交通事故で発生する最もメジャーな外傷は、むちうち(頚椎捻挫)です。むちうちと言えば、首の痛みを思い浮かべますね。しかし、むちうちには、さまざまな症状があります。
また、むちうちには治りにくいイメージがあります。何年かしてから症状が再発するという話を聞いたことのある人もいるはずです。
本記事は、むちうちの症状について、正確な医学知識を知るヒントとなるように作成しています。
最終更新日: 2024/11/8
Table of Contents
むちうちはどんな痛みなのか?
むちうちの痛みで最も多いのは、首から肩にかけての重だるい痛みでしょう。感覚的に言うと、肩こりを10倍ぐらい強くして、さらに痛みもある状況です。
これ以外にも、しびれやズキズキした拍動性の痛みを感じる人もいます。むちうちで感じる痛みの種類は、人によってさまざまなのです。
むちうちにはどんな症状がある?
むちうちの症状は首の痛みだけだと思われがちです。しかし実際には、首の痛みだけではなく、以下のようなたくさんの症状があります。
- 首の痛み(後頚部痛)
- 肩こり
- 上肢のしびれ、痛み、脱力感
- 頭痛
- めまい
- 嘔気
- 耳鳴り
- 下肢のしびれ
- 動悸
- 全身倦怠感
私たち整形外科医師が日常診療していて最もよく見かける症状は、首の痛み、肩こり、上肢のしびれや痛み、頭痛の4つです。
首の痛み(後頚部痛)
首の痛み(後頚部痛)は、むちうちの症状として最も有名です。私たちが外来をしていると、多くのむちうち患者さんが首の痛みを訴えます。
しかし、レントゲン検査やMRI検査では、骨折、脱臼、外傷性椎間板ヘルニアを見かけることはほとんどありません。たしかに骨棘形成や椎間板腔狭小化などの所見は存在する人は多いです。
しかしこれらの画像所見は、むちうち患者さんに特有の所見ではありません。明らかに交通事故が原因と分かる外傷性の頚椎椎間板ヘルニアは珍しいのです。
肩こり
肩こりもよく見かける症状です。首の痛みと肩こりは、ほぼワンセットと言えるほどです。交通事故によって首の骨の周りに炎症が発生して、痛みや肩こりを発症すると考えられています。
上肢のしびれ、痛み、脱力感
上肢のしびれ、痛み、脱力感は、首の痛みとは少し原因が異なります。これらの症状は、首から手に向かう神経が原因となるからです。
上肢のしびれや痛みは、頚椎椎間板ヘルニアによって神経根が圧迫されて発症します。しかし、交通事故で頚椎椎間板ヘルニアが発生するケースは稀です。
交通事故前からあった無症候性の頚椎椎間板ヘルニアが、事故をきっかけにして有症化するのが一般的です。
頭痛
頭痛も、首の痛みや上肢のしびれ・痛みと並んで有名なむちうち症状です。頭全体が痛むというよりも、後頭部を中心とした痛みを訴える人が多いです。
むちうちによる頭痛が後頭部に多い理由は、大後頭神経というC1/2から出てくる神経周囲の炎症による症状だからです。首の痛みも頭痛も、元をたどれば首の骨(頚椎)周囲の炎症による症状なのです。
めまい
交通事故で首の骨の周囲に炎症が発生すると、交感神経が刺激されて耳の機能をつかさどる部分の血流が低下するといわれています。その結果、めまいを発症します。
<参考>
嘔気
一般的に、めまいは嘔気を合併しやすいです。めまいを発症すると、乗り物酔いのようになって嘔気が出てくるのです。
耳鳴り
むちうちでは、耳鳴り、目のかすみなどの自律神経失調症の症状を発症する可能性もあります。
むちうちに自律神経失調症が合併した状態は、バレリュー症候群(Barré-Liéou syndrome)と呼ばれています。
<参考>
下肢のしびれ
むちうちでは、上肢のしびれだけではなく下肢のしびれを訴える人もいます。しかし、下肢のしびれは医学的に説明することができません。
下肢のしびれが続く場合には、むちうちではなく、中心性脊髄損傷なども考える必要があります。
<参考>
【医師が解説】中心性脊髄損傷が後遺症認定されるポイント|交通事故
動悸
むちうちでは、動悸などの自律神経失調症の症状が発症する可能性もあります。
首の骨の前方に存在する自律神経周囲に炎症が及んで、自律神経の調整能力が低下して発症すると考えられています。
全身倦怠感
原因は不明ですが、全身倦怠感を訴える人も多いです。むちうち症状が続くことによる精神的ストレスも要因のひとつかもしれません。
<参考>
むちうちの症状はいつまで続く?
