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【医師が解説】むちうちの頭痛が後遺障害認定されるヒント|交通事故

むちうちは、交通事故で発生する代表的な外傷です。むちうちは首の外傷と思いがちですが、首の痛みだけではなく頭痛も起こします。

 

本記事は、むちうちの頭痛が後遺障害に認定されるヒントとなるように作成しています。

 

 

最終更新日:2023/5/11

 

 

むちうちとは

 

正式な病名は外傷性頚部症候群です。頚椎捻挫と呼ばれるケースも多いです。交通事故の当日は痛みを感じず、翌日以降に痛みが強くなることもあります。

 

頚部のレントゲン検査やMRI検査で異常所見がないにも関わらず症状が持続することが特徴の一つです。症状の持続期間は、事故から数日で治癒することもあれば、1年以上持続することもあります。

 

症状の重症度も軽傷なものから、日常生活に支障をきたすような重篤なものまでさまざまです。

 

 

headache

 

 

頭痛はむちうち症状のひとつ

 

むちうちの症状は多彩です。首の痛み、肩こり、手のしびれや痛みは比較的よく観察される症状です。そして頭痛は、首や手の症状の次に発生しやすいです。

 

首の痛みや頭痛以外にも、めまいや頭痛、嘔気、耳鳴、全身倦怠、動悸などの症状が出現することがあります。

 

 

<参考>

 

 

交通事故のむちうちで頭痛が起こる原因

大後頭神経(C2)の障害

大後頭神経とは、第2頚神経(C2)の後枝です。大後頭神経は、後頭部の知覚を支配している神経です。

 

大後頭神経の周囲に炎症が起こると後頭部に痛みを引き起こします。むちうちで発症する頭痛は、後頭部から頭頂部にかけての痛みが多いです。

 

つまり、むちうちによって頚椎周囲に炎症が発生して、その影響で大後頭神経障害を併発すると考えられています。

 

 

首の周りにある筋肉の緊張

 

むちうちでは、首の痛みを発症します。痛みを感じると、人間の体は自律神経の反応によって、痛みのある部分の血流が乏しくなります。

 

局所組織の血流が乏しくなると、疼痛誘発物質がウォッシュアウトされなくなり局所に滞留します。その結果、局所に疼痛誘発物質が増加してしまい、痛みの原因となります。

 

むちうちで首の痛みや頭痛が遷延するのは、このような機序によるものと考えられています。

 

 

neck pain

 

 

むちうちの頭痛が起こりやすい状況

天気の悪い日

まだはっきりと原因は分かっていませんが、雨や台風の前に痛みが悪化するケースが多いです。

 

気圧が低下するために血管が収縮して、血流が悪くなって痛みが悪化すると考えられています。

 

 

夕方以降

午前中は調子が良いものの、夕方以降になると痛みが悪化するケースも多いです。

 

その原因として、夕方になると首周囲の筋肉に疲労が蓄積して血流が悪くなり、痛みを誘発すると言われています。

 

 

むちうちによる頭痛の治療

頭痛に対する薬物療法

むちうちの頭痛に対しては、安静と痛み止め(消炎鎮痛剤)の処方が一般的です。頚部保護のため、頚椎装具(ソフトカラー)を処方することもあります。

 

痛み止めで痛みを取ることで、局所の血流を改善して疼痛誘発物質が洗い流される効果も期待できます。

 

 

neck collar

 

 

頭痛に対する物理療法

交通事故から1〜2週間経過すると、物理療法(温熱、低周波など)、牽引、セラピストによるリハビリテーションなどが行われます。

 

 

むちうちの頭痛では仕事を何日休む?

意外なことに、むちうち(頚椎捻挫)での休業は医学的に推奨されていません。「むちうちでは受傷後2週間は安静にする」「むちうちでは受傷後2週間は仕事を休む」などの記事が散見されますが、医学的には間違いなのです。

 

長期間にわたる安静や休業は、むしろ社会復帰を遅らせる要因になります。このため、私たち整形外科医は、できる範囲で仕事することを推奨しています。

 

もちろん、重い症状の患者さんもいらっしゃるので、ある程度の安静や休業はやむを得ません。しかし、数ヶ月におよぶ休業は、医学的に証明できないことを知っておいて損はないと思います。

 

実務的に言っても、数ヶ月に及ぶ長期休業は、保険会社を過度に刺激するため要注意です。休業の必要性を医学的に証明できないので、訴訟になっても認定されない可能性が高いと考えておくべきでしょう。

 

 

むちうちの頭痛は全治何ヶ月?

むちうちが全治するまでの期間は、2~3ヶ月が平均的です。一方、長い場合には4~6ヶ月にも及びます。

 

6ヶ月以上治療しても症状が良くならないケースでは、症状固定して後遺障害が認定される場合があります。

 

 

whiplashassociateddisorders

 

 

むちうちの頭痛が数年後に発症する可能性

後から後遺症が出ることは無い

日常診療でよく聞かれる質問の代表的なものは「むちうちの後遺症が交通事故の数年後に発症することはありますか?」 です。

 

結論から申し上げると、今は何も症状が無いのであれば「後から後遺症が出る」ことはありません。もし頭痛が出たとしても、事故とは無関係に発症したと思って良いでしょう。

 

 

<参考>
【医師が解説】むちうち症状が出るまでの期間|交通事故の後遺症

 

 

交通事故との因果関係の証明は難しい

実務的にも、数年してから発症した頭痛と、交通事故との因果関係を証明することは、極めて難しいです。

 

