交通事故で大腿骨や下腿骨(脛骨や腓骨)を骨折すると、骨折部で脚が短くなる可能性があります。脚の長さに左右差ができてしまうと短縮障害に該当します。
本記事は、短縮障害が等級認定されるヒントとなるように作成しています。
最終更新日:2023/3/5
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短縮障害とは
交通事故で脚の骨(大腿骨や脛骨)を骨折すると、脚が短縮して左右差が出てしまうことがあります。骨折部で脚が短くなる後遺障害を短縮障害といいます。
交通事故で短縮障害の原因となる骨折
骨盤骨折
骨盤骨折で下肢の短縮障害が発生する可能性があるのは、骨盤輪骨折と寛骨臼骨折(股関節中心性脱臼)です。
特に、マルゲーニュ骨折などで患側の腸骨が大きく頭側にずれる(転位する)と、脚長差の原因となります。
<参考>
【医師が解説】骨盤骨折の後遺症が等級認定されるポイント|交通事故
大腿骨骨折
大腿骨折では、比較的高い確率で脚が短くなります。特に大腿骨骨幹部骨折では、骨折部がオーバーラップすることで脚が短くなりがちです。
<参考>
【医師が解説】大腿骨骨折が後遺症認定されるポイント|交通事故
脛骨骨折
脛骨骨折単独では脚が短くなる確率は高くないですが、腓骨骨折を合併しているケースで脚が短くなる可能性が高まります。
特に脛骨腓骨骨幹部骨折では、骨折部がオーバーラップすることで脚が短くなりがちです。
<参考>
【医師が解説】脛骨骨折の後遺症が等級認定されるポイント|交通事故
短縮障害の症状
1cm以上も脚が短縮すると、歩く姿が悪くなります。一方、1cmまでの短縮であれば腰骨で代償されて、見た目の歩容の悪さは目立ちません。
自賠責認定基準の短縮障害の要件が1cm以上の脚短縮であることには、医学的に合理的な理由があるのです。
短縮障害の診断
SMD(Spina Malleollar Distance:棘果長)
交通事故被害者に診察台の上で横になってもらい、足をまっすぐにして医師がメジャーで下肢長を計測します。
下肢長は、SMD(Spina Malleollar Distance:棘果長)を計測します。SMDとは、下肢の長さの計測法のひとつです。
骨盤にある上前腸骨棘から足関節の内果(内くるぶし)までの距離をメジャーを用いて計測します。
<参考>
【医師が解説】脚長差(短縮障害)の評価はSMDが妥当?|交通事故
単純X線像(レントゲン検査)の長尺撮影
SMDを計測する以外にも、単純X線像(レントゲン検査)の長尺撮影を行い、モニター上で計測することも可能です。
体表から測定するSMDと比較すると、画像検査である長尺撮影の方が正確に思えます。
しかし実際には、下肢長の起点と終点があいまいであるため、長尺撮影でも下肢長を正確に計測できるわけではありません。
短縮障害に対する治療
短縮障害に対する保存療法
子供の場合には、多少の短縮障害が残っても、数年するとほぼ同じ長さになることが多いです。
一方、成人では短縮障害が改善する可能性は無いため、患側の靴底に補高(ほだか)を挿入して歩行すると疲れにくくなります。
短縮障害に対する手術療法
成人の短縮障害では、脚延長術を施行するケースがあります。脚延長術には、創外固定を用いる方法や髄内釘を用いる方法などがあります。
短縮障害の後遺障害等級
8級5号
1下肢を5cm以上短縮したもの
10級8号
1下肢を3cm以上短縮したもの
13級8号
1下肢を1cm以上短縮したもの
過成長(延長障害)の後遺障害等級
8級相当
1下肢が5cm以上長くなったもの
10級相当
1下肢が3cm以上長くなったもの
13級相当
1下肢が1cm以上長くなったもの
【弁護士必見】等級認定のポイント
画像検査も万能ではない
SMDは体表からメジャーで計測するだけなので正確性に欠けます。このため、SMDで予想ほど短縮障害が無かった事案では、レントゲン検査の一種である長尺撮影を検討します。
しかし、画像検査も万能ではありません。何故なら、下肢長を計測するためには、上前腸骨棘と足関節の内果(内くるぶし)を同定しなければいけないからです。
両方ともなだらかな骨隆起なので、画像検査では明確に捉えることが難しいからです。
次善の策として、大腿骨骨幹部骨折であれば大転子先端から大腿骨顆間までを計測したり、ミクリッツラインを引いて計測することもあります。
股関節や膝関節が関節拘縮していると脚長は短くなる
下肢長の定義をSMDにしていると、股関節や膝関節が関節拘縮していると脚長は短くなります。
このことは臨床的によく知られていますが、画像検査は正常に近いため、しばしば非該当になります。
実際に交通事故被害者が日常生活を送るうえで、股関節や膝関節の関節可動域制限が残っていると、ほぼ短縮障害と同レベルの不便さを感じます。
異議申し立てする際には、ビジュアル面に配慮した医師意見書や画像鑑定報告書の添付が望ましいでしょう。
成人の脚延長障害は非該当となる
下肢の短縮障害の類型として過成長があります。子供では骨折をきっかけにして骨の成長が促されてしまい、骨折した方の下肢の方が長くなりすぎることがあり、この状態を過成長と呼びます。
過成長は下肢の短縮障害に準じて、健側と比較した脚長差の程度によって、5㎝以上は8級、3㎝以上は10級、1㎝以上は13級となります。脚長が存在すると歩容が悪くなり、また脊椎、股関節、膝関節などに悪影響を及ぼします。
下肢の短縮や延長をひとくくりとして、脚長の存在が障害の原因であるとした公正な障害評価基準だと考えています。しかし先日、小児においてはみとめられている過延長による脚長差の障害が、成人では認められないという事案を経験しました。
後遺障害等級認定票には、過成長障害は後遺障害の評価対象となりうるものの、脚延長による脚長差については後遺障害としての評価は困難であると記載されていました。
成人で脚延長する可能性があるのは、骨切り術や人工関節置換術などごく少数のケースに限られます。このため本事案はレアケースと考えられますが、それでも脚長差が残存しています。
子供においては正当に評価されている脚延長の障害が、成人においては評価されずに非該当となるのは論理的ではありません。しかし、残念ながら自賠責認定基準では成人の脚延長は非該当になるようです。
まとめ
交通事故で短縮障害の原因となる骨折には、骨盤骨折、大腿骨骨折、下腿骨折(脛骨腓骨骨折)などがあります。
短縮障害の診断として広く用いられているSMDは、正確に計測することに適した検査ではありません。一方、画像検査の一種である長尺撮影も、ポイントを取るのが難しいため正確とは言い難いです。
短縮障害でお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
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