1~3ヶ月でむちうち症状が治る人が多い
むちうち症状が続く期間はさまざまです。短いケースでは1~2週間で症状が軽快する場合もあります。一般的には、1~3ヶ月の治療期間が必要なことが多いです。
6ヶ月してもむちうち症状が残るケースもある
大多数は、1~3ヶ月で症状が治ります。しかし中には、6ヶ月しても症状が残ってしまうケースもあります。
このような場合には、自賠責保険に後遺障害を申請することになります。しかし、後遺障害に認定される可能性は約5.5%と極めて低いのが現状です。
このため、後遺障害申請に際しては細心の注意が必要です。後遺障害申請は、加害者側の任意保険会社に依頼する事前認定が一般的です。
しかし、後遺障害の認定確率を上げるためには、弁護士に依頼して被害者請求する方が望ましいでしょう。
<参考>
【医師が解説】交通事故の後遺障害|認定確率を上げるポイント
むちうちは自然治癒するのか
むちうちは自然治癒するケースが多い
むちうちの疫学調査では、むちうちによる明らかな日常生活障害は、受傷後1ヶ月後に約50%、3ヶ月後に約60%、6ヶ月後に約70%、1年後に約80%の患者で改善して自然治癒します。
むちうちは自然治癒しない場合もある
しかし、なかには強い症状が長引いて、自然治癒しない場合もあります。むちうちの医学論文によると、全体の約20%の患者さんは、日常生活障害が長期間継続すると推測されています。
むちうちの痛みが数年後に発症する可能性は?
後からむちうち後遺症が出ることは無い
「むちうちの後遺症が交通事故から数年経って発症した」という話を聞いたことのある人が多いのではないでしょうか。
しかし、今は無症状なのに、何年かしてから後遺症が出ることはありません。もし首の痛みが出たとしても、交通事故とは無関係に発症したと思って良いでしょう。
<参考>
【医師が解説】むちうち症状が出るまでの期間|交通事故の後遺症
交通事故との因果関係の証明は難しい
後遺障害の実務的にも、数年してから発症した首の痛みと、交通事故との因果関係を証明することは、極めて難しいです。
このため、交通事故から数年してから発症した症状が、むちうちの後遺障害に認定される可能性はゼロと考えて良いでしょう。
【弁護士必見】むちうちの後遺障害認定ポイント
12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの
むちうちで後遺症が残ったとしても、12級13号が後遺障害に認定されるハードルは極めて高いです。何故なら、単に痛みが持続しているだけでは不十分で、画像所見と身体所見が一致するという条件が必要になるからです。
具体的には頚椎MRI検査で、椎間板ヘルニアなどによる神経の圧迫があることです。弊社の経験では、12級13号に認定された多くの事案で、新鮮外傷を疑う椎間板の高信号変化がありました。
さらに、圧迫されている神経と身体所見(知覚障害の範囲、深部腱反射の異常、スパーリング徴候などの誘発テストが陽性など)の一致が必須条件です。
弁護士では、専門的な判断が難しいため、脊椎脊髄外科指導医/専門医や整形外科専門医の評価が必須となります。弊社では等級スクリーニングというサービスを提供しているのでご気軽にお問い合わせください。
14級9号:局部に神経症状を残すもの
14級9号は、救済等級としての位置づけでもあり、12級13号と比べると広い範囲の患者さんが後遺障害に認定される可能性があります。
受傷から一定の期間(約半年が目安になります)通院していて、その間の通院回数が一定の基準を超えていれば認定の可能性が高まります。それ以外にも交通事故の規模や画像所見(頚椎のレントゲンやMRI検査)も参考にします。
一番重要なことは、受傷直後から後遺障害診断書作成にいたるまで、症状に一貫性があることと、持続性があることです。
異議申立てでは、症状の一貫性も含めた総合的な主張が必須です。弊社ではすべての対策を網羅した医師意見書サービスを提供しています。
<参考>
日経メディカル|意見書で交通事故の後遺症が決まるってホント?
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むちうちで後遺障害に認定されると損害賠償金を請求できる
むちうちで後遺障害に認定されると、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益を請求できます。
後遺障害慰謝料とは
交通事故で後遺障害が残ってしまった精神的苦痛に対する補償金です。後遺障害慰謝料は、下の表のように後遺障害等級によって異なります。
後遺障害等級 | 後遺障害慰謝料 |
1級 | 2800万円 |
2級 | 2370万円 |
3級 | 1990万円 |
4級 | 1670万円 |
5級 | 1400万円 |
6級 | 1180万円 |
7級 | 1000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
後遺障害逸失利益とは
後遺障害が残ると、労働能力が低下してしまいます。労働能力が低下したために失うであろう収入の不足分に対する補償金です。
後遺障害逸失利益は、交通事故被害者の年収、年齢をベースにして、後遺障害等級に応じた労働能力喪失率と労働能力喪失期間で決まります。
後遺障害逸失利益の計算式
後遺障害逸失利益は、以下の計算式で算出されます。
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数
まとめ
むちうちの痛みも最も多いのは、首から肩にかけての重だるい痛みでしょう。感覚的に言うと、肩こりを10倍ぐらい強くして、さらに痛みもある状況です。
これ以外にも、しびれやズキズキした拍動性の痛みを感じる人もいます。むちうちで感じる痛みの種類は、人によってさまざまです。
むちうちの多くは1~3ヶ月で症状が自然治癒しますが、全体の約20%の患者さんは、6ヶ月しても症状が残ってしまうケースもあります。
一方、むちうちの痛みが数年後に発症する可能性はありません。
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