このため、事故から数年してから発症した症状が、むちうちの後遺障害に認定される可能性はほぼゼロと考えて良いでしょう。

 

 

むちうちで後遺障害に認定されると損害賠償金を請求できる

 

むちうちで後遺障害に認定されると、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益を請求できます。

 

 

後遺障害慰謝料とは

交通事故で後遺障害が残ってしまった精神的苦痛に対する補償金です。後遺障害慰謝料は、下の表のように後遺障害等級によって異なります。

 

 

後遺障害等級

後遺障害慰謝料

1級

2800万円

2級

2370万円

3級

1990万円

4級

1670万円

5級

1400万円

6級

1180万円

7級

1000万円

8級

830万円

9級

690万円

10級

550万円

11級

420万円

12級

290万円

13級

180万円

14級

110万円

 

 

後遺障害逸失利益とは

後遺障害が残ると、労働能力が低下してしまいます。労働能力が低下したために失うであろう収入の不足分に対する補償金です。

 

後遺障害逸失利益は、交通事故被害者の年収、年齢をベースにして、後遺障害等級に応じた労働能力喪失率と労働能力喪失期間で決まります。

 

 

後遺障害逸失利益の計算式

後遺障害逸失利益は、以下の計算式で算出されます。

 

基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数

 

 

inquiry

 

Traffic accident patient

 

 

むちうち頭痛の後遺障害

12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの

 

自賠責保険における神経症状とは痛みです。頭痛で12級13号が認定されるハードルは極めて高いと言えるでしょう。

 

何故なら、12級13号が認定されるためには自覚症状だけでは不十分で、客観的な症状が必要とされからです。

 

頚部から上肢にかけての客観的な症状には、筋力低下、筋肉の萎縮(やせて細くなる)、深部腱反射の異常(医師が打腱器を使って行う検査)があります。

 

しかし、頭痛に関しては、客観的な症状は想定されません。このため、実務的には頭痛で12級13号が認定される可能性は極めて低いと言わざるを得ないです。

 

 

14級9号:局部に神経症状を残すもの

局部とは、頚椎捻挫では頚椎(首)をさします。神経症状とは、頚椎捻挫に由来する症状をさします。頚部痛や頭痛に留まらず、上肢のしびれや痛み、めまい、、嘔気なども含まれます。

 

将来においても、回復は見込めないと医師が判断した状態であること(症状固定)が前提になります。

 

症状の常時性(時々痛みがあるのではなく、常に痛みがある)が認定要件です。「天気が悪いときに痛い」といったように症状の消失する時間があると認定されません。

 

また、交通事故と本人の感じる後遺症に因果関係が認められることが条件となるため、あまりに車体の損傷が小さい軽微な交通事故は非該当とされることが多いです。

 

 

むちうちが後遺障害に認定される確率は約5%

損害保険料率算出機構は、自動車保険の概況という統計資料を公表しています。2021年度(2020年度統計)では、損害調査受付件数が1041737件でした。

 

このうち、後遺障害に認定された事案は49267件で、後遺障害認定率は約4.7%です。むちうちのみに限った確率ではないですが、ほぼ近似した数字と言ってよいでしょう。

 

 

<参考>
損害保険料率算出機構「2021年度 自動車保険の概況」

 

 

 

 

【弁護士必見】むちうち頭痛の後遺障害認定ポイント

むちうち頭痛で12級13号認定は極めて困難

12級13号(局部に頑固な神経症状を残すもの)は、14級9号と比較するとはるかに認定基準は厳しくなります。

 

痛みが持続しているだけでは不十分で、「障害の存在が医学的に証明できるもの」という条件が必要になるからです。

 

具体的には頚椎MRIで神経の圧迫があることです。大後頭神経障害はC1/2の障害で発生する可能性があります。

 

しかし実臨床で、頚椎MRIでC1/2の障害が証明される可能性は極めて低いです。

 

 

むちうち頭痛で14級9号の可能性は十分にある

14級9号(局部に神経症状を残すもの)は、救済等級としての位置づけです。このため、むちうちで頭痛が残った患者さんでも、比較的広い範囲で後遺障害に認定される可能性があります。

 

受傷から一定の期間(約半年が目安になります)通院していて、その間の通院回数が一定の基準を超えていれば認定の可能性が高まります。それ以外にも交通事故の規模や画像所見(頚椎のレントゲンやMRI)も参考にします。

 

一番重要なことは、受傷直後から後遺障害診断書作成にいたるまで、症状に一貫性があることと、持続性があることです。

 

異議申立てでは、症状の一貫性も含めた総合的な主張が必須です。弊社ではすべての対策を網羅した医師意見書サービスを提供しています。

 

 

<参考>
日経メディカル|意見書で交通事故の後遺症が決まるってホント?

 

 

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nikkei medical

 

 

まとめ

 

むちうちの症状は多彩です。首の痛み、肩こり、手のしびれや痛みは比較的よく観察される症状です。そして頭痛は、首や手の症状の次に発生しやすいです。

 

むちうちで頭痛が起こる原因として、大後頭神経(C2)の障害と首の周りにある筋肉の緊張が考えられています。

 

むちうちの頭痛が起こりやすい状況として、天気の悪い日や平日の夕方以降が挙げられます。

 

むちうち頭痛の後遺障害では、12級13号認定は難しいものの、14級9号に認定される可能性は十分にあると考えます。

 

 

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