨折は、指の外傷ではないにもかかわらず、中手骨の表面を走行する伸筋腱と癒着する症例が多いため、指の可動域制限を残しやすいです。
一方、中手骨頚部骨折は、MP関節に近い骨折なので、MP関節の可動域制限を残す可能性が高いです。
腱の断裂や癒着
屈筋腱や伸筋腱が切れたり周囲の軟部組織と癒着すると、指が曲がりにくくなります。
<参考>
【医師が解説】伸筋腱断裂(手、足)の後遺症|交通事故
神経麻痺
指を動かす筋肉を支配している神経が障害されると、指が曲がらなくなります。具体的には以下のような麻痺で指が動かなくなる可能性があります。
- 腕神経叢損傷
- 尺骨神経麻痺
- 正中神経麻痺(手根管症候群)
- 橈骨神経麻痺
- 脳外傷(脳挫傷など)
<参考>
【医師が解説】腕神経叢損傷の後遺症の等級認定ポイント|交通事故
【医師が解説】尺骨神経麻痺が後遺症認定されるポイント|交通事故
【医師が解説】手根管症候群の後遺症が認定されるヒント|交通事故
【医師が解説】橈骨神経麻痺が後遺症認定されるポイント|交通事故
【医師が解説】脳挫傷の後遺症が後遺障害認定されるヒント|交通事故
指が曲がらない後遺障害の認定条件
指節骨骨折(末節骨骨折、中節骨骨折、基節骨骨折)や中手骨骨折では指の機能障害や神経障害に該当する可能性があります。
一見すると中手骨骨折は指の機能障害と無関係に思えますが、伸筋腱が癒着しやすいため指の機能障害を残す事案が多いです。
指の機能障害
MP関節(中手指節間関節)、PIP関節(近位指節間関節)、母指のIP関節(指節間関節)の可動域が健側可動域の1/2以下に制限されると、手指の用を廃したものとして後遺障害に認定されます。
7級7号
1手の5の手指又はおや指を含み4の手指の用を廃したもの
8級4号
1手のおや指を含み3の手指の用を廃したもの又はおや指以外の4の手指の用を廃したもの
9級13号
1手のおや指を含み2の手指の用を廃したもの又はおや指以外の3の手指の用を廃したもの
10級7号
1手のおや指又はおや指以外の2の手指の用を廃したもの
12級10号
1手のひとさし指、なか指又はくすり指の用を廃したもの
13級6号
1手のこ指の用を廃したもの
指の神経障害
MP関節(中手指節間関節)、PIP関節(近位指節間関節)、母指のIP関節(指節間関節)の可動域が、健側可動域の1/2以下まで制限されてない事案は、手指の用を廃したものとして後遺障害に認定されません。
一方、関節内骨折などで関節面に不整があるケースには、関節の痛みが後遺症として残ることが珍しくありません。このような事案では、指の神経障害に認定される可能性があります。
12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの
レントゲン検査などで関節面に明らかな不整があると12級13号に認定される可能性があります。
14級9号:局部に神経症状を残すもの
レントゲン検査で関節面の不整がそれほど大きくない場合でも、治療経過から痛みが残ることが推認されるケースでは、14級9号に認定される可能性があります。
【弁護士必見】指が曲がらない事案の後遺障害認定ポイント
指が曲がらない事案の後遺障害認定では、指が曲がらなくなった原因が何なのかを理解する必要があります。具体的には、骨折、伸筋腱や屈筋腱の癒着、神経障害のいずれかです。
例えば、中手骨骨幹部骨折は指の外傷ではありませんが、中手骨の表面を走行する伸筋腱と癒着する症例が多いため、指が曲がりにくくなります。
また、隣接する指の機能障害が残す可能性もあります。例えば、第3中手骨骨幹部骨折では中指(第3指)だけではなく、示指(第2指)や環指(第4指)の可動域制限を残すケースが珍しくありません。
その理由は、中手骨骨折を受傷すると骨折部から出血しますが、この出血が治る過程で隣の伸筋腱まで癒着してしまうからです。
実臨床では全く違和感無く受け入れられている病態ですが、残念ながら自賠責保険では後遺障害に認定されない事案が多いです。
このような事案では、手外科医師による医師意見書が有効であるケースが多いです。お困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
まとめ
指が曲がらなくなる傷病には、指の骨折(指節骨骨折)、手の甲の骨折(中手骨骨折)、腱の断裂や癒着、神経麻痺があります。
指が曲がらない事案の後遺障害認定では、指が曲がらなくなった原因が何なのかを理解する必要があります。
一方、後遺障害認定においては、実臨床では全く違和感無く受け入れられている病態でさえ否認される事案が多発しているので注意が必要です。
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